目指すは地球の最強種   作:ジェム足りない

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15話 逆襲の魔犬

「ええい、遅いですわね尻尾娘……! 既に妖力が集まってきているというのに……!」

 

 とある日の夕暮れ時、町外れの廃棄された遊園地の入り口にて。

 そこに腕組みをし、不機嫌な様子を隠そうともしない一人の美少女──大神六花がいた。

 六花は時折、遊園地の奥の方へと目をやっては、スマホの時計を確認しということを何度も繰り返していた。

 

「いよっとぉ! ごめーん、ちょっぴり遅れちゃった」

 

 そんな六花のすぐ近くに、カシンという小さな音と共にワイヤーが突き刺さったかと思うと、猛烈な勢いで緋乃が降ってきた。

 尻尾を伸ばして目標に突き刺し、それを一気に縮めることで高速移動するという、緋乃のちょっとした移動技だ。

 そうして六花のすぐそばに着地した緋乃は、寒風にジャケットをはためかせ、その尻尾を左右にゆらゆらと揺らしながら六花へと謝罪を兼ねた挨拶をする。

 

「遅いですわよ尻尾娘! 遅刻ですわ遅刻! いったい何をやっていたのですか!」

「ごめんごめん。なんか電車が遅延したとかでさ……。だから、わたしのせいじゃないよ?」

 

 緋乃の挨拶に対し、がぁーっという擬音が似合いそうな勢いで、怒りの言葉を吐く六花。

 六花のその怒りの言葉に対し、緋乃は遅れたことに関する言い訳を返す。

 

「まったくもう……! 貴女の脚力なら、電車なんかよりも普通に走ったほうが早いでしょうに……!」

「えー、でも疲れるからやだよ。ほらほら、これから妖魔とやり合おうってのに、体力を消耗するわけにはいかないじゃん?」

「貴女じゃ無ければ、その言い訳も通用したのですけどね。周囲に満ちる気を取り込むことによる自動回復能力。悪魔や妖怪が行う、呼吸とも呼べる基本技能。知らないとでも思っていたのですか?」

 

 総量のおよそ30%程度とはいえ、魂が悪魔化した緋乃の持つ、周囲の空間に満ちる気を取り込む力。

 もちろん、本家本元の悪魔のそれに比べると、回復速度はかなり遅いものの──それでも、普通の人間とは比べ物にならない速度で生命力()を回復できる。

 それを駆使すれば、緋乃は理論上はスタミナを消耗することなく走り続けられる訳であり──六花はそのことを指摘したのだ。

 

「えっと……えへへ……」

「笑ってごまかさない! こっちは、貴女がこの回復能力に物を言わせて、食事をサボってることだって知っているんですからね! まったく、ちゃんと食べなさい!」

「だってお腹減らないんだもん。あと食事はキライ。ていうかなんでそんなことまで知ってるの? もしかしてストーカー……?」

「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ……! こ、こいつはぁ……!」

 

 緋乃の自動回復は、気を激しく消耗するような行為さえ行わなければ、生きるために必要なエネルギーを余裕で賄える程度には強力な物であり……それに任せ、緋乃は滅多な事では食事を摂らなくなった。

 当然、緋乃の周囲の人間はそれを心配し──もちろん六花もその一員である──ちょうどいい機会だからと、そのことに関する苦言も呈する六花。

 しかし、六花のその発言を聞いた緋乃は反省するどころか、逆にその身を抱えて六花を挑発してくる始末だ。

 まあもっとも、これは味覚と嗅覚が機能していないことから、元から食事という行為を単なるエネルギー補給の手段としか見ていなかった、緋乃特有の問題ではあるのだが。

 

「まあ、そんなことより早く行こうよ。なんか向こうで妖気? ってのが集まってる気配を感じるし」

「はぁ……はぁ……。う、ふふふ……そうですわね……! 誰かさんのせ・い・で! 遅れちゃいましたもんね!」

「もう、ごめんってば。でも、いざ妖魔が湧いてきても六花なら平気かなって……」

 

 言い争いをしながらも、遊園地の奥から感じる妖気を目指して駆ける二人。

 そんな二人を、烏がカァカァと鳴きながら眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 緋乃と六花が、遊園地の中央にある観覧車の元へとたどり着いたとき、ちょうど妖魔が歪みの中からその姿を現している際中であった。

 

「ふぅ、なんとか間に合った感じですわね。やれやれ、間に合わなかったときはどうしようかと──おや? どうしました尻尾娘。あの妖魔に何か?」

 

 這い出てくる妖魔を見て、安堵の息を漏らす六花。

 しかし、六花とは逆に緋乃はその眉を顰めており──それを見た六花が疑問の声を上げた。

 

「……いやまあ、別に? ただ、ちょっと前にさ。次元の悪魔事件の時に、あんな感じの魔物と戦ったからね……」

 

 緋乃は目の前にて唸り声を上げる、三つ首の大きな犬を見ながらため息を吐く。

 六花は知らないことではあるが、その妖魔の姿は、かつて緋乃が戦った異世界の魔物──ケルベロスに瓜二つであったのだ。

 

「魔物? ああ、魔法使いの連中が召喚した、ということですか。ふむ……」

(あ、なんかやな予感がする)

 

 緋乃の話を聞いた六花は、その手を顎に当てて考え込む様子を見せる。

 それを見て、緋乃の頭に嫌な予感──具体的に言うと、この妖魔の対処を押し付けられるという未来がよぎり……直後、その予感は的中した。

 

「なら、ここは尻尾娘に任せましょうか。一度戦ったのなら、対処法もわかるでしょうし……」

「えぇー、わたしが一人でやるの?」

「遅刻した罰ですわ、ば・つ! 大した妖気は感じませんし、貴女なら余裕でしょう? ま、ピンチになったら助けてあげますけど?」

 

 緋乃の予想通り、緋乃に妖魔の対処を押し付けようとする六花。

 その言葉を聞いた緋乃は当然、唇を尖らせて不満をあらわにするのだが──遅刻したという事実を前に出され、更にダメ押しとばかりに煽られたことで、六花の思惑に乗ってしまうのであった。

 

「むっかー。今のはかちんときたよ? いいよ、そんなに見たいなら見せてあげるよ。わたしの実力をね! それじゃあ、サクっと片付けちゃうから──」

『GAAAAA!』

 

 まんまと六花に妖魔退治を押し付けられた緋乃が前に踏み出し、背後にいる六花に振り向いたその瞬間。

 目の前の獲物を狩る大チャンスとでも思ったのだろう。妖魔は緋乃との距離を一気に詰めると、その勢いのまま飛び掛かる。

 妖魔のその三つの口が大きく開き、ギラリと輝く牙が緋乃のその細く、白い首目掛けて襲い掛かり──。

 

「──おっと。随分とせっかちだね」

 

 牙が緋乃の首に届く直前に、緋乃は軽快にサイドステップ。あっさりとその噛みつき攻撃を回避した。

 緋乃と妖魔の影が交差し、飛び掛かりをかわされた妖魔は、その勢いのまま剥き出しの地面の上を滑っていく。

 

「お返しだよっと」

『──!?』

 

 野生の勘、というものであろうか。

 砂埃を巻き上げながらブレーキをかける妖魔であったが、ふと踏ん張るのをやめると、そのまま前方へ向けて勢いよく跳ぶ。

 そうして一瞬前まで妖魔の姿のあったそこへ、上空から襲い掛かるよう伸ばされた、緋乃の尻尾が猛烈な勢いで突き刺さり──周囲へと派手に音を響かせながら大地を抉る。

 

「どこを見てるの?」

 

 緋乃の尻尾の、そのあまりの破壊力を見て、聞いて、戦慄でもしたのだろうか。

 妖魔はその目を丸くし、いかにも驚いたといった様子で動きを止めてしまい──当然、その隙を緋乃は見逃さない。

 一瞬で妖魔との距離を詰めた緋乃は、その体に気を漲らせながら身を屈め──。 

 

「う──にゃあっ!」

 

 その右脚を、勢いよく妖魔の胴体に向かって突き上げた。

 そして、真横から聞こえてきた緋乃の声を聞いて、ようやく我に返った妖魔にその緋乃の蹴りを回避する手立てなどなく。

 大地を蹴る反動を存分に乗せた緋乃の踵は、妖魔の胴体へと深く突き刺さり──その巨体を宙高くかち上げた。

 

『!?!?』

 

 その目を見開き、涎を撒き散らし、苦しそうに口をパクパクと開け閉めしながら宙を舞う妖魔。

 そんな無様を晒す妖魔を見て、緋乃はニヤリと笑みを浮かべると、地面へと突き刺さったままだった尻尾を引き抜き──その先端を、未だ宙にある妖魔へと向けた。

 

「それじゃ、バイバイ──」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふーん、どう? 見た? わたしの華麗なる活躍を見た?」

「ええ。さすが、とでも言っておきましょうか。お見事ですわ」

 

 その胴体に大穴を開けた妖魔が、黒いもやとなり消え去っていくのを尻目に、得意気な笑みを浮かべる緋乃。

 六花はそんな緋乃を拍手で称えながら、賞賛の言葉を口にする。

 

「蹴りで妖魔を打ち上げ、無防備になったところを尻尾でグサリ──中々にえげつない技ですわね」

「いやあ、実は前に似たようなのと戦った時はね、火力不足でちょーっとだけ苦戦しちゃったんだけど……でも今のわたしにはこの尻尾があるからね!」

「火力不足……? 貴女が……?」

 

 緋乃の言葉に対し、何を言っているんだこいつはと言わんばかりの反応を返す六花。

 かつて緋乃が戦った異世界産の魔物は、今回緋乃が倒した妖魔よりも素のスペックが高い上に、そこに極めて高い魔力や気に対する耐性と、自己再生能力を併せ持つという強敵であり──緋乃でも手こずる相手であった。

 しかし、六花はそのことを知らないため、その魔物を基準にして話す緋乃との間に、大きな認識の差が生まれていたのだ。

 

「うん、昔のわたしは対人戦を基準にしてたからね……。魔物相手には瞬間火力が足りなくて。それで、その火力不足を何とかしようって思いついたのが……わたしの超必殺技、ブレイジングバスターってわけなの」

「ああ、あの砲撃みたいなふざけた威力の技ですか……」

 

 緋乃の口より出た超必殺技の名を聞いて、その破壊力と実際に出した被害について思い返していたのであろう。

遠い目をしつつ、乾いた笑いを漏らす六花。

 

「うん。あれは破壊力がありすぎるから、絶対に使うなーってみんなから言われちゃった。残念……」

「当然ですわ! あんなバカみたいな威力の技、禁止に決まっているでしょう!」

 

 よよよと泣き真似をしながら嘆く緋乃に対し、激しいツッコミを入れる六花。

 しかし、緋乃自身も本気で言ったのではなく、あくまで六花にツッコんでもらうためのネタとして振っただけであり──その期待通りに六花からのツッコミを受けた緋乃は、えへへと嬉しそうに微笑んで喜びを示す。

 

「ま、今のわたしにはこの自慢の尻尾があるからね。ブレイジングバスター(あの技)に頼らなくても、大体の相手なら倒す自信があるよ」

「自慢の尻尾、ですか……」

 

 自身の尻尾を愛おしそうに撫でる緋乃を見て、六花が複雑な表情をする。

 恐らく、退魔師として人外の証とも言えるその尻尾を否定する気持ちと、緋乃の友人としてその尻尾を認める気持ちがせめぎ合っているのであろう。

 そんな六花の様子に気付いた緋乃は、少しだけばつの悪そうな表情をすると、尻尾を手放して自身の太ももへと巻きつけていく。

 

「なんか、そこはかとないエロスを感じますわね……」

「ほぇ? なんか言った?」

 

 しゅるしゅると緋乃の太ももに巻き付いていき、その肉に軽く食い込む尻尾を見た六花が、思わずといった様子で呟きを漏らす。

 しかし、小声での呟きであったために、緋乃はそれを聞き取ることができず──その表情に疑問を浮かべながら、六花が何を言ったのかを聞き返す。

 

「な、なんでもないですわ! 気のせいでしょう! それより、妖魔退治も無事終わった事ですし、本題といきましょうか!」

 

 当然ながら、その疑問に馬鹿正直に答えるほど、六花は羞恥心を捨ててはいない。

 その頬を赤らめながら、緋乃と六花が何故この共同任務に派遣されたかの、その真の理由を持ち出してごまかしにかかる。

 

「本題?」

「ええ。本来ならこの程度の相手に、私と貴女が二人揃って派遣されることなど、絶対にありえませんからね。……まあ、本題と言えるほど大したものではありませんが。ただの情報交換ですわ。貴女と奏がこの前戦ったとされる邪教徒についてのお話です」

 

 始めは何の事だろうと首を傾げていた緋乃であったが、六花の邪教徒の男という言葉を聞いたところで、頷きながら納得の意を示す。

 

「あの、元退魔師だとかいうおじさんね。……でも、なんかあったの?」

 

 可愛らしく首を傾げ、疑問の声を上げる緋乃。

 そんな緋乃を見て、六花はごまかすことに成功したことを確信したのか、軽く息を吐く。

 

「そうですわね……。あの邪教徒を尋問した結果、我々退魔師の中に裏切者がいる、ということがわかりましたわ」

「裏切者……?」

「ええ、霊脈の維持管理費用が削られたことで、どうしても発生してしまう監視網の穴。それを邪教徒に流していた者がいます」

「維持費が削られ……? ええと、よくわかんないけど……霊脈ってすごく重要なんでしょ? それを怪しい人にバラしちゃまずいよね? なんでそんなことを?」

 

 緋乃の口から出た、ごく当たり前の指摘。

 普通の感性をした人間なら、誰もが抱くであろうその感想を受けた六花は、まるで頭痛でも堪えるかのように、その額に手を当てる。

 

「ええ……霊脈とは、一言で言うなら大地の血管とでも言えるもの。その重要性は極めて高いのですが……仕事内容が地味だということで人気が無く、また報酬も安い上に責任だけは大きいと、中々に面倒な事になっていましてね……」

「あ、ははは……。なんか、大変なんだね……」

 

 多くの退魔師を導く名家の娘として、上に立つ者としての愚痴を吐く六花。

 六花のその心底うんざりした様子を見て、お偉いさんもお偉いさんで大変なんだねー、と思わず同情してしまう緋乃。

 

「本当ですわ! 労働環境の悪さは、忠誠心や責任感の欠如に繋がります。ついうっかり漏らしてしまったのか、賄賂でも受け取ったのかは知りませんが……霊脈の情報を、よりにもよって妖魔を崇める邪教徒なんぞに流すなど! ああ、ご先祖様に顔向けできませんわ……!」

「単純に待遇をよくするって訳には……まあ、いかないんだろうね。それで済むならもうやってるか」

「ええ……。いろいろな会議やらを通す必要があって、肝心の仕事内容も、地味で難易度もそこまで高くないということが災いして……っといけないいけない。見苦しいところを見せてしまいましたわね……」

 

 頭を抱えながら緋乃に愚痴を吐き続ける六花であったが、ふと我に返ると、振り乱していた髪を整えて、いつものきりっとした表情に戻る。

 それを見て、いつもの六花が戻ってきたと──まあ、そこまで長い付き合いではないのだが──緋乃は安堵の息を漏らす。

 

「話を戻しますと、霊脈の情報を流している者がいた。そして、その情報をもとに、邪教徒どもはこっそりと妖魔を育てていた……ということです。霊脈の情報を流していた理由は不明ですが、もし今回の男と同様に、邪教に感化されて裏切っていたとなれば大問題。最悪の場合、大神家の信用問題にも関わりかねません」

「もしかして……思ったより大事?」

「ええ、大事です。ですので、今回の貴女の件に関しては──お手柄だと認めざるを得ないでしょう。ありがとうございましたわ、緋乃」

 

 礼の言葉を言うとともに、ぺこりと頭を下げる六花。

 一方、頭を下げられた緋乃はというと、これまで尻尾娘としか呼んでこなかった六花から、突然名前を呼ばれたことでその目を丸くして──すぐにその表情は笑顔へと変わった。

 

「うん! どういたしましてだよ、六花! えへへ……」




これまでに何件か誤字報告を頂きましたが、本当にありがとうございます。とても助かりました。
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