……きつい。苦しい。熱い。寒い。
吐き気まで押し寄せる。
目の前が暗い。
音が聞こえない。
……でも、走らねば。
……
姉の試走を見た次の日、私は母さんを物凄く心配させていた。
土手 ランニングコース3キロメートル地点
「メグル!今の貴女では無茶よ!!」
「だい……丈夫。はぁ、はぁ、はぁ、5キロ……走るまで……帰らない!!」
「1歳で1キロ走る子もいないのに、5キロなんて無茶苦茶よ!!」(こんなことになるなら最初っから距離を決めれば良かった!)
スタミナを付けるため。走る感覚にいち早く慣れるため。
私はモブ。学園に入れる実力が付いたとしても推しである天才の彼女らに対抗なんか普通では出来ない!!
……なら、天才のアドバンテージを埋めるために努力を惜しまない他無いの!!
フラフラになりながら……でも走る。
走る。
走る。
……
「お、終わり!」
5キロ走り終わった頃にはもう目の前がくすんでほとんど見えていなかった。
だが、目の前に差し出されたスポーツ飲料水だけははっきりと見えた。
震える手で掴み、中の水を体へと流す。
やっと視界が明るくなってきた。
そして、目の前には、
心配げに私を見つめる母の姿があった。
帰ってからは母さんの目を盗んで腹筋、腕立て伏せ、背筋などの筋トレを各々50回からスタートさせることにした。
これも真ん中程からかなりしんどくなってくるが、ウマ娘の体力のせいか前世よりは楽だった。
それを何セットかやっていると母さんにばれ、問い詰められた。
「メグル。お姉ちゃんの走りを観てから焦りすぎじゃない?こんなになってまだ初日だけど、これをやり続けると身体を壊すし、何より貴女はまだ遊んでいても全然大丈夫な子供なのよ?」
「遊ぶよりトレーニングしていた方が気持ちいいの。お姉ちゃんみたいに早く速く走れるようになりたいから焦っているの。」
「まだ焦らなくても十分お姉ちゃんみたいになれるわよ?」
「ごめん、お姉ちゃんみたいに速くじゃなかった。お姉ちゃんと勝負して闘って勝つのもだけど、私はウマ娘の中で一番速くなりたい。」
「メグル……。気持ちは分かるけど、まだ……」
「早いってことは無いの。私は頑張らないといけないの。誰にも負けたくないから。」
そう言って、私はまた元いた場所で筋トレを再開させるのだった。
……
深夜
「……ねぇ、あなた、メグルの事なんだけど……。」
「どうした?元気がないとか?」
「違うの。……元気がありすぎる……。」
「なんだ、そりゃ良いことじゃないか。子供たるもの元気が大事だから。」
ダイヤ「……今日、私の制止を振り切って5キロマラソンやったり50回筋トレ数種を数セットやっていたって言ったら信じる?」
「……マジ?」
「うん……。」
「メグルの身体は?大丈夫なのか?」
「ダウンも行っていたし大丈夫だと思うけど、1歳でやりたがるメニューじゃないわよ。大体1歳でトレーニングなんかやろうとしないわ。ミドリもそんなにはやろうとはしないのに……。」
「メグルがどうしてもやりたいと言うなら止めれないが、本当に危険な事をしていたら止めさせないといけない。……1歳だってのに何を想ったんだ?」
「分からないわ。……お義姉さんに相談出来る?」
「姉貴か。……いや、忙しいし、まだ様子を見よう。身体に支障が出るようなら止めさせる。しかし、彼女がやりたいって言ってやってるんだから無理に止めるのも成長を止めるからな……。君のトレーナーだった頃を思い出すよ。」
「……なんで?」
「君も通常メニューの他にも自習練しようとしてたじゃないか。止めても「やらせてください!」って聞かなかったもん。……あれのおかけでG1優勝は出来なくても何個か入賞したのかもね……。」
「そうだった。忘れてたわ。」
「親譲りなら止めさせられないよ。」
そうして2人は結局彼女の思うがままにまずはやらせてみようという事になったのだった。