「見えちゃう」男の物語   作:キラ

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主人公の個性を表現していくことの難しさを痛感しております。


三上侑生

 三上侑生。

 柵川中学の1年生で、佐天涙子とはクラスメイトの関係。それ以上でもそれ以下でもない。

 入学してから1ヶ月弱の間、彼の能力のレベルが高いとか、そういった話は一切耳にしなかった。彼女にとって、彼は普通の男子のひとりにすぎなかったのである。

 しかし今この瞬間、その認識は崩れ去った。

 

「霊魂を、呼び寄せる?」

「ああ」

 

 目の前の黒髪の少年は、彼女が聞いたこともない能力の持ち主だったのだ。

 

「詳しく聞かせてくれない?」

「そうだな……幽霊が見える以上、佐天さんにも事情を説明した方がいいか」

 

 小さく頷く三上。特に何かを隠すつもりはないようだ。

 

「でもその前に」

「ん?」

「飯、食べてないんじゃないのか? 腹減ってないのならいいけど」

「あ……」

 

 鞄の中に入れっぱなしの弁当箱を思い出す佐天。

 午前の授業が終わってすぐに彼らを追いかけてきたので、当然昼食はまだとっていない。お腹もばっちり空腹を訴えていた。

 

「えっと、ちょっとだけ待っててくれないかな」

 

 

 

 

 

 

 数分後。屋上に戻ってきた佐天は、三上たちとお昼を食べることになった。

 

「いただきます」

「いただきます。三上くんもお弁当なんだ」

「おう。料理のできる男はモテるらしいからな」

 

 得意げな顔で答える三上。興味が湧いたので、佐天は彼自作の弁当の中身を覗いてみる。

 

「……うん、見事なまでに冷凍食品のオンパレードに見える」

「まだ修行中の身なんだ。とりあえず今はこれが精一杯だな。朝時間ないし」

 

 買ったものをレンジでチンするだけなら誰でもできるというツッコミは野暮なのだろうか。

 

「なんだその苦笑いは。そういうそっちはどうなんだよ」

「あたしの? こんな感じだけど」

 

 手に持っていた弁当箱を彼の方に差し出す。

 

「……普通にうまそうだな」

「料理はまあまあ自信あるんだよね」

 

 今日のおかずのラインナップは、卵焼きにタコさんウインナー、加えて昨晩の残りの煮物となっている。経済的にもなかなか優しい昼食だ。

 

「おいしそうだね。中学1年生でここまで作れたら上等だよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 幽霊の男にも褒められて、今度はぎこちない笑みを返す佐天。反応が硬いのは、まだ幽霊と会話するという状況に慣れていないためである。

 

「俺も精進するか。あ、春巻うまい」

「それおいしいよね。あたしも時間がとれない時はお弁当に入れてる」

 

 そのまましばらく弁当を頬張りながらおしゃべりを続ける。

 

「僕も何か食べたいなあ。やっぱり幽霊は物を食べられないのかい?」

「そうっすね。俺が今まで会った中で、飯を食べる幽霊は誰もいませんでした」

「まあ、確かにお腹も減らないからね。食べる必要もないってことか」

「全部すり抜けちゃいますもんね。……って、そうだ三上くん。そろそろ教えてよ、いろいろ」

「ん? あ、悪い。すっかり忘れてた」

 

 もともと幽霊の存在や彼の能力に関する話を聞くはずだったのに、普通に関係ない話題で盛り上がってしまっていた。それを佐天が指摘すると、三上は咳払いをひとつ挟んでから説明を始めた。

 

「先に言っておくと、今から話すことはあくまで俺の経験に基づく推測だ。本当に正しいか確証はない」

「うん、わかった」

「まず前提として、人は死んだ後に魂が体から離れるって考えてくれ」

 

 頷く佐天。人間の死後のことなど知りもしないので、とりあえず彼の言葉を素直に受け入れることができた。

 

「魂がその後どこに向かうのか、それは俺も知らない。けど、亡くなってから数日以内の霊魂を、人の形にしてコミュニケーションをとれるようにする。これが俺の能力の中身だ」

「つまり、その人みたいにするってことだよね」

 

 眼鏡の男に目を向けて彼女が尋ねると、三上は大きく頷いた。

 

「ただし、困ったことに俺はこの能力をコントロールできてない」

「えっ?」

「どっかで勝手に能力が発動して、無意識のうちに霊を呼んじまうってこと。呼び出す間隔も1ヶ月だったり半年だったりばらばらだ。……自分で制御できるなら、赤の他人のおじさんを呼んでしまうこともない」

「そっか、そうだよね」

 

 言われてみればその通りだと佐天は感じる。自分の能力を制御できない能力者は一定数いると授業で教えられていたが、彼もその中のひとりらしい。

 

「本来なら、幽霊の姿は俺にしか見えないはずだ。佐天さんみたいな人に会ったのはこれが初めてだな」

「理由はわかるの?」

「霊感が強いんじゃないか、ってくらいしか思い浮かばない」

 

 自信なさげに答える三上。はっきりと確信できるような答えにはたどり着いていないようだ。

 

「それと、幽霊と俺はあまり距離をとることができない。多分10メートルくらいが限界だ」

「それ以上離れるとどうなるの?」

「離れないように幽霊の方が俺に引き寄せられる」

「僕が引っ張られるということだね」

 

 男の方はすでに三上からだいたいの事情を聞いているのか、説明を聞いていても特に驚く様子は見せない。時々確認するように小さく頷くだけだ。

 

「……あれ? ちょっと待って」

 

 ふと疑問が浮かんできたので、彼の話を中断させる。

 

「三上くん、今までにもいろんな幽霊を呼び出したってことでいいのよね」

「ああ。たくさん見てきたからこそ、能力の内容も想像できたんだ」

「他の幽霊たちはどこにいるの? ここにはいないみたいだけど」

 

 三上と幽霊は10メートル以上離れることができない。今しがた聞いたこの事実が正しいのなら、その霊たちはそう遠くないところにいるはず。しかし、朝から今までにそれらしい姿を佐天は見ていない。

 

「そうだな。そこが本題と関わってくる」

「本題?」

「ここからの話は、まだこっちのおじさんにも説明していない」

 

 そう言って、三上は男の方へ向き直った。語りかける主な対象が、佐天から彼に移ったということだろう。

 

「俺が引き寄せた霊たちは、みんな何かしらの大きな未練を持っていました」

「未練?」

「はい。そしてその未練がなくなった時、全員忽然と姿を消してしまった」

 

 それはつまり――

 

「成仏、ということかな」

「多分ですけど、この世に未練がある霊魂だからこそ俺の能力に引っかかるんだと思います。それを断ち切れば、あの世ってやつに向かう力の方が強くなる。例によって推測のオンパレードだけど」

「でも、結構納得のいく話だと思うよ。……そうか、未練か」

 

 三上の言葉を聞いて、彼はゆっくりと目を伏せる。何か思い当たる節があるのかもしれないと、佐天にはそう思えた。

 

「俺は今まで、幽霊になった人たちの未練をなくす手伝いをしてきました。だから今回もそうしたいと思う。教えてください、あなたのことを」

 

 話が着々と核心に迫ってくる。自分はこのままここにいていいのかという考えが彼女の頭をよぎった。

 

「あの……あたし、席外した方がいいですかね」

「いや、大丈夫だよ。どうせもう死んでしまっているんだ。ひとりに聞かれてもふたりに聞かれても変わりはしないさ」

「本人がこう言ってるみたいだから、別にいいんじゃないか」

 

 許可が下りたので、浮かそうとしていた腰を再び地面に着ける。

 

「じゃあ、まずは自己紹介からだね」

 

 ひとつ息をつき、眼鏡の位置を正してから、男は静かに語り始めた。

 

「僕の名前は佐城康治、40歳。地方の企業でサラリーマンをやっていた」

「あたしは佐天涙子です。中1です」

「三上侑生です。……そういえば、今まで名前も教えてなかったですね」

 

 忘れてた、と頭をかく三上。幽霊の男、佐城の話はそのまま続いていく。

 

「死因は多分交通事故かな。夜に会社から帰る途中、車にはねられたところで記憶が途切れてるから」

「……なんだか、すごく淡々と話しますね」

「午前中にいろいろと心の整理ができたからね。まあ、ただの開き直りだよ」

 

 苦笑する佐城。そんなものなのだろうかと疑問に思う佐天だが、死んだ人の気持ちを理解するなんてできそうもないので納得することにした。

 

「そして、三上くんが聞きたがっていることについてだけど。僕にとっての未練といえば、やっぱりあのことになるのかな」

「あのこと?」

「恥ずかしい話になるけど、僕は4年前に妻と離婚しているんだ。その辺の詳しい経緯に関しては、君たちに話してもしょうがないから割愛させてもらうよ」

 

 そこまで言って、佐城は一度深呼吸を挟む。ここからが最も大事な部分なのだと考え、佐天も今一度姿勢を正す。

 

「僕には一人娘がいるんだけど、その子も妻に引き取られてしまってね。親馬鹿なのはわかっているんだけど、本当にかわいい娘で……元気でやっているかどうか、どうしても自分の目で確かめたいとずっと思っていた」

「それが、佐城さんの未練ですか」

 

 確認するような三上の質問に、彼は首を縦に振った。

 離婚した後は、その娘と会わせてもらえなかったのだろう。彼が抱き続けた思いは、死んでしまってなお残っているのだ。

 

「娘がどこの学校に通っているのかも教えてもらえなくてね。別れた妻としては、僕があの子に会いに行くのを嫌がったんだと思う。それでもしつこく食い下がったら、学校のある地域だけはしゃべってくれたんだ」

「それってどこなんですか」

 

 佐天の問いに、佐城は屋上から見える街並みを眺めながら答えた。

 

「ここだよ。この学園都市にあるどこかの学校に、僕の娘は通っているそうだ」

「なるほど。それならまあ、希望は残ってるか」

 

 冷凍食品の肉団子をひとつ口の中に放り込んでから、三上はそうつぶやいた。

 

「その子供の学年、わかりますか」

「今年で14になるはずだから……中学2年生かな」

「俺たちのひとつ上か」

 

 学園都市に住む学生は、許可がなければ自由に街の外と内を行き来することができない。佐城の探す娘がこの街の中にいるというのは、確かに運がいいと言える。

 ただ、それでも探し当てるのは難しいと佐天は思う。

 

「でも、中学だけでもここには相当な数があるんだよ? 見つけられるのかな」

「そこはまあ、おいおい考えていくしかないな。どの道動けるのは放課後からだし、今できることとしては……そうだ。その人の名前、教えてください」

「麗華だ。麗しいの麗に、華やかの華で、麗華。妻の姓を使っているだろうから、藤宮麗華かな」

「麗華さんか。見たら読めるけど書けないな。後で調べとくか」

 

 佐天も三上と同じく、『れいか』という字の書き方がわからなかった。中1の学力なんてそんなものである。

 

「とりあえずこんなところか。話してくれてありがとうございます」

「いやいや、僕の方こそ頼むような形になってるわけだし」

 

 そこで佐城に関する話はいったん打ち切られ、昼食が再開された。すっかり箸を動かす手が止まってしまっていた佐天も、昼休みの終わりに間に合うようにおかずを口に運び始める。

 

「そういえば、三上くんの能力のレベルはいくつなの?」

 

 その途中、気になっていたことを尋ねてみる。他に持っている人がいなさそうな能力だが、果たしてどう判断されているのか。

 

「ゼロ」

「え? そんなわけないじゃん。だって」

「幽霊はほとんどの人に見えない。当然試験官にも見えない。そうなると、俺の能力を証明することはできないってわけだ」

「……そっか、なるほど。ということは、能力の名前も決まってない?」

「もちろん」

 

 肝心なところを見落としていた佐天は、彼の説明に納得して、同時に気の毒だとも思った。なんの能力も持たない彼女と違い、彼には確かに能力があるのに評価されないのだ。

 

「自慢できるような力でもないし、別にいいんだけどな。ただ奨学金が増えないのは困る。わりと切実に」

「あはは、それはあたしもわかる。同じ無能力者だし」

 

 学園都市から学生に支給される奨学金は、個人の能力のレベルが高ければ高いほど高額になる。無能力者でも生活できないほどの金額しかもらえないというわけではないのだが、どうしても自由に使える分は少なくなってしまうのである。

 

「日々の節約に勝るものなしだな。とりあえずはまともに自炊できることを目指すか」

「あたしもついつい買い食いしちゃう癖をなんとかしないとなあ」

 

 意外と話が合う人かも、というのが、この昼休みに佐天が三上に抱いた印象だった。

 

 

 

 

 

 

 午後の授業が終了し、放課後になった。

 

「ねえ初春。藤宮麗華って人、知ってる? 中2の人なんだけど」

「藤宮さん、ですか? んー……すみません。私の知り合いにはいないと思います」

「そう……」

「誰なんですか? その人」

「えっと、ちょっとね」

 

 試しに初春に尋ねてみたが、そう簡単に手がかりがつかめるはずもなかった。

 

「佐天さん、帰らないんですか?」

「うん。少し用事があるから」

「そうですか。私は風紀委員の仕事があるので失礼しますね」

「頑張りたまえよ初春くん?」

「ラジャーです!」

 

 初春が教室を出るのを見届けてから、佐天は廊下側の窓際の席に視線を移す。

 

「さて」

 

 帰り支度を終えたらしい三上は、友達にあいさつしてから教室の出口へ向かっていく。彼女も鞄を持ち、その後を追いかけた。

 

「三上くん」

「ん? ああ、佐天さんか」

「君も帰るところかな」

 

 廊下に出たところで彼女が声をかけると、彼とその隣にいた佐城が同時に振り返る。

 

「何かわかったこととかある?」

「とりあえず、2年生の授業を受け持っている先生に聞いてみた。で、この学校には藤宮麗華さんはいないってことがわかった」

「そっか。まあ、そんなあっさりとはいかないよね」

 

 一番楽なパターンは実現しなかったようだ。

 

「それで、これからどうするつもりなの?」

「一応作戦はある」

「なになに? もしかして知り合いに凄腕の情報通がいるとか」

「そんな都合のいいツテはない」

 

 少しだけ期待して尋ねてみたが、やはりそれもないらしい。

 

「だが何もないわけじゃない。俺にはこのそこそこにイケメンな顔とそこそこに鍛え抜かれた体がある」

「……それ、何か関係あるの?」

 

 見たところ細身には見えないし、顔立ちも悪くはない。それは事実だが、だからなんなのかと佐天は疑問を抱かずにはいられない。

 

「これから俺は街中の中学校をめぐって、藤宮さんの居場所を探す。あっちこっち走り回ることになるから、体力があるにこしたことはない」

「もしかして作戦って、総当たり?」

「他に思いつかないし、しょうがないだろ。いろんな学校の生徒に聞いてみるしかない」

 

 中学校の多くはこの第7学区に建てられているとはいえ、学区内だけでも面積はある程度あるうえ、もし麗華の通っている学校が別の学区にあったとしたらさらに大変なことになってしまう。

 それでも、彼は本気で試すつもりのようだ。

 

「というわけで、俺が言ったことはちゃんと関係あるわけだ」

「なるほど。……あれ、でもイケメンが役に立つ理由は」

「さて、じゃあ行きましょうか佐城さん」

「ごまかそうとしている!?」

 

 すたすたと廊下を歩いていく三上。どうやらイケメンに関しては出まかせだったらしい。

 しかし、ここで引き止めなければ彼女が声をかけた意味がない。

 

「待ってってば! あたしも手伝うよ」

「え?」

「事情を知っちゃったわけだし、放っておけないから」

 

 死んでしまった人間の抱く、最後の願いを叶えてあげたい。それは佐天の偽らざる気持ちだった。

 

「手伝ってくれるならうれしいけど……疲れるぞ?」

「ひとりでやろうとしたらもっと疲れるでしょ。それに、あたしもそこそこ体力には自信あるし、そこそこにかわいいし」

 

 若干照れ気味に話す佐天。

 もちろん、彼女は自分で自分のことを特別かわいいとは思っていない。ただ先ほどの三上の真似をすることで、空気を和らげようとしただけだ。

 

「………」

 

 彼女の言葉に、三上は一瞬驚くような顔をして。

 

「いや、顔は関係ないだろ」

「そっちが先に言ったんでしょうが!」

 

 多少からかわれるようなことはあったものの、とにかく彼と一緒に人探しを始めることになった佐天であった。

 




とあるのキャラだと佐天さんはかなり好きな部類に入ります。ビジュアル、性格ともに個人的にとてもよいです。

感想や評価等あれば、気軽に送ってもらえるとうれしいです。
では、次回もよろしくお願いします。
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