目指すは地球の最強種   作:ジェム足りない

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二十九話 急変

 窮地に陥った緋乃を理奈が救い出した翌日の朝。

 朝食を摂りに来た客で賑わう、ホテルのバイキング会場に緋乃たち三人の姿があった。

 

「うん。うんうん……。わかった。うん、お父さんも気をつけてね。……ふぅ」

「理奈。お父さんはなんだって?」

 

 会場の隅、周囲の喧騒から少し離れたところでスマホを耳に当て、父親と連絡を取り合う理奈。

 その通話が終わったと見るや、明乃が食い気味に話しかける。

 昨日の深夜に緋乃が遭遇した魔法関係者について、理奈の父──樹が尋問を行ったその結果を知りたがっているのだろう。

 理奈はそんな明乃に対し、たった今得たばかりの情報を整理しながら述べていく。

 

「うん、昨日緋乃ちゃんを襲ったのは蛇沢家の下っ端中の下っ端で、大した情報は握ってなかったって。なんでも買い出しのパシりをやらされてるとこを緋乃ちゃんに見つかって~って話らしいよ」

「……はぁ。まあ、そりゃそうよね。緋乃に見つかるような奴が重要なポジションにいるわけないわよね……」

「むっ……」

「あら、何か言いたいことでも? 一人で勝手にホテル抜け出して深夜徘徊した挙句、敵の下っ端から精神操作を食らって大ピンチだった緋乃ちゃん?」

 

 明乃がふと漏らした言葉に不満げな声を上げる緋乃だったが、それを耳ざとく聞きつけた明乃に小言を貰った結果、気まずそうに目を逸らす羽目になるのであった。

 

「ちなみに緋乃ちゃんが食らった精神操作の魔法は一般人でも普通に抵抗(レジスト)出来るレベルだそうです。……ま、幹部ならともかく、下っ端ならそんなもんだよね。でもホント、なんで緋乃ちゃんってこんなに精神操作への耐性低いんだろうね。普通は気を使える人間は高い抵抗力を持つもんだけど……」

「そういえば前も言ってたわよね、それ。なに? 緋乃の抵抗力ってそんなに酷いの?」

「うん、まあね。ぶっちゃけちゃうと緋乃ちゃんのこの耐性の無さは異常だよ。正直言ってありえない。意味不明」

「うぐぅ……」

「緋乃ちゃんの場合は気だけじゃなくてギフト持ちでもあるしね。ギフトはどちらかというと魔法寄りの力だから、強力なギフテッドは高い抵抗力を持つの。だから、気とギフトっていう二重の耐性を持つ緋乃ちゃんは本当なら並の精神操作は受け付けないはずなんだけど……」

「ふえぇ……」

「ああうん、緋乃がヤバいのは分かったからその辺で勘弁してやって……。ほらほら、朝食の続きと行きましょ?」

 

 理奈の言葉を聞いた緋乃が涙目になりながら情けない声を漏らし、それを聞いた明乃が慌ててフォローに入る。

 緋乃と理奈は、樹からの連絡が来たことによって中断状態になっていた朝食の再開を促す明乃の提案に頷くと、再び会場の中央へと向かうのであった。

 

 

 

 

「うーん、これ美味しいわね~♪ 流石はお高いホテルなだけなことはあるわねー」

「うん、かなりイケるよコレ……! 油断してた、こんなに美味しいなら主食は控えておくべきだった……!」

 

 朝食を終えた明乃と理奈が、その身体のどこにこれだけの量が入るんだというほどの大量のデザートを机に並べてその感想を述べあう。

 二人とも大変満足しているようであり、満面の笑みを浮かべながらケーキを頬張っている。

 ──そして、そんな二人のすぐ側で。

 

「うわぁ……」

 

 水の入ったグラスを手に、二人のその食いっぷりに少しばかり引いた様子を見せる緋乃であった。

 

「──あ、ごめんね緋乃ちゃん。私たちだけはしゃいじゃって……」

「あちゃあ、ごめん。忘れてたわ、緋乃の前で──」

 

 その緋乃の様子を見て、急に申し訳なさそうな顔を緋乃へと向けながら謝罪の言葉を口にする明乃と理奈。

 二人が勘違いしていることを悟った緋乃は、面倒くさそうに小さくため息を吐くと、その勘違いを正すために口を開く。

 

「いや、そうじゃないそうじゃない。赤の他人ならともかく、二人が美味しそうにしてる分にはわたしも嬉しいから。ただ、よくそんなに食えるなって……」

「ああ、なんだそっちか……。よかったー」

「チッチッチ。甘いわね緋乃。本当に甘いわ。ほら、よく言うでしょ? デザートは別腹だって」

「そうそう。そういう事だよ緋乃ちゃん」

(いや、それにしたってこの量は食いすぎ……)

 

 得意げな笑みを浮かべながら反論する二人。

 しかし、そんな二人に向けて思わず白い目を向けてしまう緋乃であった。

 

 

「あー食った食った。満足っ!」

「う~ん、美味しかったね~。特にあのモンブランが……」

「あたし的にはチョコレートケーキね。甘みと苦みのバランスが丁度良くて……」

「二人とも凄い食べたね……。見てただけなのにこっちまで胸やけしそう……」

 

 自室に戻った緋乃たちは、正午から始まる試合に備えて英気を養っていた。

 ベッドの上に寝転がりながら駄弁る三人であったが、ふと何かを思い出した様子の理奈が真剣な表情を浮かべて緋乃へと語りかける。

 

「緋乃ちゃんは今日で準決勝だよね? 敵の目的はまだわからないけど、明日の決勝になったら絶対動き出すはずだから、怪我とかには細心の注意を払ってね? できれば余裕をもって決勝に勝って、決勝後に何があってもいいようにするってのが理想なんだけど……」

「うん、任せて。今日の相手、虎太郎選手について軽く調べたけど、特に問題はなさそうだったし」

「浪花の喧嘩師、藤堂虎太郎。ボクシングとか空手とかを色々好き勝手に組み合わせた、拳主体の喧嘩スタイルが特徴ね。喧嘩師を名乗るだけあって、かなり荒い闘いが得意みたいよ」

「喧嘩師とかチンピラみたいな異名だね……」

 

 明乃の解説を聞いた理奈が嫌そうな顔をし、明乃もその意見に同調する。

 

「まあねぇ。実際見た目もそんなんだし、マニアックなファンはついてるけど一般受けは悪いっていうか……。でもまあ、緋乃の相手じゃないわよ。緋乃が倒した翼さんや結さんよりランクは下だしね」

「ふーん、そっか。なら安心だね……。今だ、隙ありぃ〜! むふふー」

「ひんっ……!」

 

 明乃の解説を聞いた理奈は安心した様子で笑顔を浮かべると、真横に伸ばされていた緋乃の太ももへとその顔を擦り付ける。

 そのこそばゆさから小さな悲鳴を上げ、抗議の意を込めて理奈の頭をぺしぺしと叩く緋乃。

 しかし、理奈は緋乃のその抗議を無視して、顔を擦り続けながら緋乃へと語り掛ける。

 

「気をつけてね、緋乃ちゃん。昨日みたいな無茶はしちゃ駄目なんだからね……」

「むっ……。うん……。わかってる……」

 

 理奈のその心配そうな声を聞いた緋乃は昨夜の自身の行いを改めて反省。

 理奈の頭を叩くのをやめ、優しく撫でるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『皆様! 大変長らくお待たせいたしました! 日本中から集った若き猛者たちが熱き魂をぶつけ合う、全日本新世代格闘家選手権! 選手も残すところ僅か4名! この大会の終わりもいよいよ近づいてまいりました!』

「凄い盛り上がり……。でもそっか、これに勝てば最低でも二位確定なんだよね……」

 

 リングへと続く選手入場口にて、大盛り上がりを見せるスタジアム内の歓声と実況の声を耳にし、独り言を呟く緋乃。

 内部の熱狂ぶりにはじめは気圧されていた緋乃だったが、頬を叩いて気合を入れるとその小さな体に闘志を漲らせて己の名が呼ばれるのを待つのであった。

 

『果たして、最後まで勝ち残り優勝の栄冠を手にするのは誰なのでしょうか!? それでは、準決勝第一試合! 不知火緋乃選手対藤堂虎太郎(とうどうこたろう)選手! 間もなく──』

 

 実況の声より出番が近いことを理解した緋乃が、その身体をピクリと跳ねさせた瞬間──それは起こった。

 ズガァンという爆音が響き渡ったかと思うと、それに遅れて観客たちの悲鳴がスタジアム内部に木霊する。

 異常事態を察知した緋乃が通路を駆け抜け、スタジアム内部を伺えば──。

 

「うわっ、なにこれ……」

『観客の皆様、落ち着いてください! 係員の指示に従い、慌てず、落ち着いて避難してください! 繰り返します──』

 

 つい少し前まで晴天だったはずの空は黒い雲にて埋め尽くされ、何度も稲光が走っていた。

 恐らく、先程の轟音はスタジアムに雷が落ちた音だろう。

 観客席は避難しようとする観客たちでごった返しており、悲鳴と怒号が飛び交う混沌の場と化している。

 それらを確認した緋乃が呆然とした様子で言葉を漏らした次の瞬間。

 

『ふぉっふぉっふぉ……。初めまして、下等民の諸君! 我が名は鷹野。鷹野三郎! この大会の真の主催者にして、新世界の王となるもの!』

 

 突如として年老いた男の声がスタジアムに響き渡り、リング上空へと袴姿の老人の映像が投射される。

 突然見知らぬ老人が姿を現したことで更に混乱する観客たち。

 しかし、その老人が明らかに観客たちを馬鹿にする声を上げたことでその混乱は怒りへと変化。観客たちは異常事態に巻き込まれたことによるストレスをその老人──鷹野へ向けて解き放つ。

 

『くくくくく、随分と威勢のいい猿どもよ……。魔法の一つも使えぬ出来損ない。我々になることが出来なかった哀れな負け犬……! これから待ち受ける破滅の運命も知らずに……!』

 

 しかし、スタジアム中の人間から敵意をぶつけられているというのに鷹野は余裕の態度を崩さない。

 それだけに飽き足らず、魔法やら訳の分からないことまで言い出して更に観客たちを煽る始末だ。

 観客たちの怒りはどんどん高まっていき、一部の人間は空き缶やペットボトルなどのゴミを鷹野の映像へと投げつけていた。

 

「破滅……? 一体何を……?」

『やれやれ、礼儀も知らぬ猿どもにはお仕置きをしてやらねばならんな。──やれ』

 

 訝し気にその目を細める緋乃の前で、映像の鷹野がゆっくりと、見せつけるかのようにその右腕を掲げて指を鳴らす。

 観客たちが騒がしい声を上げる中、そのパチンというやけに響く音はスタジアム内を駆け巡り……。

 

「ッ!?」

 

 スタジアム上空に巨大な魔法陣が展開され、そこから現れるは巨大な二つの影。それはそのまま落下するとリングへ着弾して轟音を響かせる。

 影が降ってきたその衝撃で舞っていた砂埃が晴れると、そこから姿を現したのは──。

 

「でかい──!」

「緋乃ちゃん無事!? ──ってこれは!」

「うわっ、なにあれでっか! モンスター!?」

 

 体長3mほどはあろうかという巨大な三つ首の犬に、更にそれよりも巨大な蛇。

 ゲームの中から飛び出してきたかのようなその怪物を見て、緋乃の元へと駆け付けた理奈と明乃も思わず驚きの声を漏らす。

 

『ふぉっふぉっふぉっふぉ! そうだ! ようやく理解したか猿どもめ! そう、実在するのだよ! 魔法も! それを扱う魔法使いも!』

 

 魔法陣から突如とした現れた巨大な怪物を目撃し、悲鳴を上げて必死に逃げ惑う観客たち。その哀れな様子を見た鷹野は満足そうな笑い声を上げながら自分たちの正体を明かすのだった。

 

「何アレ! あんなの私知らないよ……っ! 合成獣(キメラ)でもないみたいだし……いったいなんなの!?」

「ゲーム的に言うならケルベロスにバジリスクってとこかしら? 石化能力とか持ってたら厄介ね。気で防げたらいいけど……」

「冷静だね明乃……。ううん、どうやって戦えばいいんだろう。わたし、モンスター退治の経験なんてないから……!」

「奇遇ね緋乃。あたしもそんな経験ないわっ!」

 

 緋乃たちがきゃいきゃいと騒ぐ目の前で、黒いスーツ姿の男と派手なドレスを着た美女がそれぞれ犬の魔物と蛇の魔物の側へと降り立つ。

 二人は選手入場口付近に立つ緋乃たち三人へと目をやると、ニヤリと笑った後に逃げ惑う観客たちへと目をやり、そして──。

 

『まずはあの目障りな猿どもから片づけてしまえっ! 犬飼! 蛇沢!』

「あいよーっと。悪く思うなよ雑魚共……。よし、やっちまいな!」

「久々の召喚だし、準備運動には丁度いいわね。いきなさいっ!」

 

 鷹野の命に従い、それぞれ自身の操る魔物へと指示を下して観客たちを襲わせようとする。

 主の命を受け、唸り声を上げながらその身体を沈ませる二匹の魔物。力を溜め、いざ突撃せんとしようとしたその瞬間。

 

「させっかよォ!」

「どおりゃああぁぁぁぁ!」

 

 素肌の上に革ジャンを着たガラの悪い男と、トランクス姿の半裸の男がそれぞれケルベロス(犬の魔物)バジリスク(蛇の魔物)へと渾身の飛び蹴りを放ってその動きを妨害した。

 

「なっ!? てめっ! この野郎!」

「きゃああぁぁ!? うちの子に何するのよ!」

 

 不意打ちを受け、キャインとその外見からは想像できない悲鳴を上げながら転がるケルベロスとその上半身をくねらせるバジリスク。

 突然現れた二人の男、藤堂虎太郎と大武大地(おおたけだいち)に対して大声で文句を上げる犬飼と蛇沢であったが、虎太郎と大地はその声を無視して緋乃たちへと怒鳴り声を上げる。

 

「ボサっとしてんじゃねえぞクソガキィ! 怖くて戦えねえってんなら邪魔だから消えろや!」

「緋乃君にはできれば手伝ってほしいが、強制はせん! 逃げたければ逃げていい! 早く離れるんだ!」

 

 口こそ悪いが一応はこちらを気遣っているらしい虎太郎と、手伝ってほしいという本音を覗かせながらも逃走を促す大地。

 二人のその声を受けた緋乃は軽く目を閉じ──。

 

「明乃、理奈。手伝って欲しい。──いい?」

「当然! こんなの見過ごすわけにはいかないわよねぇ!」

「それはこっちの台詞だよ! 水城家の一員として……いや、人としてこんな暴挙は見過ごせない!」

 

 理奈が懐から一枚のカードを取り出し、そこへ魔力を送り込められていた呪文を起動する。すると、緋乃たち三人と、更に虎太郎と大地の身体をも暖かい光が覆う。

 

「光の祝福──ダメージ軽減と、いわゆる状態異常保護です! でも完全に防ぐわけじゃ無いから過信しないで!」

「へぇ、テメェも魔法使いって奴か。有難く受け取っとくぜぇ」

「緋乃君の友人よ、恩に着る!」

 

 不思議そうに自身を覆う光を見ていた虎太郎と大地に、理奈がその効果を説明する。

 説明を受けた二人は理奈へと感謝の意を述べると、すぐに魔物へと向き直り気を高める。

 

「へっ……。ガキどもが。我らが主より賜ったこの異界の魔物相手に勝つ気でいやがるぜ」

「うっふふふ……。無知って怖いわねぇ……」

 

 四人の格闘家と一人の魔法使いから敵意を向けられているにもかかわらず、犬飼と蛇沢は余裕の表情を崩さない。

 それどころか、逆に自分たちへと歯向かう格闘家チームに対し嘲笑の笑みを向ける。

 

『やれやれ。闘いに集中できるようにと、せっかく君たちの為にうるさい猿どもを始末してあげようとしたというのに……。人の気遣いは素直に受け取っておくものじゃぞ?』

「うっせえよこのクソジジイ! オレ様の晴れの舞台の邪魔しやがって! 覚悟はできてんだろォな!?」

「魔法使いだが何だか知らんが、弱きものを守るのが格闘家の務め! 力なきものを狙う外道どもめ! 行くぞォ!」

 

 宙に浮く鷹野の映像へと啖呵を切った二人の男が魔物へ向かい駆けてゆく。

 それを見て緋乃たちも──。 

 

「行くわよ緋乃! 耐性ガバってる緋乃は犬! あたしは蛇! 理奈は緋乃のサポートよろしくっ!」

「んっ! 気をつけてね明乃!」

「いいや、二人まとめてサポートするよ! 伊達に神童なんて呼ばれちゃいないんだから!」

「そりゃ心強いわね! っしゃあ! 異世界の魔物だが何だか知らないけど、人間様を舐めるなぁー!」

 

 気と魔力を開放し、男たちに続くのだった。

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