目指すは地球の最強種   作:ジェム足りない

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十九話 Bブロック決勝戦

『さあBブロック決勝戦! 本日最後の試合は、不知火緋乃選手対鬼瓦凛子選手です! 試合前だというのに、既に両者のファンは大盛り上がり! 彼女たちの人気っぷりが伺えるというものです!』

 

「うおおお凛子ちゃーん!」

「り・ん・こ! り・ん・こ!」

「緋乃ちゃーん! 頑張れー!」

「負けるな緋乃、頑張れ緋乃! うおおー、お兄ちゃんたちがついてるぞぉー!」

「うおおおおぶっ殺せぇー!」

 

『まずは圧倒的パワーで強敵を次々と下してきた不知火緋乃選手! 幼い外見に騙されてはいけません! 一瞬でも気を抜けば命取り! その強烈な蹴り技はガード諸共相手を粉砕! 速い、硬い、強い! 三拍子揃った強烈なインファイター!』

 

 リングへと緋乃が上がると同時に実況が緋乃の紹介を行い、それを受けて観客たちも歓声を上げる。

 Bブロックの決勝戦ということだからか、それとも本日最後の試合だからか。実況による選手紹介にもこれまで以上の気合が入っている。

 

『対するは女子高生格闘家の鬼瓦凛子選手! 本来は肉体の一部を鋼鉄のように硬化するするギフトを用いて闘う選手なのですが、残念ながら今大会においてギフトの使用は不可! 苦しい戦いを強いられると思いきや……! ギフトなど無くても関係無いとばかりに、型に縛られない我流の格闘術で危なげない戦いを披露! このまま優勝からの本戦進出を目指したい!』

 

 緋乃と向かい合うは高校の制服らしきセーラー服を着た、見目麗しいショートカットの黒髪少女だ。

 両拳には赤いバンテージが巻かれており、恐らくは拳による打撃技を得意とするだろうことが伺える。

 もっとも、相手にそう誤認させるためのフェイクである可能性も存在するが。

 

「君のことは聞いているよ。滅茶苦茶強くて滅茶苦茶可愛い女の子がいるってね。先に君と戦った二人は病院送りだとか。私は痛いの好きじゃないから、出来れば手加減してくれると嬉しいなぁ~」

「痛い思いをしたくないのなら棄権をおすすめするよ。今ならまだ間に合うし」

「うーん、聞いてた通り生意気だねー。でも可愛いから許せちゃうかも」

 

 リング中央にて向かい合う凛子と緋乃。口では手加減を要求していたが、別に本気でそれを求めていたわけではないのだろう。挑発で返す緋乃を更に弄り返すと、あっさりと口を閉じて構えを取る。

 そんな凛子を見て、緋乃も構えを取るのであった。

 

『両者ともに構えを取り、気合十分といった様子! この試合に勝った者が明日行われる本戦出場者決定トーナメントへの出場権を獲得! 是非とも勝ち残りたい! だがしかし、勝ち残れるのは一人のみ! 果たして勝利の女神はどちらに微笑むのでしょうか!?』

 

 実況の男が喋り終えるとほぼ同時。試合開始のゴングが鳴り、緋乃と凛子は同時にその身に気を纏う。

 

『さあ試合開始です! 一体どのような立ち上がりを見せるのでしょうか!』

 

「へえ、前の試合で使ったあの凄い技は使わないんだ」

「……技? ああ、まあ、うん。あれは疲れるから……」

 

 凛子が前試合で使った技──実はただ気を開放しただけで技でも何でもないのだが──について言及し、緋乃はそれについて適当に返した。

 わざわざ敵に本当のことを教えなくてもいいだろうと判断した結果である。

 

「なるほど。まあ確かにあんなに気を撒き散らしてたらね……」

「…………」

(まあ、普通はそう思うよね。実際にはまだまだ余裕なんだけど)

 

 しかし、凛子はその緋乃の回答を聞いて納得がいった顔で頷くと再び真剣な表情に戻る。そんな凛子の様子を見て内心で自身の持つ膨大な気を誇る緋乃であった。

 

「だったら、私にも勝機はあるね! せぇい!」

(む、速い。だけど──)

 

『おおっとぉ! 凛子選手いきなり仕掛けたぁ!』

 

 先に仕掛けたのは凛子。素早く駆け寄り、一瞬で緋乃との距離を詰めると、挨拶代わりとばかりにその右拳を緋乃へ向かって繰り出してきた。

 その速度はこれまでの相手とは比べ物にならないほどであり、凛子がここまで勝ち残ってきたのはまぐれでも何でもなく実力によるものだということを理解した緋乃。

 しかし、速いといってもそれは一般的な格闘家から見ての話だ。一般のレベルを大きく超えた緋乃から見れば十分に余裕を持って対処可能な速度である。

 緋乃はその拳を受け流し、お返しに蹴りを叩き込もうとその脚を振るった。しかし──。

 

「あま──にゅあ゛!?」

「ちぇいっ!」

 

 その蹴りはさらにスピードを上げた凛子によって回避された。軽快なステップで緋乃の蹴りを躱した凛子は、ローキックで緋乃の軸足を蹴り飛ばさんとする。

 蹴りをすかされて隙の生まれていた緋乃はそれを回避することが出来ず、直撃。

 緋乃の小さな体が宙を舞い、リングへと叩きつけられた。

 

「に゛ゃっ!?」

「よし!」

 

『おおっと! 緋乃選手ダウーン! 凛子選手のスピードを捕らえきれなかったか!?』

 

「いよぉっし! まずは先制!」

「緋乃ちゃんしっかりー!」

 

 得意のカウンター技を回避され、反撃を貰った緋乃にを見て観客たちが湧き上がる。

 凛子のファンと思わしき者たちがガッツポーズをして喜びの意を示し、緋乃のファンらしき者はダウンした緋乃へと声援を送る。

 

「カウント1!」

「いける、行けます! 油断しただけ!」

 

 カウントを開始するレフェリーに対し、苛立ちを隠せない様子で声を上げると素早く立ち上がる緋乃。

 レフェリーは緋乃がファイティングポーズを取り、戦闘続行の意を示すと軽く頷いて試合再開を宣言した。

 

「Fight!」

 

「へへ、どうだ! 驚いたでしょー。こう見えてもスピードには自信あるんだよね。甘く見てると痛い目みちゃうゾ☆」

「……っ! うん、驚いたよ。でも、もう見た。もう見たからそれは通じない……!」

 

 凛子からの言葉を煽りの言葉として受け取ったのか、その眼を鋭くして凛子を睨みつける緋乃。そして、苛立っている緋乃に対して余裕を見せる凛子。

 そんなリング上の二人を、観客席から不安そうに眺めている明乃と理奈の二人の姿があった。

 

「うわー、緋乃ちゃんかなりイラついてるよ~。あの人大丈夫かな? 勢い余った緋乃ちゃんにボコボコにされちゃうんじゃ……」

「ま、まあいくら緋乃でも流石にそこまでは……。そこまでは……。うーん……やっぱやるかも。緋乃って理屈じゃなく感情論全開で動くタイプだし」

「明乃ちゃ~ん!?」

 

 そんな観客席の様子などいざ知らず。苛立った緋乃はその怒りに身を任せて気を解き放つ。様子見の手加減モード終了のお知らせだ。

 

「……潰す!」

「うっわ、もう来た!? 沸点低い!」

 

『緋乃選手! 凛子選手を強敵と見たか!? 前試合で見せた自己強化技を解禁だぁー!』

 

「うわっ、出た! やべーやつだ!」

「凛子ちゃん逃げてー!」

 

 ちょっと闘いが思い通りに行かなかったからといって、いきなり切り札を切るかと慌てる凛子と観客たち。しかし、凛子や観客たちは勘違いしているが緋乃にとってこれは必殺技でも何でもなく、ただの通常戦闘形態なのだ。

 手を抜いていては苦戦しそうなので、ちょっとだけ本気出す。緋乃にとってはその程度の認識であり、またそれは事実なのである。

 

「小細工抜き。いくよ!」

「……ぐぅ。ええい、来なさい! 年上の意地を見せて──」

 

 構えを取りながら啖呵を切ろうとする凛子。しかし、その台詞を最後まで言い切ることは出来なかった。

 凛子がまだ啖呵を切っている最中、緋乃が動いたのだ。

 

「──ぎっ!」

 

 瞬時に凛子の背後へと回り込んだ緋乃は、自身の動きに反応しきれていない凛子目掛けてその脚を振り上げる。狙いは凛子の右肩。少し低めのハイキックだ。

 ここならば、多少骨が砕けたところで別に命にかかわるようなことは無いと判断したのであろう。

 怒りに身を任せているように見えてきちんと手加減は行っている辺り、緋乃もそこまで冷静さを失ったわけではないということがわかる。

 

「あ゛あ゛っ!?」

 

 緋乃の脚が凛子の肩へとぶち当たり、気で強化されているはずのその肉体をあっさりと破壊する。

 メキメキと骨が軋み、砕け。激痛が凛子の体内を駆け巡る。

 そのあまりの痛みに悲鳴を上げ、蹴られた勢いのままリングへと叩きつけられてダウンする凛子。

 

『直撃ー! 緋乃選手の超破壊力の蹴りが凛子選手に直撃ー! 痛い、これは痛い! 凛子選手辛そうだ!』

「カウント1! 2!」

 

「あー! 終わったー! めっちゃ泣いてるし折れたか?」

「だからはええって! あんなの避けれらんねえよ」

「気の量が一定ラインに満たないと問答無用の一撃死か。緋乃ちゃんキックやばすぎだろ。笑うしかねえな」

「でも世界戦とか見てるとこんなもんだけどな。気が足りない奴は通用しねえ」

 

「ぐっ……! ぎっ……!」

 

 実況が凛子を心配する声を出し、そしてもはや試合終了とばかりに好き勝手に議論を始める観客たち。

 そんな観客達を気にしている余裕もなく、必死に痛みを堪える凛子。その目からは大粒の涙がぽろぽろと零れており、見るからに辛そうだ。

 

「3! 4! 5! 6!」

「あ゛あ゛……!」

 

 それでも必死に立ち上がろうとする凛子。痛みによろめきながらも、ゆっくりと立ち上がる。

 しかし、なんとか立ち上がることには成功したものの、その右腕は力なく吊り下げられたまま動かない。

 

『立ち上がった! 立ち上がったぞ凛子選手! だが腕が、右腕が上がらない! 緋乃選手の蹴りで破壊されてしまったか!?』

 

「はーっ! はーっ!」

 

 その整った顔に脂汗を滲ませながら、必死に動く左腕だけでファイティングポーズを作る凛子。

 レフェリーに対しまだやれるとアピールをするが、その様子を見ていたレフェリーは目を閉じて首を横に振る。

 

「そんな……! まだ、まだやれ……ぎっ!」

 

 レフェリーに抗議をしようとする凛子であったが、痛みがぶり返してきたのかその顔を歪めて砕かれた肩を抱く。

 その隙にレフェリーは手を上げ、笛を吹いた。TKOの合図だ。

 その合図を受け、実況が声高らかに勝者の名を叫び上げる。

 

『試合終了ー! 勝者! 不知火緋乃選手ー!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、終わってみれば全戦全勝。しかも全試合KO勝ちとは、さっすが緋乃ちゃん」

「えっへん」

「強くて可愛い緋乃ちゃんにみんなメロメロだよ~。ほら、ネットでも話題になってるし」

「おおー、わたしの写真。うん、なかなか格好よく撮れてるね。許す」

「緋乃ちゃん脚長いからね。ハイキックとか映えていいよねー」

「ほらほら、あまり褒めすぎないの。緋乃はすぐ調子に乗ってやらかすんだから」

 

 時刻は16:30。予選一日目の全工程を終えた緋乃たちは、自宅へと戻る為に電車へと乗っていた。

 一両目の運転席側の角。それなりに広いスペースのそこへと集まり、周囲からの注目を集めないようボリュームを落とした声ではしゃぐ三人。

 

「ま、なんにせよ緋乃に怪我がなくて良かったわ」

「うんうん。緋乃ちゃんの可愛いお顔とすべすべお肌に傷がつかなくて本当に良かったよ~」

「ひゃうっ! あ、理奈、そこ駄目……。撫でるのやめ……ひんっ!」

「うへへへ、よいではないかーよいではないかー」

 

 大きく露出している緋乃の太ももを両手ですりすりと撫でまわし、まるで悪代官のようなセリフを吐く理奈。そしてそのくすぐったさに声を上げないよう、震えながらも固く口元を結んで必死にこらえる緋乃。

 そんな二人を、呆れたような目で見ている明乃。

 

「ほらほら、人目もあるんだし。そこまでにしときなさい」

「にゅ……! にゃぁ……!」

「ぐへへ、人様に見られながらのプレイも乙なもんじゃ……あ、やめて。すいません調子こいてました。だから無言でげんこつ構えるのやめて明乃ちゃん」

「はー。まったく」

 

 見かねた明乃からの注意を受けるも、それでもやめようとしない理奈に対して明乃が実力行使を匂わせることでようやく理奈の魔手から解放された緋乃。

 はーはーと息を整えながら、理奈に撫でまわされた部分を自分の手で上書きするように何度も擦る。

 そのまま数十秒ほど擦っていただろうか。ようやく違和感が消えたのか、いつもの調子を取り戻した緋乃が明乃へと礼を言う。

 

「ふう。助かった。ありがと明乃」

「はいはい。でもそんなに敏感なら長ズボンとか履けばいいのに。ちょっと露出しすぎなんじゃない?」

「えー、折角きれいな脚なんだから勿体ないよー。ねー緋乃ちゃん」

「あんたは黙っとらんかい」

 

 ホットパンツにタンクトップと、大きく脚とお腹を露出した緋乃の服装を見ながら衣装替えについて提案をする明乃。

 それに対し、緋乃が反応する前に理奈が反論をするも再び握り拳を見せつけてきた明乃によって一刀両断されていた。

 そんな二人の親友を見て苦笑しながら口を開く緋乃。

 

「いや、これでいいかな。長ズボンはキュークツだし、なんかゴワゴワしててちょっとね……。何より、こっちのが動きやすい」

「ふーん、そう。まあ緋乃がいいってんなら別にいいけどね。確かに似合ってることは似合ってるし」

「ん、ありがと」

「うんうん。私も今のままがいいと思うなぁ。……目の保養にもなるし」

「ん? 何か言った?」

「ナンデモナイヨー」

 

 緋乃の意見を聞いて、渋々といった様子で引き下がる明乃と喜びを示す理奈。理奈が最後にボソッと呟いた言葉が聞き取れなかったので聞き返す緋乃だったが、適当にはぐらかされてしまった。

 

「ふぁ……」

「なんか眠そうだね緋乃ちゃん」

「ん……。なんだろ、緊張の糸が切れたってやつかな……。まだ5時なのにね」

「席座る? 私でよければ肩貸すよ?」

「んぁ……。いや、我慢する。もうすぐだしね……」

 

 眠そうに欠伸をする緋乃を見て、心配そうな顔をした理奈が席で一眠りすることを提案するも、目的地が近いことから緋乃はそれを断る。

 しかし眠たげに目を細めながら言う為に説得力があまり存在せず、そんな緋乃を見て明乃が苦笑する。

 

「まあ、なんだかんだでけっこう気を消耗してたしね。運動量換算したら結構行くんじゃないかしら?」

「そうだね……。なにせ今日だけで三試合だもんね。体力のある大人たちならともかく、緋乃ちゃんにはキツいよね」

「むぅ……」

 

 子ども扱いするなと言いたいところだが、実際に眠気に襲われて意識をふわふわさせているところなので反論が出来ない緋乃。

 仕方がないので眉をひそめて不満ですアピールをするものの、明乃と理奈には通じていないようで残念そうな声を上げる。

 

「眠いのなら寝てもいいわよ? あたしがおぶって連れ帰ってあげるから」

「いや、それはちょっと恥ずかしいから遠慮しておく。大丈夫だよ。ちょっと眠気がするだけで、別に落ちそうってほどじゃないもん」

 

 にししと笑みを浮かべながら、からかうような口調でおんぶを提案してくる明乃。当然ながら緋乃はそれを拒否し、自分の足で帰ると言い放つ。

 話しているうちに意識が覚醒してきたのか、それとも明乃と理奈の二人に心配をかけさせないための意地か。

 眠たげに欠伸を繰り返していた先ほどに比べると、随分とマシな表情になった緋乃へと理奈が口を開いた。

 

「じゃあ明日の予定について話そっか。明日も今日と同じく、駅前に9時集合でいいのかな?」

「えーっとね。ちょっと待って……。うん。10時半スタートだし、それで問題なさそう」

 

 理奈からの質問を受け、カバンからパンフレットを取り出して大会の進行予定について印刷されたページを開き、二日目の予定を確認する緋乃。

 それを聞いた明乃が、二日目に行われる本戦出場者決定トーナメントについての記憶を思い出しながら声を上げる。

 

「明日は各ブロックの優勝者でトーナメントよね。確かAブロックからFブロックまでの6ブロックだから、最短で2試合、運が悪ければ3試合か」

「各ブロックでの試合成績が良ければシード側なんだっけ? 緋乃ちゃんなら多分シード側だろうし、2試合で済みそうだよね」

「そうね。あれだけ大暴れしといてシード入れなかったらコネとかワイロとかそういう系よ絶対」

 

 翌日に行われる試合について話し合う明乃と理奈。観客として目の前で緋乃の活躍を見ていた二人は、緋乃がトーナメントにおいてシード側へと進むであろうことを確信した様子だ。

 親友二人からの信頼を感じ取り、喜びの感情で胸の中が満ち溢れる緋乃。

 そんな緋乃が二人へと感謝の意を込めた言葉を紡ごうとしたその瞬間。電車のアナウンスが流れた。

 

『次は勝陽。勝陽。お降りの方は、お忘れ物のないようご注意ください』

 

「お、もうすぐね。降りるわよ、緋乃」

「…………」

「緋乃ちゃんどしたの? 難しい顔しちゃって」

「……いや、なんでもないよ」

 

 小さくため息を吐きながら、内心でタイミングの悪いアナウンスへと文句を言う緋乃。そんな緋乃を見て、首を傾げる明乃と理奈であった。


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