「見えちゃう」男の物語   作:キラ

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娘探し・後日談

「そう……佐城さん、成仏したんだ」

「佐天さんにも、お礼を言ってたよ。感謝してるって」

 

 月曜日の昼休み。先週と同じように、俺は佐天さんと屋上で昼食をとっていた。違うところといえば、今日はふたりきりという点か。

 

「お別れのあいさつ、ちゃんとしたかったなあ」

 

 ご飯を口に運ぶ佐天さんは、少しだけ寂しそうな顔つきを見せる。あいさつができなかったのは俺も同じなので、気持ちはわかった。

 

「でも、よかった」

「うまくいったのは、佐天さんのおかげだ。俺ひとりじゃ、どうにもならなかったかもしれない」

 

 俺だけの力で、果たして学舎の園の内部にいた藤宮さんに会えたのか。そう問われると、かなり怪しい気がする。きっと今頃、頭を抱えていたんじゃないだろうか。

 

「ありがとう。本当に助かった」

「や、やめてよそんなに改まって。あたしは自分で勝手に手伝ったわけだし」

「そうは言ってもな。こっちとしては、何かお礼がしたいくらいだ」

「お礼?」

「なんでもってわけにはいかないけどな」

 

 たとえばここから飛び降りろとか言われても、さすがに無理な話である。

 でも、お返しがしたいというのも事実だ。

 

「んー……お礼か。じゃあひとつ、お願いしてもいいかな」

「おう、なんだ?」

 

 何か思いついたらしい佐天さんは、俺をびしっと指さしこう告げた。

 

「あたしの友達になること!」

「へ?」

「三上くんと話してると楽しいし。波長が合う、みたいな?」

 

 予想していなかった方向での攻めに、俺は困惑してしまう。

 なにこれ、ひょっとして脈ありだったりするのか?

 

「いい友達になれると思うんだよね、あたしたち」

 

 ……いやいや、冷静になれ。友達って言ってるんだから、別に脈があるわけじゃないだろ。

 

「わかった。今から俺たちは友達だ」

「よろしい!」

 

 屈託のない笑顔を見せる佐天さん。これから仲良くできるといいな。

 

「じゃあ早速だけど、新しくオープンしたお店の特大パフェでもおごってもらおうかな」

「待て待て、俺は友達にはなったが財布くんになった覚えはないぞ」

「そこはほら、男の甲斐性ってやつを見せてほしいというあたしの粋な心遣いだよ」

「甲斐性なら金銭面以外で見せてやるから。子供がすぐに金金って騒ぐのはよくないぞ」

「そのセリフがすでに若干甲斐性なしっぽいんだけど……」

 

 そんなこと言われても、現在絶賛金欠中だからどうしようもないわけで。藤宮さんに贈ったくまのぬいぐるみ、結構値が張ったんだよなあ。

 

「なら、そうだな……甲斐性を示す方法は、んーと」

 

 男のプライド的なものが胸でくすぶるので、なんとかいい案が浮かばないものかと考えていると、それを見ていた佐天さんがくすっと笑った。

 

「冗談だって、冗談。いきなり友達にたかったりなんてしないし、そんなことだけで甲斐性のあるなしをはっきり決めたりしないよ、あたしは」

「なんだ冗談か。安心した」

「まあ、甲斐性を判定するメーター自体はちょびっとマイナスに動いたけどね」

「おいっ!」

 

 どこまで本気なのかわからない佐天さんの発言に翻弄される。友達宣言した途端、俺に対する遠慮がなくなっているような気がする。

 

「というわけで、これからよろしくね」

「……ああ、こちらこそ」

 

 でも、それだけ打ち解けられたってことで前向きにとらえるとしよう。そうだとしたらうれしいし。

 

「俺も本格的に話術での振り回し方を考えないとな……」

「なんか怖い言葉が聞こえてきたんだけど」

 

 ちなみに、やられっ放しは趣味じゃなかったりする。

 

 

 

 

 

 

 佐城康治さんが幽霊として現れたことから始まった今回の一件は、俺にも案外大きな影響を与えた。

 まずひとつは、佐天涙子という霊の見える女の子と出会い、友達になったこと。今後も幽霊絡みで困ったことがあった時には、また力になってくれるかもしれない。

 そしてもうひとつ、俺にとってうれしい出来事といえば。

 

『へえ。三上さん、お料理の勉強をしてるんですか』

「まだ全然ですけどね。余裕がある時に本読みながら作るくらいで」

『でも、そうやって頑張ること自体がいいことだと思いますよ』

 

 藤宮麗華さん。俺が普通の生活を送っていたなら、まず言葉を交わすことすら難しかったであろう常盤台のお嬢様だ。

 佐城さんがいなくなってからも俺たちの親交は続いており、たまにこうして電話やメールで世間話を楽しんでいる。藤宮さんいわく、普段男の子と接する機会がないからいろいろ新鮮なんです、とのこと。いつかその新鮮さがなくなった時にも、ちゃんと相手してもらえるようになりたいものである。

 

「藤宮さんは料理できるんですか?」

『可もなく不可もなくですねー。独創性とか、そういう部分はからっきしです』

「なるほど」

『あ、でもお裁縫は得意ですよ? この前も先生に褒められちゃいました』

「裁縫ですか。俺はとれたボタンを付け直すくらいだなあ」

 

 『裁縫』じゃなくて、『お裁縫』という言葉を使うあたりがなんともかわいらしい。佐天さんも『お弁当』という言い方をするけど、ああいう女の子らしい言葉遣いはいいものだ。

 

「藤宮さんは――」

『あ、三上さん。ちょっとお願いがあるんです』

 

 別の話題を振ろうとしたら、それを藤宮さんに遮られた。いったいなんだろう。

 

『その、嫌なら嫌と言っていただいてかまわないんですけど……私のこと、下の名前で呼んでくれませんか?』

「え? 下の名前って……麗華さん?」

『はい。そうです』

 

 嫌なわけがないんですが。むしろ呼んでいいのならいくらでも呼びますけど。

 しかし、このタイミングでの名前呼び要求。まさか脈アリ……?

 

『今は藤宮麗華ですけど……佐城麗華だったころの思い出も大事にしたいなって。だから、名字じゃなくて名前で呼んでほしいって友達みんなに頼んでるんです』

 

 脈アリなわけないよな。だいたい予想はできてた。

 ……でも、素直にいい理由だと思う。

 

「きっと、お父さんも喜ぶと思いますよ」

『だといいんですけどね』

 

 親馬鹿だって自分で言ってたし、このことを知ったら小躍りするに違いない。佐城さんとは1週間ほど一緒にいただけだが、麗華さんのことが大好きなのはよーく伝わってきた。

 

「じゃあ、これからは麗華さんって呼びますね」

「ありがとうございますっ」

 

 俺も天国の佐城さんにお礼を言おう。あなたのおかげで、娘さんとこうして仲良くやれています。素晴らしいものを残してくれてありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 30分ほど麗華さんと話した後、俺はベランダに出てぼーっと月を眺めていた。

3分の1ほど欠けた、中途半端な形の月だ。

 

「父親、か」

 

 いや、父に限らず母もそうだ。今回のことで実感したけど、親っていうのはいついなくなるかわからないものなんだな。

 小さい頃からそばにいて、面倒を見てくれるのが当たり前。大半の家庭はそうだろうけど、そういう優しい光景はいつ崩れ去るかわからない。俺だって、例外じゃないのだ。

 

「後悔はしたくないよな」

 

 携帯を操作し、電話をかける。たまには俺から連絡してみよう。

 

「もしもし父さん? もう仕事終わった?」

 

 電話口の向こうからは母さんの声もかすかに聞こえている。すでに家に帰っているようだ。なんだかんだで、ふたりの声を聞くと落ち着くな。

 

「ふたりとも元気にしてる? ……急にどうしたって、いや、ちょっと声が聞きたくなって。……はあ? 気持ち悪い!? かわいい一人息子にそれはないでしょ――」

 

 俺のこのピュアな気持ちは、なかなか父親に伝わらないようだった。

 

 




とりあえずこれで1章終了です。
基本的にはこんな感じのゆるゆるした話が続いていきます。
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