ドナドナが異世界にドナドナされる話 作:ルテチウム
「──ふむ」
首を傾げる一人の女がいた。
澄んだ白髪に白い肌。それに反し、着こなすのは目が覚める様な黒い服。
一見すると葬式に向かう淑女かと見間違えるその姿は、だが彼女の本質を現しているとは言い難いだろう。
女は微笑む。それは異様な事である。女性一人がこの暗い森に立ち尽くすのは、余りにも心許ない。だが、そのような心配や警戒など欠片も見て取れなかった。しかし、それも当然であろう。
なぜなら彼女は、《魔女》なのだから。
「あぁ……やはり世界は未知で満ちている」
そして彼女は、恍惚した表情でポツリと呟き、そして──、
「アンタは……誰だ?」
いつからいたのか。後ろで声を響かせた銀髪の少女に。魔女は、強欲の魔女は──エキドナは。ゆっくりと視線を向けた。
「ボクはエキドナと言う者さ──だけどキミが求めている答えはこれじゃないだろう?
しかし……すまないね。今のボクは、ボクを『ボク』であると定義する物を持っていないんだ。それでも敢えてボクを示すなら……そうだね。
──
爛々と煌めく好奇の眼光が、少女を貫いた。
◆◇
「ほーん、つまりアンタは異世界からの『旅人』ってことか?」
「その認識で間違いないよ。自慢じゃないが、ボクはキミの想像もつかない様々な物を見てきたんだよ?」
──楽しげに話し合うのは二人の女性。自慢げに語る女に、少女は興味深そうな瞳を向ける。
いや、と言うかこれはむしろ打ち解け合っていると言っても良いだろう。
エキドナの少々興の入った語りに、少女──ティーナ・クリーズは更なる興味を見せる。
「つまりはアンタは『四種の神器』と
「四種の神器……興味深い言葉だね。是非ともご教授いただきたい」
「……つくづく変な奴だな、アンタ」
騙そうと言うなら分かるのだ。そもそも、《四種の神器》と同じような出身など、本来なら誰が信じる物か。
そう、本来なら。
ティーナ・クリーズは違う。ただ、
だから、彼女は目の前の女の素性も目的も聞くことはしない。だから、必要な事だけを口にする。
「んー……そうだな、《四種の神器》つーのは、まあ……すっげぇ強い武器さ。アタシ達が使う《精霊》の力じゃなくて、異世界の力を有してるから規模も発揮する威力も埒外だ。昔々の4人の勇者サマ達が一個ずつ持ってたから、数は4個。今はそれぞれ4つの大国が一つずつ持ってるな」
「なるほど、《精霊》か……参考になるよ。ありがとう。それにしても、随分と丁寧に教えてくれるんだね」
優雅に微笑む目の前の女。
この女との交渉に必要なのは、ありとあらゆる
故に、
「アタシは路頭に迷った美人を見捨てる程薄情じゃなくてな。さて……んで、次にアンタが聞きたいことはなんだ?大抵の事なら答えてやるぜ?」
そして、彼女はニヤリと口元を歪めると、思慮深げに顎に手を当てるエキドナを真っ正面から見詰める。そして、ティーナはゆっくりと言葉を紡いだ。
「さぁ、なんでもアタシに問うといいさ。