目指すは地球の最強種   作:ジェム足りない

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8話 研究所内部にて

「敵襲、敵襲ー! 警備部隊、さっさと出──あべし!?」

「お、女の子ぉ!? 随分と可愛らしい侵入者だなオイ!」

「見た目に騙されるな! 相手は凄腕だぞ! 撃て、撃てー!」

 

 閑散とした森の中にある、ユグドラシルの秘密研究所。

 その内部は今、怒号と発砲音、そして爆音が断続的に響き渡る戦場と化していた。

 その元凶である侵入者は、見目麗しいたった二人の少女たち。しかし、その少女たち──緋乃と理奈の戦闘力は尋常ではなく。

 

「待て、撃つな! 俺たちは味方だ!」

「わ、悪い! おかしいな、絶対こっちに来たと──うがっ!?」

「なっ!? なんで──ぶべっ!?」

「ふっふっふ、チョロいね。どう緋乃ちゃん? これが私の幻術だよ」

「ナイスだよ理奈。惚れちゃう」

 

 外で遭遇した彼らの仲間同様に、コンバットスーツを着用し、突撃銃を構えた警備兵。

 彼らは理奈の幻惑魔法によって動きを止められ、その隙を突いて振るわれた緋乃の脚に吹き飛ばされ。

 

「敵はこの向こう──うひぃぃ!? ド、ドリル!? なんだよコレ!?」

「お、おい嘘だろ……!? 防爆仕様のシャッターだぞ……!?」

「きぃーこ、きぃーこ……はい開通。わたしの尻尾、甘く見ないでよね?」

「しゃぶるとほんのり甘くて美味しいんだけどねー」

「う……もうやめてよね? あの時は、本気で頭がおかしくなるかと思ったんだから……」

「とか言いつつ、期待して尻尾振ってる緋乃ちゃんでした」

 

 防災兼侵入者隔離用の防爆シャッターは、ドリル状に変形させた緋乃の尻尾であっさりと貫かれた挙句に、そのままワイヤー部分で斬り開かれ。

 

「撃ちまくれ! 弾幕を張れ! 近寄らせるな!」

「全然効いてねえ! 平然と歩いてきやがる!!」

「馬鹿だね……こんな玩具(オモチャ)で、理奈の補助魔法を受けたわたしを止められるわけないのに」

「いや、いくら私の補助込みとはいえ、ノーダメの緋乃ちゃんがおかしいと思うなぁ……」

 

 逃げ場のない通路にて待ち構え弾幕を張り、接近を封じようとすれば──純粋な防御力に物を言わせて突破されて蹴り飛ばされ。

 そうして気絶した警備兵に、理奈が麻痺の呪文を撃ち込んで、意識を取り戻しても動けないよう無力化し。

 しばらくの間、緋乃と理奈による蹂躙劇は続き。研究所の内部に、警備兵たちの悲鳴がこだました。

 

「……にしても、結局正面突破かぁ。いや、油断して見つかっちゃった私も悪いんだけどさ」

「仕方ないよ。まさか、森の方にも監視カメラが隠してあったなんて普通思わないし」

 

 地下に降りる研究所の階段を我が物顔で歩む緋乃と、身を縮めながらその後ろに続く理奈。

 つい先ほど研究所の外で警備兵に襲われた理奈は、町にさっさと逃げ戻るか悩んだ末に、緋乃の洗脳を解除。

 もうバレてしまったのなら、証拠を隠滅される前に制圧すべきだという緋乃の意見に押され──こうして今、研究所の地下に続く階段を歩んでいるのであった。

 

「ところでさ、いくら秘密の研究所とはいえ……やけに警備の数多くない? かなり倒した気がするんだけど」

「訓練された人だけじゃなくて、普通の研究員も混じってたんじゃ? 数合わせで。どう見ても、銃に振り回されてた人とかいたし」

「あー、なるほどね。言われてみれば、確かにそうかも」

 

 地下へと続く階段をのんびりと降りつつ、和やかに話し合う緋乃と理奈。

 

「ってこれは……」

「緋乃ちゃん危ない!」

 

 そうして意気揚々と地下に下りた緋乃を出迎えたのは、全体的にスマートな形状をした、四つ足の自動兵器。

 屋内用ということだからだろうか。そのサイズはかなり控えめであり、小柄な緋乃よりもさらに小さい。

 しかし四脚の上に乗った胴体部分には、地上にいた警備兵が持っていた銃よりも大口径の砲門が備え付けられており──突然の遭遇に面食らった緋乃に対し、容赦なくその牙を剥いた。

 

守護結界(プロテクション)!」

 

 咄嗟に理奈が防御結界を張るものの──自動兵器より放たれたその砲弾は、理奈の張った結界をガラスのように粉砕。そのまま結界後方にいた緋乃へと襲いかかる。

 

「──!? このぉ!」

 

 迫りくる砲弾。それを目撃した緋乃の行動は早かった。

 大口径である為に拳では弾けない可能性があることを考慮し、素早く右脚を振り上げる。

 下から掬い上げるかのように放たれた緋乃の蹴りが、砲弾の軌道を無理矢理に変え──。

 

「てりゃあ!」

 

 それと同時に、自身が持つ唯一の遠距離攻撃手段である尻尾を、自動兵器目掛けて勢いよく射出。

 本気で放たれた緋乃の尻尾は、自動兵器のカメラ部分を的確に撃ち抜き。

 更にそのまま胴体部分をも突き破り、一撃のもとこれを沈黙させた。

 

「天井が……」

「新型の弾丸、だっけ? けっこうやるじゃん……」

 

 蹴り上げられた砲弾が天井を破壊し、パラパラとその破片が落ちてくるなか。

 予想以上の自動兵器の火力に驚愕の声を漏らす理奈。

 そんな理奈の声に対し、緋乃も同意を示していると──パチパチと小さな拍手の音が地下通路に響く。

 

「いやー、やるね君たち。P-73の主砲をかわすんじゃなくて弾くとか、正直ちょっと引くよ」

 

 緋乃たちが目を凝らすと、いつの間にか自動兵器の残骸の横に、金髪の少年が立っていた。

 見たところ15、6歳といったところだろうか。黒いボディアーマーの上からコートを羽織ったその少年は、興味深そうに破壊された自動兵器を観察しながら、緋乃たちに向かって声を投げかける。

 

「……!」

「おおっと! いきなり攻撃とか危ないじゃないか。躾がなってないねえ」

 

 金髪の少年に対し、緋乃は無言のまま尻尾を伸ばして刺突攻撃を繰り出す。

 だがしかし、少年はその一撃を軽快なステップで回避。

 勢い良く伸びた緋乃の尻尾は誰もいない廊下へと突き刺さり、コンクリートの床を粉砕するにとどまった。

 

「避けた!?」

「いやいや、こんだけ距離が開いてたら避けれるに決まってんじゃん。ちょっと僕たち舐め過ぎじゃ──いや、上の雑魚共を見てたらそう思っても仕方ないか」

 

 理奈の上げた驚きの声に対し、呆れ顔で反論する少年。

 

「僕はいわゆる、強化人間ってやつでね。パワーもスピードも、ただの人間とは比べ物にならないくらい引き上げられてるんだ。他の連中と一緒だと思って舐めてると……死ぬよ?」

 

 攻撃的な笑みを浮かべた少年が指を鳴らすと、通路の横に等間隔で並んでいた扉──恐らくは研究室への入り口だ──と、緋乃たちが降りてきた階段に隔壁が勢いよく落ちてきて、逃げ道を塞ぐ。

 

「──シャッターが!」

 

 退路を塞がれたことで、焦燥の声を上げる理奈。

 そしてそれと同時に、通路の奥の方から、先ほど緋乃が破壊した自動兵器。その同型機が2機、ガチャガチャという歩行音を響かせながら近寄ってきた。

 

「これで逃げ道を塞いだつもり? 言っとくけど──」

「まあ、君一人ならこの状況下でも逃げられるかもね? 君一人なら。でも今は、残念ながらそうじゃない」

 

 引き戻した尻尾をドリル状に変形させ、それを少年に見せつけるかのように高速回転させながら、口を開く緋乃。

 しかし、少年はそんな緋乃の強がりを見抜いたかのように、その整った顔に嘲笑を浮かべながら理奈へとその目を向ける。

 

「先に言っとくけど、地上の馬鹿連中を撹乱した小細工は効かないよ? この通路には多種多様なセンサーが設置されていてね。その情報は常に僕の脳内に──」

「ゴメンね緋乃ちゃん。私のせいで……」

「理奈のせいじゃないよ。地上の敵が弱いからって、調子に乗りすぎたわたしのせい」

 

 得意気な表情を浮かべながら、理奈の幻惑魔法は効かないということを語る少年。

 緋乃たちはそんな少年の自慢話を聞き流しつつ、反撃の機をうかがう。

 しかし少年だけならともかく、2機の自動兵器が追加された現在。そのような機会はそうそう訪れず──。

 

「さて、やり合うにしてもここはちょっと狭すぎる。もっといい場所が奥の方にあるから、そっちでやろうじゃないか……!」

 

 少年に導かれるまま、研究所の奥へと向かい通路を歩む緋乃と理奈。

 二人の背後には自動兵器がそれぞれ一機ずつついており、鈍く輝く砲門をその背に向けていた。

 

「それにしてもあれだね。退屈しのぎの、ちょっとしたお遊びとして情報を撒いてみたら……まさか君が来てくれるなんて。いやあ、これは嬉しい誤算だよ」

 

 後方を歩む緋乃たちに対し、ちらりと顔だけを振り返らせつつ、言葉をかける金髪の少年。

 しかし朗らかなその口調とは裏腹に、その顔には緋乃たちを見下した様な笑みが浮かんでいた。

 

「君を倒して捕まえれば、その功績で僕は更に上に行ける。今よりももっと我儘が効くようになるし、更なる強化手術や専用の装備だって手に入るんだから」

「大した自信だね。改造人間だか何だか知らないけど……真正面から戦って、このわたしに勝てるとでも?」

 

 笑いながら語られた少年の言葉を受け、緋乃は不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「もちろん。君の戦闘データは全部見させてもらった。夏の事件から、君本来の素のスペック。そしてつい先日に得た、肉体変質後の君のデータ。全部把握したうえで言ってるんだよ」

(つい先日、ね。ということは、あのデカい妖怪を倒した時のデータは無い感じ……? そういえば、理奈の魔法も妨害したりできないみたいだし、科学には強くても魔法系列の力には弱いのかな?)

 

 怒りにこめかみをヒクつかせながらも、内心で少年の言葉より得られた情報を整理する緋乃。

 研究所を隠していた、自身の眼でも捉えられないレベルの光学迷彩。

 理性が吹き飛ぶというデメリットこそあるものの、軍や警察で使用されているものとは段違いの効果を発揮した肉体強化薬。

 違法な研究を繰り返しているというだけあって、彼らの技術力は表側のそれを凌駕するようだが──やはり研究所の外で理奈が言った通り、ジャンルが違うからなのか。

 魔法やら退魔の術のような、科学の外側にある力のことまでは把握しきれていない様子であった。

 

『ねえ緋乃ちゃん、このままこの人に着いてくの? 広いとこで戦おうとか言ってるけど、ぜったいに罠とか仕掛けられてるよ……?』

 

 そうして緋乃が思考を巡らせていると、理奈が念話で語り掛けてきた。

 緋乃は前を歩く少年に気取られないよう、なんでもない風を装いつつ、その念話に返答をする。

 

『まあ、多分あるよね。正々堂々戦おうとか言ってるけど……追い詰められたら、なんか言い訳しながら卑怯な手を使ってくる気がする。特にわたしは嗅覚が死んでるから、毒ガスとか催眠ガスを撒かれても気付けないし……』

『でしょ? このままついてくのは危険だし……ってことで緋乃ちゃんへ私から提案が1つあります。……ここは逃げちゃわない?』

『逃げる? 逃げるって……どうやって?』

 

 理奈からもたらされた逃走すべきという提案に対し、緋乃は疑問を返す。

 自分一人ならまあ、この状況からでも砲弾を避けるなり受け止めるなりで対処して、そのまま壁をぶち抜いて地上へと逃げることは出来るだろう。

 目の前を歩く少年の戦闘力は未知数だが……それでも、彼が知っているのはつい先日に繁華街で得たデータのみ。

 実際に自分が本気で戦ったところを見たわけではないのだ。ならば、なんとかなるだろう。

 

 もし少年が予想以上に強くて、なんとかならなかった場合でも──上着(ジャケット)のポッケに放り込んである()()()()を使えば、間違いなく切り抜けられるハズだ。

 そう。特に守るものの無い、自分一人の状態ならば。

 

『実はね、この研究所に入る前、外にマーキングをしておいたんだ。転移魔法のマーキングをね』

『転移魔法? でもそれって、実戦じゃ使えない大道芸みたいなものだって言ってたような……』

 

 緋乃は以前に理奈から聞いた、転移魔法についての説明を思い返しながら口を開く。

 転移先にマーキングが必要な上に、そのマーキングも持続時間が短い。

 更に消耗が激しいくせに大した距離を移動できないので、ロマンはあるけど使い道があまりない魔法だと理奈は語っていた。

 

『うん。消費魔力がヤバいくらい多いからね……。魔力を温存してきた今の状態でも、一度使えばスッカラカン。頭クラクラ気絶寸前まで行っちゃうね。でも、この状況を脱することはできる。緋乃ちゃんだけでも、外に逃がすことが──』

 

 理奈が念話でそこまで言ったのを聞いた途端。

 緋乃のまなじりがつり上がると、同時にその身体から怒りの闘気が一気に溢れ出てきた。

 

「おおっと……!? ここでやろうってのかい!? 気が短いとは聞いていたけど……!」

 

 緋乃の異変を察知し、少年は慌てて距離を取りながら戦闘態勢を取る。

 しかし緋乃は構えを取る少年を一瞥すると意識を理奈へと戻し、そのまま理奈に対して怒りの念話を叩きつける。

 

『なに寝ぼけたこと言ってんの? わたしを逃がす? こんなとこに理奈を置いて、一人だけ逃げろって?』

『ひ、緋乃ちゃん……? めっちゃ顔が怖いんですけど……? あとなんかオーラが凄い漏れてる! あの男の人、めっちゃ警戒してるぅ……!』

 

 軽く涙目になりつつ、念話の中で情けない声を上げる理奈。

 

『うるさい……。いろいろと言いたいことはあるけど……話は後。転移魔法が使える(ワープできる)のなら、理奈は今すぐここから脱出して。わたしもすぐ追いかけるから』

 

 緋乃はそんな理奈に対し、そのまま強い口調で、一方的に自分の要求を叩きつけた。

 理奈がここから逃げられるというのなら、もはや気にするものは何もない。

 目の前にいる生意気な少年を叩きのめし、悠々とここを脱出すればいいのだから。

 

『で、でも緋乃ちゃん──』

『わたしなら問題ない。あいつも認めてたでしょ? わたし一人ならどうとでもなっただろうねって。……理奈が逃げたら、わたしもすぐ逃げるからさ』

 

 緋乃を一人残すことに、理奈は当然の如く難色を示す。

 緋乃はそんな理奈から目線を外すと、構えを取る少年に対して向き直る。

 これ以上理奈と念話をしていると、こちらの作戦を読まれかねないからだ。

 ……まあもっとも、既に少年が訝しげな目を向けてきているあたり、こちらが念話で作戦会議をしているということはバレているのだろうが。

 

『うぅ、でも……』

『だいじょうぶだよ、理奈。わたしは天才だから、この程度は余裕だって。……それとも理奈は、私が信じられないの?』

『その言い方はずるいよ緋乃ちゃん……』

 

 緋乃の言葉を受けた理奈は、渋々といった様子でため息を吐き──。

 

『わかった、でも約束してね? 無茶はしないって。……あと、人殺しはダメ、ゼッタイだよ?』

『うん、まかせて。じゃあ後でね、理奈』

 

 念押しをしてくる理奈に対し、軽く苦笑しながら返事をする緋乃。

 理奈はそんな緋乃の返事を聞くと、微笑みながらその姿を消すのであった。

 

「なっ……消えた!? 馬鹿な、どのセンサーにも反応が──」

 

 幻術などで隠れることは想定内であったとしても、流石に空間転移までは予想外だったのか。

 理奈の反応が研究所内から消失したことに対し、慌てた様子を見せる少年。

 そしてほんの一瞬。ほんの一瞬ではあるものの──少年の意識が自分から外れたことを確認した緋乃は、好機とばかりに両脚へと力を込め。そのまま弾丸のように一気に飛び出した。

 

「シッ──!」

 

 自立兵器に搭載されている主砲、その射線の延長線上に少年を置いたのが功を奏したのか。

 背後から砲撃が飛んでくることは無く──仮に飛んできた場合は回避して少年への攻撃として利用するつもりであったが──少年との距離を瞬時に詰めることへ成功した緋乃は、その勢いのまま右足を全力で振り上げる。

 顎を下から一気にかち上げて、一撃のもと少年の意識を消し飛ばすのが狙いだ。勢い余って殺してしまうかもしれないが、まあ死んだら死んだでその時だ。

 理奈や明乃とは違い、自分は赤の他人……それも敵の生死に心を動かされるほど、お人好しではないのだから。

 

「なっ──!」

(もらった……!)

 

 驚きに目を見開く少年に対し、緋乃の放った渾身の蹴りが迫り──。

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