目指すは地球の最強種   作:ジェム足りない

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7話 噂話

「おーう、そいじゃあお疲れーい。お前ら寄り道せず帰るんだぞ~」

 

 担任の小山田がそう告げると同時に、生徒たちの声で騒がしくなる教室。

 退魔剣士の奏と遭遇した三日後。無事に授業を終えた緋乃と明乃は、話しかけてくるクラスメイトへと対応をしながら帰る準備をしていた。

 

「いやー、終わった終わった! さぁーて、帰るわよ緋乃!」

「ん。それで今日はどうする? 理奈は忙しいみたいだし、うちきて遊ぶ?」

「うーん、そうねぇ……。ならお邪魔しようかしら? じゃあ家帰ったら速攻で……ってなんか騒がしいわね?」

 

 緋乃と明乃が今日の予定について話していると、にわかに教室が騒がしくなる。

 一体何事かと周囲の様子を窺えば、窓際にクラスメイトたち──それも主に女子たちが中心となって集まっており、窓の外を見てざわめいている。

 

「外がどうかしたのかしらね? まるで芸能人でも来たみたいに騒いじゃって──ってげっ!」

「どうしたの明乃? 嫌そうな顔しちゃって……。外に何かあったの?」

 

 興味本位からか、窓のそばによって外の景色を確認する明乃。

 しかし、明乃は外を確認した途端にまるで嫌なものを見てしまったと言わんばかりにその顔を歪めてしまう。

 それを見た緋乃が、一体外に何があるのかと自分も窓際によってみれば──。

 

「あれは……総一郎? なんで学校に?」

 

 校門付近に停車する一台の車。そしてそのそばには一人の男──大神総一郎が立っているのであった。

 

 

 

 

 

 

「それで……どうして急に学校に? 何か問題でもあったの?」

 

 総一郎に促されるまま、車の後部座席に乗り込んだ緋乃と明乃。

 緋乃は隣に座る、不機嫌オーラ全開の明乃へと冷や汗を流しながら、自分たちを迎えに来た総一郎へその理由を問う。

 

「そうだな……。緋乃(おまえ)の顔が見たくなった。……というのはどうだ?」

「通報していいかしら? こう、ロリコン罪的な罪で」

「それは困るからやめてくれ。揉み消すのにも手間がかかるからな。それと、勘違いしているようだが俺はロリコンではないぞ? この総一郎、緋乃以外の人間に心奪われたことは一度もない。たまたま緋乃が幼く、小柄であっただけというわけで──」

「それを世間じゃロリコンって言うのよこのヘンタイ」

「むぅ……」

 

 総一郎の言い訳に対し、不機嫌さを隠そうともしない声でそれを断ずる明乃。

 強い口調で自身の言い訳をぶった切られた総一郎が困り果てたといったような呻き声を漏らし──それを聞いた緋乃が、得意気な笑みを浮かべながら口を開く。

 

「まあまあ、そうカリカリしないの。つまり、それだけわたしが魅力的だってことでしょ? うふふ、魔性の女でごめんね?」

「はぁ……。ホントに魔性だから困るわよ……」

 

 ウィンクをし、ちろりと舌を出しながら軽い調子で声を出す緋乃。

 そんな緋乃に対し、明乃は軽くため息を吐くと──誰にも聞こえないよう、小さな声を出すのであった。

 

 

「実はだな。最近、良くない噂が界隈で流れているんだ」

「良くない噂……?」

「どんな噂なの?」

 

 車を運転しながら、総一郎が緋乃たちの前に姿を現した本題を告げる。

 それを聞いた明乃が首を傾げ、緋乃がその噂の内容を告げるよう総一郎へ求める。

 

「ああ。俺もそこまで詳しいわけではないが、なんでも──悪魔の力を得た緋乃が人類を滅ぼそうとしているだとか、大神家に取り入ることで日本の退魔師を骨抜きにしようとしているだとか、そういう類の噂だ」

 

 総一郎のその言葉を聞いた明乃の顔が不愉快そうに大きく歪み──先ほどまでご機嫌な笑みを浮かべていた緋乃も、その眉を顰める。

 

「ハァ? 何よそれ、頭湧いてんじゃないの? 新進気鋭のルーキーに嫉妬でもしてんのかしら」

「ああ、恐らくはその通りだ。……情けないことだがな」

 

 湧き上がる不満を抑えきれぬとばかりに、小馬鹿にした調子で明乃が不満を口にした。

 しかし、その明乃の発言を総一郎は肯定する。

 

「えっと……どういうことなの?」

「急に現れ、獅子奮迅の活躍を見せる緋乃のことが気に食わない輩が多数いる──ということだ。特に、緋乃は一般家庭の出だからな。家柄なんかを誇る連中からしたら、この上なく目障りなんだろう……。あと、俺がお前に夢中だという情報が流れたことも影響しているかもな」

 

 緋乃の上げた疑問の声に総一郎が答えるが、その回答を受けても緋乃はわかったようなわかっていないような曖昧な表情を浮かべていた。

 そんな緋乃の様子を見た明乃が、より分かりやすいようにかみ砕いた説明をする。

 

「要は、ついこないだまで一般人だった新入りに一瞬で追い抜かされてデカい顔されるのが悔しい! お偉いさんに気に入られて、権力でも追い抜かされそうで更に悔しい! って事よ。バッカバカしい……! っていうか、最後の要因ってアンタのせいじゃん!? なに他人事な風に言ってんのよ!」

「面目ない」

 

 うがーっと怒りを露にする明乃に対し、微塵も心のこもっていない謝罪の声を上げる総一郎。

 それを受けた明乃が更にその怒りをヒートアップさせ、緋乃にまあまあと宥められる。

 

「なんにせよ、今は噂だけだが……実力行使に出る馬鹿がいないとも限らん。気をつけておくに越したことはないだろう」

「もし襲われたら、返り討ちにしちゃっていいのかしら? なんかムカつくんだけど」

 

 誰も乗っていない助手席のシートに、ボスボスと軽いパンチを撃ち込みながら疑問を口にする明乃。

 

「構わん。ただしその場合、必ずこっちに一報よこしてからにしてくれ。もし相手の背後にそれなりの家の者がいた場合、『何もしてないのにあっちから襲ってきた』と言って濡れ衣を着せてくる可能性が非常に高いからな」

「面倒だけど仕方ないわね。わかったわね? 緋乃。いきなり手を出すんじゃないわよ?」

「わかってるって」

 

 総一郎の答えに満足したのか、明乃はゆっくりと頷くと隣に座る緋乃へと注意を飛ばす。

 そんな明乃に対し、緋乃は唇を尖らせながら反論し──そんな二人の様子を見た総一郎が、小さく笑い声を漏らす。

 

「それと最後にもう一つ用事があってな。……これだ」

「これは……依頼書? えっと……スタジアム跡地の調査?」

 

 緋乃が総一郎から差し出された封筒を受け取り、その中身を確認する。

 すると、その中から出てきたのは一枚の依頼書だった。

 依頼書に軽く目を通した緋乃が疑問の声を上げると、それにこたえるかのように総一郎が口を開く。

 

「かつて、君たちが次元の悪魔を倒したスタジアムの跡地。あそこは元々、あのあたり一帯の霊力が流れ込む一種のパワースポットなんだが……奴が現れたせいか、陰の気に満ちた危険地帯と化していてな」

「陰の気……。悪霊やら妖魔のご飯だよね? でも調査といっても何すればいいの? わたしたちはそういう技能ないよ? 破壊活動なら得意だけど」

 

 依頼書を隣の明乃に渡しながら、総一郎の言葉に答える緋乃。

 

「ああ、わかっている。だがあの地帯を汚染しているのは、かの悪魔の魔力やら残留思念でな……。奴の力を持つ君なら、吸収するなり霧散させるなりして対処できないかという話になったんだ」

「ふーん。まあそういうわけなら行ってもいいけど……あまり期待しないでよ? わたしが受け継いだ力は、あいつの持つパワーのほんの一部なんだからね?」

「そのあたりは承知の上だ。とりあえず、あの場所はかの悪魔による汚染がかなり酷くてな。退魔師(われわれ)による浄化も受け付けないときたものだが──さすがに放っていくわけにもいかない。それで、打てる手は手当たり次第に打っていこうというわけだ」

 

 勝手に期待されて勝手にがっかりされたりなどしては困ると、念を押す緋乃。

 総一郎はそんな緋乃の言葉に苦笑しながらも同意を示すと、ゆっくりと車のスピードを落として停車する。話しているうちに、緋乃たちの自宅の前に到着したのだ。

 緋乃と明乃は総一郎に対し礼を言うと、そのまま車を降りて自宅へと戻るのであった。


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