復讐者の追憶   作:リョウ77

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プロローグ

・・・夢を見ていた。

おそらくは、自分ではない誰かの記憶。

それが具体的にいつのものかはわからないし、どうしてこんな夢を見ることになったのかもわからない。

だが、この記憶が誰のものなのかは、不思議とすぐにわかった。

 

これはすべてを失い、誰よりも神を憎んだ“復讐者”の物語だ。

 

 

* * *

 

 

とある山の奥深く。狂暴凶悪な魔物が跋扈するため地図を書くことすらままならない僻地の中に、人の手入れが施されている場所があった。

一軒家を中心に畑や草地が広がっており、果てには川すら流れていた。もし上空から一帯を見ることができれば、そこだけぽっかりと森に穴が開いているように見えるだろう。

中心の一軒家は平屋だが、敷地はそれなりに広く、見る者によっては輝いて見えそうなほどきれいに保たれている。

そこでは、とある1組の家族が暮らしていた。

 

「2人とも、帰ったぞ」

「おかえりなさい、お父さん!」

「おかえりなさい、あなた」

 

父親の男は名をシュヴェルト・ノーマンと言い、灰髪を短髪に切りそろえながらも白いメッシュを銀色の右目にかかるようになびかせており、中背ではあるが服越しでもわかるほど全身が引き締まっている。

母親の女の名はヘレナ・小柄な体格ながらも赤い髪を腰まで伸ばし、髪と同じく赤い眼には若々しい光が満ちている。

子供の男の子は母親の赤い髪と父親の銀の目を受け継いでおり、母親譲りの赤髪はセミロングでそろえられている。

父親の男の肩には大きな袋が背負われており、子供が期待した様子で中を確認すると立派な鹿が入っていた。

 

「わぁ!すごいね、お父さん!」

「あらあら、立派な鹿ね。それなら今日の夕飯はシチューにしましょうか」

「お母さんのシチュー!」

「エレン、ごはんの準備をお願いね」

「はーい!」

「あなたは休んでて。すぐに準備するから」

「いつもすまないな、エレナ」

「いいのよ。あなたが獲ってきてくれたんだから、ご飯を作るのは私たちの仕事よ」

 

ヘレナの言葉に、エレンを横目に見ながら男はわずかに目を伏せた。

 

「・・・お前たちには、いつも苦労をかけるな」

「いいのよ、自分で選んだことなんだから。むしろ、私があなたに苦労をかけさせちゃったわよ」

 

2人の結婚は、円満とは言い難いものだった。

男は元冒険者だったのに対し、エレナは複数の国にまたがる大規模な商会の娘だった。とはいえ愛人の娘だったため、決して家の中での立場は高くなく、母親から愛されていたとはいえ父親からすればただの駒同然であり、正妻やその子供からの扱いも非常に冷たいものだった。

そんな2人が出会ったのは、とある依頼だった。

内容は、いたって普通の護衛依頼。ヘレナとその母親を離れた街に送るというものだった。表向きの理由はその街の大商会の御曹司への嫁入りだが、実際はヘレナを見初めた御曹司が大金をはたいて迎えたのであり、ほとんど人身売買のようなものだった。

このときのシュヴェルトはまだ新入りだったが、武術・魔法共に非常に優れていてギルドからも一目置かれていた。

今回の依頼はランクアップを見込んでのものだが危険度は低いため、ほとんどお試し程度のものだ。

その中で、年が近いこともあったのかシュヴェルトとヘレナは話す機会が多くなった。

とはいえ、シュヴェルトは令嬢の相手などほとんどしたことがなかったので会話らしい会話はほとんどなかったが、できるだけ気遣おうとしたのはヘレナにも理解できたため気まずくなるということはなかった。

そうして、ありきたりな話ではあるが、ヘレナはシュヴェルトに対して恋心を抱くようになった。この時はまだシュヴェルトはヘレナに対して“護衛対象”くらいの感情しか抱いていなかったが、そんな2人に転機が訪れた。

街に到着して例の商会に向かうと、そこでは憲兵による立ち入り調査が行われていた。どうやら違法奴隷を売買していたことが明るみになったようで、ヘレナの実家の商会もその取引相手だったことが判明して検挙されたようだった。

この機会を逃がさまいと、ヘレナはシュヴェルトに自分を連れ去るように申し出た。シュヴェルトは最初こそ渋ったが、ヘレナの勢いに押されてしまったこと、タイミング悪く実家の逆恨みによる刺客に襲われたことが重なって半ば駆け落ちのようにで逃走。刺客が追ってこれない、魔物が蔓延る山の奥に家を建ててそこで暮らすようになった。

立地は最悪だが、魔物の対策さえすれば自給自足できて追手の心配もいらないため、最初は怯えがちだったヘレナも次第に慣れていった。

こうして共に過ごし、2人の間に子供も授かり、他者からの干渉もない幸せな日々を送っていた。

とはいえ、街でしか手に入らないものを買うために森の外に出ることがあるため、外から入ってくる情報がまったくないわけではない。

そして、それはいいものばかりではなかった。

 

「それで・・・」

「大丈夫だ。今のところ教会に目立った動きはない」

 

聖光教会。創世神エヒトを唯一神として人族以外の種族の排斥を掲げる人間族最大宗教で、北大陸に生きる人族はほぼ例外なく信仰している。

教会では世界の理に干渉できる“神代魔法”、あるいはそれに準ずる特別な力である“固有魔法”に目覚めた者は()()()()教会によって保護され、教会に仕える神殿騎士となる。

これこそが、シュヴェルトがヘレナとの駆け落ちに踏み切った理由でもある。

刺客に襲われた際に、シュヴェルトが教会の干渉を避けるために隠していたその力を使ってしまったのだ。

その名を剣製魔法と言い、魔力を実体化させる魔法だ。世界の理に干渉する神代魔法の類とは少し毛色が違うとはいえ、それでも立派な固有魔法。それを刺客の前で使ってしまい、さらには全員仕留めきれずに1人逃してしまった。

こうなっては、自分も教会に追われることになる。だからこそ、シュヴェルトはヘレナを連れて教会でも簡単に手が出せない山の奥深くに逃げた。ヘレナを連れたのは、自分と関わりを持った上に剣製魔法を使ったところを見た以上、教会からどのような扱いを受けるかわからなかったからだ。

そのため、街に出る際は必ずヘレナは留守番させ、自身も隠密行動を徹底している。

対策を徹底しているおかげか、今のところこの場所がバレたという話はない。

だが、「何もない場所から武器を生み出せる者」を探す人相書き(ほとんど手配書のようなもの)は出回っているため、安心はできない。

 

「できれば、エレンにも外の景色を見せたいが・・・まだ難しいな」

「そう・・・」

 

2人は、自分たちの子供に外の世界の景色を見せられないことに負い目を感じていた。

子供の身の安全のためとはいえ、ずっとこの場所に閉じ込めるのがいいとも思えない。

そのため、エレンに親の事情を話したり外に連れていくのはエレンが成人してからと決めていた。

 

「お母さ~ん、まだ~?」

 

すると、台所の方からエレンが呼びかけてきた。

どうやら、思っていたよりも長い間その場にいたらしい。

 

「あら、いけない。今行くわ!あなたも、すぐにご飯を用意するから待っててね」

「あぁ、楽しみにしている」

 

互いに苦笑を浮かべながら、ヘレナは台所に向かい、シュヴェルトはダイニングのソファに腰かけて街でもらった新聞に目を通した。

内容は、ここ最近の教会や神殿騎士の動向に関するもの。教会は未だにシュヴェルトのことを捜索中のようだが、妙に人員が少ない。

シュヴェルトたちが行方を眩ませてから、かなり年月が経っている。最低でも隊長クラス、場合によっては師団長クラスが捜索に乗り出しても不思議ではないが、その気配はまったくない。

 

「・・・思っているよりも遅いな。まだバレていない、と考えるのは楽観が過ぎるか」

 

具体的に何が、というわけではないが、嫌な予感を感じずにはいられない。だが、その感覚はここ数年ずっとのこと。もしかしたらそれは気のせいで、教会はすでにシュヴェルトのことを諦めているのかもしれないが、シュヴェルトは少なからず教会の狂気を知っており、それゆえに簡単に諦めるとも思えなかった。

やはり、少し危険を冒してでも教会の動向を探るべきなのかもしれないが、だからと言ってヘレナとエレンを長い間放っておくわけにもいかない。

 

「幸せな家族の生活というのも、ままならないものだな・・・」

 

果たしてこの世界に、自分たちのような境遇の家族が他にいるものなのか。考えたところでどうしようもない思考にふけりそうになった自分に対して苦笑いを浮かべながら、シュヴェルトは仲睦まじく料理をする妻と子供に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

だが、この時のシュヴェルトは知りようがなかった。

シュヴェルトの直感が極めて正しいことを。

そして、今の幸せは、決して長く続くことがないということも。




「二人の魔王の異世界無双記」で言ってた、シュヴェルトが主人公の零の世界線の話です。
「二人の魔王」の執筆が進まなかったので書きました。後悔はしていない。
本当に気分転換程度に書いたプロローグなので、今回は短めです。
これからどうなるかはわかりません。
たぶん、「二人の魔王」の執筆が進まなくなったらこっちを書くと思います。
とりあえず、気長にのんびりと投稿していく予定です。
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