目指すは地球の最強種   作:ジェム足りない

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十四話 予選Bブロック第一試合

「シィッ!」

 

 ゴングが鳴ると同時に、全身に気を纏った一也が動く。緋乃に向かい素早く踏み込んで距離を詰めると、その顔面へ向けて高速の縦拳を放つ。

 試合前の邂逅時の宣言通り、手を抜いた一撃なのだろう。まだまだ余裕を残していることが伺える、温い一撃だった。

 

「……!」

 

 当然のごとく、そんな手抜きの拳など緋乃には通じない。軽く顔を動かすことで危なげなく回避。同時に右脚へ気を込め、強烈なミドルキックを一也へ目掛け放ち──直撃。緋乃の脚に、骨の軋む感覚が伝わってくる。

 

「ぐぁっ……! はあっ!」

 

 ダウンこそ避けたもの、の後ろに吹き飛び苦悶の声を上げる一也。そして、それを片脚を上げた態勢で無表情で眺める緋乃。

 

『おおーっと! 緋乃選手! 一也選手の素早い拳を回避し、カウンターの蹴り! 緋乃選手、見た目に反してパワータイプのようだ! マトモに食らった一也選手、苦しそう!』

 

「おおおおぉぉ、いきなりかよ!」

「頑張って一也くーん!」

「嬢ちゃんいいぞー!」

「イェー! 流石緋乃ちゃん! ぶっちぎりー!」

 

 試合開始直後のクリーンヒット。それを見て解説の声が響き渡り、遅れて観客から歓声や悲鳴が上がる。緋乃を褒め称える声、一也を心配する声。歓声の内容は様々だ。

 

「ぐぅっ、やるじゃないか。可愛い見た目に反してなかなか狂暴だね……。なら!」

「無駄口」

 

 緋乃の蹴りの威力が予想以上だったのだろう。一也の表情から緋乃に対する侮りの色が消えた。それを見て少し機嫌をよくする緋乃。

 一也は体勢を立て直すと再び半身の構えを取り、緋乃へと牽制の拳を連続で繰り出した。

 

「せああぁぁっ!」

(拳から躊躇いを感じる。まさか、この期に及んで躊躇うなんて)

 

 一也は隙の少ない速度重視の拳で緋乃を牽制し、その回避や防御の隙を見つけては蹴り技を挟み込む。しかし、緋乃はそれらすべてを防ぎ、かわし、受け流す。

 

『一也選手、攻める攻める! 猛攻だぁー! しかし緋乃選手も負けていない! 一也選手の猛攻を上手く受け流しております!』

 

 だが、しかし。緋乃という少女は、そのような躊躇いを含んだ腑抜けた技で倒せるほど甘くはない。一瞬でも気を抜けば、容赦なく喉笛に牙を突き立ててくる猛獣だ。

 そして今、その猛獣が一也へと牙を剥こうとしていた。

 

「いくよ」

「しまッ……!」

 

 試合開始直後にカウンターの蹴りを叩き込んでから、ひたすら防御に徹していた緋乃が逆襲を開始する。

 パンチを放った一也の腕が伸び切る瞬間を狙い、左腕を用いてその拳を外側へ強く弾き飛ばすと──すかさず踏み込んで、先ほど蹴りを叩き込んだ部位へと気を纏った拳を叩き込む。

 

「か……は……っ!」

 

 先ほどの蹴りで既にダメージを負っていた部位への追加攻撃。目を見開き、肺の中の息を全て吐きだして苦しむ一也。

 拳から一也の骨がボキボキと折れる感触を感じ取った緋乃は、与えたダメージの大きさに口元を歪める。

 

(まだまだ……!)

 

 緋乃の攻撃は終わらない。短いバックステップで素早く距離を整えると、今度は左脚へ気を集中。よろめく一也の頭部へ向けて、強烈なハイキックを叩き込む。

 

「せいっ!」

「があああぁっ!?」

 

 悲鳴を上げ、吹き飛んでその勢いのままリング上を転がっていく一也。それを見て、静まり返る観客と実況。

 うつ伏せに倒れたままピクリとも動かない一也の姿に、観客たちがざわめきだす。

 

「決まったな……。あんなん貰ったらもう起き上がれねえだろ」

「ていうかあれ死んだんじゃね? なんか倒れ方ヤバくね?」

「か、一也くん……」

 

『…………はっ! ダウーン! ダウンダウンダウーン! これは決まったか!? これは決まったかー!? 緋乃選手の強烈な蹴りが頭に決まってしまったァー!』

 

「カウント1!」

 

 ざわめく観客の声を受け、我を取り戻した実況が高らかに叫びを上げ、レフェリーがカウントを開始する。このまま10カウントが経過すれば緋乃のKO勝ちだ。

 

「2! 3!」

「う……ぐ……」

 

「おい動いたぞ! 生きてるぜ!」

「さっさと起きろー! 負けちまうぞバカヤロー!」

 

 カウントが開始されてすぐ、一也が意識を取り戻したのか身じろぎをする。それを見て歓声を上げる観客たち。

 はじめはぼーっとした様子だった一也だが、観客たちの大声を受けてすぐにその意識をはっきりさせると立ち上がるために動き出す。

 

「ま、まだだ……。まだ、やれる……」

「いいぞー! 立てぇー! あの生意気なガキをぶっ飛ばせぇ!」

(馬鹿だね……。起き上がったところで、わたしに勝てるわけないのに)

 

 意識を取り戻した一也が起き上がろうともがくが、受けたダメージが大きすぎるためになかなか立ち上がることが出来ない。

 一方、何とか立ち上がって戦闘を続行しようともがく一也に対し、冷たい視線を送る緋乃。

 

(確かに、意識を取り戻したのは予想外。でも、それだけダメージの蓄積した肉体ではもうまともに動けない。わたしの勝ち)

「ぐ……お……おおっ……!」

 

 一也がもがいているその間にも、無情にカウントは進んでいく。

 

「7!」

「ぐっ……。ちく……しょ……」

 

 10カウントにはどうあがいても間に合わないことを悟ったのだろう。一也は立ち上がろうとするのを諦め、どすんと尻もちをついた体制で座り込む。

 一也はそのまま頭を下げ、大きく深呼吸を繰り返し続けた。

 

「10!」

 

 試合終了のゴングが鳴り、実況の男が大きく叫ぶ。観客たちからこれまで以上の歓声や悲鳴が上がる。

 

『試合終了ーッ! 勝者、不知火緋乃選手ー!』

 

「うあああー! すっげえ、マジかよ! マジかよ!」

「うおおおおー! 緋乃ちゃんサイコー! ファンになりましたー!」

「すっげー! あんなちっこい娘が一也を倒しやがった!」

「情けねえぞー! 何そんなチビ助に負けてやがるー!」

 

 興奮冷めやらぬ観客たちの声を背に、座り込んだまま動けない一也へと緋乃が歩いて近づいていく。

 目線は向けていないが、足音が聞こえていたのだろう。一也は近寄ってくる緋乃へ顔を向けると、苦しそうにしながらも笑顔を浮かべた。

 

「ははっ、強いねキミ。俺なんかよりもずっと強い。手加減するとか偉そうなこと言っといてこれとはね……。お恥ずかしい限りだ」

「ん。あなたもなかなか強かった」

「ははは、お世辞はいいよ。俺はキミに一方的に負けた。何もできなかった。これが事実だ。……はぁ、悔しいなあ」

「リベンジ、待ってる。……次は、手を抜いていないあなたと戦いたい」

 

 一也を叩きのめしたことで満足したのか、緋乃は試合前にあれだけ荒ぶっていた心が嘘のように落ち着いていることに気付いた。

 内心のわだかまりを解消した緋乃は、座り込んだ一也へと微笑みながら手を伸ばす。それを見て、一也も笑みを浮かべながら緋乃の手を取った。

 

『両選手、互いの健闘を称える握手! 凄まじい試合でした! 本当に凄まじい試合でした!』

 

 握手する二人を見て、観客から拍手が飛ぶ。観客たちも一通り叫んで満足したのだろう。その顔は試合中の必死な形相とはうってかわり、落ち着いた様子だ。

 しかし、そんな観客たちの後方がふと騒がしくなってきた。何の騒ぎだと緋乃は思ったが、直後に聞こえてきた声ですぐにその疑問は氷解することとなる。

 

「救護班、急げ―! こっちこっち!」

(ああ。そういえば骨、砕いちゃったね。でも、今はすぐ治るからいいよね)

 

 タンカに乗せられ、運ばれていく一也をリングの外から見送る緋乃。もっとも、特に心配はしていないが。

 クローン技術を利用した再生医療やらなにやら、最近の医療技術の進歩には凄まじいものがあり、即死でさえなければ大体治せると言われるほどだ。

 故に現在の格闘家たちの試合は割と荒く、骨折程度は日常茶飯事なのだ。

 

(わたしの前世の時は、確かもっと技術とか低かったよね。ギフトなんて便利な能力もなかったし)

 

 内心で前世における医療技術と今世における医療技術の差を比べ、いい時代になったものだと一人頷く緋乃。例え肌を切り裂かれても傷痕が残ったりすることはないので、緋乃のような女の子にとっても優しいのだ。

 傷痕やらを気にするのなら格闘技なんかやるなよと言われてしまいそうだが、それはそれ。これはこれ。治るのなら治ったほうがいいに決まっていると自己弁護をする緋乃であった。

 

(とりあえず、これで第一関門突破ヨシ。ええと、あともう一試合に勝てば、本戦出場者を決めるトーナメントに出れるんだっけ?)

 

 そのまま数秒ほどかつての世界について思いを馳せていた緋乃だが、今はそれよりも重要なことがあると思い直して思考を切り替えることに。

 軽く目を閉じると、パンパンと両手で頬を叩いて気合を入れ直す緋乃。まだ第一試合を突破しただけであり、終わりではないのだから。

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