目指すは地球の最強種   作:ジェム足りない

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三十話 魔物との戦い

『GAAAAAAAAA!!』

「おっとォ! あめえんだよカスが! 食らいやが──ゲッ!?」

 

 その口を大きく開き、自身へ向かい駆け寄る虎太郎目掛けて火を噴くケルベロス。

 虎太郎はその火炎放射を横っ飛びで回避すると、ケルベロスの胴体目掛けて飛び蹴りを放つ──が。その蹴りが黒い巨体へと直撃する寸前にてケルベロスは大きくバックステップ。

 結果として、虎太郎はケルベロスの眼前にて大きな隙を晒す事となってしまった。

 

「やっべ!?」

『GRUAAAAAAA!!』

「させない……! てやぁ!」

 

 うかつに飛びあがったことで身動きの取れぬ虎太郎を噛み殺さんと、獰猛な唸り声を上げながらケルベロスが飛び掛かる。哀れ虎太郎はその牙の餌食に──と思われたその瞬間。

 緋乃の重力操作によりケルベロスの身体が地面へと叩きつけられ、そのまま駆け付けた緋乃によりその腹を蹴り上げられる。

 キャインキャインという鳴き声と共に大型のトラックに匹敵する巨体が宙を舞い──。

 

「ナイス緋乃ちゃん! いよぉっし、とっておきを食ら──」

「理奈っ!」

「──きゃあっ!?」

 

 カードを構え、特大の隙を晒すケルベロスへと追撃の魔法を叩き込もうとする理奈。

 しかし、理奈がそのカードへと魔力を込めるその直前。顔色を変え、猛スピードで駆け付けてきた緋乃が理奈へと組みつき押し倒し、一緒になって転がりながらその場を離脱。

 何事かと思い理奈が自分のいた場所へと目をやれば──。

 

「チッ。余計な真似を……!」

「ひぇっ……。あ、ありがと緋乃ちゃん……!」

 

 理奈のいた地点に、燃え盛る炎の剣が何本も突き立てられていた。緋乃たちがケルベロスに対処している隙に、フリーになっていた犬飼が魔法で攻撃してきていたのだ。

 もし緋乃が間に合わなければあれに串刺しにされていたと、身震いしながら礼を言う理奈。

 そして、緋乃が理奈を救出しているその隙に。地面へと降り立ったケルベロスが犬飼の横へと並び立つ。

 

「そういえば、理奈のお父さんとお母さんは?」

「二人は他の関係者と一緒に、一般人の避難誘導と保護に回ってるよ。私の方が魔法使いとしてはずっと強いから……」

「なるほどね」

「わりぃなあ。さっきは助かったぜガキ」

 

 理奈と話し合う緋乃の側にやってきた虎太郎が照れくさそうに礼を述べる。

 それに対し、緋乃は不満そうに唇を尖らせて文句を言う。

 

「ガキじゃない。わたしには緋乃って名前が──」

「メンドくせーなァ。あー悪かった、助かったぜ緋乃」

「ん。どういたしまして」

 

 頬を染め、人差し指でポリポリと掻きながら緋乃へと改めて礼を言うその姿を見て、怖そうな見た目に反して意外と優しいのかも──と内心で虎太郎の評価を上方修正する緋乃。そして、そんな虎太郎を嫉妬の籠ったような目線で睨む理奈。

 そんな三人に対し、パチパチと拍手をしながら犬飼が話しかけてきた。

 

「いやぁー、即席チームにしてはやるじゃねえか。すっかり忘れてたが、ちっこい嬢ちゃんはギフテッドだったなそういや。とてもじゃねえがCランクの念動力(サイコキネシス)には見えねえが……まあいい。どっちにしろ俺とコイツの敵じゃねえ」

 

 手近にあったケルベロスの頭の一つを撫でながら、ふんぞり返る犬飼。

 随分と機嫌の良さそうなその姿を見て、今なら何か情報を引き出せるかもと思った緋乃が声を上げた。

 

「異世界のモンスター……だっけ? 魔法ってそんなこともできるの? 異世界からモンスターを呼び出すなんて……」

「ククク、まさか。俺たち人間じゃどんなに魔法を極めたとこでそんな大それたことは出来ねえよ。これはな、俺たちの偉大なる主──次元の悪魔とも呼ばれるあのお方から、俺たちのご先祖様が授かったんだ」

「次元の悪魔?」

 

 緋乃の読み通り、機嫌の良い犬飼は得意げな表情でケルベロスの出所とそれをもたらした者の名を語ってくれた。

 内心でガッツポーズをしながら、さらに情報を引き出そうとする緋乃。しかし……。

 

「へっ。それを知る必要はねえ。話すと長くなるから面倒くせえし……ここで死ぬお前らに教えたところでなぁ! 殺れ!」

「来るよっ! それぇ!」

 

 犬飼は話を打ち切り、ケルベロスへと指示を下す。主の指示に従い、その巨体に見合わぬスピードで駆けるケルベロス。

 それに対し、理奈が鋭く尖った氷の塊を大量に撃ち込むが──。

 

「うそっ、無傷!?」

「たりめーだぁ! こいつはなぁ、日常的に魔法でドンパチやってる世界からやってきたんだぜ!? そんなしょっぺえ魔法なんて効くか! 死ねェ!」

 

 理奈の攻撃魔法はその黒い毛皮に弾かれ、ケルベロスに何のダメージも与えることが出来なかった。驚愕に目を見開き、隙を晒した理奈へと飛び掛かってくるケルベロス。その三つの口が大きく開き、中に生える鋭い牙が理奈へと襲い掛かる──。

 

「ひっ──!」

「──させないっ!」

『GYAN!?』

 

 ──その直前。理奈の前に割り込んできた緋乃が、その脚を振り上げてケルベロスの顔面を蹴り上げる。そして蹴りと同時に発動された重力操作により、その重量を半減されたケルベロスの巨体が宙を舞い──。

 

「せやあぁぁぁ!」

『──!?』

 

 重力操作が解除されたことにより、本来の重力に引かれて落ちてきたケルベロスの胴体へと向けて突き上げられる緋乃の足。

 上空の相手めがけて放たれたその蹴りはケルベロスの胴体へと突き刺さり──更にその巨体を磔にして固定する。

 まるで、地面に突き刺さる杭に向けて腹から落ちたかのようなその状態。その圧倒的なダメージから、声にならない悲鳴を上げるケルベロス。

 

「し、ねえぇぇぇぇ──!」

「させるかよぉ!」

「それはこっちの台詞だぜェ!」

 

 その状態から、トドメとばかりに自身の発揮できる最大火力──気の爆撃を叩き込まんと、ケルベロスを持ち上げる足裏に向けて文字通り全力全開の気を流し込む緋乃。

 渾身の叫びを上げる緋乃に対し、流石にこれは不味いとでも思ったのか犬飼が妨害の為に攻撃を仕掛けようとするが──それは横から飛び出してきた虎太郎によって阻止された。

 

「クソ、邪魔すんなやクソガキィ!」

「邪魔すんに決まってんだろォ! 決めてやれやァ、緋乃ー!」

 

 片や魔力で、片や気で。強化された肉体から繰り出される拳がぶつかり合い火花を散らす。

 犬飼がその動きを封じられた事で、もはや緋乃の行動を止めるものは何もなく──。

 

「やったぁ、勝った!」

 

 喜びの声を上げつつ、緋乃の必殺技へと巻き込まれないように距離を取る理奈の前で。

 白い閃光が全てを飲み込んだ──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、この爆発は──あの娘のっ!?」

「これは緋乃の──ふふっ、向こうは決着ついたみたいね、オバサン!」

 

 緋乃の引き起こした巨大な爆発による閃光と衝撃は、緋乃たちから離れた地点にて激しい戦いを繰り広げる明乃たちの元にも伝わってきた。

 バジリスクの噛みつきを交わした明乃は、バックステップで距離を取りながらその主たる蛇沢を煽る言葉を放つ。

 

「ふっ、それはどうかしら? ──っていうか誰がおばさんよ! この美しい姿を見てよくそんなことが言えるわね!」

「美しい……?」

「美しいでしょうが! 何首を傾げてるのよ可愛くないわね!」

 

 明乃のおばさん発言が相当気に食わなかったのか、顔を真っ赤にして怒りを露にする蛇沢。

 確かに顔立ちはキツめでこそあるものの、街を歩けば10人中10人が振り返るレベルの美女であることには間違いないのだが……。更にその上を行く存在を知っている明乃は余裕の笑みを崩さないまま蛇沢を煽り続けた。

 

「いやー、だって緋乃と比べたらね~。まあ確かに美人かもしれないけど? やっぱな~って」

「ぐっ! 痛いところついて来るわね……!」

「あれ意外。てっきり自分が世界で一番ってタイプだと思ってたのに」

 

 緋乃の名前を出した途端、悔しそうに唇を噛みながら己自身の敗北を認める蛇沢。

 あまりにも素直に敗北を認めるその姿を疑問に思った明乃が、思わずといった様子でそれを口にする。

 

「ふんっ、お生憎様ね。自分の客観視くらいは出来るわよ。流石にあの娘に勝てるだなんてほど思い上がっちゃいないわ! そらっ!」

「へー、緋乃の良さがわかるん……だっ! おっと!?」

 

 襲い掛かるバジリスクの尻尾を跳んで避けた明乃の元へ、蛇沢の放った巨大な火球が迫りくる。明乃はその火球に対し指鉄砲を向けると、念動力による衝撃波を放ってそれを打ち消す。

 だが明乃が火球に気を取られている間に、その着地の隙を狙わんと忍び寄ったバジリスクが大口を開けて飛び掛かり──。

 

「させん!」

「大地さんサンキュ!」

「うむ!」

 

 横合いから大地に殴りつけられて阻止された。

 

「ふう。蛇って動きが読みづらくてやりにくいわね……」

「同感だ。まあ、そこまで硬くないからダメージが通りやすいことだけは救いか」

 

 互いの距離が開いたことにより、一息つく明乃と大地。

 相手である蛇沢の方も、深呼吸を繰り返して魔法の連続使用で消耗した精神力を回復させているようだ。

 お互いの攻め手が一瞬だが止み、張り詰めた空気が少しだけ和らいだその瞬間──。

 

「隙ありィ!」

「──おごぉっ!? ぐ、このっ!」

 

 蛇沢の意識が自分から離れたほんの一瞬の隙をつき、明乃は蛇沢へとその両掌を向けると念動力を発動。

 明乃の赤い髪の毛が輝きを放つと同時に、その手を砲門として放たれた見えない衝撃波が蛇沢を襲い──その体を勢いよく吹き飛ばした。

 しかし、彼女の配下たるバジリスクが器用に尻尾を使い吹き飛ぶ蛇沢をキャッチ。その身体がスタジアム外壁へと叩きつけられることを阻止するのであった。

 

「ぐぅ、惜しい!」

「今のもダメか。さて、どうやって倒したものか……」

「……そうだ、いいこと思いついた。大地さん手伝ってくれる?」

「む? 別に構わんが何をすれば?」

「時間稼ぎ。あのオバサンは引き受けたから、なんとかして蛇の動きをちょっとだけ止めて──ほいさっ!」

「よくもやってくれたわね! 覚悟しなさい!」

 

 明乃と大地の作戦会議が終わる前に、お返しとばかりに放たれた蛇沢の攻撃魔法が二人を襲う。

 二人は地面から飛び出してきた、先端の鋭く尖った岩を左右に跳んで回避。そのまま二人がかりでバジリスクへと向かい突進する。

 

「チッ、先にその子を片付けようってわけね。そうはいかないわ! ──火竜の息吹よッ!」

「うわっ、厄介な!」

 

 蛇沢は強力な遠距離攻撃手段を持つ明乃に向かいカードを掲げると、そこから勢いよく火炎を放つ。

 明乃は自身へ向けて放たれたその火炎放射を、自身の周囲に球状に展開した力場で防ぎ──。

 

「大地さんお願い!」

「任せろォ! ぬおおおぉぉぉ!」

『────!?』

 

 大地は自身目掛け振るわれるバジリスクの尻尾を、眼前でクロスした両腕で受け止めると、そのまま胴体に向けて連続で拳を放つ。

 それを受けたバジリスクは声にならない悲鳴を上げるが、素早く体を引き戻すと大地目掛けて噛みつきを仕掛け──。

 

「それは──もう見た! うおりゃああああぁぁ!」

 

 大地はその噛みつきを跳んでかわすと両手を組み、そのまま下降する勢いを利用した一撃をバジリスクの顔面目掛けて叩き込む。

 

「大地さんナイス! よし、いくわよ……」

「くっ、なんでこんな半裸の男なんかにウチの子が! 納得いかないわ!」

「うおぉっとぉ! 熱っ! 熱っ!? ふんぬうう!?」

 

 大地の渾身の一撃を顔面に受け、その痛みからのたうち回るバジリスクを見て蛇沢が愚痴を漏らす。

 可愛い配下を痛めつけてくれたことへの礼とばかりに、ドレスのポケットから取り出したカードから大量の火球を生み出しては大地目掛け発射する蛇沢。

 しかし大地は器用に体を捻り、火球の隙間を潜り抜ける。そうして、蛇沢が明乃から意識を離した隙に──。

 

「いよっしゃあ、準備完了! 完璧な時間稼ぎよ大地さん!」

 

 大声を上げた明乃へと蛇沢と大地の目線が向かう。するとそこには両腕を天に向かって掲げた明乃と──その頭上に浮遊する、恐らくはスタジアムの天井から拝借したのであろう大量の鉄骨や鉄柱が。

 

「なっ、なにそれ!? ちょっと待ちなさい! 待って!?」

「おお、これは……!? いいぞ明乃君、やってしまえ!」

 

 それを目にした蛇沢は明乃の狙いを速攻で理解し、大慌てでそれを止めさせようと言葉を口にする。

 だがしかし、敵にやめろと言われてやめる人間などいるわけがない。明乃はニヤリと勝利を確信した笑みを浮かべ──。

 

「待たないに決まってんでしょーが! いっけー!」

「やめてええええ!?」

 

 悲鳴を上げる蛇沢の前で、バジリスクへと大量の鉄柱が降り注ぐ。その衝撃に地面が揺れ、土埃が舞い上がる。

 そうして、全ての鉄柱がバジリスクへと叩き込まれてからおよそ十数秒後。

 その場にいた三人が見守る中、土埃が晴れた中から姿を現したのは……その全身を串刺しにされ、絶命したバジリスクの姿だった。

 

「いよっしゃああ、討伐完了! これでさっきの緋乃の分と合わせて2-0、あたしたちの完全勝利ィ!」

「痛つつ……。やれやれ、意外と何とかなるもんだな……。最初は無理かと思ってたが……」

「あ、あああ……。そんな……」

 

 それを目にし、笑顔で拳をぶつけ合い勝利の喜びを分かち合う明乃と大地。

 一方、バジリスクの死体に駆け寄った蛇沢は涙を流しながら、物言わぬ躯と化したその頭を撫でていた。

 

「ゆ、許さない……。よくもアタシの可愛いペットを……!」

「うーん、そう言われてもねぇ……。こっちだって命かかってるわけだし……」

 

 涙を流しながら明乃を睨む蛇沢。それに対し、ほんの少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべる明乃。

 横からその二人を見ていた大地は、蛇沢が明乃からは見えないよう、こっそりと魔法の込められたカードを手に取ったのを見て──。

 

「むっ! 貴様何を──!」

「とっておきよ──これでも食らいなさいっ!」

 

 目も眩むようなピンク色の閃光が、明乃と大地の二人を包み込んだ。


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