目指すは地球の最強種   作:ジェム足りない

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三十四話 復活

「えっと……。とりあえずこれで終わり、なのかな?」

「う、うん。相手のリーダーは倒したし……多分これで終わりだと思う……よ?」

「なんか拍子抜けな気もしなくはないけど……とりあえず、みんな無事でよかったわね!」

 

 倒れ伏す鷹野と、ついでに気を失った鶴野へと応急処置を行う樹を見ながら、緋乃たち三人は話し合う。

 最初は困惑した様子の緋乃と理奈であったが、明乃の明るい声を聞いているうちに喜びの感情が上回ってきたのだろう。緋乃と理奈の顔からも笑顔がこぼれ出す。

 そんな三人を横目で眺めている犬飼の元へ、茶色いスーツを着た男──鼠野が頭から血を流し、片脚を引きずった状態で姿を現した。

 

「……ぐっ、犬飼。貴様──」

「ああ、そういえばまだ一匹残ってたな……。今頃何の用だよこのクソ雑魚が」

「雑魚、だと……?」

「ああ。真正面からろくに戦うこともできねえ腰抜けの雑魚共。俺たち戦闘班がいなきゃなんもできねえ能無し集団。てめーらの事だよ。まったく、情報収集なんて誰にでもできるカスみてえな仕事でハシャぎやがって……。弱っちい癖に態度ばかりデカくて本当に目障りだったなぁ」

「テ、メェ……」

 

 その顔に嘲笑を浮かべながら鼠野を煽る犬飼。

 二人の話し声が聞こえてきたことで緋乃たちも鼠野の存在に気付き、最後の敵幹部を拘束しようと動き出す──が、それを犬飼が制した。

 

「まあまあ落ち着けや嬢ちゃんたち。こいつはコソコソ隠れるしか能のねえ雑魚だから、ちょっとぐらいいいだろ? もうコイツらの悪巧みは終わったんだしな……」

「もう終わった……だと? ふ、ふふふふふ! ふはははははは!」

「ん、どうした頭でも打ったか? いやさっきお前をぶん殴ったの俺だったな! わはは、すまんすまん!」

 

 突然、気でも狂ったかのように笑い声を上げる鼠野。それを犬飼はただの発狂と捉えて更に鼠野を馬鹿にする言葉を吐くのだが──。

 

「ちげえよ馬鹿! お前は本当に馬鹿だな犬飼! もう終わった? 馬鹿が! まだ終わっちゃいねえよ! もうあのお方に捧げる分のエネルギーは溜まってんだぜ!? そこのチビがドカンドカンと盛大にやってくれたおかげでな──!」

「え、わたし? えっと、よくわからないけど……やっちゃった系?」

「違うからおろおろすんなや。ただの苦し紛れさ。復活ラインには結構ギリギリだが……まだ足りねえよ。足りてたら俺も樹サンももっと慌ててらあ」

 

 突然鼠野から名指しにされたことで、不安そうに理奈と明乃を見やる緋乃であったが犬飼がそれを否定。

 胸ポケットから出した煙草に火をつけ、のんびりと一服しながら緋乃を諭す。

 それを受けたことで、緋乃も落ち着きを取り戻した。

 しかし、犬飼のその指摘を受けても鼠野はその自信に満ちた表情を覆さない。

 それを見て、流石にこれは何かあるなということに気付いたのだろう。犬飼が鼠野へと動き出そうとするのだが──鼠野の動きの方がほんの僅かに速かった。

 

「ギリギリ足りない? いいや、逆だ。ギリギリ足りてるんだよ! ──こうすることでなァ!」

「てめェ……一体何を──なっ!? これは……! てめ、いつの間に!」

 

 鼠野が指を鳴らした瞬間。樹による応急処置が終わり寝かされていた鷹野と、鼠野自身の足元へ魔法陣が展開される。

 そうしてその魔法陣から発生した光の柱へと飲みこまれる二人。

 

「ヒャハハハ! 馬鹿が! なんでわざわざ俺がテメエ等の前に姿を表したと思う!? (こっち)に注目を集めるために決まってんだろ! まんまと引っかかりやがって、バーカ!」

 

 突然のことに慌てる犬飼と緋乃たちを目に、光の柱の中から愉快そうに口を開く鼠野。

 その鼠野の体をこれ見よがしに一匹の小さな鼠が駆け上がり、その肩へとちょこんと座る。それを見て、犬飼が呻き声を上げた。

 

「そうか、使い魔に術式を仕込んで……!」

「そういうこった! 鷹野のジジイと俺自身を贄に──あのお方は復活する! 褒美を貰えねえのは残念だが……まあ、ここで捕まって全てを失うよりかはよっぽどマシだ! てめえらも道連れにしてやんよ! 俺って実は寂しがり屋でねぇ!」

「やらせるとでも思って──グッ! 硬いなオイ!」

「せやぁ! ──むぅ……!」

「どいて二人とも! こんなもの! はああぁぁぁ! ──嘘、効いてない!?」

「イヒヒヒヒ! イーッヒッヒッヒッ!」

 

 

 大慌てで光の柱へと拳と脚を叩き込む犬飼と緋乃に、念動力を撃ち込む明乃。しかし、三人の攻撃を受けても光の柱はビクともしない。

 そのまま鼠野の高笑いが響き──中身ごと光の柱は消失した。

 

「……ねえ理奈。これ、不味いんじゃない?」

「や、やっぱりあのジジイはさっさと始末しておくべきだったー!? もうおしまいだよ緋乃ちゃん! せめて最後に──ぎゃん!?」

「ええい落ち着きなさいこの馬鹿! あれよ! ギリギリで復活ってことは、復活しても本調子じゃないはず! そこをみんなで叩けば──」

 

 大声で喚いた後、緋乃へと飛び掛かる理奈。しかし、それは割り込んできた明乃によって阻止された。

 そうしてそのまま明乃に諭されたことで冷静さを取り戻したのだろう。理奈の瞳に理性が戻り、覚悟を決めた様子で鼠野がいた地点へと向き直る。

 

「あー、悪いなあ。のんびりお喋りしてねえでさっさと潰すべきだったわ……。いやほんとスマン。マジ反省だわ」

「ホントだよこの戦犯! 大戦犯!」

「死んだら呪う」

「全部終わったら殴らせなさい」

「うーん、俺様の評価ボロボロ。悲しいねえ」

 

 流石にこの状況に対し申し訳ないとでも思ったのか、緋乃たちに向け謝罪の言葉を口にした犬飼。

 しかし、それに対する三人の反応は冷たく。理奈、緋乃、明乃の順で次々に怒りの言葉を貰うのであった。

 

「すまない、鷹野から目を離した私の落ち度だ……。理奈、それに緋乃君と明乃君も。本当に済まないと思うのだが、今一度だけ力を貸して欲しい。とりあえず、仲間たちに連絡は取ったが……はっきり言って、誰も彼も君たちの力量には遠く及ばない程度のレベルなんだ……」

「お父さん……」

 

 緋乃たちの前にやってきた樹が、頭を下げてこれから始まるであろう戦闘への協力を改めて依頼する。

 樹の言葉を信じるのならば、ここで自分たちが闘わないと大惨事になるらしい。それを聞いた緋乃は明乃と目を合わせて頷き合う。

 

「任せて! ここまで来たらもう、乗り掛かった舟ってやつよ! 最後まで手伝うわ! ねえ緋乃?」

「うん。さっきまで休憩してて回復したから、まだまだ気は残ってる。大丈夫、戦えるよ」

「明乃ちゃん……緋乃ちゃん……。ありがとう! 私も戦うよお父さん!」

「すまない……。本当にすまない……!」

 

 目頭を押さえ、申し訳なさそうに謝罪の言葉を吐く樹に対し笑顔で返す三人。

 そうして犬飼と樹に、緋乃たち三人を加えた五人が戦闘準備を整える目の前で──空間にピシリと罅が入った。

 

「来るぜ……覚悟はいいな嬢ちゃんたち!」

「これが終われば、ようやくこの騒動も終わりなんだよね……。ん! 頑張る!」

「そういえば……コイツ倒したら、国から報酬とか出ちゃったりするのかしら?」

「ふふ、上に掛け合ってみるよ。一般には知られていないが、妖魔やら悪霊の退治を専門にする部署があるからね……」

「私、ちょうど新しいパソコン欲しかったんだよね~。サクっとやっつけて、報酬で買っちゃおっと」

 

 明乃の軽口に対し律儀に答える樹。それに理奈が乗っかったことで5人の間に小さな笑いが走る。そうしてそれから間もなく──。

 

「来たッ!」

 

 空間に入った罅の量が次々と加速度的に増えていき……その最後に、空間が砕けてその中から漆黒の闇が覗く。

 そうしてその闇の中から姿を現したのは──。 

 

『フム。活動限界ギリギリと言ったところか……。使えないと唾棄すべきか、それともよくやったと褒めるべきか──貴様等はどう思う? 人間よ……』

 

 およそ、全長3m程だろうか。まるで人型の戦闘ロボットのようなスマートなフォルムをし、背中から翼のように6本のワイヤーを生やした──人型の異形だった。

 

「か、カッコいい……。これはちょっと、ときめいちゃうかも……!」

「し、しっかりして緋乃ちゃん!? 目を輝かせてる場合じゃないよ! あれ敵だからね!?」

「ああうん、緋乃ってああいうスタイリッシュな戦闘メカ好きだもんね──じゃなくて! あれが次元の悪魔……?」

 

 ゲルセミウムのその姿を見た後、確認を取るかのように犬飼へと目をやる明乃。

 しかし、主に緋乃のせいで緩い雰囲気を纏う三人の少女たちとは裏腹に大人二人の表情は非常に暗かった。

 

「ああ、そうだ。昔見させられたご先祖サマの記憶そのままだぜ……!」

「ぐぅ、なんというプレッシャー……。なるほど、これを見せられたから我が祖先は彼らを……!」

 

 額に汗を滲ませ、緊張した面持ちで次元の悪魔──ゲルセミウムを睨む犬飼と樹。

 一方、そんな人間たちの事情など知った事かとばかりにゲルセミウムは己の拳をその横一文字に赤く光る目で見つめていた。

 

『「壁」の破壊は不能……。大規模捕食が行えない以上、地道にエナジーを吸収するしかないか……。まあ贅沢の言える立場ではないか。復活できただけでも良しとしよう……』

 

 己の能力についてブツブツと独り言を呟いていたゲルセミウムは、ふとその顔を上げて自身の目の前に立つ5人の人間──その中でも特に緋乃へと目線を向けた。

 

『ホゥ……。人間にしてはなかなかの生命力だな、小娘。普段ならばお前のような美しい娘は愛玩動物(ペット)として飼ってやるのだが……運が悪かったな。その生命(いのち)──我に捧げるがいい』

「来るぞ! 備えろ!」

 

 ゲルセミウムの背から生える、先端に鋼色の(やじり)が付いた細いワイヤーが一斉に緋乃へと狙いを定めたかと思った次の瞬間。

 音を置き去りにして、それらのワイヤーが一斉に撃ち出された。

 

「──ッ!? てやああぁぁぁぁぁぁ!」

「うおおぉぉぉぉぉぉ!?」

「きゃああぁぁ!?」

 

 緋乃は必死にその場から飛び退くことで撃ち出された6本のワイヤーのうち4本の回避に成功。そのうち避けきれないと判断した残り2本に関しては拳で迎撃を図り──それ自体はなんとか成功した。緋乃の両拳を犠牲にして。

 

(痛い!? あんな手抜きの攻撃でこの威力だなんて!?)

「緋乃ちゃん!? その手──!? くっ……! 癒しの光よ!」

 

 緋乃の拳には深い傷跡が刻まれており、その痛みから緋乃は目に涙を滲ませる。

 怪我自体は理奈がすぐ直したのだが、メンバーの中で一番の防御力を誇る緋乃でも防ぎきれないその破壊力を目撃した全員に驚愕と緊張が走る。

 

「ちょ、ちょっと! 復活直後だから弱ってるなんて言ったの誰よ! めっちゃ強いじゃない!?」

「るせぇ! 本来なら世界ごと喰われて終わってたんだ! それに比べりゃまだマシだ……!」

「これは、不味いな……!」

『ほう、今のを防ぐか。人間にしてはやるではないか……。ふむ、興が乗った。少しだけ遊んでやろう……』

 

 攻撃の為に伸ばしたワイヤーを本来の長さへと戻しながら、ゲルセミウムは今の攻撃を防ぎ切った緋乃へと賞賛の言葉を贈る。

 そうして再びワイヤーを持ち上げ、先ほどと同様に緋乃へと狙いを定めようとしたその時。理奈が動いた。

 

「城塞の加護よ! 癒しの風よ! 鷹の目の加護よ! 光の祝福よ──! お父さんと犬飼さんはいても役に立たないから逃げて! 邪魔! 私と明乃ちゃんは下がって緋乃ちゃんの援護! いいね!?」

「これは!? ありがと理奈! これなら──!」

「っしゃあ! こうなったら覚悟決めたわ! 援護は任せろ!」

「待て理奈! いくらなんでもお前たちだけでは──!」

「うるさい! いいから逃げて! いても邪魔だってのがわからないの!?」

 

 防御力大幅強化に持続回復(リジェネ)。更に動体視力の強化に全能力強化。緋乃と明乃、そして自身へととにかく補助魔法をかけまくる理奈。

 補助魔法というのはかけたらそれで終わりというものではなく、解除するまで精神力を消費し続ける上に、その維持のために意識も割かねばならぬという非常に「重い」魔法である。

 それを三人もの人数に同時にこれだけの量をかけるというのは高い才能を持つ理奈にとってもかなりの負担であり、賭けにも等しい。

 もし途中で重い負担に耐え切れず補助魔法を維持できなくなれば、待っているのは全員の死なのだから。

 故に理奈は足手纏いと判断した大人二人に対し、必死で暴言にも等しい言葉を吐いてこれを逃がそうとするのだが──。

 

「クソが! ガキにそこまで言われて──そこまでさせといて逃げれるか! いくら最強の悪魔とはいえ、今は復活直後でガス欠寸前! 今なら俺たちにだって──」

「待ってオジサン!? うかつに突っ込んじゃ──」

 

 理奈の言葉を受け、逆に奮起した──奮起してしまった犬飼が、明乃の忠告を無視してその肉体を限界まで強化してゲルセミウムへと駆けだした。だが、しかし……。

 

「うおおおぉぉぉー! ──ガッ!?」

『フン。我も甘く見られたものだ……。人間風情が、身の程を弁えよ』

「お、おじさん!? おじさぁぁん!」

 

 ゲルセミウムは緋乃を狙っていたワイヤーのうち、4本の狙いを犬飼へと即座に変更。冷静にこれを迎撃した。

 雄たけびを上げながら突進していた犬飼は撃ち出されたワイヤーのうち2本を回避することには成功するものの、残りの2本は胴体と左脚に直撃。その身体を貫かれてしまうのであった。

 

「グウゥ……ちく、しょ……!」

『愚かだな。そこの魔法使いの小娘の言う通り、素直に逃げていればよかったものを……フン!』

「ぐあああぁぁぁぁ!?」

 

 ゲルセミウムは血反吐を吐き、地面へと倒れた犬飼を再度ワイヤーの先端に存在する鏃で突き刺す。するとその直後、犬飼の身体が光に包まれ──影も形も残さず、消滅してしまった。

 

『フム。エネルギー量も大したことがない……。質も微妙だ……。お前たち人間風に言えば、「不味い」と言った感じか?』

「そ、そんな……」

「う、嘘……。まさか……食ったっての……?」

「即死攻撃ってことだね……! これは厄介……!」

 

 突然の犬飼の死に衝撃を受ける理奈と明乃。

 その驚愕から立ち直れない二人をよそに、緋乃は敵の攻撃手段の一つを暴いてくれた戦友へと感謝の祈りを内心で捧げ──勢いよくゲルセミウムへ向かい突撃した。

 

(先端の鏃が刺さると不味い! 距離を離されたらあの突きの乱舞が始まるから駄目……! 接近戦でべったり張り付く!)


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