IS:UC   作:かのえ

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 一瞬で入れ替わる攻めと守り。白と黒の交差は戦いを知らない少女たちでも、それがどれほどの技量を持って行われているのかが分かった

 紙一重でかわされる攻撃、一瞬遅れていたら致命的だった掠り傷。二人は持てる力を本気で出してはいるものの、まだ『全力』ではなかった

 しかしながら、そうであっても今の初心者である少女たちには充分すぎる刺激だった

 

「ふむ、そうだな……デュノア。ボーデヴィッヒの『シュヴァルツェア・レーゲン』について説明してみろ」

 

 不意に千冬がシャルルに声をかける。突然の事に驚くが、彼は説明を始める

 

「え、はい。ドイツの第3世代型ISで、確かAIC――『慣性停止結界』といわれるPICを発展させた能力を持っています。これを使われると任意の対象は身動きが取れなくなります。流石に軍用機体なので公表されているカタログスペックは本当にそうか怪しいし、これ以外にも何か持っていてもおかしくないですね」

 

 金属と金属がぶつかり合う音があたりに響き渡りながらも、シャルルの声は響いた。そして、彼の説明したAICがいかに一対一だと反則か、ということを直ぐに誰もが思い至る

 動けなければ何も出来ないのだ。一度捕まったら最後、抜け出せずに一方的な蹂躙を受ける事は誰もが察せた

 

「ただ、AICを使うにはおそらくそちらのオルコットさんのIS、『ブルー・ティアーズ』のビット制御と同じく多大な集中力を要すると思われます。現に『ユニコーン』は捕らえられていません」

 

 その説明に真っ先に頷いたのがセシリアだった。ただでさえ多くのことに気を配らなければならない戦闘中において、一点に集中する事の難しさを良く知っているからだ

 シャルルの説明にうむ、と頷いた千冬は続いて問いかける。ならば、リンクスの『ユニコーン』はどういう機体か、と

 

「『ユニコーン』は、篠ノ之束博士が開発した、第四世代とも見て取れるISです。彼がどうしてそれを手に入れたのか推測はされていますが、誰もわからず。今は関係ないのでおいておきますが」

 

 彼が言ったとおり、『ユニコーン』の立ち位置はそういうことになっていた。全くの虚空から生み出されたISだなんて、誰も信じない

 運の良いことに、人の好き嫌いが激しい彼女がバナージをどうでもいい存在とは見なさなかった。姿を隠してはいるものの、マスコミにその事が事実であると触れ回った

 

「特徴は何と言ってもリミッター解除でもある『NT-D』ですね。装甲が展開されると同時に機体性能が格段に上昇、並みのISや人間では対応するだけでもやっと。研究が進んでいるISコアネットワークを通じた『揺らぎ』による殺気の探知くらいしか対応手は今のところないと言われています」

 

 最近研究され始めたISコアネットワークの揺らぎ。IS乗りは数年前から戦闘時の極限的状況下において神がかった反応を見せていることが分かった

 攻撃の前に避ける、集団戦においての不意打ちが効かない、など。そのような反応を見せた彼女らはこう言うのだ。何故か分かった、と

 研究者はそれを見て、聞いて一つの説を作り上げたのだ。ISコアネットワークが、操縦者の意識を拾い上げる事で相手がそれを測らずも察知してしまう事がある、と

 そうでなければならない。そんな、超能力とも言えることが存在するだなんてありえないのだから――

 

「良く勉強しているな」

「同じ男性の事なので、興味がありました」

「……続けろ」

 

 分かりました、と彼は続ける。その瞳を空中で自由自在に飛行しているシールドファンネルに向けながら

 

「そして不可解なのがあのシールド。動力源もなしに空を飛ぶのは現代の物理学を馬鹿にしているとしか言いようがありませんね」

 

 全く、そんな謎だらけな機体を自分の身体のように扱っている彼を尊敬しますよ、と締めた

 彼の説明に充分と判断したのか、彼女は大きく頷いて、そして時計を見る

 

「……うむ、これ以上続けさせると実習時間が足りなくなるな。おい!」

 

 待ったを二人にかけた。仕方がない、ISを扱える時間は限られているのだ、少しでも搭乗時間を重ねるほうが、未来に目指すものを見るよりもそれに近づくには良いだろう

 

 千冬の静止の声を聞いて二人は再びぶつかり合おうとしていた所を寸でのところで止めた

 空からゆっくりと降下してくる二つの機体を待ちながらも、彼女は次々に生徒達に指示を飛ばしていく

 

「最終的な貴様らの目標はこのくらいだ――が、まずは歩くところから始めるぞ」

 

 予め振っておいた番号ごとに生徒を纏めていく。そのまとまりの数は調度現在この1、2組にいる専用機持ちの人数と同じだった。それも当然、見越してグループを作らせたからだ

 千冬は続いて専用機持ちたちに番号を告げる。バナージや一夏、そしてシャルルの番号のときに歓声や落胆の声があがったりもしたが、彼女はそれを無視して続ける

 

「では、同じ番号の専用機持ちに基礎を学べ。私と山田先生は補佐に回る」

 

 実習では、用意された『打鉄』か『リヴァイヴ』のどちらかを使用して行われた

 

「そうそう、じゃあ手をつなぐから歩いてみるか」

 

 一夏は優しくエスコートする。彼と共にある程度IS操縦について訓練していた箒は補佐に周り、待機している生徒達に細やかなアドバイスをしていた

 

「あ、間違って立たせたままだった」

「次の人乗れないけど……デュノア君、抱えてくれない?」

 

 シャルルの班ではそのような事があってから、誰もがわざとISを立たせたまま降りるという事態が起きた。無論、彼に抱えられたいからだろう

 それを分かっていてもいやな顔一つせず彼は彼女らを指導する

 

「もし……はい、緊張なさらず」

 

 両手両足一緒に出てしまっていた少女を優しく落ち着かせるセシリア

 

「もう! ほら! そう! 出来たでしょ!」

 

 出来の悪い子達に声を荒げながらも、なんだかんだで面倒を見ている鈴

 

「そう、何も特別な事はないんだ。歩く、そう思って足を出せば歩ける」

 

 バナージはそう言いながら、周囲の様子を見渡して以上のように思った。専用機持ち達は多少教える事に戸惑いながらも次々と女生徒達を歩かせていく

 だが、穏やかに訓練が進んでいない班もあるにはあった

 

「……リンクス君。あそこ、軍隊みたいだね」

「うん、おれも思ったよ」

 

 バナージは視線を向ける。そこにはピシッと整列して指導されている生徒を一心に観察する集団があった

 そして、そのリーダーは無論、黒いISを纏った銀の少女。ラウラだった

 

「貴様らの成長しだいではこの私の顔に泥を塗る事になる! 軍人、しかも一部隊を預かる隊長としてそれは許されぬ事だ! だから諸君、初心者(ルーキー)だからと言って容赦はせんぞ!」

 

 ピシッと敬礼。そんな光景を見て千冬は顔を少し顰めるのだったが、彼女らが成長するのならまあいいか、とその場を通り過ぎた

 

「織斑先生もスルーしたけど……」

「ま、まあ。あの子達も楽しそうだしいいんじゃない?」

 

 他のグループの少女たちもその異様な光景に目を奪われていたが、次に自分の番がくるとなるとその事をすっかり忘れて歩く事に没頭するのだった

 

 

 最後の授業が終わり、放課後になる。バナージと一夏、そしてシャルルは残された。なんでも話があるらしい

 そのことをホームルームで告げられたのだから、クラスのほとんどが教室を出ようとせずに、三人の様子を伺う

 無論、中にはそれを無視して教室を出て行く少女もいるわけで、そして出て行った少女が誰かと気付いた者たちは納得する

 

「ボーデヴィッヒさんはあまり噂とか好きじゃなさそうだしね」

「本物の軍人だから真実だけあれば充分なんじゃない?」

「かっこいい!」

 

 そして暫くすると、ホームルームが終わって出て行った真耶が戻ってきた。手には一つの鍵

 

「お待たせしました。……えっと、申し訳ないんだけど」

「何でしょう? 先生」

 

 シャルルが率先して声をかける。どうも暫く言いにくそうな表情をした後、決心したようで口を開く

 

「空き部屋が無いので、男の子三人で1025室で暫く過ごしてくれませんか? デュノアくんが女の子だったらボーデヴィッヒさんと一緒の部屋に、てなったんだけど。ごめんなさい!」

 

 突然の要請にクラス中に衝撃が走る。元々寮の部屋にはベッドが二つしかない、つまり誰かが二人で寝る? そんなことを想像したのだ

 

「ふ、二人で寝ても良いんですけど、先生は男の子同士は……いえ、駄目ってわけでなく!」

「ちょ、落ち着いてください!」

 

 一夏が静止にかかる

 

「ほら、二人は北欧系の人だけど俺は日本人だからさ、地面でも何処でも寝れます! 布団さえ用意してもらえればいいので!」

「おれがベッドでしか寝ないとでも思っているのか、一夏は」

 

 バナージは少し呆れるのだった

 少し落ち着いた真耶は、では上にかけあってみます、と言って再び教室を出て行くのだった。とりあえず、今夜はどうにかしてください、と言って

 三人は顔を見合わせる。シャルルは突然の事に混乱したのか少し俯きがちだった

 

「野郎三人であの部屋か。とりあえずバナージは荷物の整理な」

「わかったよ……」

 

 散乱している部屋の主な原因に一夏はそう言って、シャルルを案内するのだった

 道中、なんだかんだでようやく落ち着いて三人で話す機会が始めて出来たので、他愛のない雑談をしていた

 男三人が集まっているからか、かなり注目されるのを感じる

 

「なるほどね、そういうことがあったんだ」

「そうなんだよ。全く千冬姉は……」

 

 今は小さい頃の一夏の話をしているところだった。幼い頃から今のような武人的性格を見せていたエピソードをあげて、バナージとシャルルの笑いを誘っていた

 

「そういえばさ、バナージの『ユニコーン』って、そのままユニコーンがモデルなんだよね?」

「唐突だけど、そうだよ」

「なんか親近感沸くかな。僕の国の美術館に『La Dame à la licorne』、日本語で『貴婦人と一角獣』っていう六枚のタペストリーがあるんだ。そうだ、一度二人もおいでよ! きっと気に入ってくれると思うよ。僕も好きで小さい頃母さんと見に行ったんだ」

 

 ガン、と頭を打つような衝撃を感じてバナージは手を左頬に当てる。フラッシュバックする光景。自らを抱え上げる父、そしてタペストリーを指差して何事かを己に告げる

 かつて封印されていた記憶が開放された今、彼が何を言っていたのかは鮮明に思い出せる

 そして、その最期も。『ユニコーン』を託された事も

 

「私の、たった一つの望み。父さんはいつもおれにタペストリーを見せて難しい事を話していた」

「バナージは、見たことあるの?」

「小さい頃に、だけど」

 

 部屋の前に辿り着いて、荷物を下ろす。とりあえずは夕食だ。三人はまたもと来た道を引き返して食堂へとむかうのであった

 食堂へと辿り着くと、手招きする影が。バナージたちはそこへと向かう

 すっかりいつものメンバーに混ざっている簪と本音はやってきたバナージを近くに座らせると、端末を取り出す

 

「食事中だぞ」

 

 む、と箒は顔を顰めるも、その端末に書かれていたものを盗み見して、驚く。更にセシリア、鈴と続くも同様に驚きで顔を染めた

 

「どうしたんだ」

「どうしたの?」

 

 一夏とシャルルがその様子に気付いて話しかけてくる

 

「一夏には言ってたかな。『ユニコーン』の強化プランだよ。拡張領域に入っていた装備一式を取り出して解析を頼んでいたんだ」

「あれか。『フルアーマーユニコーンガンダム』……もっとも、フルアーマーと言うよりかはただの武器の寄せ集めにしか見えないけど」

「ああ、だからおれは『ユニコーン』の稼動データと引き換えにそれの調整を一緒にする事を二人に頼んでいたんだ」

 

 なるほどなあ、と一夏はデータをみる。ぜんぜんさっぱりなデータに手を上げて、シャルルへと譲った

 

「……すごい。これはすごいよ。『NT-D』への稼動も考慮されていながらも高火力を実現、そしてブースターも。そしてこれら全て既存のISに使われている武装にしか過ぎない」

「流石に私が全て作り上げてはない……。元々の強化プランを調整しただけ」

「それでも、だ。ありがとう簪」

「こちらこそ。この機体のデータや、貴方の技術は本当に調整するだけでつりあうのか疑問」

 

 バナージは元々工専生だ。それなりに知識もあるし、幼い頃にもらったペットロボだって自分で修理するくらいはできていた。それに、すんでいた時代も未来

 ただ、ISに関する知識は殆どと言っていいほど無い。だから二人の手を借りたのだ

 

「遠距離攻撃が出来るようになるとか、ずるいぞバナージ」

「大体取り回しに優れていた武器がビームサーベルだけだったんだ。別にいいだろう?」

「俺だって雪片弐型だけだ」

「そうだった」

 

 ともかく、数日中にはその姿がお披露目されるということで、誰もがその姿に期待を膨らましていた

 

「ふむ……なるほどな」

 

 そして、この少女。ラウラも

 




6/23 誤字修正。指摘ありがとうございます。

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