転生したら……ウマ娘だった。   作:シラネ

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15話 トキノメグルと時野巡

結局、私は入院していた。

私は1日と半日の間寝ていたのだという。

 

診断は過労。特にレース中のデバフスキルを浴び続けた中での無理な加速が祟ったようだった。

逆に私が幼少期からやって来た事、小学生から“本気”のレースを何回か行っていることを母さんが話した時に“過労”だけで済んでいる事が不思議だったらしく、精密検査を受けたところ、特に問題は無かった事でより不思議がられたらしい。(アップとダウンをしっかりやってました。って事しか言えないよ……。)

 

有給休暇を取ってずっと横に居たらしい母さんを含め、父さん、噂を聞き付けた姉と伯母、1年のクラスメートの何人か、ロード、先生達、何人かのレースメンバーがお見舞いに来ていたらしい。

 

 

以下は、私が寝ている時に起きた、ざっくりとした出来事、会話の一部である。

 

……

 

【家族(ミドリ&たづな)】

 

 

「病院内で走らないで……!危ないですよ……!」

 

「そんな事、聞ける訳ないでしょ!!ああ、もう!」

 

「大きい声もダメですよ……!」

 

「615号室……!どこ!……あっち!?」

 

「違う!そっちは1~10号室のフロアですよ!11~20号室のフロアはあっちです……!」

 

「!あの部屋ね……!」

 

「!……その部屋は……!ミ……

 

ガラッ!

「メグル!だいじょう……ぶ?」

 

「……誰かの~?」

 

ドアを開けるとそこには白髪のお婆さんがベッドの上でお茶を飲んでいるところだった。

 

「……メグルが……おばあちゃんになってる!!?」

 

「うるさいですよ……!すみません!失礼しました!ミドリさん!メグルさんのお部屋はこっち……!」

 

「ご、ごめんなさい!……こっちね……!メグル!だいじょう……ぶ?」

 

ミドリがドアを勢いよく開くと、メグルの横に座っていたらしいダイヤが立ち上がりにっこりとした笑顔で低い声を放った。

 

「ミドリ……よく来たわね……とりあえず、病院内でやるなと言ったこと、“あれだけ”言ったのにも関わらず破っていたわね……!!」

 

「ぴ……!」

 

「……はぁ、こっちに来なさい。あなたが入り口を塞いでるせいでお義姉さんが入れないでしょ……!」

 

「……ひゃい。ごめんなしゃい……。」

 

 

……

 

【家族(翔真)】

 

 

(スライディング!!!)

「……。(ガラッ)大丈夫か!?メグル!!」

 

「……。あ・な・た?」(ゴゴゴゴゴ……)

 

「……あ。あ、あはははは……。」

 

「そこに直りなさい……!一回、メグルの無事を確認してからで良いから……!」

 

「は、はい……ごめんなさい。」

 

その後、ミドリと同じように何時間か正座させられながら説教を食らっていたらしい。

 

……

 

【クラスメート】

 

ミドリ姉さんが帰ったあと、自分の後輩に会ったらしく、その後輩の妹が私の事を心配していると聞いた姉さんは私の入院している部屋を伝えたらしい。その伝から、1年生のクラスメートに情報が行き、ロードが連れてくる形で(他の5年特進は別件で来れなかったらしい。)私が眠っている間に何人かのクラスメートが私の病室を訪ねてきていたらしい。

 

ドアを開けるとクライトが一番最初に入ってきた。

 

「メグルちゃん!」

 

「……あら?メグルのお友達?」

 

「は、はい。あの、メグルちゃんのお母さん……ですか?」

 

「そうよ。はじめまして。メグルはまだ眠ったままだから静かにお願いね。」

 

「はじめまして。メグル君のお母様。5年生特進学級委員のロードジャストです。」

 

「あら、5年生の方も?メグルの為にありがとうね。」

 

「……メグルさんは、大丈夫でしたか?レースが終わってから直ぐに倒れてしまったので……。」

 

「大丈夫みたいよ。疲れて寝てしまっているだけみたいだから。……逆に小さい時からここまで無理をして身体と心が壊れていないのが不思議なくらいよ……。」

 

「どういうことですか?」

 

「……少し、気持ち悪くなる話かもしれないけれど、聞きたい?」

 

「……お願いします。」

 

そうして、母さんは私が小さい頃からやって来た所業を言い出した。

 

 

「メグルは……小学校に入る前から……いえ、生まれてから直ぐに“変”な子だった。生まれてから産声をあげるまでは普通の子だった。だけど、それ以外はほとんど泣かなかったのよ。……赤ちゃんって、言葉が喋れない代わりに泣いて、お母さんや周りの人に自分のしてほしい事を伝えようとするの。『お腹が空いた』『オムツを替えてほしい』『眠い』『眠いけど怖い』『寂しい』『暑い』『寒い』とか。色々な事を伝えようとするの。……だけど、メグルにはそれが異常なまでに少なかった。

まるで、私達に迷惑を掛けようとしないかのように。異常に大人しかった。」

 

「「「……。」」」

 

「最初はこの子の性格なのかなと、思おうとした。だけど、その時は赤ちゃんである以上、酷く大人しい方が心配になるのよ。この子に何かしらの障害があって、事を伝えれないんじゃないか。辛く思っていないか。……小児科のお医者さんと何回も相談して、検査をしてもらっても何も問題は無かった。……混乱したわ。ミドリやメグルの前では極力しなかったけど、実はこの子達のお父さんとよくケンカしていたのよ。お互いがメグルの事を想って……なんだったのだけれど、意見がまとまらなかったのよ。

……そして、つい、私とお父さんがメグルの前でケンカしてしまってね。酷く言い争ったわ。……でも、その時、メグルが泣き叫んだの。今までよりも強く。激しく。大きな声で泣き叫んだの。その瞬間、私とお父さんは同時にメグルの方を見た。……ケンカが止まったの。だって、メグルが泣かない事で心配していたのだから。そして、私は泣き続けるメグルをあやす為にメグルをそっと抱き上げたの。……ピタリと泣きがやんだわ。そして、笑ったの。にっこりと。かわいい笑顔になったの。まるで、怒らないで。私の為に怒らないで。って、言ってるようだった。その時、私は、『ああ、なんで言い争っているのだろう。この子はこの子。私達が決める事じゃない。私達が今、すべきなのはこの子の為に言い争う事じゃない。この子の為に……この子達の為にしっかりと愛情を注ぐ事だ。』と、思ったの。お父さんも同じように感じてたみたいよ。……これが、メグルが生まれて直ぐの“変”な話。」

 

 

「……メグルちゃんって、赤ちゃんの時から変な子だったんだ……。」

 

「ふふ。今でもとっても“変”な子だけどね。私達にとってはとてもかわいい子よ。」

 

「ねぇ……。メグルお姉様が変な赤ちゃんだったのは分かったけど……。赤ちゃんじゃない時は、どうだったの……?」

 

「……お姉様?」

 

「あ、気にしないで貰えると助かりますわ。フーラルが呼びたくて呼んでいるだけですの。」

 

「そう?メグルが呼ばさせてるとかではないのね?……じゃあ、話すわね。……あれは、1歳の事だったわ……。」

 

その後、私が1歳の時からメチャクチャなトレーニングを積んでいた事、5歳の時には、まだ天才と言われていなかったミドリ姉さんと従姉のレイン姉には既にかなりの差で勝っていた事を話したらしい。

 

「「「……。」」」

 

「引いちゃった?私としてはこれからも仲良くして貰えると嬉しいのだけれど……。」

 

「……凄すぎ。」

 

「……逆に小さい時からそこまでのトレーニングしていたら、先輩らにはもう、勝てたって事か?……いや、無理だな。まず怪我する。」

 

「これは……僕が聞いていたよりも凄いな……。ミドリ先輩ですら負けているとは……。勝てないわけだ。」

 

「言っておくけど、メグルの真似なんか絶対にしてはいけないからね?母親としてじゃなくて、貴女達の先輩として言っておくわ。」

 

(コクコクコクコク……。)

 

 

……

 

数十分後、母さんと私のクラスメート

 

「元気になったら、また会おうね。メグルちゃん。」

 

「伝えておくわ。……メグルが元気になったら、また一緒に遊んでちょうだいね。走るのが好きな子だし、何より、止めても絶対に“無理”なレースはするでしょうから。」

 

「メグルさんなら、やりかねませんわね……。」

 

「また、メグル君と戦える事を楽しみにしていますよ。その時はお母様を御誘いしますよ。」

 

「ええ。メグルの代わりにお願いしますね。……是非誘ってね。今まで全く誘ってくれてなかったからその件についてはかなり怒ってるから。」

 

「ふふ。元気になってから文句を言ってあげてくださいね。お母様。」

 

 

そうして、ロードと1年生のクラスメート達は帰っていったらしい。

 

 

……

 

そして、先生達、レースメンバーには『貴方方は悪くない。自分の体力に余裕を持たしていなかったメグルが悪い』と言って泣く先生やレースメンバー、謝り続ける人達を母さんがなだめ続けていたらしい。(母さん……強いな……。)

 

……

 

 

そして、今、ちょっと大変な事になってます。

 

 

はい、

 

 

母さん、

 

 

激おこプンプン状態です。

 

 

……

 

「メ~グ~ル~?なんでお母さんやお父さんをレース観戦させていなかったのかな?」(にっこり)

 

「え、えと~それは~」(タジタジ)

 

「レースする時ぐらいは言いなさいよ~?」

 

「ごめんなさい……。」

 

「……はぁ。寂しいじゃないの。子供の頑張る所、見たいって思うのが親ってものだと思うわよ?……元気になったら、またどうせ直ぐにトレーニングやらレースやらするんだから、少しはお母さん達にも見せなさいよ?」

 

「はい……。(ごめん、止められるかと思ってたんだ……。)」

 

 

……

 

その後、2日経ってから私は退院した。

 

学校に行ってからは1年生ウマ娘達、5年生特進のクラスメートに出迎えられ、パパラッチは来なくなっていた。

 

私と、学校によって起こった事件はようやく終息を迎えたのだった。

 

 

……

 

実は、皆に伝えていなかったことがある。

 

それは、私が眠っていた時に、“母さんは大きな声を出していない。”って事だ。病院内では騒ぐなと言う人だ。確かに大きな声は出していないのだろう。

 

 

……では、一体、誰が私を起こしたのだろうか?

 

 

 

あと、前世の名前は時野巡ではない……はず。

 

 

巡は、合っているはずなのだ。だが、時野では無かった……と、思う。分からないのだ。自分の苗字が。もしかしたら、本当に時野なのかもしれないが、分からない。そうなれば、私の名前がそのまま今の名前になってるのだが、確認する手だてはない。

 

 

 

前世の記憶があまり残っていない。特に自分に直接附随する事が。それよりも、私の名前よりも、好きだった物事の方が印象深い。だからゲーム【ウマ娘】の記憶が大きく残っている。我ながら呆れてはいるが、何かの要因で死んだのにも関わらず、前世の記憶が少しでも残っているだけありがたいと思いたい。


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