「味覚をプレゼント、かあ……。うん、凄いわ。素直に感心しちゃう」
「でしょでしょ〜。我ながらめっちゃいいアイデアでしょ!」
「ええ。緋乃ってば味がわからないことをかなり気にしてるし、絶対に喜ぶわよ」
明乃がこれまで頭を悩ませ、それでも自分にはどうもできないと諦めていた緋乃の弱点。
それをあっさりと解決してみせようとしている理奈に対し、悔しさと嫉妬を覚えているのが明乃の偽らざる本音ではある。
しかし──。
「よしわかった! 実験でもなんでも、好きなだけ付き合うわ! その代わり、ちゃんと完成させるのよ!」
しかし明乃はその邪な思いを即座に振り払うと、にっこりと笑顔を浮かべて理奈への協力を表明してみせる。
悔しいが、自分にはどう足掻いても緋乃のこの問題を解決する能力は無い。ならばせめて、理奈の実験台となることで緋乃の助けになろうじゃないか。
そう判断した明乃は、醜い心を圧し潰して胸の奥底へと仕舞い込む。
「おおー、実に頼もしいよ明乃ちゃん! ささっ、それじゃあこの魔法薬をぐいっと行っちゃって!」
明乃の言葉を聞き、笑顔を浮かべながらコップを差し出してくる理奈。
明乃はそれを受け取ると、少し躊躇った後に口を付け、ゴクリと飲み込んだ。
「うぅ……苦みとハーブみたいな香りが合わさってこれは……」
「あはは……。ま、まあ一応お薬だし……?」
魔法薬を口にした瞬間、鼻の中を突き抜けるハーブの香りと、口の中に広がる何とも言えない珍妙な味。
思わず眉根を寄せる明乃と、それを見て苦笑いをする理奈。
「ええい、これも緋乃のため、理奈のためよ!」
魔法薬の予想以上の不味さに少しばかり戸惑う明乃であったが……自ら協力を申し出た手前、いまさら後戻りはできない。
覚悟を決めると、一気にコップを傾けてその中身を飲み干した。
「おおー!」
「うぇー、まっずー!」
関心の声を上げる理奈には目もくれず、魔法薬の味に対する文句を叫ぶ明乃。
今すぐ吐き出してジュースをガブ飲みしたい欲に駆られるが、そんなことをしては実験が台無しだ。
軽く頭を振ることで、明乃はなんとか気を取り直す。
「り、理奈? 悪いけどちょっとお水を──」
──つもりであったが、やはり口の中に残る不快感はいかんともし難い。
ジュースやらを飲んだりするのはアウトだろうが、少しくらいの水ならば問題は無いはず。いや、お願いだから問題ないと言って欲しい。
軽く涙目になりつつ、口直しの為に水を求めようとする明乃であったが──ふとその身体に違和感を感じたことで、その台詞は打ち切られた。
(これは……膝に何か当たってる? ……布の感覚? でもあたしの足には何も──)
ミニスカートを履いているため、生の足が剥き出しになっているはずの自分の脚。
しかしそこからは確かに、うっすらとだが、肌と布が触れ合う感覚が伝わってくる。
いや、脚だけではない。上半身からも何やら違和感を感じるではないか。
(そっか、これが感覚の共有──。成程、理奈の着てる服やスカートの感覚がこっちにも──)
「うっ……、こ、これは……」
いまだ口内には不快な味が残るものの、それ以上に興味深い現象へと気を取られていた明乃の耳に、理奈の声が飛び込んできた。
その声はいかにも気持ちが悪そうな声であり、まるでクソ不味い食物でも口にしたかのような反応であった。
「うぇぇ、一気に飲むとこんなんなんだ……。苦くて臭いよぉ……」
今自分たちが行っているのは、感覚の共有をするための実験。つまり、理奈の感覚がこちらに伝わってきているという事は、こっちの感覚──味覚や嗅覚も、
しかし、なんだろうか。あのまるで想定外の不味さとでも言わんばかりの反応を見ていると、なんとなく腹が立ってくる。
自分の体に伝わってくる理奈の感覚は、あくまでうっすらとしたものだ。明確というには程遠い。
つまり、こっちからあっちに伝わっている
ということは、だ。
「おいコラ、人におもいっきし飲ませておきながら何よその反応は」
その顔に怒りの笑顔を浮かべ、拳を震わせながら遺憾の意を表明する明乃。
それを見た理奈は不味いとばかりにその姿勢を整えると、両手を振りながら言い訳を口にし始めた。
「い、いや私も一応飲んだことはあるよ? どんな味か気になってね? でもホラ、コップ一杯一気に飲み干したことは無かったから……ハイ、ゴメンナサイ。次からは味にも気を使います……」
「よろしい」
最初は慌てて言い訳の言葉を口にしていた理奈であったが、誤魔化しきれないという事を悟ると一転。謝罪と共に改善を約束することとなった。
まあ、これを飲むのはあくまで緋乃であり、その緋乃は味覚が無いために味に気を使う必要が無いというのは確かだが──流石にこのクソ不味い薬品を何度も飲むというのは御免被りたいのだ。
現在の感覚共有の強度からして、今回の実験だけで終わりというわけではなさそうだし。
「そんなことより水くれない? さっさとこの変な味を洗い流したくて……」
「あ、うん。ちょっと待ってね……はい、お水」
「サンキュー」
明乃からの要望を受けた理奈が何言か呟くと、その手の内にミネラルウォーターの入ったペットボトルが出現する。転送の術式で冷蔵庫から取り寄せたのだろう。
当初は驚いた光景ではあるものの、流石に何度も見ていれば慣れてくるというもの。
明乃は感謝の言葉と共にペットボトルを受け取ると、蓋を開けて中の水を勢いよく飲み干していく。
「ぷはーっ、少しはマシになったわね。で、実験的にはこれってどんな感じなの? 成功? 失敗?」
「あっ、ちょっと待ってね。うーん、明乃ちゃんこれ感じる?」
空になったペットボトルを机の上に置きながら発せられた明乃の言葉を受け、実験再開の流れを感じ取ったのだろう。
理奈は緩んでいた表情を引き締めると両腕を軽く持ち上げ、左腕を右手でパンパンとはたき始める。
そう、魔法薬の想像以上の不味さと、それの逆流というハプニングに気を取られてしまっていたが、まだ実験は途中なのだ。
「うん、弱めの感覚だけど一応感じるわ」
「ま、最初からいきなりきついのをやるわけにはいかないからね。最初はこんなもんだよ」
「それもそうね」
自身の疑問に回答する理奈の声に対し、納得の意を示す明乃。
言われてみればそれもそうだ。上手くいくかもわからない、初回の実験なのだ。副作用などがあるかもしれないのだし、まず弱めの調合から始めるのは至極当然のことだろう。
「じゃあこれは?」
「オッケーよ。感じる感じる」
明乃の返事を聞いた理奈は、今度は自身の胸を、腹を、外ももを。体の各所を順番に刺激していき、感覚の共有がきちんと行われているかの確認を続けていく。
「……うん、とりあえずよし、と。体に違和感とかは感じないんだよね?」
「ん、大丈夫よ。軽く気を巡らせた感じ、問題なさげね」
「そだね、こっちから見ても生命力の循環におかしな点は見当たらないし……じゃあ、今度は明乃ちゃんが同じようにやってくれるかな?」
「はいよー」
そうして一通りの確認をしたら、今度は攻守交替。明乃が自身の身体を刺激し、その刺激が理奈へと伝わっているかの確認だ。
二人は互いに体の各所に強弱様々な刺激を与え、共有の精度を確認していく。
「よし、触覚は問題なさげだね? それじゃあ、ついに本番。味覚の確認と行きますか……!」
大まかな確認を終えた理奈の手が薄く光ったかと思えば、その手に握られているのは地元の洋菓子店
思わぬ形での好物の登場に、明乃はその胸を高鳴らせる。
「そ、その箱はまさか……!」
「うん、ボヌールのシュークリームだよ~。明乃ちゃん、ここの店のやつ好きでしょ?」
「うんうん、モチよモチ!」
箱の中から現れた大振りのシュークリームを見て、目を輝かせる明乃。
一瞬で上機嫌になった、そんな明乃の様子を見て、理奈はくすりと微笑みを浮かべる。
きっと自分のことを単純だな、とでも思っているのであろうが……今回ばかりは仕方あるまいと明乃は内心で言い訳をする。
実入りのいいバイトのおかげで、中学生とは思えないほど一気に懐は温かくなったものの、あの店は行列ができるほどの人気店。
お小遣いに余裕があるからと言って、そう簡単に手に入るようなものではないのだから。
「せっかくだし、紅茶も淹れよっか?」
「ありがと理奈、緋乃の次に愛してるわ……!」
明乃の言葉を聞いた理奈は、調子いいんだからと苦笑しながら部屋を出ていき──しばらくして、両手に茶器などが乗ったトレイを抱えて戻ってきた。
「お待たせー、それじゃあ淹れるから待っててね~」
「いよっ、待ってました~!」
そうして理奈が工房へと戻ってきてから数分後。
明乃と理奈の二人は感覚共有の実験という名目の元、ティータイムに勤しんでいた。
とはいえ実験のことを忘れたわけではなく、大まかにではあるが、検証の方も行ってはいた。
理奈がシュークリームを口にし、その甘みがほんのりとだが伝わってきたことに明乃が感動したり。二人同時にシュークリームを口にすることで、普段とは違う味わいにこれまた明乃が感動してはしゃいだり、などなど。
一応ではあるが、実験は進んでいたのだ。
「んん~、めっちゃ美味しぃ~。やっぱコンビニやスーパーのやつとは全然違うわね~」
好物のシュークリームをパクついては紅茶を啜り、ご満悦な明乃。
そんな喜色満面な表情を見せる明乃を見て、向かい側に座っている理奈もまた、ニコニコと機嫌が良さそうな笑みを浮かべながらティーカップを傾ける。
「まあ、専門店だしね。ちなみにあそこのオーナーとうちのお母さんは仲が良くてね? 緋乃ちゃんとの一番の座を譲ってくれれば──」
「あ、それは駄目よ」
冗談交じりに発せられた理奈からの提案だったが、それを聞いた明乃の反応は早かった。
浮かべた笑顔はそのままに、理奈が全ての台詞を言い終えるよりも早く、食い気味ににNOを叩きつける。
「ふふっ、明乃ちゃんってば反応早すぎ~。『譲って』の『ず』の時点でもう反応してるとかさ~」
しかしそんな明乃の早すぎる反応を見た理奈は、これといって残念がる素振りを見せることなく。新しい弄りネタを獲得したとでも言わんばかりに、にやにやとした笑みを明乃へと向けてきた。
(しまった、“釣り”に引っかかっちゃったわね……)
理奈のその笑みを見た明乃は、これから理奈が緋乃をネタにした弄りを仕掛けてくることを確信。即座に脳内シミュレーションを開始し、理奈が繰り出してくるであろうからかいのパターンと、それに対する反論を組み立て始める。
「まあ私も、明乃ちゃんが緋乃ちゃんにメロメロなのはよく知って──っと!?」
そうして明乃の予想通り、理奈が笑みを堪えながらからかいの言葉を口にしたその時。
突如として、地下工房の中を振動が走り抜けた。
机の上に置かれたティーカップとソーサーが、棚の中に置かれた様々な器具や薬品が、その振動でカチャカチャと音を立てる。
「……地震、なのかな?」
「ううん、今のは……」
会話を中断し、顔を見合わせる明乃と理奈。
怪訝そうな表情をしながら可能性を告げる明乃に対し、理奈は申し訳なさそうな表情を浮かべつつ、その可能性を否定する。
そうして理奈が続けて口を開こうとしたその時、その台詞に待ったをかけるかのように、再び振動が走り抜けた。
「あっ、また来た。……でもこれって、なんか近くない?」
「うーん、何て言えばいいのかな……。招かれざるお客さんが来ちゃったとか……まあ、そんな感じのアレっていうか?」
困惑する明乃を尻目に、なんでこのタイミングで来るのかな~、などとぼやきつつ理奈がその指をパチンと鳴らす。
するとどうだろう。まるで映写機でも使ったかのように、部屋の壁へ外の景色が映し出されたではないか。
その景色とは角度こそ違うものの、数時間ほど前に明乃も見た景色──即ち、水城邸の俯瞰図であり。
「うわっ、門が! ていうか何よあのガラ悪い連中!」
恐らく爆弾、あるいはそれに類する異能でも使ったのだろう。無残に破壊された水城邸の門扉を、
「結界を乗り越えるために、起点である門を吹き飛ばしますってさあ……。いや正しいと言っちゃ正しい攻略法なんだけどさ? まさかホントにそれやる馬鹿がいるなんて……」
どうすればいいのかと慌てて理奈を見やる明乃であったが、しかしその肝心の理奈は特に慌てる様子など見せず、たははと困ったように笑いながらその頬を掻いていた。
そのように落ち着きを見せる理奈を見て、慌てていた明乃も冷静きを取り戻す。
「えっと……急がなくて大丈夫なの?」
「まあ、うちの
明乃の上げた疑問の声に対し、自慢するかのような調子の声で返答をする理奈。
その理奈の台詞を証明するかのごとく、庭に設置されていた石柱やランプなどのオブジェに、地面に突き刺さったポール。それらから光線や光弾が放たれる。
またそれと同時に地中から武器を持ったマリオネットの兵士が姿を現したかと思えば、更に鳥を象った針金細工やスノーマンの象までもが動き出し、侵入者へと襲い掛かる。
「おお、凄いじゃないの……! っていやちょっと待って、なんかあいつら強くない?」
理奈ご自慢の防衛システム。その起動に感嘆の声を上げる明乃であったが……しかし、すぐにその声は困惑のそれへと変わっていく。
飛んでくるレーザーを冷静に避けながら、ライフルを構えた男が1つ1つレーザーの発射元を潰していき。
剣と盾を持ったマリオネットがその男に飛び掛かれば、男はその一撃をかわして反撃の銃弾を叩き込む。
マリオネットはその銃撃を盾で防ぐのだが、その隙に青龍刀を持った別の男が側面へと回り込み、マリオネットをその剣ごと両断する。
その直後に銃撃をしている男目掛けて、回避後の硬直を狙ってワイヤー製の鳥が左右から挟み込むように突撃すれば──男の背後から跳躍してきた別の若い女が、両手の警棒を振るいこれを叩き落す。
侵入者たちはそのチンピラ風の見かけに反して、妙に強かった。
「むぅ、思ってたより厄介……。あの代紋はたぶん……最近暴れてるって噂の黒門会の人たちかな?」
「黒門会……!」
襲撃者のうちの1人である、ライフルを構えたスカジャンの男。その胸元に着けられた代紋のバッチを見て、明乃はようやく下手人の正体へ気付く。
いや、薄々気づいてはいたのだが、確証が無かったので明言を避けていたというのが正しいか。
しかし下手人の正体については解ったものの、その目的が明乃には理解できなかった。
「明乃ちゃんからの情報通りだね。あの人たち、格好はヤクザっぽいけど……中身は特殊部隊とかそういう系のアレだね。動きが全然違う」
「あー、言われてみれば確かに」
理奈の発言に釣られて襲撃者たちの服装を見れば、彼らの格好は一見すれば──着崩したスーツに高級そうなジャケット、派手なジャージやスカジャンと──チンピラ風のそれである。
しかし、問題なのはその動き。彼らの動きはチンピラにしてはやけにキビキビとしたものであり、無駄がないのだ。あと無駄のない連携といい、統制に関しても妙なほど取れている。
背後に大きな組織があることを匂わせるためにわざとやっているのか、それとも単純にそこまで気が回っていないのか。
「でも何であいつらが理奈の家に……?」
明乃はなぜ彼らが水城邸を襲撃したのか、その理由について頭を捻る。
奴らはユグドラシルとかいう、大仰な名前を名乗る犯罪結社の下請けのはず。それがなぜ理奈の家を襲う? 結社の目的である緋乃の友人だから、人質にでもしようとしてる?
いや、それなら一般家庭の出であり、理奈よりも社会的に与える影響の少ない自分を狙いに来るはず。明乃は考えを巡らせるのだが、納得できる答えは一向に浮かんでこない。
「理奈、なんか恨みでも買った?」
「うーん、残念だけど心当たりがいっぱいある……」
どうしても答えが思い浮かばないで理奈本人に聞いてみれば、帰ってきたのは逆に心当たりがありすぎてわからない、という回答であった。
言われてみればそりゃそうだ。理奈の家は夏の事件以降、一躍有名になったのだ。それも
有名になったという事は、それだけ恨みを買いやすくなったということ。しかもその理由が理由だけに、関係ない恨みまで舞い込んでくるのだから──水城一家としてはたまったものではないだろう。
「ああ、そっか。お父さんが魔法使いの代表みたいなことしてりゃねぇ……」
「暗示を使って詐欺みたいな契約結ばせるとか、がらくたを高値で買わせたりとか、地方では結構あったみたいでねー。ふふふ、困っちゃうよね~?」
困ったような雰囲気を出しているが、それと同時にどこか薄ら寒い雰囲気を振りまいている。ニコニコと笑顔を浮かべているのだが、目が笑っていない。
そんな理奈の様子を見て、明乃は確信する。これめっちゃ怒ってるやつじゃん、と。
「さてと、こーなったら仕方ない。私はこれから不法侵入者の排除に行くけど……明乃ちゃんはどうする?」
地上で繰り広げられている戦いは、どうやら襲撃者である黒門会側の有利なようだ。
今もまた、火炎放射器のように冷気を吐き出していたスノーマンが、跳躍で背後に回り込んだ警棒の女に叩き潰された。
このままでは、そう遠くないうちに突破されてしまうであろう。
明乃がそう結論付けると同時に、不利な戦況に目を細めていた理奈が、明乃へと語りかけてきた。
(どうするって言っても……ねぇ?)
理奈の言葉を聞いて、明乃は自分に2つの選択肢があることに思い至る。
自分には関係無いからと尻尾を巻いて逃げ出すか、それとも理奈と共に戦うか。
──どちらを選ぶかなんて、考えるまでも無い。当然の如く、明乃の取るべき道は決まっている。
「あたしが親友を放っておいて、自分だけ逃げだすような臆病者に見える?」
理奈の母親である美緒が父親のサポートに出掛けていない今現在、この屋敷で戦力と呼べる存在は自分と理奈の二人だけ。夜には戻ってくるらしいが、それでは遅すぎる。
この状況で理奈を置いて、自分だけ一人逃げ出す? そんなの絶対にあり得ない。
ここで逃げだしたりなんかしたら、それはもう赤神明乃なんかじゃない。偽物だ。
明乃は力強い笑みを浮かべながら、理奈に向かってそう宣言する。
「だよねー、そう言うと思った」
「なによその言い方ー。戦力が増えたんだから喜びなさいよー」
明乃の宣言に対し、理奈は呆れたかのように苦笑を浮かべつつ返事をする。そんなつれない反応をする理奈に対し、明乃は唇を尖らせた。
「ごめんごめん。感謝してまーす。ありがとね♪」
「うむ、よろしい」
理奈からの礼の言葉を受けた明乃は、腕組みをしながら満足気に頷いて見せる。
「それじゃあ最後に装備を整えるとして……明乃ちゃん、なんか欲しい武器とか道具ある?」
「んにゃ、特にいいかな。慣れない道具を使う方が危ないし」
「りょうかーい。それじゃ、準備が必要なのは私だけか。ちょっとだけ待っててね」
本当はもっと落ち着いた状態でお披露目する予定だったんだけどなー、などと文句を言いながら理奈が指を鳴らせば、その姿がフッと掻き消え──しばらくしてから再度その姿を現した。
「お、新しいコートね。似合ってるわよ?」
そうして“準備”を整えた理奈の姿はというと、マジックアイテムと思しき指輪やネックレスを装備し、アイボリーカラーのコートを羽織った姿であった。
「ふふっ、ありがと。でもこの服は格好だけじゃないよ? 耐久力がすごく高い上に、
一見すると軽装だけど実は重武装なのです、と理奈はその豊かな胸を自慢げに張ってみせる。
「ありがと。つまり隠し武器が盛り沢山って事ね? なんか暗殺者みたいね」
「まあ、私たち魔法使いは小細工をしてナンボだからね。単純な出力なら、生命力そのものである気の方が上な訳だし」
明乃は理奈から渡された靴を履きながら、以前理奈から聞いた説明を思い出す。
魔法は単純な破壊力や身体強化の倍率などでは気に劣るものの、それを補って余りある多彩な手札が特徴だ。
なのでそれらを駆使し、相手にやりたいことをやらせず、ハメ殺すのが魔法使いの基本戦法だとか。
「まあ、そこはアレよ。こっちは一応、体力とか削ってるわけだし?」
「そだね……。さて、それじゃ雑談はここまでにして──跳ぶよ?」
理奈の表情が、いつもの緩い表情から一転。真剣そのものといった表情へと切り替わる。
それを見て、明乃も意識を戦闘用のそれへと切り替えた。
「了解、作戦は?」
「転移地点は玄関前。転移後は明乃ちゃんが前衛で私が後衛。明乃ちゃんに合わせるから、好きなように動いていいよ」
「わかったわ、こっちはいつでもオッケーよ」
理奈の提案した作戦に、明乃は同意を示す。
それを確認した理奈は、ゆっくりと腕を持ち上げるとその指をパチンと鳴らし──。
その次の瞬間。明乃の瞳に映る景色が、一気に切り替わった。
本来なら魔力をバカ食いする理奈ちゃんの転移魔法ですが、霊的一等地の上に建つ自分の屋敷内であれば低消費で気軽にポンポン使えます