目指すは地球の最強種   作:ジェム足りない

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十一話 おねだり

「ダメです」

「そこを何とかして欲しいなって。わたしにできることなら何でもするから……」

「いくら緋乃ちゃんの頼みでもダメです」

「まあしゃーない。大会は来年もあるんだし、諦めなよ緋乃」

 

 緋乃たちの通う勝陽西中学校の昼休みの時間。誰にも話を聞かれないようにとこっそり潜り込んだ屋上にて話し合ういつもの三人。

 今度開催される格闘大会に出たいんだけどなんとかならないかという緋乃のお願いに対し、なんともならないとばっさり両断する理奈。

 普段のおふざけの入った喋り方ではなく、真顔でキッパリと言い切るその姿勢から本当に無理だということを感じ取った明乃が緋乃を宥めるも、緋乃は納得がいかない様子だ。

 

「緋乃ちゃんは理解してないみたいだからもう一度言うよ? 緋乃ちゃんは精神操作に対してほんっとうに弱いの。普通ならあるはずの抵抗力というか、そういうのが皆無なの。びっくりするほど簡単に精神を操られちゃうの。なりたてのへっぽこ魔法使いでも、簡単に緋乃ちゃんをいいなりのお人形さんにできるの」

「でも、それを補うアミュレットくれたし……」

「うーん、どう説明したものかなあ。あれはこの街に留まるなら有効だけど、ここから出ちゃうと効果は一気に弱まるの。詳しい説明は省くけど、そういうものだと思って。だから町内格闘大会とかそういうのならともかく、隣の県まで出かけるのは絶対にダメ」

「え、ちょっと待って……。この街から出たら効果を失うってことは、じゃあわたしは一生この街から出れない……?」

 

 理奈の説明を受け、ショックを受けたように一歩後ずさる緋乃。その表情は不安に満ちており、それを見て理奈も自身がヒートアップしすぎて言い過ぎたことを悟る。

 

「いや、それはないっしょ。魔法使いにもルールがあるって理奈も言ってたし、今はそのルールを守らない悪い奴がうろついてるから警戒しましょうって話でしょ?」

「そう、それ! 明乃ちゃんいいこと言う! 魔法は便利だし、その気になればいくらでも悪用できる力なんだけど、だからこそ気軽に使っちゃいけない決まりになってるの。また魔女狩りとか始まったらみーんな困るしね!」

 

 明乃から飛んできた援護射撃に対し、感謝の意を示しつつ全力で乗っかる理奈。

 手をぶんぶんと振り回しながらアピールをする理奈を見て、緋乃は少しだけ考え込んだ後に口を開いた。

 

「つまり、その犯人が捕まればわたしは自由ってことであってる?」

「そういうコトだよ、緋乃ちゃん。だから本当に悪いんだけど、もう少しだけ大人しくしてて! お願い!」

「そういうことなら、まあ……。なんだ、この街から出てもいいんだ……よかった……」

 

 ほうと安堵の息を吐き、理奈の提案を受け入れた緋乃。

 それを見てやれやれと息を吐きながら安心した様子を見せる理奈だったが、予想外の方向から爆弾を投下されて焦ることになる。

 

「あれ? そういえば犬飼って奴らがが犯人確定とかちょっと前に理奈言ってなかったっけ? 結局アレどうなったの?」

「ぎくぅ!」

「え、犯人見つかってるの? 理奈、どういうこと?」

「え、えーっと、それはですねぇ……」

 

 明乃と緋乃に詰め寄られ、明後日の方向を眺めてしどろもどろになりながら冷や汗を流す理奈。

 その反応を見て理奈が何かを隠しているということを確信した明乃と緋乃の二人は顔を見合わせると、壁際に理奈を追いやり、囲うように壁に手を押し付けた。俗に言う壁ドンである。

 

「おらぁ、知ってること全部キリキリ吐かんかい! ネタは割れてるんじゃ……!」

「無駄な抵抗はやめて我々に投降せよ……。大人しく降伏するというのなら悪いようにはしない……」

 

 ノリノリで刑事の真似事をする明乃と、降伏を迫る緋乃。二人ともネタっぽく振舞ってはいるものの、目は笑っていない。理奈から真実を聞き出すまで開放してはくれないだろう。

 理奈は一縷の望みをかけて時計を見降ろして残り時間を確認するも、昼休みが終わるにはまだまだ時間があった。

 

 

 

 

 

 

「ふーん。魔法を悪用して裏で悪いことやりまくってる一族ねえ」

「はい……。今、そいつらを一網打尽するためにお父さんとお母さんが仲間を集めて頑張ってるんです……」

「なんか思ったより大事になってる……?」

「そうなのぉ、めっちゃ大事なのぉ。だから足引っ張ると不味いのぉ……。てなわけでしばらく大人しくしてて欲しいなって。テヘ☆」

 

 理奈から本当の現状について聞いた明乃と緋乃は顔を見合わせ、同時にため息を吐いた。

 洗脳や思考誘導による直接操作から、盗聴や盗撮などによる弱みを握っての間接操作。魔法をこれでもかと悪用して裏から資産家やら政治家やらを操り、甘い蜜をすする悪人たち。

 中学生でしかない自分たちの手に負える領域をはるかに超えており、理奈の両親やその協力者に任せるしかない現状。

 ……と普通の少女なら考えるのであろうが、生憎と明乃も緋乃も、意志力やら戦闘能力やらいろいろな面で普通じゃない少女たちであった。

 

「なるほどねえ……。で、理奈。あたしたちに手伝えるのってどんな感じ?」

「暴力ならまかせろー」

「こいつら何も理解してなーい!? いやお願いだから大人しくしててよぉ!」

 

 それでも何かできることがあるはずだと首を突っ込もうとする明乃と緋乃の二人を見て、思わず叫んで突っ込みを入れてしまう理奈。

 そんな理奈の反応を見た明乃と緋乃は互いに顔を見合わせ、数秒ほどその目線を交わらせる。お互いに目の前の親友が本気であることを確認したのだ。

 

「でもまあ、あたし達も当事者だし。それに自分たちで言うのもなんだけどあたしと緋乃ってかなり強い方だと思うしね?」

「ん、わたし強い。あの犬人間くらいならフルボッコ。がおー」

「いやまあ二人が強いのは知ってるし……。確かに緋乃ちゃんは実績もあるけど……。でも……」

 

 自分たちの戦闘力をアピールすることで関わろうとする二人を見て、理奈が頭を抱える。

 戦力として二人をアテにしたい気持ちと、親友を危ない目に合わせたくないという気持ち。理奈の中で二つの意識が拮抗しているのだろう。

 明乃は葛藤する理奈の肩をポンポンと叩くと助け舟を出した。

 

「話を聞くに、理奈のお父さんとお母さんが悪者潰し連合のリーダーやってるんでしょ? なら、あたしと緋乃で手伝えることないか聞いてみる」

 

「うっ……。それは……」

「いいね。怯えて待ってるなんて、わたしのキャラじゃない」

「……」

「……」

 

 不敵な笑みを浮かべて強がる緋乃であったが、即座に同意してくれると思った親友二人からはそれを得られず、あれ? と小さく首をかしげる。

 理奈はそんな緋乃を見つめてため息を吐くと、諦めたような表情を浮かべながら口を開いた。

 

「あのね。お父さんたちが言ってたけど、最近はなにやらその悪い魔法使い一族が集まってなんか企んでるんだって。緋乃ちゃんが参加しようとしてた大会も関わってる企業が胡散臭いわ、やけに賞金高いわ、緋乃ちゃんに合わせてピンポイントで年齢制限引き下げるわでめっちゃ怪しいから、絶対に参加させるなって口煩く言われてて……」

「……もしかしてわたし、まだ狙われてる系?」

「たぶんね。だから昨日の二人が特訓してる間も私、ずーっと緋乃ちゃんのそばに張り付いてたんだよ? 魔法で隠れてたからわかんなかっただろうけど」

 

 理奈の告白を聞いて、理奈にも昨日の失敗やらバテている姿を見られていたことを知り、その恥ずかしさから少し頬を赤らめる緋乃。そして、そんな緋乃を悪戯めいた笑みを浮かべながら見やる理奈。

 

「あーあ、全部教えちゃった。これは怒られちゃうかも。でもスッキリ……! やっぱ隠し事は心に良くないねー」

 

 やれやれと伸びをして晴れやかな表情を浮かべる理奈に対し、目を閉じて唸りながら理奈からもたらされた情報を整理する緋乃。

 理奈は何かを言おうとして直前でやめることを繰り返し、あー、うーんと言葉にならない声を出す緋乃に微笑みかけながら口を開く。

 

「黙っててゴメンね。でも二人を巻き込みたくなかったの。緋乃ちゃんが実はまだ狙われてまーすなんて知ったら、二人とも、もう意地でも首を挟もうとするでしょ?」

「そうね、理奈には悪いけど意地でも関わらせてもらうわ……。自分たちの平和は、自分たちでつかみ取るのよ!」

「おー」

 

 ガッツポーズをして気合を入れる明乃に合わせて緋乃も拳を突き上げ、その意見に賛同を示す。

 理奈はそんな二人を見て、仕方ないなあといった様子で肩をすくめると、軽くため息を吐くのであった。

 

 

「で、あたし達も手伝うとしてなにすればいいの? 探偵みたいに調査する人の護衛とか? あ、緋乃はお留守番ね」

「えっ」

「『えっ』じゃないわよ。理奈の話もう忘れたの? 緋乃は精神操作への耐性がガバガバなんだから、この街から出すわけに行かないって言ってたじゃない」

 

 明乃の話を聞き、理奈から言われた自身の弱点について思い出した緋乃。縋るような眼差しを理奈に向ける緋乃であったが、帰ってくるのは苦笑だった。

 

「絶望した。欝だ死のう」

「あ、それならうちのメイドさんになってよ勿体ない。とびっきりのメイド服用意しちゃうから」

「メイド緋乃か、いいわねー。メイド服はミニスカ? ロング?」

「うーん。ミニスカパンチラメイド緋乃ちゃんってのにはすごく惹かれるものがあるんだけど、やはりここは基礎中の基礎であるクラシカルメイド服を……。いやでも小柄な体系と綺麗な黒髪を活かした和風メイドも捨てがたいよね……」

「この子って意外とえぐい下着大量に持ってるし、個人的にはそっち活かせるミニを推したいわね。和風ミニってのはどう?」

「えっ、ちょっ。えっ? 何故それを……」

「えー嘘っ、緋乃ちゃんって意外と大胆なんだね!」

「いけない、わたしの尊厳とかなんか色々が完全に無視されてる……。訴えなきゃ……」

 

 一瞬で話が横道にそれた挙句、誰にも知られていないと思っていた自身の秘密を暴露され、顔を赤くする緋乃。

 その後もしばらくの間明乃と理奈による緋乃メイド着せ替え談議は続き、緋乃がやっとの思いで話題を元の路線に戻した瞬間。

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

 無慈悲に鳴り響くは昼休憩の終了を告げるチャイム。三人は無言のまま顔を見合わせると、仲良く揃ってスマホを取り出して時刻を確認する。

 スマホのディスプレイに表示されている時刻は13:20。昼休憩が終了し、5時間目が始まる時刻だ。

 

「ねえ理奈、これ魔法で何とかならない?」

「無理。流石に無理。急いで走るしかない……!」

「お先」

「あ、コラ! 一人だけズルい、待ちなさい緋乃!」

「かしこい! それいただき!」

 

 明乃と理奈が話し合っている隙に、一人屋上から飛び降りて大幅なショートカットを図る緋乃。そして緋乃に少し遅れて飛び降りる明乃と理奈。

 降下の際の風圧でスカートが完全にめくれ上がり、その中身が完全にさらけ出されるが、今は既に授業中。幸か不幸か目撃される心配はない。

 地上へ降り立った三人はそのまま自分の教室へ向かい、素早く駆け出すのであった。

 

 

「セーフ! ギリギリ!」

「アウトに決まってんだろ赤神ィ! あと後ろでコソコソしてる不知火! おめーも見えとるからな! もう授業始まっとるぞ、はよ座らんかい!」


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