目指すは地球の最強種   作:ジェム足りない

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十二話 作戦会議

「理奈のせいで怒られてしまった……」

「ホントよね、理奈のせいで……」

「え、なんで私!? 私も怒られたのに!」

「理奈が魔法でサクっと学校中の人間を昏睡させれば有耶無耶に……」

「天使のような笑顔でゲスいこと言うのやめよう緋乃ちゃん」

 

 放課後。緋乃、明乃、理奈の三人は制服のまま学校近くの公園のベンチで駄弁っていた。

 普段ならば見目麗しい美少女が三人集まってるということで多少は注目を集めてしまう状況だが、現在は理奈が余計な人目を集めないように魔法で意識を逸らしてくれている。

 そのため、人が時折通りかかる状況であっても堂々と魔法に関わる会議が出来るという寸法だ。

 

「理奈、わたしはあれから、授業中の間ずっと考えていたんだけど」

「授業はちゃんと受けないと駄目だよ緋乃ちゃん」

「……理奈、わたしはずっと考えていたんだけど」

「うんうん」

「わたしの精神操作に対する抵抗力がゼロで、単独で動くとすぐ無力化されるのが問題なんでしょ? なら、洗脳解除できる人とかと一緒に行動すればいいんじゃないかなって」

「なるほど、他の魔法使いの人を後衛に据えて、緋乃が前衛として動くってことね」

「そう。明乃が言った感じ。ゲームでいうバッファーみたいな、単独では戦闘能力の低い人と組めばわたしでも役に立てると思うんだけど……。どう?」

「う゛~ん……」

 

 緋乃の提案を聞いた理奈は腕組みをし、眉間に皺を刻んだ難しそうな表情をしながら深く考える。

 そんな理奈の様子を見守る緋乃は自身の提案に自信があるのか、少々得意気な表情だ。

 それを視界の端で捕らえた理奈は、このすぐ調子に乗る可愛らしい親友を、なんとかしてこの件から遠ざけるべく知恵を絞る。

 

(……緋乃ちゃんを巻き込むのは断固反対。でもこの調子じゃあの手この手で絶対関わろうとしてくるし、実際に世界クラスの実力者である緋乃ちゃんからの協力要請はありがたいはずだから、このままじゃ連合の戦力として組み込まれちゃう)

 

「理奈?」

 

(……緋乃ちゃんママ経由で大人しくしてもらうよう頼む? いや駄目だ、あの人は緋乃ちゃんに駄々甘だから、緋乃ちゃんがキリっとした顔で決意表明とかしたら一瞬で流される)

 

「理奈? 聞いてる?」

 

(いや待て、そもそも緋乃ちゃんは駄目と言われたから大人しく待ちますってタマじゃないよね。勝手に動いたり、こっちの作戦に割り込んで、そのままなし崩しで戦力として活躍する機会を狙ってくるはず。だったらせめて、お母さんに頼んで市内の見回りとか安全な場所に回してもらう方がいいかな? そうだ、私の補佐としてつけてもらうのもアリだよね。それならずっと一緒で安心だし、なんならどさくさに紛れてうれし恥ずかしあんなことやこんなことをするチャンスも……)

 

「なんかキモい顔してる。ムカつく。先生、明乃先生。お祓いお願いします」

「あいや任せられい。悪霊退散、煩悩退散。チェストー!」

「ごはぁ!」

 

 途中から妄想を垂れ流し、ぐへへと気持ち悪い笑みを浮かべていた理奈に明乃のボディーブローが突き刺さる。妄想界へと旅立っていた理奈の魂を現世へと呼び戻す。

 呼び戻すことに成功したのはいいものの、勢い余ってそのまま黄泉の国へと飛び出そうとしているのもご愛敬だ。

 

「あ、明乃ちゃん。何するのさ……」

「いやあ、可愛い可愛いお姫様がぷりぷりお怒りでねー。あとあたしもそろそろ帰りたいしー」

「いつまでも考えこんで戻ってこない理奈がわるい」

「だ、だからといって……ガクリ」

 

 頭の後ろで腕を組み、呆れたような表情を浮かべる明乃と、ツーンと拗ねた表情を理奈に向けた後にプイと顔を背ける緋乃。

 理奈はとりあえずのお約束として気絶した風の演技を一度行うと、すぐさま上半身を引き起こして真面目な顔に戻る。

 真面目な様子に戻った理奈を見て、緋乃もその顔に不満を浮かべつつも渋々といった様子で向き直った。

 

「えーっとね。とりあえず緋乃ちゃんの件についてはお父さんとお母さんに聞いてみる。だから二人も本当に関わるつもりなら、親御さんに全部に話していいから、許可とか貰ってきてよ」

 

 理奈の言葉に対し、明乃は神妙な顔を浮かべながら頷き、緋乃は嬉しそうな顔を浮かべながら頷いた。

 そんな二人の様子を見て、理奈は心の中で大きなため息を吐きながら愚痴をこぼす。

 

(これで許可が下りなければいいんだけど、というか普通は許可なんて出さないんだけど、まあ二人ともなんだかんだで説得して許可貰ってきちゃうんだろうなぁ……)

 

 この後、理奈の予感は的中。二日後の夜には理奈の元へ、無事に両親の説得を終えたと明乃と緋乃からの連絡があった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 一週間の授業を終え、解放された学生たちが街ではしゃぎ回る土曜日の午後一時。緋乃、明乃、理奈の三人は緋乃の部屋に集合して作戦会議を行っていた。

 部屋の主たる緋乃は自分のベッドに、明乃は緋乃の学習用の机から拝借した椅子を反転させ、組んだ腕を背もたれに置きながら、理奈は来客用に用意されているテーブルの前に行儀よくと、それぞれ思い思いの体勢で座っている。

 

「え、わたし、大会に出ていいの?」

「それほんとに大丈夫? なんかあれだけ駄目だ駄目だって言ってたのに……」

「うん……。私も本当は大反対なんだけどね」

 

 作戦会議を始めた直後。理奈から緋乃に対し、来月に行われる格闘大会へ参加して欲しいという要望の声が上がる。

 それを聞いて訝しむ緋乃と明乃の二人。当然だ、つい先日はあれだけ理奈に参加してはいけないと口を酸っぱくして怒られたのに、今度は逆に参加しろと言われたのだ。

 二人が不審に思うのも無理はないと思った理奈は、その要望が上がるに至った経緯を話すべく口を開いた。

 

「えっとね。みんながいろいろと調べた結果、犬飼、鼠野、蛇沢、鷹野。少なくともこの四つの家が手を組んでいる事。そこまではわかったんだけど、こっちがいろいろと嗅ぎ回っているのがバレちゃったらしくてね。そこから先の情報が全く入ってこなくなっちゃったんだ」

「で、そいつらが関わってるらしい怪しい大会に緋乃を参加させて、動きを見ようってワケ?」

 

 理奈の言葉を受け、明乃がじろりと不機嫌そうな眼差しを理奈に向けた。明乃は緋乃に対し非常に甘いため、罠だとわかっている場所へ緋乃を差し向ける采配が気に食わないのだろう。

 そんな明乃に対し理奈は両手を上げてひらひらさせ、降参アピールを行いつつ話の続きを口にする。

 

「う、うん。そうなの。その四つの家が大会の背後にいるってのはわかったんだけど、なんでそんな格闘大会を開催したのかが不明なんだよね」

「普通にお金儲けがしたくて起こした大会とかの可能性はないの?」

 

 できれば汚い裏事情などない、真っ当な大会であって欲しいという願いを込めて緋乃が口を開くが、現実はそう甘くはなかった。

 

「いや、それならこそこそ隠れる必要はないからねー。何か隠れないといけない理由があるはずなの。で、その理由で真っ先に思いつくのが……」

「魔法関連ってわけね」

 

 理奈の言葉を引き継ぎ、真剣な表情をした明乃がその答えを言い当てる。明乃の答えを聞いた理奈は頷き、その答えが正解であることを示す。

 

「そう。さっき上げた四つの家は、魔法使いの中じゃ有名だから。……悪い意味でね」

「悪い?」

「うん、裏で色々と悪い事をやってるんだけど、肝心な証拠がないから手を出せない。あと魔法使いとしての技量も高いから下手に手を出せない。だから怖がられてるし、嫌われてる厄介者」

「要は魔法使い版のヤ〇ザね」

「うん、そんな感じ。マジカルヤ〇ザ」

 

 理奈は明乃の補足に対し軽く微笑み、コミカルな口調で返すことで硬くなってきていた雰囲気を解しにかかる。

 その気遣いに気付いているのか気付いてないのかは不明だが、理奈の言葉を受けて明乃と緋乃がふふっと小さく笑う。

 

「魔法使いであることを隠し、わざわざ高い賞金を用意してまで格闘大会を開く。このことから考えられる奴らの目的は、強くて若い格闘家」

「でもこの大会ってテレビでも大規模に放映されるみたいだし、優勝者にちょっかいだしたら大きなニュースになっちゃうんじゃないの?」

「そうなんだよねぇ~。若くて強い人間を求める理由と言えば、儀式の生贄とかが定番なんだけど……。その為に格闘大会なんて開くかなーって」

 

 明乃の突っ込みを受け、理奈がため息を吐きつつ、ぐでーっとテーブルの上に倒れ込む。

 緋乃は話についていけないのか、ベッドに腰掛けたまま、話し合う二人の様子をぼーっと眺めていた。

 

「よくわからないけど、とりあえずわたしは大会に出て優勝すればいいんだよね?」

 

 理奈と明乃の話が途切れたとみるや、今まで黙っていた緋乃が会話へと割り込む。

 表情こそ無表情を装ってはいるもののその目は輝いており、大会へ参加できることへの期待感でわくわくしている様子が見て取れる。

 

「うん、そういうことになっちゃった。でもまあ魔法関連の小細工に関しては安心していいよ! 私が緋乃ちゃんのすぐ側でサポートすることになったから!」

「え、理奈が? ホントに大丈夫?」

「明乃ちゃんひっどーい。私、こう見えても超優秀なんだから。神童とか歴代最優とか言われちゃうくらい凄いんだからね!」

 

 明乃からの懐疑的な声と視線を受け、ぷんぷんと怒る理奈。

 明乃と緋乃の二人は魔法使いとしての理奈をこれまで知らなかったので無理はないが、事実、理奈の魔法使いとしての腕前は非常に高い。

 本人の資質が後衛よりであるため近接戦闘こそ苦手ではあるものの、攻撃に補助に回復と、使える術は幅広い上にその練度も高く、間違いなく一流の魔法使いなのだq

 

「というわけでハイ、緋乃ちゃん」

「……指輪?」

 

 緋乃が理奈から差し出してきた小さな箱を受け取り、その中身を確認してみると、銀色に光輝く指輪が入っていた。これといった装飾の無い、シンプルなストレートタイプの指輪だ。

 箱から指輪を取り出し、顔の前に持ってきてまじまじと観察している緋乃に、理奈が指輪についての説明をする。

 

「なんて説明するかな、その指輪は緋乃ちゃんの状態を私に教えてくれてね、あと私の魔法の受信アンテナとしても機能するの。つまり、緋乃ちゃんが洗脳されたりしたら私が即座にそれを察知して、遠隔で補助魔法を飛ばして洗脳解除! みたいなことができるようになるわけね」

「おー、便利」

「なるほど。理奈が手動で魔法を飛ばす必要はあるけど、逆に理奈の手が空いてさえいれば状態異常の解除やら、バフをかけたり回復させたりとあれこれできるってわけね。……最初からそれ渡しといてもよかったんじゃない?」

 

 理奈から指輪の解説を受け、感心した声を上げる緋乃と明乃。

 二人からの賞賛を受けた理奈は照れ臭そうに頬をかきながら、何故緋乃にこの指輪をさっさと渡しておかなかったのかを語る。

 

「いやー、そういうわけにもいかないんだよね。その指輪、洗脳解除ができるってことはその逆も出来ちゃうと言いますか……。なんかこう、倫理的に不味いかなーって……。だから緋乃ちゃんも、無理して着けなくていいからね? 危なさそうな時だけ着けてくれればいいから」

「ふーん、魔法使い的な感性ってやつ? ああ、いやでもまあ確かに、冷静に考えてみたら遠隔操作でいつでも洗脳できますってのは怖い気がしないでもないわね」

「へー。でも、わたしは気にしないから大丈夫だよ。頼りにしてるね?」

 

 理奈の説明に納得した様子を示す明乃と、興味が無さそうに気の抜けた返事をする緋乃。

 しばらくの間興味深そうに指輪をくるくる回して観察していた緋乃だったが、満足したのか観察をやめると左手の小指に指輪を着けた。

 しかし、サイズが合わなかったのだろう。軽く首を傾げた緋乃は何度か手を握っては開くという動作を繰り返すと、小指から指輪を外して、人差し指へと着け変える。

 今度は丁度良いサイズだったのか、緋乃は指輪を着けたその手を理奈へ見せながら薄く微笑んだ。

 

「う、うん。私に任せて! 緋乃ちゃんは私が守るから!」

 

 緋乃に向かい守護宣言をする理奈と、そんな二人を笑みを浮かべながら見守る明乃。

 その後、緋乃は明乃と理奈の目の前でパソコンから大会へ参加申請を行う。

 無事に申請が完了すると、三人は右手を重ね合わせ、頑張るぞと声を合わせて気合を入れるのであった。


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