「見えちゃう」男の物語   作:キラ

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気の早い話ではありますが、完結は35話~40話くらいを想定しております。大まかなプロットは決まっていますが、実際に書いてみた結果前後する可能性はあります。


つかれてる男

 佐天さんと別れた後、予定通りスーパーへ。

 

「ようやく普通に歩けるようになったわ」

 

 念願の衣服(ブルマだけど)を手に入れたユウコは、落ち着いた様子で周囲の景色を観察している。多分、さっきまでは自分のことでいっぱいいっぱいだったんだろう。

 

「ここがスーパーだ」

「結構大きいのね」

 

 しかし、改めて見ると本当に整った顔立ちをしている。金髪美人なんて生じゃ初めてだ。

 しかもブルマである。すらっと伸びた白い脚がそこはかとなく俺の中のエロスを刺激してくる。

 

「どうしたの? 早く中に入りましょう」

「あ、ああ」

 

 先ほどまで裸だったから直視できなかったぶん、つい見惚れてしまっていた。

 これから一緒に生活するというのに、いやらしい視線を向けられてはユウコとしてもたまったもんじゃないだろう。

 劣情封印。じろじろ見たりしないで、心の中でナイスブルマと叫ぶだけにとどめておこう。

 

「お、キャベツが安い」

 

 店内に入って早々特売品を発見。さて、ここからは頭を切り替えて買い物に専念するぞ。

 

「広いわね……」

「この辺の学生御用達だしな」

 

 時折漏れるユウコのつぶやきに小声で反応しつつ、あちこちコーナーをめぐってカゴに商品を入れていく。食べ物以外にも、洗剤などの日用品も補充しておくつもりだ。まとめて買っておけば後が楽だろうし。

 

「ふう」

 

 一通り必要なものは揃ったかな。カゴも重くなってきたし、そろそろレジに行くか。

 

「あれ」

 

 と、そこでいつの間にかツレがいなくなっていることに気づいた。

 どこに行ったのかと探したところ、小物が並んでいるコーナーで突っ立っているのを発見。

 

「ユウコ、何してるんだ?」

 

 近寄っても気づかないようなので、声をかける。

 

「ほにゃ」

「は?」

 

 謎の言葉を口にされて、思わず間抜けな返事をしてしまった。

 

「あ……ごめんなさい。このストラップに見惚れていて、つい立ち止まってしまっていたわ」

「ストラップ?」

 

 このカエルのやつか? 5種類くらい並んでるけど。

 

「あまりにかわいくてほにゃっとするわね」

「そのほにゃっとってどんな感じなんだよ」

「え?」

 

 家の中で話してた時に聞いた『もにゅっと』もそうだが、いまいち意味が伝わってこない。

 

「ほにゃっとは……ほにゃっとよ」

 

 困った顔で答えるユウコ。どうやら彼女は独特の感性の持ち主らしい。

 

「まあ、とにかくこのカエルがかわいいってことだな?」

「そうね」

「買ってやろうか」

 

 俺がそう言うと、ユウコは驚いたような顔つきになった。

 

「いいの?」

「お近づきのしるしってやつだ」

 

 欲しいものが軒並み安売りだったため、お金に余裕ができた。500円くらいの予定外の出費なら問題ない。

 ついでに言うと、俺は女の子の前だとかっこつけたがりになる時があるのだ。思春期万歳。

 

「……それなら、お言葉に甘えさせてもらおうかしら」

「おう。で、どれが欲しいんだ?」

 

 頬を緩ませ、船長みたいなコスプレをしたカエルのストラップを指さすユウコ。あんまりかわいいとは感じないのだが、男女の感性の差ってやつだろうか。

 そんなことを考えながら、棚に掛かった商品に手を伸ばす。

 

「あっ」

「ん?」

 

 同時に別方向からも手が出てきて、指と指が触れ合った。

 

「ご、ごめんなさい」

「いえ、こちらこそ」

 

 お互い反射的に手を引っ込めて、頭を下げる。

 

「えっと、そちらもこれが欲しいんですよね?」

「あ、はい。そうですけど……」

 

 そう答えるのは、何やら見覚えのあるデザインの制服を着た女の子。

 残念ながらこのストラップはひとつしか残っていないので、どちらかが諦めなければならない。

 

「そっちが先に来てたみたいだし、私はいいです」

 

 譲るようなことを言ってくれるのはありがたいんだが、めっちゃ物欲しそうな視線がカエル船長に注がれていた。ここで俺がこれを持っていったらすごく落ち込みそうだ。

 

「……私はいいわよ。別に他の服を着たゲコ太でもかまわないから」

 

 そんな彼女の気持ちを察したのか、ユウコは別のストラップの前まで移動する。あのカエル、ゲコ太って名前なのか。

 

「あんな顔を見せられると、さすがにかわいそう」

 

 苦笑を浮かべるユウコを見て、俺も引き下がることを決めた。

 

「譲りますよ。俺は他のでいいですから」

「えっ? でも」

「いいからいいから。レディーファーストってやつです」

 

 一歩後退して道をあける。

 

「……本当にいいの?」

「はい」

 

 すると、微妙な表情をしていた彼女の顔がぱあっと輝いた。

 

「ありがとう!」

「ど、どういたしまして」

 

 なんかすごく感謝された。思わずこっちが気圧されてしまうほどだ。

 

「あの……あなたも、ゲコ太好きなの?」

「え? あー……そう、ですね」

 

 俺じゃなくて俺の背後にいる幽霊が好きなんだけど、ややこしいのでうなずいてしまった。

 

「そうなんだ。私の周りにはそういう人いないから、初めて仲間ができたって感じ」

「はあ」

「この船長ゲコ太ストラップは生産数が少ないからレアなのよね。私ずっと探してたのよ」

「へえ、そうなんですか」

「かわいいわよね。ゲコ太」

「そっすね」

 

 本当に好きなのが伝わってくる饒舌っぷりだ。情熱に近いものを感じる。

 

「私、この子とは気が合いそうだわ」

 

 満足げにうなずくユウコ。なんか俺だけアウェーな雰囲気なんだが、気のせいだろうか。

 

「本当、ありがとうね。じゃあ」

「いえいえ」

 

 それから二言三言交わした後、女の子はストラップを持ってレジに駆け込んでいった。

 ……しかし、最近常盤台の生徒と会う機会が多いな。

 

「待たせて悪かったな。それじゃ、改めて別の買うか」

 

 ユウコの方に振り返り、彼女のそばまで移動する。この警官服のゲコ太がいいんだろうか。

 

「ありがとう。侑生」

「え? お、おう」

 

 び、びっくりした。

 

「なに? 私、何か変なこと言ったかしら」

「別に……ただ、いきなり名前で呼ばれたから」

「嫌だった?」

「嫌じゃないけど、驚いた」

 

 女の子に下の名前で呼んでもらうのなんて、いつ以来だろうか。なんだかむずがゆい。

 

「あなただって、私を名前で呼んでいるじゃない。それとも、ユウコって名字のことだったのかしら」

 

 そう言って、ユウコはいたずらっぽく笑った。

 

「確かに、こっちが名前で呼んでるんだからそっちが呼んでもおかしくないか」

「でしょう? だから、侑生で決まりね」

「ああ」

 

 ちょっとドキドキするな。

 

「侑生、買い物はもう終わったの?」

「あ、ああ。あとはレジに行くだけだ」

「そう。なら早く行きましょう。侑生」

「……そうだな」

 

 俺が照れているのを知ってか知らずか、その後ユウコはやたらと俺の名前を口にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

「あぁ~……」

 

 一日の終わりに、疲れた体を風呂で癒す。熱いお湯につかるだけで気持ち良くなるんだから、人間というのは不思議なもんだ。

 あ、でもこうやって湯船につかる時に声出すのはおっさん臭いんだっけか。明日からは自重するとしよう。

 

「記憶喪失、か」

 

 ぼんやりと湯気を眺めながら、今日の出来事を振り返る。

 朝に現れた幽霊……ユウコは、生きていた頃の記憶を一切持っていなかった。今日一日でわかったことは、彼女がブルマを履いたことがあるという事実だけ。正直ほとんど役に立たないと思われる。いや、おかげで裸じゃなくなったのはいいんだけど。

 今までの経験上、幽霊を成仏させるには未練を解消する必要がある。今回は、その前段階としてユウコの記憶を取り戻さなければならないわけだ。

 ……長丁場になるかもしれないな。

 

「ま、いいか」

 

 一日一緒に過ごして、ユウコの性格もなんとなくつかめた。結構落ち着いてるけど、一度取り乱すとその程度が激しい。そんな感じだ。決して悪いやつじゃないから、近くにいるぶんには問題ないだろう。

 

「……あ」

 

 そういえば、今日からは風呂あがりにパンツ一丁でうろうろすることができないな。火照った体を冷ますのにちょうどよかったのに。

 佐城さんがいた時は、男同士だから気にせず上半身裸でもよかったんだが、相手が歳の近いと思われる女の子じゃ絶対無理だ。恥ずかしいし向こうも不快だろう。

 

「女の子の幽霊が来たのも、久しぶりだな」

 

 

 

 

 

 

 風呂から出て居間に戻ると、テレビの音とともに何やら笑い声が聞こえてきた。

 画面上では、そこそこ見覚えのあるコンビ芸人が持ちネタを披露している。ボケとツッコミ、漫才の王道スタイルだ。

 

「ぷっ、くくく……」

 

 で、それを見ているユウコは笑いをこらえきれない様子だった。どうやらツボに入ったらしい。

 

「お笑い、好きなのか」

 

 声をかけるまで俺の存在に気づいていなかったらしく、びくんと体を震わせる。

 

「こほんっ。も、戻っていたのね」

「ついさっきな」

 

 不自然な咳払いをしているが、どうかしたのだろうか。

 

「面白いのか?」

「……別に、普通よ」

「え、だって今笑ってたじゃん」

「気のせいじゃないかしら」

「いやいや爆笑してたろ。ぶわはははは!! って」

「そんな大声出してないわよっ」

 

 どうも笑っていたという事実を認めたくないらしい。まあ、大声出してなかったのは正しいけど。

 

「意地張るなって。漫才見て笑うことの何がおかしいんだ」

「……だって、くだらないネタだったし。なのに思わず吹き出しちゃったし」

 

 恥ずかしそうに下を向くユウコ。妙なところを気にするやつだな。くだらないネタを笑いに昇華するのが芸人だというのに。

 

「そんなこと考えながら見る方がよっぽどくだらないと思うけどな。俺はこのコンビ好きだし」

「……そうかしら」

「向こうだって俺たちを笑わせにきてるんだ。笑ってやって何が悪い」

 

 フローリングに腰を下ろし、俺もテレビ画面に注目する。毎日見てると飽きるだろうけど、たまに見るお笑い番組は面白いもんだ。

 

「ははは、今どきそのオチはないだろ」

 

 しばらくひとりで笑っていると、やがて隣からも笑い声が漏れ始めた。

 

「そうね。私、変なこと言ったわ」

 

 それから30分ほど、番組が終わるまでふたりで笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 日曜日はテレビ見たり溜まった宿題片付けたりで、あまりユウコのために時間を割くことができなかった。ニュースとかを見て、彼女の記憶が刺激されたりなんてことはなく、特に成果もあがらなかった。

 そして迎えた月曜日。授業はいつも通り眠気との戦いで、休み時間は友達とおしゃべりしたり遊んだり。毎日毎日ほとんど同じことの繰り返しだ。楽しいからいいんだけどな。

 さて、その授業の中で、俺はある発見をした。

 

「もしかして、ユウコは学園都市の人間だったのかもな」

「あら、どうして?」

 

 放課後の帰り道、その発見の内容を話してみた。

 

「今日の授業、俺と一緒に聞いてたろ?」

「ええ。他にやることもなかったし」

「内容わかったか?」

「だいたいはね。やっぱり知識はきちんと残っているということかしら」

 

 そう。授業中の様子を見ていてもわかったのだが、ユウコは先生の言うことをしっかり理解できていた。数学も、英語も、そして。

 

「能力開発について、外の人にしては詳しすぎると思ったんだ」

「そうなの? 自分のことだから、よくわからないけれど」

「多分な」

 

 『自分だけの現実(パーソナル・リアリティ)』や『AIM拡散力場』などの専門用語も、彼女は普通に知っている様子だった。

 俺の推測が正しければ、ユウコは能力開発の授業を以前に受けたことがあるはずだ。

 もちろん、そうじゃない可能性も普通にある。たとえば、彼女には学園都市内に友達がいて、その人から詳しい話を聞いていた、なんてこともありえる。

 

「もしここの人間だとしたら、やることも決まってくるんだけどな」

「どうするの? まさか、街中の学校めぐるなんて言わないわよね」

「………」

「……もしかして、やるつもりだったのかしら」

 

 いや、だって前回も同じようなことやったし。ユウコの外見は目立つだろうから、その情報をもとにいろんなところで聞いていけば学校くらいはわかるんじゃないか、と考えたわけだが。

 

「私の学年もわからないのよ? 小学生や大学生ってことはないだろうけれど、それでも中学高校だけでこの街には相当な数があるんじゃないかしら」

「むう」

「それに、まだ私が本当に学園都市の人間と決まったわけでもない。街中探し回って、それがまったくの徒労に終わる可能性だって十分ありえるのよ」

 

 確かに正論だ。というか、前も結局、麗華さんを見つけられたのはちょいと特殊な事情があったからだしなあ。

 

「あなたにも、あなたのしたいことがあるでしょう。私のために時間をかけすぎるようなことは、してほしくないわ」

「……わかったよ」

 

 俺を気遣うような視線を向けられてしまっては、素直にに折れざるをえない。

 もうちょっと効率のいい案が浮かぶまで、本格的に動くのはやめておこう。

 そう判断して、真っ直ぐ家に帰ろうと足を踏み出した瞬間だった。

 

「あ……」

「どうかしたの……あ」

 

 急に立ち止まった俺を不審に思ったユウコも、その存在に気づいたようだ。

 俺の視線の先。行き交う人の流れを無視して、歩道の端にたたずむ白髪の男性。

 確かに、俺はその人の姿をとらえることができる。

 でも、雰囲気でわかる。あれは幽霊だ。

 

「どうも最近、初めてのケースが多いな」

 

 すでに幽霊がいる状態で、新しい幽霊が現れたことなんて今までにはなかった。悪い意味で、能力が強くなってしまっているのだろうか。

 

「あの人も、私と同じ?」

「ああ。一応、幽霊同士ならちゃんと見えるみたいだな」

 

 新たな発見とともに、俺はその白髪の男の人のもとへ歩いていく。さて、お年寄りには優しく接するのがマナーだ。

 

「あの、すみません」

 

 老人の前に立ち、声をかける。

 

「……きゅう」

「はい?」

 

 何か言っているが、声が小さくて聞き取れない。なぜかぷるぷる震えているのだが……

 

「……野球」

「野球?」

「野球を見せんかああああああっ!!」

 

 うおおあっ!?

 

 びっくりして、思わず叫んでしまいそうになるのをぐっとこらえた。

 

「もう一度、せめてもう一度、くたばる前に球場に行くんじゃあああ!!」

 

 カッと目を開いてわめきだす男性。しわの数と元気の度合いがまったく釣り合っていない。

 これはまた、ずいぶんと情熱的な幽霊と出会ったもんだ……。

 




オリキャラの特徴をうまく描写するのって本当に難しいですね。なんとか改善していきたいところです。
今回、名前は出ませんでしたが原作キャラが新たに登場しました。もちろん、また出番はあります。タグにものせてますし。

たくさんの方にお気に入り登録していただいて感謝の限りです。禁書の二次はこのサイトでは初めてなので不安だったのですが、ちょっと胸をなでおろしています。

感想や評価等あれば、気軽に送ってもらえるとうれしいです。
では、次回もよろしくお願いします。、
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