目指すは地球の最強種   作:ジェム足りない

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14話 第二ラウンド

「ふ、ふふ、くはは……! くははははははは!! やれやれ、真実を受け入れぬばかりか、このオレを捕まえるだと……!? なかなか面白い冗談じゃないか、小娘ぇ……!」

 

 緋乃の言葉を聞いた男は楽しげに笑い出すが、すぐにその笑みを引っ込めると怒りの表情を浮かべ──乱暴にローブを脱ぎ捨てるとその体に霊力を纏った。

 

「これは……! こいつ、かなりやる──!」

 

 男のその膨大な霊力を感じ取った奏は、慌てて折れた刀を構えようとする。

 しかし、奏が体勢を整えるその前に、その腕は緋乃に抑えられてしまった。

 

「緋乃?」

「奏は下がってて。ほら、さっき妖魔にやられたばかりで、まだ本調子じゃないでしょ?」

 

 訝し気に眉を顰める奏に対し、緋乃は雑談でもするかのような軽い調子で答えた。

 

「……駄目だよ、緋乃。確かに緋乃は強いよ? でも、緋乃はあくまで一時的な民間協力者であり、事態が落ち着いたら普通の生活に戻れるんだ。だから、こんな面倒事に関わる必要は──」

「ああもう、今はそういうのはいいから! いいから、下がっててぇ……!」

「あ、こらっ! 駄目! ひ、緋乃──!」

 

 しかし、緋乃のその言葉を聞いた奏は下がるどころか、逆に緋乃を押しのけて前に出ようとする始末だ。

 緋乃はそんな奏に対し、呆れと苛立ちが入り混じった声を上げると、奏の腕を掴み──そのまま無理矢理、奏を神社の敷地外へと投げ飛ばしてしまった。

 飛行能力を持たぬ奏は、叫びながらも放物線を描いてそのまま遠くまで飛んでいき──そんな様子を、口をぽかんと開けて眺める男。

 

「ク……ククク。ず、随分と乱暴な逃がし方だな……。一瞬だが呆けちまったぜ……。ていうかめっちゃ遠くまで投げたなオイ……」

「ご心配ありがとう。でも、ちゃんと山なりに投げたから大丈夫だよ。……さて。それじゃあ、奏が戻ってくる前に始めよっか……!」

「いや、そういう訳じゃあないんだがな……。……まあいい、返り討ちにしてやるよ!」

 

 男はそう啖呵を切ると、懐から匕首、或いはドスなどとの俗称で呼ばれる短刀を取り出して構えを取る。

 20mほどの距離を開け、緋乃と男が互いに睨み合う。

 緋乃と男の間に、緊迫した空気が流れ──ふと、一際強い風が吹いた瞬間。

 男の体が一瞬沈み込んだかと思うと、猛烈な勢いで緋乃目掛けて一気に駆け出し、その距離を一気に詰めようとしてくる。

 それを見た緋乃の青い瞳が薄い輝きを帯び──。

 

 

 

 

 

 

「緋乃の馬鹿……! なんで一人で……もう!」

 

 緋乃に村の外れまで投げ飛ばされた奏は、全力で神社へと駆け戻りながらも悪態をつく。

 

(あの男の纏う霊力、尋常じゃなかった。間違いなく最上級クラスの実力者。しかも相手は人間なんだ、いくら緋乃でも……)

 

 奏の脳内に、トドメを刺すのを躊躇った隙に男からの逆襲を食らい、倒れ伏す緋乃の姿が浮かび上がる。

 奏はすぐさま、ぶんぶんと頭を振ってその不吉なイメージを吹き飛ばすと、走るスピードを更に上げた。

 

(あんなに可愛くていい子を、私の友達を……危ない目に合わせるわけにはいかない! 待ってて緋乃……!)

 

 奏には、友達と呼べる存在が少ない。

 退魔師として生まれた奏は、その幼少期を鍛錬に費やしていた上に、一般家庭の子と仲良くなることで、彼らを非日常に巻き込む可能性を恐れていたためである。

 またそれだけではなく、奏は霊力を扱うことが苦手で、霊術どころか呪具すら満足に扱えないという有様であった。

 故に、家族以外の退魔関係者からは、出来損ないの娘と白い目で見られており──同年代の退魔師の子供たちからは馬鹿にされ、いじめられていたのだ。

 

(剣術と出会って、それなりの腕前を身に着けてからは、いじめられることはなくなったけど……。それでも、みんな私を避けていた。六花がいなかったら、私はきっと折れてた)

 

 しかし、そんな奏に手を差し伸ばした変わり者がいた。大神六花である。

 今から6年ほど前のこと。当時、近接戦闘の鍛錬に力を入れていた六花は、同年代でありながらかなりの腕前を持つという奏の噂を聞きつけると、白石家に押しかけてきたのだ。

 生意気盛りである六花と、当時擦れていた奏は何度も衝突し、その度に模擬戦という名の殴り合いを繰り返し──気が付けば、互いのことを親友として認識していた。

 

(緋乃。私の、二人目の友達。どうか無事でいて……!)

 

 しかし、人間とは強欲な物。一人友人ができれば二人目が、二人できれば三人目が欲しくなってくる。

 六花とはその仲を深めたものの、生来の気真面目さが災いして一般人にも、そしてかつていじめていたという気まずさから退魔師にも友人が出来ず、飢えていた奏。

 そんな奏の前にふと現れた、奏の事情を何も知らない無垢な少女。それが緋乃だ。

 もしかしたら、あの娘なら自分の友達になってくれるかも。

 そう、僅かばかりの下心を込めて緋乃に接してみれば、彼女はあっさりと自分のことを受け入れてくれ──そしてつい先ほど、互いに気軽に接することのできる、本当の友人になれたのだ。

 奏は、ようやく得た新たな友人の為に、全力で誰もいない村を駆け抜ける。

 道路を走り、公園の中央を駆け抜け、空き地を突っ切り──息を切らしながら、邪教徒の男と緋乃が戦っているであろう神社の階段を駆け上がる奏。

 

「はぁ……! はぁ……! 緋乃──!」

 

 そうして必死に戻ってきた奏の目に、信じられない光景が映った。

 そのあまりにもな光景を目にしたことで、奏は息をのみ、その目を見開く。

 

「おごぉ!? あごぉ! ぐぉー!?」

「ふぁ~あ。しぶといね……。さっさと気絶してよ~。ほらほら~」

 

 その首を緋乃の細い尻尾で締め上げられ、くぐもった悲鳴を上げながら、びたーんびたーんと石畳に叩きつけられる邪教徒の男。

 そして、その光景を欠伸をしながら眺め、やる気のなさそうな声を漏らす緋乃。

 予想していたのとはまるで異なる光景を目に、奏の口から思わず言葉が漏れ出てしまう。

 

「えぇ……」

 

 

 

「あれ? もう戻ってきたんだ。結構早かったね、奏」

「ぐぇー!」

「え、ああ、うん……。なんていうか、すごいね……」

 

 奏の接近に気付いた緋乃は、相変わらずその尻尾を大きく振り回し、男を石畳へと叩きつけながら──その顔に緩い笑顔を浮かべて出迎えの言葉を口にする。

 奏は緋乃の笑顔と、その背後で悲鳴を上げる男へと交互に目をやりながら困ったような声を上げる。

 

「ああうん。コイツ、思ったよりしぶとくてさ……。なかなか落ちてくんないの。これ以上絞めると首ちょんぱしちゃいそうだし、無駄に耐久力高いって困るよね~」

「あ、はは、ははは……」

 

 白い目で男を見やる緋乃に対し、乾いた笑い声を返す奏。

 そうして二人の少女が見る前で、男の反応が徐々に弱弱しくなっていく。

 

「お、もうすぐかな? ほらほら、早く落ちちゃえ、落ちちゃえ~!」

 

 緋乃はリズミカルにその腕を上下に振りながら、これまで以上の勢いで男を叩きつける。

 持ち上げ、叩きつけ、持ち上げ、叩きつけ──まるでメトロノームのような軌跡を描く男を前に、ご機嫌にダンスを開始する緋乃。

 そうしているうちに、ついに男は何の反応も返さなくなり……その体を包んでいた霊力も完全に消失した。

 

「よし、完璧! これにて緋乃ちゃん大勝利! ぶい! ところで、奏ってなんか縛るものって持ってる?」

 

 男が気絶したことを確認した緋乃は、にへらと笑顔を浮かべつつ、奏に拘束用の道具の有無を尋ねる。

 

「う、うん。トラップ用の鋼糸でよければあるよ……。私が縛り上げるから、緋乃はあの男が息を吹き返しても問題ないように、しっぽで手足を縛ってくれるかな?」

「わかった~」

 

 奏の要望を受け、緋乃の尻尾がしゅるしゅると男の両腕と両脚へと巻きついて締め上げる。

 そうして男の自由が完全に奪われたことを確認した奏は、胸元から極細のワイヤーを取り出すと、男を後ろ手に縛り上げていく。

 

「これでよし、と……。ふぅ……お疲れ様、緋乃。大変だったでしょ?」

「んにゃ? 別に大したことなかったよ? えっとね、戦闘開始してもこっちの隙をうかがってるのか、この人動かなかったからね。その隙にこう、脚の影に隠して尻尾を地面に撃ち込んでね……あいつの背後からどじゃーんって襲ったの……!」

「なるほど……」

 

 奏のねぎらいの言葉に対し、緋乃は笑顔を浮かべながら、どうやって男を倒したのかを得意げに口にする。

 緋乃の説明を聞いた奏は、感心したような表情をして頷く。

 

(まあ、嘘なんだけど。奏には悪いけど、わたしのギフトの、真の能力を明かすわけにはいかないからね~)

 

 表面上はニコニコと微笑みながらも、内心では奏に謝罪する緋乃。

 本当の戦いの運びは、まず男の初動を重力反転で潰し──その際に発生した隙をついて、尻尾で縛り上げるというものだ。

 しかし、緋乃は自身のギフトの情報を不用意に漏らすわけにはいかず、仕方なく嘘の情報を伝えることにしたのだ。

 

「ふぅ~ん……ん! なんだかんだで妖魔も倒せたし、怪しい人も捕まえたし。これで一件落着かな?」

「うん、そうだね。あとはこの男を引き渡せば──」

「その必要はない」

 

 もう気を張る必要はないとばかりに、伸びをしながら奏に確認を取る緋乃。

 奏はそんな緋乃に対し、まだ先ほどの衝撃的な光景が忘れられないのか、苦笑しつつも言葉を返す──のだが、そんな奏の言葉に被せるかのように男の声がかけられた。

 

「んぁ? あ、総一郎だ。どうしたの?」

「そ、総一郎さん……!? ご、ご無沙汰してます……!」

 

 声の主、総一郎を見た二人の反応は両極端であった。

 緋乃は親しい友人にでも話しかけるかのように、頭の後ろで手を組みながら気軽に声を発し。

 逆に奏は、自分たちの属する派閥の次期トップが相手ということで、ガチガチに緊張した様子だ。

 

「そう畏まらなくていい、白石奏。さて、今回の要件だが。緋乃に会いに来た……という冗談はさておき、そこの男を引き取りに来てな」

 

 気を失い、鋼糸で縛られた邪教徒の男へと目線をやる総一郎。

 その総一郎の言葉を聞いた緋乃が、疑問の声を上げる。

 

「まだ連絡もしてないのに、随分と早いね。もしかして、この人って有名人だったり?」

「ああ。そいつは妖魔を崇める邪教徒の、いわゆる幹部という奴でな。前々からマークしていたのだ……」

「確かに、あれだけの霊力を扱える男が、下っ端というのはおかしいですしね……」

 

 総一郎の回答を聞いた奏が、緋乃に変わり納得を示す。

 

「この男は元々、退魔師(こちら)側の人間でな……。かなりの腕前を誇っていたのだが、ある時に倒しても倒しても、何度でも湧いてくる妖魔という存在に対して疑問を抱き──何をトチ狂ったのか、気が付けば邪教の教えに染まっていた大馬鹿者だ」

「そうだったのですね……」

「ふーん。そういえば、人間こそが悪いのだーとか言ってたね。そのおじさん」

 

 総一郎より明かされる男の来歴。それを聞いた奏は男の高い実力に納得した様子を見せ、逆に緋乃はあまり興味が無さそうに気のない返事を返す。

 

「本来なら、この男が君たちに接触する前に、駆け付けられる予定だったのだがな……。別件で足止めを食らっているうちに……というわけだ。……遅れてすまなかった」

「はわわ……! あ、頭を上げてください総一郎さん! この男は緋乃があっさり倒して、別に何もなかったんですし……!」

「うんうん。元は凄腕だったのかもしれないけど、わたしにかかればあっという間だよ」

 

 別件とやらで到着が遅れたことを告げると、頭を下げてその詫びを入れる総一郎。

 そんな総一郎を見て、奏は慌てて総一郎へ頭を上げるように言い──緋乃もそれに同調を示す。

 謝罪対象である二人の少女たちの言葉を受け、総一郎はゆっくりと頭を上げた。

 

「感謝する。さて……それではこの男だが、俺が引き取っておこう。引き渡しや尋問やらの面倒事はこちらでやっておくから、二人は帰るといい。妖魔退治で疲れたことだろうしな」

「え、ええと……」

「え、ホント? えへへ、ラッキー。ありがとね総一郎。ほら、帰ろうよ奏」

「ひ、引っ張らないでよ緋乃……! ああもう……」

 

 総一郎の提案を受け、雲の上とも言える相手に仕事を押し付けてよいものかと、困惑した様子を見せる奏。

 そんな奏に反し、緋乃は嬉しそうな笑みを浮かべると奏の腕を引っ張り始める。

 

「フッ……。構わん構わん。そうだな、到着が遅れたことについての詫び、その一つとでも思ってくれ」

「そういうことでしたら……。はい、お任せします」

 

 奏と緋乃のそのやり取りを見た総一郎は、軽く笑い声を漏らしながら奏に一つの提案をする。

 その提案を受けた奏は、渋々ながらも、総一郎へ男を縛る鋼糸の先を渡して一歩引く。

 

「うむ、任せられた。もう時刻も遅いからな。あまり寄り道をせず帰るのだぞ」

「ふふっ、先生みたいだね。はーい、わかりました総一郎せんせー。じゃあ帰ろっか、奏」

「う、うん。それでは、これにて失礼します!」

 

 男への対処を総一郎に任せ、その場を後にする緋乃と奏。

 二人は総一郎の言いつけ通り、素直に家に帰る──なんて訳はなく、駅前の繁華街で軽く遊んでから帰宅するのであった。

 

「えへへ、こうして夜にゲーセンにいると、なんか不良になったみたいだね!」

「い、いいのかなぁ……。こんな……」

「奏、そっち逃げたよ! 潰して!」

「──ッ! 任せて! こんのぉ……落ちろ、蚊トンボ!」

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