「見えちゃう」男の物語   作:キラ

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なんだか怖いくらいにお気に入りが増えていますが、素直にうれしいです。ありがとうございます。


記憶喪失の少女

 今日は土曜日だし、朝はのんびり過ごそう。

 そんな俺の考えは、彼女の登場によりあっさりと崩れてしまった。

 

「つまり、あなたには死んだ人間の魂を幽霊の形にする力があって、私はそれが原因で気づいたらここにいた。ということでいいのかしら」

「そうそう、そんな感じです。というか理解早いですね」

 

 突然俺の目の前に現れたのは、記憶を失っているらしい女の子の霊。しかも一糸まとわぬ姿だったので、さすがの俺も戸惑った。

 

「右も左もわからない状態だから、素直に受け入れるしかないのよ。あなたの言葉を疑ったところで、私にはどうしようもないわけだし」

 

 最初は取り乱していた彼女だったが、俺がゆっくりと状況を説明していくうちに徐々に平静を取り戻し、今は座って話を聞いてくれている。

 表情はうかがえない。というのも、俺たちは現在互いに背を向けている状態なのだ。理由はもちろん、彼女が裸だから。

 

「知らない間に死んでいて、しかも記憶喪失……ちょっとへこむわね」

「すみません。俺がこんな能力を持ってなければ、普通に成仏できていたかもしれないのに」

「でも、あなたが引き寄せるのは未練を持った霊魂なんでしょう? だったら私にも心残りがあったはずで、それを解消してくれるのならここに来た理由もあると思うわ」

 

 多少落ち込んではいるものの、彼女の声には優しい雰囲気が感じられる。俺を責めてもおかしくない場面だったので、こっちとしては救われた。

 きちんと未練を断ち切って、天国に送ってあげたいところだが……

 

「でも、まずは記憶を取り戻さないことには始まらないのよね」

「そうですね。俺もこんなことは初めてなんで、どうしたらいいのか」

 

 何も覚えていないんじゃ、未練も何もあったもんじゃないからな。まずはこの人の記憶を元に戻すことが重要だ。

 

「どこに住んで、どんな生活を送っていたのか。残念だけど、何も思い出せない」

「そうですか……」

「ここは、学園都市という場所だと言っていたわね?」

「はい」

「……だから、不思議な力の持ち主がいるわけね」

 

 納得したようにつぶやく。学園都市がどんなところだとか、そういったことは覚えたままなんだろうか。

 それを尋ねてみると、彼女は一呼吸置いてから答えを返した。

 

「関東にある、超能力開発を行っている学生の街。どうやら、こういう『知識』に関する記憶はちゃんと残っているみたいね。逆に、自分自身に関することはきれいに抜け落ちているけれど」

 

 なるほど。確かに言葉も普通に話せているし、生まれてからのことを本当に全部忘れてしまっているわけじゃないんだな。

 

「よくある話だと、生活しているうちに記憶を刺激するような出来事が起きて、大事なことを思い出したりするらしいですけど」

「自然に任せる形ということ? それはいいのだけれど……まずはこの格好をなんとかしたいわね」

「あ、そうか。そっちはすぐにでも解決しないと駄目ですよね」

 

 先ほど目にした彼女の姿を思い出す。色白で、顔もスタイルもかなり良かった。

 

「………」

 

 いかん、なんか興奮してきた。そんな状況じゃないっていうのに。

 

「どうかしたの? 急に黙り込んで」

「い、いえ! なんでもないです、なんでも。とにかく、きちんとやるべきことはやりますから」

「そう。……まあとりあえず、私の、は、裸を見たぶんの責任はとってもらわないと」

「あ、あはは」

 

 恥ずかしそうに口にされると余計に意識してしまう。

 切り替えろ切り替えろ、と頭の中で繰り返していたその時、机の上の携帯がブルブルと震えた。

 

「お、返信来たか」

「そういえばさっきメールを送っていたようね」

「はい。頼りにしている知り合いがいるんです」

 

 幽霊が見えないのにもかかわらず、俺の言うことを信じてくれる人だ。困った時に相談すると、親身になって意見を出してくれる。

 

「あー、確かにそうかも」

 

 メールの文面を見て、俺は素直な感想をこぼした。今回もあの人は、役に立ちそうなアドバイスをしてくれた。

 そういえば最近直接会ってないな。今度連絡してみよう。

 

「なんて書いてあったの?」

「服を着ていないのは、記憶がないからじゃないかなって」

「どういうこと?」

「多分ですけど、俺の能力は霊魂が持っている記憶をもとにして幽霊の形を作るんです。つまり、生きていた時に印象に残っていた服装で現れることになる」

 

 たとえば、この前の佐城さんはスーツ姿だった。仕事の時の服装が強く記憶に残っていたのだろう。

 

「けれど、記憶喪失の私には当然印象に残っている服なんてない。だから何も着ていないということかしら」

「推測にすぎませんけど、十分ありえる話だと思います」

 

 そうなると、とにかく断片的にでも生前の自分の姿を思い出してもらう必要があるってことだ。ワンシーンでも出てくれば、その時着ていた服が今の彼女の体にも現れるはず。

 

「とりあえず、ネットでいろんな服の画像を探します。何か思い出せるかもしれないんで」

「頼んだわ」

 

 方針が決まったので、俺は棚の中のノートパソコンを引っ張り出すべく立ち上がる。

 

「あ、そうだ」

「どうかしました? 何か記憶が戻ったとか」

「そうじゃないわ。ただ、タメ口で話してもいいわよって言おうとしただけ」

「え?」

「見た感じだとそんなに歳も離れていないみたいだし、堅苦しい話し方されるともにゅっとくるのよ」

「もにゅ?」

「そう、もにゅっと」

 

 いまいちわからないが、こっちも敬語は得意じゃないので助かる。

 

「じゃあ改めて、これからよろしくな」

「ええ、よろしく」

 

 さて、早速作業に取りかかるか。

 

 

 

 

 

 

 俺は男なので、最近の女の子のファッションとかはよくわからない。

 なので、とにかく『女の子 ファッション』とか『女の子 服装 人気』とか、そういうキーワードをもとにネットの海をさまよい続けた。

 

「これとかどうだ? かわいいワンピースだけど」

「……ごめんなさい。特に頭に引っかかったりはしないわ」

 

 1時間半ほど頑張ってみたが、隣でウィンドウを眺める彼女の記憶を思い起こす服は見つけられなかった。

 

「ちょっと休憩させてくれ。目が疲れてきた」

「ええ」

 

 胸を両手で隠した体勢のまま、彼女は小さくうなずいた。さすがにずっと背中合わせでいるわけにもいかないので、今は普通に互いが互いの姿を見ている状態だ。もちろん、じろじろ必要以上に視線を送ったりしないよう気をつけてはいるが。

 

「あー、腹減った」

「ひょっとして、朝から何も食べてないの?」

「今そのことに気づいたところ」

 

 起きた瞬間衝撃の出会いが待ち構えていたので、すっかり食事することを忘れてしまっていた。

 時計を見ると11時近い。今日は朝飯と昼飯を合体させようと考えながら、台所に行って冷蔵庫を開けた。

 

「私にはほぼ空っぽに見えるのだけれど」

「……昨日使い切ったの忘れてた」

 

 棚を漁ってみるも、こういう時に限ってカップめんなども切らしている。つまるところ、現在この家には食べるものがない。

 そのことを意識すると、余計に食欲が増してきた。

 

「買いに行くしかないか」

「出かけるの?」

「さすがに空腹のままだと気が散りそうだし」

 

 着替えは先ほどすませていたので、外出する準備はできている。

 鏡で軽く身だしなみをチェックして、財布をポケットに入れていざ出陣。

 

「ちょっと待って」

「ん?」

 

 廊下に出ようとしたところで、後ろから声をかけられた。

 

「さっき言っていたわね。あなたと私は、10メートル以上は離れられないと」

「そうだけど」

「それはつまり、あなたが外に出ると私も出ないといけないのよね」

「その通り……あ」

 

 しまった。大事なことをうっかり失念していた。

 

「この格好のまま外出することに、私の心は耐えられそうにないわ」

 

 頬を若干赤く染めながら、至極まともな意見を出される。確かに、露出狂でもない限り裸で街に出るなんて絶対に嫌だろう。

 

「その気持ちはわかる」

「でしょう? だから」

「誰にも見られないんだからなんとか我慢してほしい。申し訳ないけど」

「出前でもとって……なぜ外出前提で話が進んでいるのかしら」

「待て待て、ちゃんと理由はあるぞ」

 

 ムッとする彼女の顔を見て、俺は自分の考えを説明する。

 

「休日の街に出れば、いろんな女子がいろんな格好してるだろ。実際に人が服着て動いてるのを見た方が、ネットで調べるよりも参考になるんじゃないかと思った」

「それは、確かにそうかもしれないけれど」

「あと出前は高い」

「ぶっちゃけたわねこの男……」

 

 事実だから仕方ない。先日の予定外の出費がいまだに尾を引いているのだ。

 俺は基本的に貯金とかしないタイプなので、高い買い物をした後はしばらく節約しなければならなくなるのである。

 

「でも、試す価値はあるだろう」

「………」

 

 しばらく悩んでいた彼女だったが、やがて諦めたようにため息をつくと、

 

「まあ、誰にも見られないのなら……いいわ」

「ありがとな」

 

 とりあえず、俺のわがままを受け入れてくれた。

 

 

 

 

 

 

 近くのスーパーまでは、歩いて10分程度。

 

「ほ、本当に見られてないのよね?」

 

 先ほどから幾度となく繰り返される言葉に、俺は小さくうなずく。あまりリアクションが大きいと俺が不審者扱いされて注目を浴びてしまう。

 

「あっ、今あの男の人私の方を見た! ような、気が……はあ、少し慌てすぎね、私」

 

 胸を隠しながら歩く彼女は、やがて警戒を緩めて肩の力を抜いた。誰かに姿を認識されるのではないか、という不安がだいぶ薄れたようだ。

 

「本当に、みんな見えないのね。私のこと」

「ああ」

 

 寂しさが含まれた言葉に小声で返事をしながら、俺はポケットの中から携帯を取り出す。

 確かに幽霊の姿は普通の人間には見えないけど、例外がいることを思い出したのだ。

 

「佐天、佐天、と」

 

 連絡帳からその名前を探し、電話をかける。

 佐天さんは俺と同じく幽霊が見えるから、今出くわすと彼女の裸を目にしてしまうことになる。街中で偶然ばったり、なんて展開もあるので、念のため居場所を確かめておこう。

 

『もしもし三上くん? どうしたの?』

「いや、今どこにいるのかなと思って」

『今? 外で買い物中だよ。今お店を出るところだけど』

 

 店の名前を聞く。

 

「……うん?」

 

 ……すぐそこに同じ名前が書かれた看板が立ってるんだが。

 いや待て、もしかしたら複数店舗を展開している店かも――

 

『あれ?』

 

 俺の切実な願いは、店から出てきた黒髪のクラスメイトと目があった瞬間に儚く散った。

 

「おーい!」

 

 元気に駆け寄ってくる佐天さんが俺の背後に立つ存在に気づいたのは、すぐ近くまで来てからだった。

 

「……えっ? あ、あの、三上くん?」

 

 当然のごとく混乱する佐天さん。その視線はバッチリ全裸の少女に注がれている。

 

「あ、あれ? ね、ねえ。この子、私のこと見えてる……?」

「……ごめんなさい」

 

 がくん、と彼女の膝が折れた。

 これほど顔面蒼白という言葉が似合う表情を、俺は初めて目にした。

 

 

 

 

 

 

 佐天さんに事情を説明するべく、ひとまず公園のベンチに移動。

 

「記憶喪失の幽霊かあ。なるほど」

 

 ひとまず今朝からの流れを話し終えると、彼女は納得したようにうなずいた。

 そして、ベンチの横で体育座りをしている金髪の少女に視線を向ける。

 

「ご、ごめんね? 思いっきり裸見ちゃって……」

「死にたい。死んでしまいたいわ」

 

 ものすごく落ち込んだ声が聞こえてくる。目線も地面に落ちていて、負のオーラのようなものが見えてしまうほどだった。

 

「いや、幽霊だからもう死んで――」

 

 ギロリ。

 

「ごめんなさい野暮なツッコミでした」

 

 恐ろしく憎しみがこもった睨みが飛んできた。怖い。

 しかし、結果として彼女を騙した形になったのは事実だ。全面的に俺が悪い。

 

「呪ってやる呪ってやる呪ってやる……」

 

 本物の幽霊が言うと割とシャレにならない言葉を繰り返す彼女。本気で怖い。

 

「本当、すまなかった」

 

 頭を下げる。誰もいないはずの場所に向けてやると周囲に変な目で見られるかもしれないが、今は隣に佐天さんもいるしごまかしはきくだろう。

 

「……はあ」

 

 しばらく同じ体勢で固まっていると、やがて大きなため息をつかれた。

 

「もういいわ。あなただって、悪気があったわけじゃないんでしょう」

「それはもちろん。神に誓って」

「なら許してあげる。これから一緒にいる以上、怒りっぱなしというわけにもいかないし」

「……ありがとう」

 

 なんとか機嫌を直してもらえたようで、俺はほっと胸をなでおろした。

 

「よかったね、三上くん」

「ああ」

 

 そういえば、結局まだ食材を買えていないんだった。体からの空腹の訴えも激しくなってきてるし、早いところスーパーに行った方がいいかな。

 そんなことを考えていると、公園に女生徒の集団がやって来た。体操服姿でランニングをしているので、部活動の途中だろうか。

 

「ブルマか」

「ウチは短パンだから違うね」

 

 男の目線で言わせてもらうと、やっぱり短パンよりもブルマの方がいい。エロいから。

 でもそれを佐天さん相手に告げてもドン引きされるだけなので、黙っておく。

 

「………」

「ん、どうした?」

 

 いつの間にか、彼女が立ち上がっていた。色の違う両目を大きく開いて、女子の集団をじっと見つめている。

 

「あ……覚えてる」

 

 次の瞬間、彼女は裸ではなくなっていた。

 その身に纏うのは、下がブルマの体操服。

 でも、向こうの女子たちのとは若干色合いが違う。同じ学校のもの、というわけではなさそうだ。

 

「何か思い出したのか!?」

「ええ……でも、昔ブルマを履いたことがあるってことだけ。学校の名前とか、そういうことは思い出せないままだわ」

「そうか……」

 

 ここで一気に記憶が戻る、なんて都合のいい展開はさすがにないか。

 

「でも、服着れてよかったじゃないか」

「そうそう! ブルマ採用してる学校ってこともわかったし!」

 

 俺と佐天さんが笑いかけると、彼女もつられて微笑を浮かべた。

 というか、最初からこの方面で攻めればよかったんだな。流行の服とかじゃなくて、学生なら誰でも着たことありそうなものを探すべきだった。それこそ、体操服とか。

 

「でも、常時ブルマ着用というのもね……何も着ていないよりはずっといいのだけれど」

 

 少し納得のいかない部分もあるようだが、とりあえず一歩前に進んだことには違いない。

 

「これからいろいろ思い出していけばいいんだよ。ね……」

 

 妙なところで口ごもる佐天さん。どうかしたのだろうか。

 

「そういえば、名前はどうなってるの?」

「名前? それも思い出せないみたいだけど」

「それならそれで、仮にでも名前決めてないと呼びにくくない?」

 

 言われてみればその通りだな。

 

「というわけで、名前考えてもいいか?」

「かまわないわ。確かに決めないと面倒でしょうし」

「じゃあ幽霊のユウコでいいか」

「……もうちょっと時間をかけてくれてもいいんじゃないかしら」

 

 頬を膨らませて抗議されてしまった。結構ナイスなネーミングだと思ったんだが。

 

「ならレイコはどうだ」

「明らかに幽霊のレイからとったわよね」

「………」

 

 ちらりと佐天さんに視線を送る。任せたのサインだ。

 

「駄目だよ三上くん。仮にも人の名前を考えるんだから、もっとこう、なんかすごい名前にしなきゃ」

 

 ちっちっと指を振られて駄目だしされた。俺には命名の才能がないらしい。

 

「お、おう。で、そのすごい名前ってどんなのだ」

「うーん……クレオパトラとか?」

「すっげえ名前来たな、おい」

 

 いいのか? これからあいつのことその名前で呼ぶんだぞ? おーいクレオパトラちゃん、とか言うんだぞ?

 

「ユウコでいいわ。仮名なのだし、そう時間をかけて決めるものでもないでしょう」

 

 危険を察知したのか、彼女はさっさと自分の名前を決定してしまっていた。

 

「えー、本当にいいの?」

「いいのよ。由来はともかく、ユウコという名前の響き自体は嫌いじゃないわ」

 

 本人がそう言うなら、俺も賛成するだけだ。

 

「じゃあ……ユウコ。これでいいな」

「よろしくね。ユウコさん」

「ええ、よろしく」

 

 ゆっくりだけど、確かに前に進んでいる。

 そんなことを思いながら、俺は彼女――ユウコの名前を呼んだのだった。

 




というわけでユウコというキャラが本格的に登場した回でした。
彼女の性格とか考え方などは、今後の話の中で徐々に表現していきたいと思っています。

うっかりやの三上くん。1話冒頭で自分で言っていた通り、わりと抜けているタイプです。

佐天さんの出番が多いですが、近いうちに他の原作キャラも登場します。

感想や評価等あれば、気軽に送ってもらえるとうれしいです。特に僕はオリキャラを作品に出したりすることが非常に少ないので、ちゃんと描けてるかとか意見をくださるとありがたいです。
では、次回もよろしくお願いします。
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