ひぐらしのなく頃に 醍   作:陸 理明

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丸に一の字

「あ、どうぞ、出て下さい」

「すいません」

 

 職員室の知恵先生の机の上にある電話を取る。

 

「もしもし、雛見沢村立学校です」

『もしもし、レナですか?』

「あれ、梨花ちゃん。どうしたの?」

『どうしたもこうしたもないのです。まだ、こっちにレナがやって来ないから、心配して電話しただけなのです』

「あ、ごめんね」

 

 壁にかかった時計を見ると、確かに予定よりだいぶかかっている。

 

「ちょっとお客様が来ていてね」

『みぃ。客……、お客様?』

「うん、そうだよ」

『もしかして、なよなよした青瓢箪みたいな都会モンですか』

「なんで、知っているの?」

『それはどうでもいいのです。ホントにまったくどうでもいいことです。レナ、その青瓢箪に伝えてあげてください。園崎の紋は、丸に一の字です、って』

「どういう意味なの、梨花ちゃん」

「にぱー。レナも早くこっちに来るのです。みんな、ものすごく盛り上がっています」

 

 ガツン、といきなり電話が切られた。

 梨花ちゃんは、昔からあまり変わっていない。

 頭を下げて、客と向かい合う。

 忘れないうちに、さっきの伝言を伝えておくべきだろう。

 

「あの、友達が言っていたんですか……」

「何をですか」

「『園崎の紋は、丸に一の字』だそうです」

 

 空気が凍りついた。

 

「まさか?それ、どういうことです」

「さっき話題にでましたよね。古手神社の当主が今電話してくれましてね」

「まさか……ええ……そうなると、この雛見沢は……嘘だろう…………」

 

 作家は呆然として、何事かを呟いていた。

 あまりの姿にレナは声をかけられない。

 メモ帳になにやら落書きを始めた姿は鬼気迫る感じだ。

 

「ホントにそうなんですか?」

「いえ、わたしは伝言を頼まれただけですから」

「そうすると、公由は……まさか」

 

 ここで作家は深呼吸をはじめた。

 気が動転しているらしいことはわかったが、その理由はさっぱりわからない。

 

「ところでレナさんは、鬼というものをなんだと思っていますか? あ、レナさんの持つ一般的なイメージでお願いします」

 

 いきなり話の内容が変わった。

 

「うーん、一般的なイメージでいうのなら、私は桃太郎の鬼かな、かな。でも、私は雛見沢の鬼には、泣いた赤鬼みたいな優しくて哀しい感じを持っていますね。人間くさくて、魔物にはなりきれない、みたいな」

「……鬼が、時の朝廷に逆らった地方の豪族だと言う説はご存知でしょうか」

 

 それは知っている。

 古事記にでる土蜘蛛などは、つまりは朝廷の勢力拡大に抵抗した人々を蛮族と蔑み、さらに妖怪とまで貶めて語り継いだものだという説だ。

 妖怪にまで貶めることで、中立の第三者にまで迫害対象であることを周知させることができる。

 時間がたてばたつほど、とりかえしのつかないことになる情報操作の手段だろう。

 確かに、土蜘蛛などという妖怪が潜んでいたというよりも、現実性があり、だいたいこの歴史の解釈はこれで間違いないとレナも思っている。

 朝廷―――というより、国家や自治体という権力をもつものがどれほどに酷いことをするかと言うことは、雛見沢の住民は痛いほど知り尽くしている。

 自分たちの故郷を守るための戦いを、まるで犯罪のように扱おうとし、何年も苦しめられたのだから。

 実際には、それだけではない。

 レナの仲間達と一握りの者達しか知らないが、雛見沢はそれ以外にも陵辱にも等しい境遇に置かれていたこともあったのだ。

 だからこそ、レナは鬼と呼ばれて故郷を奪われた過去の人々に共感を覚えずにはいられない。

 そんなレナの胸中を知ってか知らずか、青年は少しだけ口調を弱くした。

 

「木を隠すなら森の中。誰かが一番最初に探した場所。そして、敵の中。僕は鬼の子孫の仲に、鬼の敵が隠れていたのだと思います」

「桃太郎でもいたんですか」

 

 鬼の敵といっても、レナがすぐに浮かぶのはそんなものだ。

 

「鬼の敵と言えば、朝廷を初めとする都の権力者達です」

「えっ」

「僕は、雛見沢は都の身分の高い貴人を匿うための場所だったと考えています。そして、おそらく『オヤシロ』さまというのはその匿われた貴人のことだったのではないでしょうか。……実は、今までの条件に合致し、そして僕がよく知っている人物が一人居ます」

「それはいった、誰なんですか……」

「僕が最初に考えていた通り、『オヤシロ』さまという言葉が重要だったのです。その意味ではなく。……『オヤシロ』は母音だけなら、『オアイオ』。後世になってから、『お』は敬称だと考えられ、『アイオ』に同じ母音の『社』をあててしまったのでしょう。だから、その意味では僕の最初の説は間違っていました。

『オヤシロ』さまは、正しくは『オアイオ』さまだったのです」

「それはどういう意味です」

「『オアイオ』という言葉はないでしょう。ただ、発声がなまってしまったものなんだと思います。それの語源にして、『オヤシロ』さまの正体を僕は―――いえ、僕らは知っています」

 

 一瞬だけ声を潜め、青年は口を動かした。

 

「オアイオ」

 

 と、レナには一瞬聞こえたが、すぐに青年の口に出した名前が理解できた。

 それは、

 

「後醍醐」

 

 と、言っていた。

 

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