目指すは地球の最強種   作:ジェム足りない

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3話 模擬戦

「ええ。生き残るために悪魔の力を奪い取った、それはまあいいでしょう。しかし、奪い取ったその力に身を蝕まれ──魂を犯され、汚された貴女にお兄様の隣に立つ資格はありません! 人間には本来存在しないその尻尾こそ、貴方の魂が人のそれではないことの証明!」

「六花! お前は言っていいことと悪いことの区別も──」

 

 それまで六花の発言を黙って聞いていた総一郎と一心であったが、流石にその発言は一線を超えたのか。

 総一郎が声を荒げ、六花のその発言を咎める。

 

「黙っててくださいお兄様! お兄様だってわかってるでしょう? 大神家は退魔の名家。この国の退魔師にとっての模範でなければならないのです! その次期当主ともあろうお方が、こんな尻尾の生えた小娘に現を抜かすなど……! しかもまだ彼女は12歳だそうじゃないですか! 犯罪ですよ犯罪!」

「むぅ……! し、しかし……」

 

 しかし、兄からの怒声を受けても六花は止まらない。むしろより声を荒げる始末だ。

 六花のその発言を受け、痛いところを突かれたとばかりに怯む総一郎。

 それを見て、一心が動き出そうとしたその瞬間。散々槍玉に挙げられていた緋乃が口を開いた。

 

「弱っちいくせに随分偉そうだね。退魔の名家って言うなら、権威どうこうの前に実力を重視すべきなんじゃないの?」

「──なんですって?」

 

 緋乃のその言葉を聞いた瞬間、ギロリという擬音が似合いそうな形相で六花は緋乃を睨む。

 緋乃はそんな六花に対し、これまで散々好き勝手言ってくれた鬱憤を晴らすかの如く挑発的な言葉をお返しするのであった。

 

「だって事実だし。ゲルセミウムとの──ああ、次元の悪魔の名前ね。そのゲルセミウムとの戦いのとき安全圏でぬくぬくしてたような奴に好き勝手言われてもね。いやまあ、仮にいたとしても瞬殺されてただろうけど……」

「……言ってくれますわね。偶々現場にいて、運よく黒幕を倒せただけの小娘が……」

 

 小馬鹿にした様子で口を開く緋乃を、まるで親の仇でも見るかのような目で睨む六花と──事情があったにせよ、国の危機に動けなかったのは事実なので気まずそうに緋乃から目を逸らす総一郎と一心。

 緋乃に痛いところを突かれた退魔師組が一斉に黙り、状況が膠着したその瞬間。

 これまでの流れを静観していた──実際には緋乃が馬鹿にされたあたりで動こうとしたのだが、先に総一郎や緋乃が動いたためにタイミングを逃しただけである──明乃が動いた。

 

「じゃあさ、実際に戦ってみればいいじゃん」

 

 

 

 

 

 

「ルールは一本先取で、生命に関わるような怪我をさせる技および術式は禁止。逆にこれさえ守れるのならば術式、武装、ギフト。どれも使用可とします。──何か質問は?」

「ありませんわ。さっさと始めましょう? わたくし、こう見えて忙しいので」

「へぇ、なら運がいいね。わたしが一瞬で終わらせてあげるから、すぐ用事に取り掛かれるよ?」

「減らず口を……!」

 

 屋敷の中央に位置する、その広い庭へと移動した緋乃たち。

 互いに10m程の距離を開け、向かい合う緋乃と六花。

 二人は試合のルールを説明する野中をよそに挑発を飛ばし合っていた。

 

「うーむ、すまないね明乃君……。うちの娘が君の友人に……」

「六花にはあとで俺からきつく言っておこう。緋乃に負けた後ならば、少しは頭も冷えているはずだ」

「へぇ意外。総一郎さんは妹さんの応援しないんだ?」

 

 表面上は何でもない風を装ってはいるものの、明乃も相当頭に来ていたのだろう。

 大神家の二人に対し、刺々しい言葉を放つ明乃。

 

「現在の緋乃の力量は知らないが、恐らくは悪魔の力を取り込んだことで相当に強化されている事だろう。それに対し、六花の戦闘力はそうだな──新世代選手権の時の手加減状態の緋乃に対しても8:2で不利といったところか? なんにせよ、六花に勝てる要素などない」

「え、あの時の緋乃がかなり手加減してたっての知ってるの!?」

 

 そんな明乃の様子に気付いていないのか──あるいは藪蛇にならないよう、意図的に触れないようにしているのか。

 六花に対し、冷徹な目を向けながら緋乃と六花の戦力差を評する総一郎。

 それを聞いた明乃は思わずといった様子で驚愕の声を漏らした。

 

「……? 君は何を言っているんだ? そんなの、見ればわかるだろう? いやまあ、あの愚妹は気付いていなかったようだが……」

「うむ、表情にもまだまだ余裕が感じられたし、それに本戦において二度使用した決め技であるあの爆破技──確か、ホワイトアウトだったかな? それで膨大な気を消費したにも関わらず、微塵も消耗した様子を見せていなかったからね……」

 

 まるで当然のことを語るかのように、緋乃の手加減に対する根拠を口にする大神家の男たち。

 それを聞いた明乃は、何とも言えない表情をして緋乃と六花の方へ目をやるのであった。

 

 

「それでは……始め!」

「先手必勝──!」

 

 野中が試合開始の合図を叫ぶと同時。六花はスカートの裾部分に仕込んでいた短刀を素早く両手に2本ずつ手に取ると緋乃の周囲へばら撒くようそれを投擲。

 一見すると見当違いの方向へと飛んでいく短刀であったが──。

 

「むっ!」

 

 その短刀はある程度の距離を進むと、まるで意思を持っているかの如く、緋乃目掛けて方向を修正。更にそれだけではなく、速度も急激に倍加。

 術式が仕込んでありますよと言わんばかりに、これ見よがしに青く輝く刃が銃弾もかくやという速度で緋乃へと迫りくる。

 

「甘い」

 

 それに対し、緋乃が取った手段は回避でも防御でもなく迎撃だった。

 緋乃は素早く尻尾を操ると、飛んでくる短刀の腹を次々と撃ち抜き──その刃を爆散させた。

 

「なっ、四本とも!? ──ならっ! 爆雷符!」

 

 流石にすべてを迎撃されるのは予想外だったのか、驚愕の声を漏らす六花。

 しかし驚いた様子を見せながらも、攻撃の手を止めないのはさすがに退魔の名家と言ったところか。

 緋乃へ短刀を投げつけた直後に懐から取り出した呪符へと素早く霊力──魔力のことを退魔師はこう呼ぶ──を込め、そのまま投げつける。

 その呪符は薄い紙であるというのに、まるでボールでも投げたかのように高速で緋乃目掛けて飛び──先ほどの短刀と同様に緋乃の尻尾に撃ち抜かれた。

 

「きゃ!?」

「──かかった!」

 

 しかし、緋乃の尻尾が呪符を撃ち抜いたその瞬間。呪符は目も眩むような光と共に大爆発を引き起こす。

 爆雷符──巨大な爆発と共に雷撃を撒き散らし、爆発のダメージと電気ショックで相手を行動不能にすることを目的とした呪符だ。

 爆発くらいまでは予想できていた緋乃だったが、閃光までは予想外だったのか思わず悲鳴を漏らしてしまう。

 

「食らいなさい! これで──」

 

 そんな緋乃を見て、勝利を確信したのか六花は再びスカートの裾から短刀を取り出してその両拳に挟み込む。片手に4本ずつでその数8本。試合開始直後に投げつけてきた倍の数だ。

 六花はその短刀を雑にばら撒くよう投げつけると、隠し持っていた小太刀を抜き音もなく緋乃へと駆け寄り──。

 

「なんてね?」

「──終わ!? なっ!?」

 

 その手に握る小太刀で緋乃を斬りつけんと六花が一歩踏み出したその瞬間。

 これまでの数倍の速度。音速をも凌駕する圧倒的なスピードで振るわれた緋乃の尻尾が瞬時に全ての短刀を撃ち抜き──その勢いのまま、六花の全身に巻き付いて縛り上げた。

 

「あぎ……! がぁ……!?」

「はぁ~、いくらなんでも弱すぎ。わたしは一歩も動いてないし、お前が馬鹿にしたこの尻尾しか使ってないんだよ? 全然ダメダメだね。そんな情けない戦闘力で名家とか名乗ってて恥ずかしいと思わないの?」

 

 その顔に嘲りの表情を浮かべ、六花をこれでもかと煽り倒す緋乃。

 しかし全身を緋乃の尻尾で締め上げられ、悲鳴を上げている六花には緋乃に対し言い返す余裕もなく──いや、そもそもその煽りを聞けているのかも怪しい始末だ。

 

「がっ……! ああぁ……!」

「ほらほら、早く抜け出さないと死んじゃうよ~? いや、これはお遊びだから殺さないけどさ。ちゃんと死ぬ寸前で止めるけど」

 

 試合開始地点から一歩も動かず、クスクスと笑いながら六花を締め上げる緋乃。

 

「あ゛あ゛っ!?」

 

 そのまま六花を締め上げる緋乃であったが、やがて六花の肉体が耐久限界を迎えたのか。

 その身体がミシミシと軋み、六花が目を見開いて大粒の涙を流し──。

 

「そこまで!」

 

 六花の心が完全に折れたのを確認した野中の、試合終了の声が庭に響き渡った。




BLタグは付け忘れたとかそういう訳ではありません。
つまりはまあ、そういう事です。
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