目指すは地球の最強種   作:ジェム足りない

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17話 とある戦闘員の話

(ここは……第三研究所……?)

 

 犯罪結社・ユグドラシル。その元戦闘員である少年はふと気付くと、どこか見覚えのある薄暗い通路に立っていた。それも全力で気を解き放った状態で、だ。

 ここはどこだ? なぜこんなところに自分はいる? なぜ自分は気を開放している? 

 本来なら湧き上がってくるはずの、当たり前の疑問。しかし不思議なことに、そういった思考は少年の頭には一切湧いてこず──理由もわからず気を撒き散らす少年の前に、一人の少女が現れる。

 黒く長い髪をツインテールに纏めて、まるで人形のように端正な顔立ちをした、美しい少女だ。

 

『形勢逆転、だね。で、なにか言い残すことは? ないならもう殺しちゃうけど、いいかな?』

 

 もっとも、その全身から不吉としか言いようのない禍々しいオーラを放ち。

 さらにはやけに物騒な尻尾が生えている上に、瞳孔が十字星の形状をしていたりと──明らかに人外の雰囲気を漂わせている少女なのだが。

 

(ああ、成程……夢かこれ)

 

 そうしてその少女の、まるで勝利を確信したかのような得意気な笑みを見て。

 ここに来てようやく少年は、この光景が夢であることに気付き。そうとわかればこちらのもの、とばかりに体を動かそうとするのだが。

 

(チッ、動けない……。夢の癖にご主人様に抗うとは、生意気な夢だな……)

 

 生憎と、この夢は夢を見ている本人が自由にできるタイプの夢では無いらしい。

 どうせ勝てないことはわかっているのだ。ならば突然全裸になったりギャグをかますなどして、度肝を抜いてやろうと思ったのだが……と残念がる少年。

 

『ほざけぇーっ!』

 

 そんな少年の心など知ったことかと、夢の世界は動き続ける。

 煽り文句を受けた夢の中の少年は、床を強く蹴ることで少女に向かって一気に加速。全身の筋力に加えて、突進の勢いまでをも右拳に乗せ。渾身の気合いと共に突き出した。

 改造人間であるが故の、常人の遥か上を行く膨大な気に強大な筋力。それらを組み合わせることで生まれた圧倒的なパワーがバトルスーツによって補正され、最適化されたモーションで振るわれるのだ。これぞまさしく一撃必殺。人類の叡智が生み出した、究極の一撃──! 

 

(って当時の俺は思ってたんだよなぁ……)

『へぇ、驚いた。なかなかのパワーだね』

 

 だが、しかし。

 かつての少年が究極だと信じていた、その一撃は。

 少女が突き出した人差し指によって、至極あっさりと受け止められる。

 

『オ、オオオォォーッ!』

 

 己の信じる渾身の一撃が、たかが指一本で受け止められた。いくら膨大な妖気によって強化されてるとはいえ、自分より五歳くらい歳下の、幼く小さな子供の手でだ。

 そんな目の前の光景を受け入れられないのか、少年は全身の筋肉を総動員して押し切ろうとする。

 

『あははっ、必死すぎでしょ!』

 

 少年と少女の、互いの発する気と妖気がぶつかり合い、暴風となって吹き荒れる。

 しかし少年の全力を受けても尚、少女はびくともしない。むしろ余裕たっぷりといった様子で、嘲笑まで飛ばしてくる始末。

 いや、突進の勢いを乗せた一撃で駄目だったものが、今更ちょっと全身に力を込めた程度で抜けるわけがないだなんて、当然と言えば当然の出来事なのだが。

 

『今度はわたしのターン!』

 

 そうして必殺の拳を防がれた少年が、消耗した気と体力を整えようとバックステップで距離を取ったその瞬間。

 攻守交替とばかりに、超スピードで少年の目の前まで踏み込んできた少女が、その身体を捻って上段の後ろ回し蹴りを繰り出してきた。

 

『なっ──ギッ!?』

 

 慌ててガードをした少年の右腕と少女の踵が接触し、その結果。

 パァンという破裂音と共に、少年の右腕は一瞬で血煙と化した。

 

『グ、グウウゥゥ……! ち、ちくしょ……!』

 

 右腕を吹き飛ばされた激痛に呻き声を上げる少年ではあるが、しかし痛みに耐える素振りを見せたのは最初の一瞬のみ。

 少年の脳内に埋め込まれているマイクロチップが、行動を阻害するレベルにまで達した痛みの信号をカットしたのだ。

 

『ん〜、いい表情(カオ)♪ ほらほら、続けていっくぞ~♡』

 

 だが、痛みが消えても失った腕は戻ってこない。表とは比べ物にならない技術を持つ結社と言えども、流石に欠損した四肢を即座に生やすレベルの技術までは持っていない。

 まあヴァンパイア・ブラッドなどという、肉体の再生能力を大幅に強化する新薬が絶賛研究中ではあるので、あと数年もすればなんとかなるかも知れないが──今現在の少年にはどうしようもない。

 

(いや……。新薬の開発が間に合っていたとしても……)

 

 夢を見ている方の少年の意識が、新薬さえ完成していればあるいは……とIF(もしも)の話を考えるのだが、その楽観的な考えを少年は自分自身で否定する。

 そうだ。あの少女の攻撃には、生命を否定する悪意に満ちた力が。妖気、あるいは悪性魔力とでも呼ばれる力が、馬鹿みたいに籠められているのだ。

 新薬の開発に成功していたとしても、結果は変わらないだろう。再生を封じられ、この夢の中の“俺”と同様に達磨にされて終わりのはず。そう少年は結論付けたのだ。

 

(結果は一緒、か。あーやだやだ)

 

 まあなんにせよ、そうして少年が利き腕を吹っ飛ばされてからは、もう一方的な蹂躙だ。

 

『お次は左ぃ!』

『ぐあーっ!?』

 

 右腕の欠損に衝撃を受ける少年に対し、少女は下から上へと大きく脚を振り上げて。残った左腕をも、根元から容赦なく斬り飛ばす。

 こうして両腕を奪われた少年であったが、まだ少女の攻撃(ターン)は終わらない。

 

『這いつくばれっ!』

『あ、ぐおぉぉ……!』

 

 蹴り上げの際に発生した衝撃波で、吹き飛んだ少年を追いかけるかのように。

 少女の尻尾が勢い良く放たれ──宙を舞う少年の右脚を貫いて切断し、冷たい床へと叩き落す。

 ほんの一瞬で、両腕と脚を一本失った。酷い有様だ。あまりに酷すぎて笑えてくると、夢を見ている少年は自嘲する。

 

『ハ、ハハ……ハ……』

『うふふ、ぶっざま~♡』

 

 少女はそうして、無様に地面へと転がる少年にトコトコと近づいてきたかと思うと。

 少年の最後に残った左脚の上で、その綺麗な右足をゆっくりと、これ見よがしに持ち上げて。

 

『それじゃあラスト一本も、頂いちゃいま〜す!』

 

 一点の曇りもない、なんとも無邪気な笑顔と共に。悪魔のような台詞を吐くと、持ち上げた右足を勢い良く振り下ろし──。

 

「ええい、折角この儂が来とるというのに……いつまで寝とるんじゃ! さっさと起きんか小僧ー!」

()ーっ!」

 

 間一髪のところで、少年の意識は悪夢から解放された。

 

 

 

 

「まったく、もうお天道様もだいぶ高いとこまで登ってきておるというのに。怠惰じゃのぅ……」

 

 悪夢にうなされている少年を叩き起こした、やけに露出度の高い和服を着た美女。

 自らを烏天狗の刹那と名乗ったその美女は、病室のベッドの上で寝転がる少年に対し、呆れたような眼差しを向けながらそう口を開いた。

 そう、ここは病院。黒髪の少女(緋乃)との戦いで四肢を失う重傷を負った戦闘員の少年は、管理機構と繋がりの深い病院へと入院していたのだ。

 

「うるさいなあ。怪我人がベッドで寝てちゃ悪いのか? ていうか、こっちは両手両足を吹っ飛ばされた重症患者だぞ。少しは労わってくれよ……」

 

 そうして寝起き一番に刹那からのありがたい説教を受けた少年は、失った両手の代わりに取り付けられた機械の義手で頭をかきながら、不機嫌そうに唇を尖らせる。

 

(まあ、あの悪夢(ユメ)から解放してくれたのはありがたかったけど……)

 

 とはいえ、その内心は雑な起こし方をした刹那に対する反感と、悪夢から目覚めさせてくれたことへの感謝が入り混じった、複雑なものではあったのだが。

 

「たわけめ。例え怪我人だろうと、それに甘えてだらけた生活を送っていてはいかんに決まっておろう? 身体が満足に動かせないのであれば、精神を鍛えればいい。鍛錬、日々鍛錬じゃ」

 

 ゴロゴロと寝っ転がりながらネトゲにソシャゲ、ネットサーフィン三昧で時間を浪費し、その合間に使い魔たちへ命じて仕事をする(させる)。

 そんな自身の自堕落な日常を棚に上げ、いかにも厳格な人間っぽいことを口走る刹那。

 もし仮に少年が刹那の日常について詳しく知っていれば、間違いなくどの口でほざくと反論していたであろうが──残念ながら、少年はそこまで刹那のことを知ってはいない。

 

「へーへー。解りましたよ、美人のお姉さんの言う通りです」

 

 故に刹那のことを口うるさく厳格な長命種だと誤認した少年は、これ以上面倒な説教が長引いてはたまらんと白旗を上げる。

 実際には刹那の説教レパートリーはそう多くないので、これ以上説教が長引いたりすることは無かったのだが。

 

「うむうむ、わかればよいのじゃ。ところで確かお主……ライナスとか言ったな?」

「ああ、そうだよ。俺はライナス。ライナス・ワイルダーだ」

 

 少年の素直な態度を見た刹那は上機嫌な様子で頷くと、少年の名を改めて確認する。

 別に隠すようなものでもなかったので、少年は素直にそれを認めた。

 

「よし、ではライナスよ。単刀直入に言うが──儂と取引をせんか?」

「取引……? お姉さんがかい?」

 

 刹那の言葉を聞いたライナスが、訝しげにその目を細める。

 

「うむ。儂が欲しいのは情報じゃ。そして、代わりにこちらが出せるものについては──まあ、色々とあるぞ? 儂ってば、こう見えて結構なお偉いさんじゃからな」

 

 刹那はそんな怪訝そうな反応をするライナスに対し、得意気な顔で自身の権力をアピール。

 その自信満々な様子を見て、ライナスは数秒ほど真剣な表情で考え込むと、ゆっくりと自身の要求を口にした。

 

「そうだな、俺が欲しいのは……安全だ。とにかく俺は、安全な未来が欲しい。お姉さんに、それが出来るかい?」

「ふむ、安全とな。それはつまり……」

「ご想像の通りだよ。結社についての情報を吐くのは構わない。その代わりに、結社から保護して欲しい。ホラよく言うだろ? 裏切者には死をってさ」

 

 ──この国にも証人保護プログラムとか、そういうのあるんだろう? 俺に適用してくれよ。まあ、出来るのならだけど。

 そう要求したライナスに対し、今度は刹那が考え込む素振りを見せる。

 恐らく、頭の中で要求を呑むメリットとデメリットを天秤にかけているのだろう。

 

(とはいえ、俺の知っている事なんてたかが知れているんだがな。まあ、自分の価値をより高く見せるってのは……取引の基本だよな?)

 

 そんな刹那の様子を見ながら、ライナスは内心でほくそ笑む。

 ライナスが持っているのは、別に知られても構わないと上の人間が判断した情報のみ。

 なので、積極的に始末人を送り込まれるほどの情報は別に持っていないのだが──馬鹿正直にそれを話して、自身の価値を下げることもないだろう。

 それに積極的に始末される危険が無いとはいえ、何かの任務の()()()で始末される可能性は常にあるのだから、まるっきりの嘘というわけでも無いのだし。

 

「ふーむ……まあええじゃろ。儂の伝手でよければ、口を利いておいてやろう」

「よし、交渉成立だな。サンキュー、お姉さん。……で、何を聞きたいんだい?」

 

 刹那からの了承の言葉を聞き、ライナスは内心でガッツポーズをする。

 恭二とかいう職員から以前聞いたこの女の地位と、管理機構からの保護。この二つが合わされば、かなりマシな環境に行けるはずだ。少なくとも、雑に放り出されることはないだろう。

 意図せず最上の結果を得る事のできたライナスは心の中で大喜びするのだが、もちろんそれを表に出す愚は犯さない。

 

「契約書とかはいらんのか?」

「ああ。実はお姉さんのことは、俺の取り調べを担当した職員から聞いていてね。そこら辺を含めての判断さ」

「なんじゃ、あ奴から聞いておったのか……。まあええ。ならば遠慮なく聞かせてもらうぞい」

 

 ライナスからのネタばらしを聞いた刹那は、つまらなさそうに軽く鼻を鳴らした後、胸の谷間から一枚の写真を取り出した。

 

「お主、この写真の少女と戦ったそうじゃな?」

「ああ、この()か。()った()った。とても酷い目に遭わされたよ」

 

 刹那が取りだした写真に写るのは、ライナスにとってもとても印象深いある少女。

 ライナスの四肢を吹き飛ばし、この病院へと担ぎ込まれる羽目となった元凶。

 不知火緋乃の姿が、そこには写っていた。

 

「この少女、緋乃ちゃんについて。お主が知っていることを、全て教えて欲しい」

「あー、この娘についてかぁ……。まあ別に構わないけどさ、なんで? 俺はてっきり、他の研究所の位置だとか、結社のメンバーについて聞かれるのかと……」

 

 刹那より写真を受け取ったライナスは、写真を眺めながら困惑の声を上げる。

 今口にした通り、ライナスはもっと直接的に結社に関わる情報を聞かれると思っていたからだ。

 

「そっちは馬鹿弟子共の仕事じゃし、儂にはどーでもいいからの。そして何故かと聞かれると……緋乃ちゃんは儂のお嫁さんじゃからな。ふふん」

 

 ライナスのその疑問の声に対し、刹那は腕組みの反動で豊かな胸を揺らしながら、ドヤァ……という擬音が聞こえてきそうなほど自信に満ちた顔でそう答えた。

 

「嫁ぇ? いや女同士で……。ああなるほど、つまりそういう事か。お姉さん、あいつの魅惑の肉体(チャームボディ)に脳味噌をやられちゃったんだな」

 

 刹那の言葉に最初は面食らっていたライナスであったが──心当たりでもあったのだろう。

 すぐに気を取り直すと、訳知り顔で一人頷く様子を見せる。

 

魅惑の肉体(チャームボディ)? ふむ。その言い方だと、何やら詳しく知っておるようじゃの? ほれほれ、はよ続きを話してみい!」

「慌てない慌てない、ちゃんと説明するから。まあ結論から言うと、あの娘の正体はだね……」

 

 そんなにこの娘についての情報を求めていたのか。少しばかり興奮した様子で説明を急かす刹那を宥めながら、ライナスは緋乃の正体について明かしていく。

 

「とある研究を進めるために、結社が優秀な幹部のクローンをベースにして造り上げた人工異能者。戦闘用の技能は勿論のこと、顔や身体の造形から声の波長に体臭、フェロモン。全てが計算尽くの──造られし者(デザインド)さ」




モテかわスリムな愛されボディ(科学)
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