目指すは地球の最強種   作:ジェム足りない

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16話 大神邸にて

「まさか、まさかあの大沢氏が大神家の手に落るとはな……。木下氏が討たれたばかりだというのに……。いやはや、困ったものだ……」

「しかも、もうすぐ妖怪の領域に至るという、あの妖魔殿までやられてしまったとか。これは由々しき問題ですぞ……」

 

 深夜、とある田舎にある廃ビルの中にて。

 全身をすっぽりと覆う、黒いローブに身を包んだ二人の男が話し合っていた。

 二人は妖魔のことを、この世界を汚す人間という害虫を駆逐するために、この世界そのものが遣わした救世主と信じる邪教の教徒であり──幹部と呼べるほどではないものの、それなりの地位にある人間であった。

 

「竹中氏の方はどうだ? あの人のお世話する妖魔殿なら──」

「いいや、駄目だ。竹中氏はつい先日、大神家の次期当主に襲われて……」

「そうか……」

 

 己が欲望のまま、この美しい世界を荒らす、愚かな人間。

 それを守護する、憎き退魔師たちの手によって、自分たちの仲間が討たれ──また、自分たちが「保護」してきた、救世主の卵ともいえる妖魔を討たれたことを知った男の肩が沈む。

 

「次元の悪魔。その襲来により、妖魔殿の数が増えた今こそ千載一遇の好機、と思っていたのだがな……」

「霊脈の警備に穴が開いたというのも、もしかしたら我々を嵌めるための罠だったのかもしれませぬな。あえて最初は見逃すことで、こちらの警戒を緩め……」

「なるほど。陰険な退魔師(奴ら)の考えそうなことだ……」

 

 ローブ越しに顔を見合わせ、深くため息を吐く二人の男。

 男たちはその後も情報交換を続け、何とかして幹部が次々と討たれ、或いは捕まるというこの窮地を切り抜けようと頭を捻り続けていた。

 

「警備の巡回時間はこうあるが、今までの傾向から鑑みるに、有志の連中が──」

「成程。ではここは恐らく警戒されているだろうから駄目ですね。ではこちらなどどうでしょう? ここならばもし襲われてもすぐ逃げられるし──」

 

 そうして話し合いを続けていた男たちに、一つの影が接近していた。

 その影は、話し合いに夢中になっている男たちへとこっそりと近寄ると、無遠慮に声をかける。

 

『よう人間。お楽しみ中に悪いんだがよ──』

 

 

 

 

 

 

 

 

 廃棄された遊園地にて、ケルベロスもどきとも呼べる妖魔を退治した次の土曜。緋乃は大神家の本邸に招かれていた。

 なんでも重要な話があるとのことで、六花から邪教徒関連についての情報を教えてもらった後、次の土曜は大神家まで来るようにと誘われていたのだ。

 そうして大神家までやってきた緋乃が、使用人に促されるまま客間に入ると──。

 

「うむ、よく来てくれたな緋乃君! 君の働きにはとても助けられている! 改めて礼を言わせてくれ。ありがとう!」

「ああ。緋乃のおかげで、あのあたりの担当にかかる負担が大きく減ったと聞いている。六花もお前の活躍を聞くたびに喜んでいたぞ?」

「お、お兄様! いったい何を──!? えっと、違いますわよ!? これはその、貴女のライバルとして──」

 

 客間には既に四人の姿があった。緋乃の良く知る大神家の三人に加え、緋乃のバイト先の上司とも呼べる存在である、特殊事象対策室の野中だ。

 客間に入った緋乃を笑顔で歓迎する一心。緋乃の働きぶりを称えつつ、六花の秘密を暴露して小さく笑う総一郎。そして、秘密をばらされたことで顔を真っ赤にしつつ、緋乃へと言い訳をする六花。そして、そんな三人を少し離れた場所で眺めて苦笑する野中。

 

「ふふふ、なになに? 六花ってばわたしが活躍するのを喜んでくれてたんだ~。顔を合わせても、そんなこと一言も言ってくれなかったのにね~?」

「う、うぅ……。そ、それは、その……」

 

 総一郎の言葉を聞いた緋乃は、ニヤニヤと笑みを浮かべつつ六花ににじり寄ると、さっそくそのネタを活用して六花をからかい始める。

 

「いやあ、六花ってホント素直じゃないよね~。ふふっ……わたし知ってるよ? これってツンデレって言うんでしょ? やーい、ツンデレツンデレ~!」

 

 自身の予想以上に六花に認められていたことが嬉しくてたまらず、六花をからかう言葉を口にしながらも、緋乃の顔には満面の笑みが浮かび──さらにその尻尾は緋乃の感情を反映し、左右へと勢いよく振られている。

 

「ぐ、ぐぬぬぬぬ……!」

 

 もっとも。からかわれている六花には、緋乃のその喜び具合を察知するほどの余裕などなく。

 この不利な状況をひっくり返さんと、実力行使に打って出た。

 

「ええい、何がツンデレよ! 笑ってんじゃないわよ、この尻尾娘の分際で! 貴女なんてこうよ! このっ! このっ!」

「ひゃあぁん!? あぁ、しっぽ、しっぽだめぇ……!」

「うふふ……いい声で鳴くじゃないの……。ふぅ~……」

 

 六花はぶんぶんと振られていた緋乃の尻尾をつかみ取ると、まるで蟻でもつまみ上げるかのような優しい力使いでゆっくりとしごき上げ──さらにその状態から、駄目押しとばかりに優しく息を吹きかける。

 

「ひぅぅ……。だ、だめ……ぇ……! にゅ、にゃあぁ……っ!」

 

 弱点である尻尾を重点的に責められた緋乃は、その表情を蕩けさせながら、客間に設置されたソファへとしなだれかかる。

 それを見た六花は、息を荒くしながら緋乃の尻尾をしごく速度を上げていく。

 

「んぅぅ……! あっ……あぁっ……!」

 

 歯を食いしばって六花の責めに耐えようとする緋乃であったが、その抵抗は尻尾より届く圧倒的な快楽信号の前に一瞬で瓦解。

 食いしばる筈の口はだらしなく開いて、そこからは喘ぎ声が漏れ──そして、いかにも高級そうな黒い革の上にポタポタと涎が垂れる。

 その様子を見て、緋乃の限界が近いことを悟ったのだろう。

 もはや言語にならない喘ぎ声を上げながら、ぴくぴくと震える緋乃にトドメを刺さんと、尻尾をしごく六花の指に力が籠められ──。

 

「ついつい見入ってしまったが──そこまでにしておけ、六花」

「──あいたっ! はっ──わたくしったら何を!?」

 

 総一郎の拳骨により、六花は正気に戻るのであった。

 

「くぅ、惜しいのぅ……! もう少しで素晴らしい光景が見れそうだったのに……! のう、そう思わんかね野中君?」

「……奥さんに言いつけますよ? というか止めて下さいよ……。我々は大神家(あなたたち)に対して強く出れないって知ってるでしょう……?」

 

 そして、部屋の片隅にて、コソコソと語り合う駄目な大人が二人。

 

 

 

 

 

「じとー……」

 

 緋乃が六花に尻尾を弄り回されてからおよそ30分後。

 なんとか平常時の状態を取り戻した緋乃は、顔を赤くして俯く六花に、白い目を向け続けていた。

 

「あ、貴女が悪いんですのよ? 無駄に色気のある声を上げるから……」

「じとー……」

 

 見苦しく言い訳をする六花に、白い目を向け続ける緋乃。

 再び尻尾を弄り回されることを恐れてか、緋乃の尻尾はいつもよりきつめに太ももへと巻かれていた。

 

「そもそも、貴女が最初にわたくしをからかうから……」

「じとー……」

「う、ううう……。す、すいませんでした……」

 

 その後も言い訳を続けようとする六花に、緋乃は黙って抗議の目線を送り続け──その無言の攻勢に耐え切れなくなった六花が折れた。

 

「……はぁ。まあ、わたしの尻尾が魅力的だってのはわかるよ? この黒くツヤツヤした輝き、銀色に輝く先端の刃……。うん、我ながら惚れ惚れしちゃう。でもね、いきなり触ったり息を吹きかけるのはちょっとね……?」

「は、はい……。本当に反省しておりますわ……」

「ホントにぃ~?」

「ふぁ、ふぁい……」

 

 六花の頬に、むにぃと人差し指をめり込ませながら、本当に反省したのかを問う緋乃。

 申し訳なさそうな表情をしつつ、それを甘んじて受け入れる六花を見て、ようやく溜飲が収まったのか、緋乃はため息を吐くとその指を離した。

 

「まったくもう……。今回は特別に許すけど、次は本当に怒るよ? わかった?」

「面目ありませんわ……」

「……それで、結局わたしがここに呼ばれた理由って? なんか、重要な話があるって六花から聞いたんだけど」

 

 言いたいことを言い終えて、更に六花からの謝罪の声も聞けたことで、スッキリした緋乃。

 そんな緋乃は、この部屋にいる4人の顔を見回しながら、自分がなぜここに呼ばれたのかの理由を問いただす。

 

「ふむ。そうだな、緋乃君の言う通り、本題に入ろうか……。総一郎」

 

 緋乃のその疑問を受けた一心は、表情と雰囲気を真剣なものに切り替えると、息子である総一郎へとその回答を振った。

 

「わかりました、父上。……では単刀直入に言おう。妖魔を崇める邪教集団。これのアジトが判明してな。現在、秘密裏に殲滅作戦が進行中であり……緋乃にも、この作戦に協力して欲しいのだ」

「わたしに……?」

 

 総一郎の言葉に、首をかしげる緋乃。

 確かに、自分自身が強いと言う自覚はあるし、自信もある。しかし、自分はあくまで民間協力者であり、外部の人間なのだ。

 邪教徒の殲滅作戦という、いかにも重要そうな仕事を任せてもいいのだろうか? という疑問を緋乃は抱く。

 

「ああ。なにしろ、どこから情報が漏れてるか知れたものではないからな。信頼できる人間に、こっそりと声をかけてはいるのだが……やはり戦力が足りん」

「尻尾娘、貴女の戦闘能力は本物ですわ。近接戦闘の腕前は言わずもがな、尻尾を用いた中・遠距離戦闘も極めて強力と、攻撃役としては最上位クラス……いいえ、悔しいですが、わたくしは貴女以上の存在を知りません」

「うーん……」

 

 緋乃に対し、なぜ声をかけたのか、その理由を説明する総一郎。

 そして、総一郎の後を引き継ぐかのように、緋乃の戦闘能力を褒め称えつつ、言外で協力して欲しいと告げる六花。

 二人からの頼みを受けた緋乃は、軽く目を閉じて、本当にこの依頼を引き受けてよいものかと考えを巡らせる。

 

(まあ、知らない仲じゃないし協力してあげたいんだけど……。ここまで重大そうな雰囲気を出されると、そう簡単に引き受けていいものか迷っちゃうね……)

 

 この部屋にいる全員が自分へと注目しているのを感じつつ、緋乃はその頭をフル回転させる。

 

(格闘大会やらと違って、今度の相手はルールも何もなく襲ってくるから、最悪の場合は殺し合いになる。あと、相手は組織なんだから、残党やら関係者の報復とかも考えないとね。明乃と、理奈と、お母さん。他の人間はともかく、この三人に迷惑がかかるのだけは絶対にアウト。うーん、ホントはこんな面倒臭そうなの断りたいんだけどなぁ……。でも邪教徒を放置した結果、パワーアップした妖魔が街をうろつきだしたらこっちも困るしなぁ……)

 

 本音を言えば、面倒臭そうだし断りたい。しかし、それなりに友好的な相手からの依頼である為に断り辛いのと、また依頼を断ったせいで作戦が失敗し、邪教徒が幅を利かせたら、もっと面倒な事になるのは目に見えている。

 どうしたものかと悩む緋乃に対し、これまで黙っていた野中が口を開いた。

 

「緋乃君の悩みの原因は、今回の件で邪教徒からの恨みを買い、そのせいでお母上や明乃君などの周囲の人間に迷惑が掛からないか、ということですよね?」

「ああ、そういうことでしたの……。それなら安心しなさい尻尾娘。貴女はあくまで、我々が連れてきた善意の協力者。そんな相手に手を出されたら、我々の面目丸潰れということになります。ですので、警戒の眼は常に光らせておりますし──」

「仮に手を出そうとしたら、大神家(われわれ)が全力で叩き潰す。お前や、お前の周囲の人間に手は出させん。そこは安心して欲しい」

 

 野中の言葉を聞いた六花は、納得したかのように頷くと、緋乃の心配が杞憂であることを告げ──総一郎も六花のその言葉に同調を示す。

 

「むぅ……それなら、まあ……」

「ふぅ……」

「よかったぁ……。感謝しますわ、尻尾娘……」

 

 六花と総一郎の二人によって、自身の最大の心配事を解消された緋乃は、渋々ながらも作戦への協力を了承。

 緋乃の返事を聞き、その場にいた大神家の面々と野中は、顔を見合わせてほっと息を吐いた。

 その様子を見て緋乃は、本当に戦力足りてないんだなぁ……と、これから自分も参加する作戦だというのにもかかわらず、まるで他人事のような感想を抱く。

 

「そんなに戦力ギリギリなら、無理して殲滅作戦なんてやらなくてもいいんじゃないの? もっと人が集められるようになってからでも……」

「ええ。邪教徒(むこう)もきっとそう思っている事でしょうね。今は退魔師側も人手が足りないから、しばらくは安全だと。もう少しぐらいは、悪巧みをする猶予がある、と。だからこそ、この奇襲が刺さるのですのよ」

 

 緋乃の指摘に対し、得意気な顔をした六花が、なぜ人手が足りていない今に殲滅作戦を決行するのか、その理由を説く。

 

「人手が足りないとは言っても、質ではこちら側の方が圧倒していますからね。十中八九、我々の勝利は揺るがないことでしょう……が、それでは足りないのです。我々は多くの一般市民の方々の命を背負っているのです。万が一、なんて事があってはなりません。確実に勝たねばならないのです」

 

 野中より行われた補足説明を聞き、なるほどねと頷く緋乃。

 つい先日。とある戦略シミュレーションゲームにて、命中率99%の攻撃を回避されて手痛い反撃を貰い、発狂したばかりの緋乃にとって、野中のその心配は痛いほどに理解できた。

 

「そうだね……。100%以外信用しちゃいけないもんね……。99%って意外と外れるもんね……。ふふ、ふふふ……」

「え、ええ……。そういう事です、はい」

 

 突然、遠い目をして乾いた笑い声を上げる緋乃。

 野中はそれを見て、困惑した様子を見せながらも──とりあえず、理解は得られたのだと解釈したのだろう。緋乃の言葉に対し、頷いてみせた。

 

「……あ、そうだ。その作戦に参加するのは構わないんだけど、一つだけ、一つだけ条件の追加ってしちゃっていいかな?」

 

 嫌な記憶を思い出したことで、遠い目をしていた緋乃であったが……ふと我に返ると、総一郎に対してお願いをし始めた。

 

「む? 別に構わんが……何か気になる事でもあったのか?」

「ああいや、別に大したことじゃないんだけどね……」

 

 緋乃のその願い事を聞くべく、真剣な表情をした総一郎が続きを促す。

 それを受け、緋乃は本当にこの願いを言うべきか否か、土壇場になって迷いながらも──結局、言うことにした。

 

「明乃には、この作戦のことは内緒にしておいて欲しいなって……。ほら、危ないし、万が一とかあったら困るしさ……」

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