「妖魔退治のアルバイトぉ!? ちょ、二人とも何勝手に危ないことやってんの!」
大神家への挨拶回りを終えた翌日の学校、その昼休み。封鎖されて誰もいないはずの屋上に理奈の声が木霊する。
周囲に誰もいない場所で落ち着いて内緒話が出来るという屋上の環境に味を占めた緋乃たちは昼休みになるとちょくちょく屋上へ侵入しており──今日もまた侵入していたのだ。
「いや、あたしは止めたわよ? でも緋乃が……」
明乃から緋乃と共に、妖魔退治のアルバイトを始めたことを聞いた理奈は明乃に対し、何故止めなかったのかと非難の眼差しを送り──それに対し、困ったような声と表情で言い訳をする明乃。
それを見て、即座に緋乃の我儘が発動したのだということを悟った理奈は、頭を抱えながら愚痴を漏らすのであった。
「あーもう、ちょっと目を離すとすぐ悪い大人に寄り付かれて……! お金に困ってるなら私が工面してあげるし、何なら雇ってあげるのに……!」
「いや、お小遣い目当てってのもあるけど、それより鍛錬目当ての割合が大きいよ? 妖魔だったら殺しても問題ないんだし、人間には出来ない技を試したりとかいい鍛錬になりそうじゃない? ふふっ、わたしってば冴えてるね」
理奈の思わず零したのであろう呟きに対し、得意気な顔を浮かべながらアルバイトを受けた理由を説明する緋乃。
そんな緋乃を見て、理奈は大きなため息を吐く。
「そんな適当な理由で危ない橋を渡らなくても……」
「まあ、安心しなさいよ理奈。あくまであたしたちがやるのは雑魚散らしのお手伝い。強い妖魔はプロが対処するってことになってんだし、そもそも気が乗らなかったりしたら別に依頼受けなくてもいいんだから!」
「わたしたちは学生で、将来有望だからかなり甘くしてくれてるんだって。なんかゲームでよくある、冒険者ギルドの討伐クエストみたいだよね」
「まあ、もう受けちゃったのなら仕方ないけどさ……。でも、本当に気をつけてよ?」
明乃と緋乃の二人がかりの説明を受け、渋々といった様子で納得を示す理奈。
なんとか理奈の説得に成功した緋乃と明乃は、ほっと一息を吐くのであった。
「そう言えば、妖魔ってどこにでも湧くらしいけど……ここら辺の妖魔退治ってどうなってんの? もしかして理奈がやってたり?」
話題がそれから始まったからということもあり、その後も妖魔やその最終進化形態ともいえる妖怪についての話をする三人であったが、ふと緋乃が自身の住む町の妖魔退治の状況についての疑問を口にした。
「ううん、そんなことしないよ? ここら辺はそもそも妖魔が発生しないからね。……まあ、たまーによそから紛れ込んでくることがあるから、その時は近くにいる魔法関係者が出張るって形を取ってるけど」
「妖魔が発生しない……? あれ、でも妖魔って自然災害みたいなもんで勝手に湧いてくるって……」
明乃や緋乃が野中から聞いた話では、妖魔とは人々から湧き出る負の思念と大気に満ちる陰の気が混ざり合った結果自然発生する悪霊が進化し、実態を得た存在であり──人が住んでいる場所ならどこにでも発生する可能性があるとのことだった。
しかし、理奈が言うには自分たちの住むこのあたりでは妖魔が発生しないらしい。
教えられたことと食い違う、それを聞いた緋乃が疑問の声を上げると、理奈が笑いながらそのカラクリについて教えてくれた。
「ふふん、普通はそうなんだけどね。私たちは優秀ですので、このあたり一帯にちょっとした仕掛けをして、いわゆる陰の気が溜まらないようにしてあるんだよね。だから悪霊が発生しないってわけ。そして、悪霊が発生しないってことはその進化形態である妖魔も当然出てこない」
「ふーん。なら、他のところもそれ真似すればいいのに……」
理奈の説明を受けた緋乃が、思わずといった様子でその感想を漏らす。
しかし、その緋乃の感想に対し理奈は難しそうな顔をしながら首を横に振った。
「いやー、それは難しいと思うよ? うちの場合はポストや電柱やらに色々と細工をして、市の全域を巨大な魔法陣に見立ててこれをやってる訳だけど……これまた維持管理が面倒なんだよねえ。ぶっちゃけちゃうと、悪霊が発生してから人を派遣した方が安上がりだから、そろそろやめないかって話が上がってるくらいで……」
「下手にシステムやらを構築して原因を無くすより、人間使って対処した方が安上がりって事ね。なんか、世知辛いわねぇ……」
「ホントにね……」
理奈の話を聞いた明乃が、やるせない表情を浮かべながら肩を落とす。
それを見て、三人の間にしんみりとした空気が流れるのであった。
「お、メールだ。もしかして……」
その日の夜。食事と風呂を終え、寝巻に着替えた緋乃がベッドに腰掛けながらスマホを弄っていると、ちょうど一件のメールを受信した。
僅かばかりの期待を胸に、緋乃はメールのアプリを起動。するとそこには、送信者として特殊事象対策課の文字が記されていた。
「おお、もう来たんだ……。ふふっ、いいね。わくわくしてきちゃった……」
緋乃が微笑みながらそのメールを開くと、そこには妖魔退治についての実地訓練を行うので次の土曜日は開けておいて欲しいという旨が書かれていた。
それを見た緋乃は笑みを深くすると、すぐさま了解の返信を送り、ベッドにごろんと横になる。
(たしか目安としては、格闘家に置き換えるとアマチュア以上プロ以下くらいだっけ? まあ大した相手じゃないけど……遠慮なくこの尻尾や蹴りを叩き込めるってのはワクワクするね)
顔の前へと持ってきた尻尾を優しく撫でながら、緋乃は土曜日の実地訓練について思いを馳せるのであった。
◇
待ちに待った土曜日、その夕暮れ時。
勝陽市から車で3時間ほどの田舎町に存在する、両隣を雑木林に挟まれた人気のない寂れた道路。そこに緋乃と総一郎の姿があった。
「えっと……ここに妖魔が?」
「ああ。逢魔が時という言葉は聞いたことがあるだろう? 昼と夜の境目。人々の心に巣食う不安が最も大きくなり、また同時に陰の気が高まりだすこの時間に奴ら──妖魔は発生する。いや、進化すると言うべきかな?」
二人の目的は妖魔退治の実地訓練。
妖魔という存在を見たことのない緋乃のために、その倒し方や注意すべき点などをレクチャーするというのが今日の目的だ。
「えっと……。総一郎さんって──」
「『さん』はいらん。総一郎でいい、気軽に呼んでくれ。なんならあだ名をつけても構わんぞ?」
「いや、さすがにそれは難易度高いかなーって。じゃあ、総一郎。総一郎って結構なお偉いさんなんだよね? わたしの訓練なんかに付き合ってて大丈夫なの?」
いくら期待されてるとはいえ、退魔師たちを取り纏める名家の次期当主とも呼ばれる男がペーペーの新米である自分なんかに構っていていいのかという当然の疑問を抱いた緋乃。
そんな緋乃に対し、総一郎は薄く微笑みながら口を開く。
「構わんさ。俺が対処すべき案件は、既に全て終わらせてきた。それに、俺にとって今一番重要なのは──お前の好感度稼ぎだからな」
「ふふっ、そっか。でも、わたしの攻略難易度はすごく高いよ?」
「構わんさ。困難な壁ほど乗り越えがいがあるというものだ」
妖魔出現までの暇つぶしとばかりに、にこやかに会話を続ける緋乃と総一郎。
そんな二人を物陰からこっそりと盗み見る二つの影があった。
「ぐぬぬ、あの小娘ぇ……。ちょっとお兄様との距離近すぎでしょう……? 少しは恥じらいとかそういうのはないんですの……!?」
「うわー、凄い顔。鬼の形相ってこういうことかー……」
つい先日、緋乃に戦闘者としての格の違いを嫌というほど叩き込まれた大神六花と、緋乃の大親友にして、最大の理解者を自任する明乃である。
「それにしても、まさか六花さんからあたしに連絡が来るとはね……。言っとくけど、緋乃に悪い事をしようってのなら容赦しませんよ? どんな手を使ってでも邪魔しますから」
「ふん、その点については安心していいわよ? ぶっちゃけもうあの娘の相手は懲りたし──お兄様とお父様からも大目玉を食らっちゃいましたからね……。うう、尻尾怖い尻尾怖い……。ああ、骨がミシミシ……」
緋乃に一方的に痛めつけられたのがトラウマと化しているのか、両腕でその身体を抱いてカタカタと震える六花。
そんな六花を見た明乃はため息を吐くと、再び緋乃と総一郎の観察を再開するのであった。
「理奈ならともかく、あんなぽっと出の奴に緋乃を渡してなるもんか……!」
「……しゅん!」
「ふ、可愛らしいくしゃみだ」
「うう、これはあれだよ。きっとどこかで、誰かがわたしを褒め称えてるに違いない……」
「それは困るな。俺の仕事が減ってしまうでは──む、来たか」
総一郎の注意を受けた緋乃が気を引き締めて前方を注視すると、まるで巨大なレンズでも設置したかのように雑木林の一部が歪む。
それを見た緋乃が息をのみ、アクセサリーのように太ももへ巻き付けていた尻尾を開放して戦闘態勢を取る。
「では実地訓練の開始と行こうか。わからないことがあったらその時点で質問してくれ」
「うん」
「よし、ではまず一つ目。妖魔の発生前にその現場にたどり着けた場合は人払いの術式、あるいは呪符や呪具を用いて一般人の侵入を阻止。今回はもう俺がこのあたりに結界を張っておいたから使う必要はないが、もし一人で討伐を行う場合は忘れないでくれ」
「わかった」
総一郎の教えに対し、素直に頷く緋乃。
「もし発生前に現場へとたどり着けなかった場合も、基本は人払いからだが──妖魔が逃げようとしていたら、先に討伐してしまっても構わん。そして、もし人払いが間に合わなかった場合や、一般人の前で妖魔が発生してしまった場合。この場合は臨機応変としか言いようがないな。一般人に被害が出ないことを最優先とし、隠蔽は二の次だ」
「人優先ね、わかった」
再び緋乃が頷くと、ちょうどそのタイミングで歪みが小さくなり──その歪みの中から緑色の肌をした、全長2.5mほどはあろうかという一つ目の巨人が姿を現した。
「えっと……。サイクロプス……?」
妖魔というので和風の怪物をイメージしていた緋乃であるが、実際に目にした妖魔の姿はゲームなどでよく見る、ある意味で緋乃にとっても馴染み深いものであった。
思わず困惑の声を上げてしまう緋乃であったが、総一郎がその現象についての解説を入れる。
「妖魔の外見は人々のイメージで変化する。昔はもっと妖怪然とした奴らが見られたらしいが、最近はテレビゲームの影響やらでこういう外見の奴らが増えてきてな。直近だと次元の悪魔事件の影響でメカっぽい妖魔も見られるようになってきたぞ?」
「そっか……。人々の思念が素材だから、みんなの意識する魔物のイメージに引っ張られるんだね……」
「そういう事だ」
緋乃と総一郎が語り合っている間に、歪みから完全に出てきたサイクロプス。
それは周囲をきょろきょろと見回すと、自身の獲物であり怨敵でもある退魔師──強い陽の気を漂わせる人間を発見して雄叫びを上げた。
「こちらに気付いたな。では二つ目だ。普通に退治──と言いたいが、ここで注意が一つ。妖魔とは実体を持ってこそいるものの、基本的には陰の気の集合体だ。故に通常兵器や気の込められていない打撃は利きが悪い。陽の力である霊力──即ち、気を用いた攻撃を心掛けろ。まあ、膨大な気を持つお前に言うべきことではないか」
サイクロプスは手近にあった街路樹を手ごろな大きさにへし折り、即席の棍棒を作るとそれに黒い瘴気のようなもやを纏わせる。
恐らくは妖魔流の武装強化なのだろう。それを見た緋乃の目が細められ、その武装強化に対抗するかのように気を纏う。
「ほう、尻尾は使わないのか?」
緋乃とサイクロプス、互いの距離は30m程度。
尻尾を伸ばせば安全に、かつ一方的に攻撃できる距離ではあるが、それをせず構えを取る緋乃を見て総一郎が疑問の声を漏らす。
「尻尾は強いけど、加減が効きにくいから……。まずは妖魔の動きとか耐久力とか、そういう基礎スペック的なのを見たい」
緋乃の回答を聞いた総一郎はなるほどと頷く。それと同時に、サイクロプスが先ほどより大きな雄叫びを上げ──緋乃目掛けて一気に走り出す。
「では戦闘開始だ。怪我をしないよう気をつけるんだぞ」
「うん!」
総一郎は緋乃の戦闘の邪魔にならないよう、サイクロプスから距離を取るように跳んで後退。その場には構えを取る緋乃のみが残された。
それを見て各個撃破のチャンスとでも思ったのか、緋乃へと駆け寄ったサイクロプスがその右手に握る即席棍棒を大きく振りかぶり、緋乃の頭部目掛けて勢いよく振り下ろし──。
「遅い」
誰もいない地面へと、その棍棒が突き刺さる。
(見た目通り、パワーはそれなりにあるみたいだね。直撃したら、でかいたんこぶができちゃうな……)
サイクロプスの振り下ろしを回避した緋乃は、弾け飛ぶアスファルトに目を細めながらその威力について考えを巡らせる。
(アマチュア格闘家レベルって聞いてたけど、パワーだけならプロレベルはありそう。……まあ、いかにもパワー系って見た目だし、多分あの個体が物理打撃特化とかそういうのなんだろうね)
初撃を回避されたサイクロプスは慌てず騒がず、冷静に緋乃へと第二撃を放つ。
振り下ろした棍棒をそのまま横方向へと振り回し、緋乃の胴体を殴り飛ばさんとし──。
「甘いっ! ──てやぁ!」
身を屈めた緋乃に回避され、棍棒をすかされたことで隙を晒すサイクロプス。
その丸太のように太い脚に、緋乃による反撃のローキックが叩き込まれた。
(耐久力は大したことない! やっぱり、強いのはパワーだけだ)
蹴りを叩き込んだ脚から伝わる、ボキボキという骨のへし折れる感触。
その心地良い感触と、自身の考察が当たっていた喜びから口元を歪める緋乃。
逆に左脚を砕かれたサイクロプスは汚い悲鳴を上げ、その身体を大きくぐらつかせた。
「てやあぁ!」
そして、その大きな隙を見逃してやるほど緋乃は甘くない。そのまま体勢を崩したサイクロプスへと連続攻撃を繰り出す。
距離を詰めるついでに、その勢いを加えた左拳を脇腹に叩き込む。そのまま体を捻り、腹筋という鎧で守られた腹目掛けて右アッパーを繰り出し、拳を腹へとめり込ませる。
悶絶し、拳を叩き込まれたその衝撃でサイクロクスの巨体が軽く後退。
「はあぁ!」
そうして少しだけ空いた距離を最大限に利用し、緋乃はその右脚を力強く振り上げ──サイクロプスの胴体へと、ハイキックが勢いよく突き刺さる。
緋乃の脚はサイクロプスのあばら骨を粉々に粉砕しながらその胴体へと大きくめり込み──緑色の巨体を、雑木林の中へと勢い良く吹き飛ばした。
「ふぅ……。肉を抉らないようある程度の手加減は必要だけど──殺さないよう気をつけなくていいってのは気持ちいね」
「妖魔をストレス解消のサンドバック扱いか。一般的な退魔師が聞いたら嫉妬間違いなしだな」
勝負ありと見た総一郎が緋乃の元へと近寄ってくる。
もはや立ち上がるだけの気力も残っていないのか、倒れ伏したままピクピクと震えるだけのサイクロプスを前に雑談を開始する緋乃と総一郎。
しかし、自身に向けられる緋乃の興味が薄れたことを好機とでも思ったのか、力なく倒れていた筈のサイクロプスは勢い良く立ち上がるとその手に握っていた棍棒を勢いよく緋乃目掛けて投げつけてきた。
「おっと。第二ラウンド開始──って逃げるんだ……。怪物のクセに……」
「あいつは足が遅いから問題ないが、空飛ぶ妖魔の場合は注意が必要だな。先に羽などを潰して飛行能力を奪っておくといい」
自身目掛け高速で飛んでくる大きな棍棒。それを緋乃は尻尾で器用に絡め取ると再び構えを取る──のだが、サイクロプスの次なる一手は逃走であった。
ドタドタと背を向け、情けなく逃げるその姿を見て緋乃が思わず落胆の息を漏らす。
「りょーかい。さて、それじゃあ締まらないけど──トドメといこうかな?」
総一郎からのアドバイスに返事をした緋乃は、その尻尾で絡め取っていた棍棒を雑木林へと投げ捨てる。
そうしてフリーになった尻尾のその先端をサイクロプスに向け──次の瞬間、音をも超える速度で尻尾が一気に伸びた。
尻尾は逃げるサイクロプスへ瞬時に追い付き、そのまま
「む、狙いが──ああ、そういうことか」
珍しいものでも見たかのように、驚きの声を漏らす総一郎。
しかし、すぐに緋乃の真の狙いに気付いたのだろう。納得した様子でその顎に手を当てるのだった。
「まあ、ちょっとした攻撃のバリエーションというか……。普通に尻尾で撃ち抜くだけだとそのまま逃げられちゃうかもしれないし? ──それっ!」
総一郎への言葉を口にしつつ、腕組みをしながら尻尾を操る緋乃。
サイクロプスを追い越した緋乃の尻尾は、そのまま円を描くように緑の巨人の周囲を一周すると──緋乃が気合を込めると同時に、その円を一気に絞り上げる。
ワイヤーのように硬く、そして細い緋乃の尻尾。それにより胴体を瞬時に締め上げられたサイクロプスは悲鳴を上げる間もなく──両腕ごとその胴体を両断されるのであった。
「いよっし、成功! えへへ、生物相手にやるのは初めてだけど、上手くいった!」
「切断攻撃か。うむ、柔らかい敵が相手なら極めて有効だな。……ちなみにだが、妖魔は生物ではないぞ?」
「ふふっ。まあ実体を持ってる以上、似たようなものだしいいじゃん。言葉の綾ってやつだよ」
胴体を切断されながらも、それでもまだ逃げようと醜くもがくサイクロプス。
ナメクジのように這い、ずりずりと動くその上半身に上空から尻尾を突き立て──地面へと縫い留めながら緋乃は総一郎へと笑顔を向ける。
「お、消えた……。これで退治完了、なのかな?」
サイクロプスを地面へと縫い留めること数秒。緑色の巨人はその全身から黒いもやのようなものを吹き出し、跡形もなく消え去ってしまう。
それを確認した緋乃は、尻尾を元の長さまで巻き戻しながら口を開く。
「うむ。妖魔は死ぬとああやって霧散するのだ。血や肉片も消えるから、どれだけ派手にぶちまけても構わんわけだな。ただし、破壊された道路やらは直らんからそこだけは注意だな」
「ああ、そっか……。戦力調査のためにわざと攻撃されてみたから歩道が……」
総一郎の言葉を聞き、緋乃がその尻尾と肩をしゅんと落とす。
本来なら防げた損害を出してしまい、申し訳なさそうな顔をする緋乃。
「気にするな。フリーの退魔師に任せていたら、この道路が使い物にならなくなる程度の被害は出ていただろうからな。それに比べればこの程度の被害などないも同然だ、胸を張れ」
総一郎は苦笑しながらその頭をくしゃりと撫で、慰めの言葉を口にするのであった。