「どうして君は!!」
「こうするしか無かったのだ!!」
交差する白と黒の機体。競技用にかけられていた機体のリミッターは解除され、その攻撃の一つ一つがより強烈になっている
アリーナ、そこで『フルアーマーユニコーンガンダム』の調整が終了して、本格的に稼動できるような状態になったそれを試験的に動かしていただけだった。だが、突然の乱入、各ピットはそれと同時にハッキングされたのか隔壁が下ろされて、誰も手出しができない状態になってしまっている
先日あった二人の模擬戦とは比較にならないほどの激しい攻防に、一夏たちは呆然と見ていることしかできなかった
駆けつけてきた教師も殺し合いをしている彼らを止めようと必死になっているが、何の成果も得られずに、両方が傷ついていく
「通信はできないのか!?」
「駄目です! ボーデヴィッヒさんの側から拒絶されています!」
「やはり、彼女が隔壁を……」
アリーナの観客席でシールドに拳を叩きつけながら一夏は叫ぶ。どうにかして止めなければ、と
ISによる通信は拒絶されていても、肉声は届くはずだ。己の声を届かせればあるいは――
同じように箒、セシリア、鈴、シャルル、本音、そして簪が声を張り上げて静止する。聞こえていないはずがない、それは自分たちがよく知っている。ISのハイパーセンサーは己の知覚を極限まで増幅させるのだから
「ラウラ!」
「はあああああっ!」
ミサイルが発射される。『ユニコーン』のインテンション・オートマチック・システムによって狙いが定められて発射されたそれを空中で迎撃しながらラウラは叫ぶ
彼女といえば誰もが思い浮かべる黒の眼帯は取り外され、そこに現れていたのは黄金に光る瞳『ヴォーダン・オージェ』。それは脳と視覚情報とのラグを極限にまで縮め、そしてこのような高速先頭下で有用となる反射を高める、言わば生体ハイパーセンサー
誰も――否、軍で教導をしていた千冬のみが知り、聞く限りどのような実戦でも彼女が頑なに使おうとしなかったそれを用いて、それでもバナージは倒せない
「貴様がいなければこんな事には!!」
激情のまま、それでも培われた冷静さは捨てずに彼女は戦い続ける
「私だって、私だってこんなことはしたくなかった! だがこれ以上時間がない!」
ハイレベルな戦い。状況が状況でなければこれは全校生徒の前で行われ、参考にされるものであるそれは、しかし、純粋な殺し合いだった
「やめてくれ! ラウラ!」
「完璧なISを操るためだけの人型兵器として私は産まれた! 戦うためだけに遺伝子を調整され、投薬や精神の操作で恐怖も克服した! 要所の筋肉は強烈なGに耐えうるために人とは違うものを移植された! この瞳もそうだ!」
迫り来る攻撃を躱し、撃墜し、ときには当たりながらも彼女はバナージに迫る。バナージもビーム・ガトリングガンを斉射しつつも、止まることなく絶えず動き続ける
身につけたシールドによるIフィールドとて無敵ではない。衝撃はそのまま彼の体へと伝わり、それが隙となって減速してしまう
手足のように扱える『ユニコーン』、だからこそスペースノイドでかつ大気圏下での戦闘経験の乏しいバナージにはディスアドバンテージとなってしまう。そう、地球でしか戦ったことのない少女に対して
苛烈な打撃感。胴体に感じたそれは『シュヴァルツェア・レーゲン』による蹴りだった。ISを操るために作られ、その上鍛えあげられた身体によるそれは『ユニコーン』も耐えられずに吹き飛んでしまう
壁に激突してようやく止まりはしたが、追撃が来る――!
咄嗟に分離したシールド・ファンネルがラウラの行く手を阻んだ。その隙に離脱するが、しかしこれ以上シールド・ファンネルを動かせなかった
原因は『シュヴァルツェア・レーゲン』に搭載されたAIC(慣性停止結界)だ。咄嗟の判断で動かしてしまったシールドはラウラにより補足されてその場に固定されてしまう。思わずバナージはくそ、と呻いた
そして、どうしてこうなったのかを思わず思い返す
自らでISを作ろうと試みていた少女、簪にその友人の本音が調整しただけに、『フルアーマーユニコーンガンダム』は納得の完成度となっていた
「調整はした。あとは動かすだけ」
「ああ、ありがとう」
バナージは自らの正面に立つ白の機体を見つめる。全身に重火器を搭載しており、シールドは三つほど。そして大型のブースターにより更なる高機動が可能となる
「バナージ・リンクス。『ユニコーンガンダム』。行きます!」
乗り込んで、意識を空へと向ける。彼の思考と同速度で動き出した機体は瞬く間に最高速へと加速した。ピットを飛び出してアリーナへ
縦横無尽に駆けるその『ユニコーン』はどこからどう誰が見ても万全と言える状態であった
「ブースター誤差は許容範囲内……」
「各武装も完全! 的への命中率上々!」
機体情報を逐一チェックしていた二人から万全であることが伝えられて、バナージはアリーナ中央へと降り立つ。各火器のパージが出来るか確かめるためだ
結果はいうまでもなく成功。ここに完全武装の白き一角獣が誕生したのだ
「バナージ、大丈夫なら模擬戦しようぜ!」
一夏が観客席から声を書ける。彼と同じくそこにはいつも行動を共にしている少女たちがいた
「ちょっと一夏、私まだあいつをぶったおしていないんだけど? 譲りなさいよ」
「そうだよ。一夏。僕も彼と戦ってみたい」
鈴とシャルルが横から口を挟む。むむ、わかったよと一夏は引き下がろうとするが、ふと背後に人の気配を感じて振り返る
その場にいた誰もが感じたのか、同時に背後を見ると、そこには黒い眼帯をした銀の少女、ラウラ・ボーデヴィッヒがそこにいた
「面白そうなことをしているじゃないか」
「貴女は、ラウラさん」
「やあセシリア・オルコット。今日は皆して奴の新装備を観察にでもきたのか?」
どこか遠くを見るような目はその場にいる誰も映していない。どこか、心あらずといった様子の彼女はめったに見られないものだった
どこか、おかしい。そう箒は考える
常に自らを律し、そして立派な軍人であることを既定している彼女がそのような様子をするのは、何かあるはずだ
「バナージ・リンクス……」
目の焦点がやっと合う。その視線の先には白の機体
「ちょっと、ラウ――」
「喋るな、煩い」
いつもと違う調子の彼女に鈴が声をかけようとした、その瞬間。ラウラは黒のISを身にまとい、そしてその銃口を観客席にいた人間全員に向けたのだった
「お、お前は何をしたいんだ。今日のお前は普通じゃない……」
「普通? 普通と言ったか織斑一夏。――ああ、確かに私は普通じゃないだろうな。兵器を人間に向けるなど、正気なら出来ない」
淡々と、それでいてどこか黒い感情を込めた言葉を彼女は放つ
「これは人質だ。バナージ・リンクス」
『ラウラ! 君は何をしているんだ!』
「一対一、誰にも邪魔をされずに貴様との戦いを、私は望む」
『どうして人質をとる必要がある?』
「私の覚悟を示すためだ」
照準を少しずらして、レールカノンを放つ。少女らの背後にある椅子が爆発し、轟音を立てて、そしてそこにあった物体はただのガラクタ以下の存在となった
「……生徒に対し明確な敵意を持って、ISを使用してはならないこの場で私はこれを撃った。アリーナの映像記録により、私のこの行為は全教員に伝わり、もちろん教官も知るだろうな」
ということは、これ以降私が両手を上げて投降をしたところで、何がどうなっても拘束され、自由を奪われ、退学。加えてドイツ軍からは脱退させられるだろう、と続ける
「つまり、先日隊長職を解かれ、守るべき『家族』すらいないこの状況で私は失うものはもう無い。……たったい一つ、残されたこの私(いのち)も、これ以降のいかなる行動において何があろうとも『死』が決まっているのだから」
「死? おおげさね! 人一人殺していないこの状況であなたに死刑が下されるとでも? だから、馬鹿なことはやめなさい。いまなら事故ってことで先生にも話して――」
「私は『法で裁かれず』死ぬのだよ。凰鈴音。これが役目で、後世のためだ。そして奴の次には、目覚めかけている貴様も殺す」
ラウラは唇を噛みしめる。その顔は普段の無表情を貫き通す彼女からは想像も絶するほどの苦悩と焦燥が見て取れた
「で、どうだ? バナージ・リンクス。私の最後の『たった一つの望み』――真剣勝負、命を賭けたISのリミッターを全解除した戦い。受けるか?」
『そんな望み、悲しすぎるよラウラ……』
彼女は眼帯を取り外して美しい黄金の瞳を現し――
轟音とともに現実へ意識を戻される。そうだ、おれは考え事をしている場合ではない。一刻も早く彼女を止めなくては
2つのシールド・ファンネルを分離させて三方向からの攻撃。AICには多大な集中力を要すると聞く。だからこそ、彼女からシールドを奪い返すにはこうするのが良いだろう、そう思ったからだ
だが、簡単に事は進まない。集中力が必要、それは確かにそうだ。だが、それは本当か。長年の愛機の欠点をそのままにするのだろうか? ラウラほどの少女が、軍人が?
答えは否、だった
「まさか! バナージさんのシールドを使って!!」
同じく集中力を要するものを使用しているセシリアが驚愕して思わず叫ぶ。そう、彼女の言ったとおりラウラはバナージから奪ったシールドを己の手足のように使用し、攻撃を防いだのだ
「マルチタスクとでも言うの……? 人間の脳はそんなことは出来るように出来ていないはず」
「いや、かんちゃん。断定はできないよ。解離性同一性障害、二重人格と言われるそれによって思考を分割してしまえば」
「それはない、布仏。ボーデヴィッヒにそのような兆候は見られなかったはずだ」
だが、と千冬は黙考する。先日の時点では上手くバナージを補足できていなかったはずだ。だのに、何故……
彼女らの疑問をよそに、戦局は徐々にラウラへと寄り始めた。バナージの手から離れてしまったがために、本来の力であるIフィールドは発生させていないものの、遠隔で操作できる頑丈なシールドというのは心強い。それも、相手がミサイルなどの銃火器を大量に所持している状態とあれば、だ
「かつて」
ラウラのつぶやきは拾われ、アリーナ全体に響く
「かつて篠ノ之束は、ある機械の設計図を世界に公表した。誰もが知っている、今のISの原型機だ」
「それがどうした!」
箒は叫ぶ。そんなことよりも、さっさとやめろ、と
「そこまでは良かったのだ。それだけを、公表していれば……」
一夏は姉の息を呑む音を聞いたような気がして、振り向く。そこには目を見開き、今までにない驚愕の表情を浮かべた千冬の姿があった
バナージの攻撃を避け、説得を無視し、一方的に彼女は語る。それと同時にはるか昔に語られた、親友の与太話を千冬は思い出す
そうだ、どこか引っかかっていたのだ。バナージの直感、空間認識力。彼は宇宙で育ち、戦ったと。何故、どうしてそんなことを忘れてしまっていたのだ――
『ねえちーちゃん。人間ってさ、猿が進化して産まれたって話、どう思う?』
『どう思うって、束。それは常識だろう?』
『人間は木の上で生活していたのに、狩猟を始めたか生活地の減少から地に足をつけ、今のような完全な二足歩行になり、脳が増大し、今に至る。……なら、地球という地を離れて、宇宙という大いなる空へ居住を移した人類はどうなるのかな?』
かつて、まだ幼かったあの日々。親はいなかったけれど、ISも無く、近くには一夏、束、箒がいた何も無く愛おしい日々
『私はね、人類はもっともっと進化すると思うよ。でも、生きているうちには見ることができない。それどころか進化する前に地球が無くなっちゃうかもしれない。だけどね、ちーちゃん。私はどうしても見たいんだ。空へ、宇宙へ、無限の彼方へ行った誰も想像できない世界』
『盲目の方は直感が鋭くなると聞く。宇宙は広い、目があっても見えるのは星だけだろう。ならば認識能力でも広がるのではないか?』
『そうだね、そしていまは見えないものですら見えるようになるかもしれない。三次元ではない、今の私達ではわかりもしない物が』
私は、それを見たい
そうだ、そうだった。あいつが宇宙を目指す意味。宇宙は目的ではなく手段、本当に目指していたのは違うもの。だからこそバナージ・リンクスに執着したのか
「なあ、バナージ・リンクス。貴様には分かっているのだろう? 私が次にどこを狙い、どう攻撃してくるのか」
「まさか、そんな……」
「貴様のような存在を脅威と捉えた者がいた。その新人類が既存の人類を滅ぼすだろう、とな」
――だから、私が産まれた。貴様のような新人類(ニュータイプ)を殺すために、な
そう言って、ラウラは呆然としているバナージへ、再び襲い掛かるのだった