帝国標準暦78年15月33日(中央共通暦268年15月33日)
帝国東部 人民共和国との国境付近
「うむ、各隊へ追加の毛布と薪を配給してくれ、私の指揮下で凍死者を出したくはないからな・・・しかし今年の冬はいつになく雪が酷い・・・プルゥヴ大佐もそう思わんかね?」
暖かい執務室の窓から外を、ゆったりコーヒーを飲みながら眺めていた少将は、プルゥヴ大佐へ問いかける。
一瞬大佐は、この人はいきなり何を言い出すのだという表情を浮かべたが、直ぐに普段の平坦な表情に戻り、淡々と同意し追加の物資の配給の為に必要な文書に記入を始めた。
「少将、残念な知らせと良い知らせがありますが、どちらからお聞きになりますか?」
文書に記入しようとして何かに気が付いたのか、大佐は少将に2択を投げかけた。
「うん?そうだな・・・残念な知らせから聞こうかね。」
「はい、残念な知らせなのですが、毛布の備蓄が枯渇しております、幸い薪と食料の備蓄は問題なかったのですが、良い知らせのお陰で不足しそうです。」
「一体どういうことだね?確か先週届いた分で、後2週間は持つはずだが。」
「それが、西部管区から15個師団が東部管区へ再配置になり、ここに2個師団が配備されるようです。」
「なんだって?私はそんな話は聞いていないが、一体いつの情報だね?」
「伝達時刻は、・・・30分前ですね。師団到着時刻は、本日14:00時とのことです。」
「大佐・・・今何時かわかってるのかね・・・?上層部は何で毎回毎回ギリギリになってから連絡を寄越すんだ!?もう少し早く連絡してくれれば、此方も準備が出来たものを!大佐、急いで補充の物資を・・・"ドォォォン"!?いったい何の音だ!?」
少将が大佐の報告を聞き、上層部への苛立ちを最早隠そうともせず靴全体で床を鳴らし、大佐へギョロリと目線を向け指示を出そうとしたその瞬間、遠くの方で爆発音が断続的に鳴り響き始めた。
その直後である、少将の机の上に置いてあった卓上電話が突然けたたましく鳴った。
少将は即座に、受話器を取り電話先に問いかける。
「少将閣下!大変です!共和国が、人民共和国が奇襲を仕掛けてきました!現在第2中隊以外との連絡が途絶しています!至急指示を!」
「なんだと?人民共和国が奇襲を!?先ほどからの爆発音はそれか!よし、そっちは第2中隊と合流してその近くのトーチカで反撃をしろ、大佐丁度良い、こちらへ向かっている2個師団に至急連絡を、"我人民共和国の奇襲を受けり" とな急げ!」
「はい、直ちに!」
少将の執務室は、一瞬で慌ただしくなり、窓の外では所々から黒煙が立ち上り、ちらほら爆発が見える。
大佐は扉を勢いよく開け放ち、通信室の方へ走っていった、一方少将は、受話器の先の部隊長へと指示を出しつつ現状把握に努めようとしていた。
「わかった、そちらの被害は確認したが、こちらに現在そちらへ送れる戦力は無い!現有戦力で何としてでも時間を稼げ!時間を稼ぐことが出来れば西部管区からの増援がまもなく到着する!それまで時間を・・・時間を何が何でも稼ぐのだ!いいな?よし、早く配置に付け!私は他の部隊の状況を確認する。」
=======十数分ほど遡る========
人民共和国西部 帝国との国境付近
「第12師団、第23師団、第24師団、第25師団、第28師団、各師団長より攻勢の準備が完了したとの報告が来ております、同志ダールフォ大将閣下どうなされますか?第21重砲兵連隊からも、砲撃準備が完了したとの連絡が来ておりますが。」
報告に来た部下の報告を、腕時計をちらっと確認しながら聞き終えた大将は、大仰にそれでいてある種の魅力ある動きで、部下たちへ指示を下した。
「同志諸君、我々はこれより人民を不当に圧するクラムアン帝国へ、正義の鉄槌を下す!だが、恐れることは無い、正義は我々で在り、我々は人民の鉾で在り盾である、諸君の奮戦に期待する!各員配置に付け!第21重砲兵連隊には即時事前砲撃を開始する様に伝えてくれ、第12師団と第23師団は10分後に攻勢を開始、残りの第24師団、第25師団、第28師団は第12師団と第23師団の援護をしつつ交代しながら前進せよ!」
「「「人民共和国万歳!人民に栄光あれ!」」」
ダールフォ大将は、言い終わると満足した様子で指揮所の中央に置かれたテーブルに目を向けた。
テーブルの上には国境周辺が描かれた地形図と、青と赤の駒が配置されている。
ダールフォ大将はおもむろに、赤の駒を手に取り青の駒の目前に降ろし、両翼からも押し込む形で配置し始めた。
これは、両軍のおおよその戦力配置を実際に表したものだろう、赤が人民共和国軍、青がこの場合はクラムアン帝国軍のようだ。
駒を配置してから何を思ったのか、ダールフォ大将は少し手を顎に当て考え込む仕草をした。
そして、おもむろに口を開き傍にいた部下に対して、問いを投げかけた。
「そこの君、第2航空師団は今どこにいるか確認してくれないかね?出撃可能なら即時前線へ出撃を要請してくれ。」
「はい同志大将閣下、直ちに確認いたします。」
=====数分後=====
「同志大将閣下、第2航空師団は何時でも出撃可能であり、現在前線へ急行中とのことです。」
「そうか、敵軍にはマトモな航空戦力が存在していないのは、確認済みだが・・・万が一ということがあるな、前線の師団に敵航空機が視認できないか、確認を取ってくれ。」
大将は、念には念を入れ実際の帝国軍戦力を更に詳細に見積もろうと、努力していた。
だが、そこへ帝国軍による予想以上の抵抗を受けたという報告が飛び込んできてしまう。
それにより、人民共和国軍前線指令部では、蜂の巣を突いたような騒がしさがまだまだ続く。
=====帝国某所=====
???「ふーん・・・そうなってたかぁ・・・でもまぁ、お互いに程よく損耗してくれた方が、後々都合がよいかもしれないし私としては何方でも良いのよね。ま、とっととケリがついたほうが、中央への進出が早くなって良いのだけれどもねぇ・・・」