ユクリパ "綴られる歴史"   作:ユクリパ

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ユクリパ綴られる歴史 第2話 "陸軍元帥の策謀"

帝国標準歴78年14月7日

 

帝国東部地域国境線

前線部隊

 

「たっく...なんだってこんなクソさみぃ時にわざわざ、演習なんてやるんかねぇ!」

 

と前線部隊の兵士の一人が舌打ちしながら装備の点検をしている。

それを、真横で同様に装備の点検をしていた年配の兵士が

 

「まぁまぁ...苛立っても演習が実施されるのは、変わりやしないんだから、とっとと装備の点検を終わらせちまって、朝食に行ったほうがよいだろ?なぁ?」

 

と苛立っている若い兵士に、宥め掛けた。

だがそれに対して苛立っている若い兵士は

 

「まったく...此れだから上の連中にはいはいって言うしか能の無いおっさんは嫌なんだよ...もうちっと自主性を出せないんかねぇ...ペッ」

 

と、地面へ唾を吐きながら年配の宥め掛けた兵士を罵っていたが、其れを偶々巡回していた将校に見られ。

 

「貴様ぁ!上層部と先任に対して不平を言うとは、何たる根性だ!今すぐその腑抜けた根性を叩き直してやる!歯ぁ食いしばれ!」

 

言うが早いか、腰に下げていた懲罰棒で若い兵士の腰を、勢いよく殴りつけ始めた。

其れを見て、年配の罵られていた兵士は複雑そうな表情を浮かべて、若い兵士を殴り続けている将校へ。

 

「少尉...そこまでにしてやってください...彼はまだ田舎から出てきたばかりで物を良く知らんのです。後は私が良く言って聞かせますので...どうかそこまでにしてやっていただけませんでしょうか?」

 

と将校へ若い兵士に教育的指導をするのを止めるように、懇願したが。

 

「ならん!そも、貴様も止めぬのが悪い!連帯責任だ、貴様もそこに直れ!」

 

明らかに苛立ちながら少尉は若い兵士を殴るのを一旦やめ、今度は年配の兵士を叩き始めた。

殴り始めて5分か10分経過して、満足したかのように、肩を上下させ少尉は

 

「うむ、これで貴様らも多少は根性が良くなっただろう!作業へ戻ってヨシ!」

 

という指示をして、再び巡回へ戻っていった。

その場に残されたのは、へたり込んでいる若い兵士と、鋼鉄の棒の様に真っ直ぐな年配の兵士だけである。

若い兵士は訝しむような声で

 

「なんで、おっちゃんが俺をかばったんだよ?あんなに馬鹿にしてたのに...」

 

明らかに消え入りそうな細い声で問いかけた。

それに対して年配の兵士は。

 

「なんでって...そりゃぁ仲間がやられていたら助けるのが仲間だろ?」

 

屈託のない笑顔で若い兵士に笑いかけたではないか。

其れを見た若い兵士は、何をどう感じたのか突然笑い始めた。

 

「アハハハハハ!そうか、そうだもんな!確かに仲間だな!さっきはごめんな。」

「なに、若いんだ、私にもそういう時期があって当時の先任にかばってもらったんだよ。ははっ」

 

お互いに笑いあっていたら少し離れたところから二人を呼ぶ声が聞こえてくる。

二人は顔を見合わせて、焦った表情で腕時計を確認した。

 

「「やばい(まずい!)!?もう朝飯の時間だ!いそがねぇと!(急がないと!)」」

 

 

======帝国領域の何処か======

???「彼らは此れから忙しくなるのでしょう、ですが今はまだ彼らにはあずかり知らぬことでしょうね...知る必要もないですしねぇ」

 

運命の日はじわじわと、確実に近づいてきていた。

 


 

一方その頃

323師団前線指令所

 

指令所として使われている小屋の扉を叩く音を、小屋の中で書類に目を通していた少佐は耳にした。

 

「うむ、入ってよし。」

 

返事を聞くが早いか、扉を開け一礼して入ってきたのは、先ほど若い兵士たちに教育的指導をしていた少尉であった。

 

「はっ!少佐、定時報告であります、我が隊は各員全員準備が完了しており、現在朝食中であります。尚第4班の兵士2名が上層部批判を行っていたため、教育的指導を実施いたしましたことをご報告申し上げます。」

 

テキパキと少佐へ向けて一連の報告をスラスラと、少佐へ報告する少尉だったが、報告をし終わり不安そうな表情で、少佐へ疑問を問いかけた。

 

「その...少佐、演習ですが演習にこれほどの冬季物資や、実弾が必要なのでしょうか...?それとも...」

 

そこまで聞いて、少佐は少尉へ

 

「私も知らないし、勿論君が知るべきことではないのだけは間違いないだろうね、君には君の任務があり、私には私の任務がある、私はそれぞれ割り当てられた任務だけをしていればよいと思うけども、それとも君は違うのかな?」

 

少佐は眼鏡の位置を治しながら、少尉の経歴が書かれた書類を見ながら少尉にそう問いかけた。

 

「はい、いいえ!私は少佐と同じく思っております!直ちに任務へ復帰いたします、失礼いたしました!」

 

問いかけを聞いた少尉は表情を一変させ、真っ青な顔で震えながら少佐へ返答をし、固い動きで小屋のドアを開けて退出し、ガタガタ真っ青なまま自分の班の場所へ戻る。

其れを一瞥した少佐は、少尉の経歴が書かれた書類に、何らかの文字をさらさらっと記入し、判を押してファイルの中へしまったようだ。

 


 

所変わり東部のとある小さな町の駅

 

「23日までに前線へ送る荷物はこっちだ!20日までの書類はこっちの貨物に入れろ!うん?その書類は25日発の汽車に積む荷物のリストだな、そこのデスクに置いておいてくれ。」

 

忙しなく駅の貨物場では、監督官と作業員たちがドタバタと、荷物の仕分けと貨物への搭載を行っていた。

そんな忙しい中へ駅の放送が突然鳴り響いた。

 

「”帝都発東部大管区第2管区エルテア市行き装甲列車が、本日の帝国標準時16時00分ジャストに到着します、各員は列車への物資補給の準備をお願いいたします。”」

 

其れを聞いた監督官は、腕時計を確認し、焦った表情で。

 

「後25分しかないじゃないか!どうなってるんだ!そんな話聞いていないぞ!?ええい!来るって言うならやるしかない、皆聞いたな!急いで燃料と給水塔に水を補充するんだ!」

 

作業員たちは、監督官のその言葉を聞き、今までしていた作業を区切りの良い所で留め、装甲列車を迎える準備を急いで始めた。

 


 

少し時を遡り、当の装甲列車はというと

 

「こちら帝都発第264号装甲列車、繰り返す、此方帝都発第264号装甲列車、エルテア鉄道指揮所返答お願いします。」

 

だがしかし、何度も何度もエルテア鉄道指揮所へ連絡しても、返事はびくりともせず...通信手は不安そうに、何度も何度も繰り返し定型文を通信機へ話しかけ続ける。

それを横目に、車長は外部確認用のハッチを開け、頭を出し手に持っていた双眼鏡で正面を見据えた。

 

「とにもかくにも、燃料と物資を補給せねばなるまいて、通信手、次の停車地に至急連絡を。」

 

車長はハッチを閉じながら、冷静に淡々と通信手へ指示を下す。

 

「車長...そうですよね...こちら帝都発第264号装甲列車、繰り返す、此方帝都発第264号装甲列車、第26番停車場応答願います。繰り返す、此方帝都発第264号装甲列車、第26番停車場応答願います!」

 

数度繰り返しただろうか、漸く第26番停車場の通信手へ通信がつながった。

 

..こち...ら...第26番停車場..こち...ら...第26番停車場、第264号装甲列車返答願います。

 

通信手は嬉しそうに通信機に向けて返答している。

 

「こちら第264号装甲列車!現在当列車はそちら迄30分の地点を通過した、至急燃料及び物資の、補給準備を要求する、繰り返す!現在当列車はそちら迄30分の地点を通過した、至急燃料及び物資の、補給準備を要求する。」

 

そして先ほどの駅の場面へと再び移っていくのであった...

 




続く、かもしれない。

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