目指すは地球の最強種   作:ジェム足りない

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ようやく三章ラスダン突入です


19話 破滅の足音

 新興の組織であるにも関わらず、裏社会において、その影響力を急速に高めつつあった黒門会。

 その黒門会が何の前触れもなく、唐突に表側の人間に──それも大量の資産と各所へのコネを抱えた有力者だ──手を出したかと思えば、その関係者からの報復を受けて、事務所が壊滅。

 

 あまりにも意味不明な一連の流れに、業界が困惑と衝撃を受けたその事件の翌々日。大晦日を目前に控えた、晴れの日の正午。

 緋乃は恭二と刹那の二人と共に、北海道の大地の、その地下に張り巡らされた線路の上を歩んでいた。

 

「はぁーあ。こんな防具(モノ)なんかなくても、わたしの肉体は無敵なんだけどなぁ……」

 

 周囲をコンクリートで固められた、薄暗いトンネルの中に、コツコツという歩行音を響かせつつ。

 緋乃は自身の着用している、黒色のボディーアーマーを指で弾きながら、不満の声を上げていた。

 そう、今現在の緋乃の姿は、いつものラフな私服姿ではなく。

 

 上半身はボディーアーマーの上から、これまた防御力の高そうなコンバットジャケットにきちんと袖を通し。

 下半身に関しては相変わらずのホットパンツだが、これも素材が頑丈で気の伝導率が高い新素材へと置き換わっており、オマケとばかりに腰の後ろには無骨な箱型をした突撃銃(アサルトライフル)がマウントされ。

 さらには履いているブーツも、いつものブランド品のショートブーツから、軍用のしっかりとした造りのものへと変わり──これまでの露出度が高めのスタイルから、大きく変化していたのだ。

 

「くふふ。そうぶーたれるでないぞ、緋乃ちゃんや。いつもの服も可愛いが、そのミリタリースタイルも似合っていて格好いいぞい?」

 

 そんな緋乃を宥めるかのように、緋乃の隣を歩む刹那が──緋乃と違い、こちらはいつものミニ和服姿である──笑顔を向けながら声を上げれば。

 

「うーん……。確かにまあ、言われてみれば、そっか。いくらわたしが最高の美少女であっても、いつも似たような服じゃあれだしね……。うん、たまにはこういうのもいっか」

 

 元から単純な上、自身の肉体に絶対的な自信を持つ緋乃は、あっさりとその態度を翻してみせる。

 

「ハハハ……。いやでもこのアーマー、本当に性能凄いよ? 布だって繊維の強度が段違いだし……連中の技術レベル、想定以上に高すぎる。簡単な防具ひとつとってもこれとか、そりゃあ勝てない訳だ……」

 

 そうして、自身の背後で行われていた、緋乃と刹那のそんなやり取りを耳にして。

 探知の術式を展開しつつ、二人の前方を歩く恭二が、苦笑交じりに己も着用している防具(それ)について語り出し。恭二のその言葉を聞いた刹那もまた、軽く頷いて同意を示す。

 

「うむ。儂も軽くデータは見たが、奴らの技術力は驚異的じゃ。武器や防具もそうじゃが、AI駆動の自立兵器の性能も、現行のそれを凌駕しておる。たかが犯罪結社と見くびっておったが……それは間違いだったようじゃの」

 

「ええ。不知火さんのお友達が、黒門会の襲撃を退けた際に確保した装備に、奴らの事務所に隠されていたデータ。そして派遣していたスパイが送ってきた様々な情報。ここ数日は大荒れで大変でしたよ……」

 

 心底疲れたという様子を、その全身で表現しながら、恭二がため息を吐く。

 つい先日、水城邸襲撃への報復行為として行われた、緋乃と刹那の二人による黒門会襲撃。

 緋乃や明乃、そして理奈たちの反撃を受けて、実力者たちが一時的に離脱していた事。

 街中の事務所であったが故に、大型の自立兵器や高火力の武器が使えなかった事。

 本来なら様々な制約を受けており、動きの察知が容易はずの達人級。それが突然、あらゆるしがらみを無視して襲いかかってきた事。

 

 様々な事情が噛み合わさったことにより、この襲撃は大成功を収め。管理機構は黒門会の構成員を何人か捕え、事務所に残されていたデータの奪取に成功。

 そして、()()()()()()()()()()()()して、管理機構が結社に送り込んでいたスパイが大量の情報を持ち帰ってきたことも合わさり──ここ数日の管理機構は荒れに荒れていたのだ。

 しかし何故、結社の秘匿情報を知った管理機構がそこまで荒れていたのかというと。

 

「上層部が結社の連中とズブズブで、荒れに荒れたらしいのう? それなのにまあ、よくもこの短時間で組織を立て直して、襲撃計画など立てたものじゃ。流石の儂もちょっと感心」

 

 刹那が今発した言葉の通り、スパイの持ち帰った情報の中に、管理機構の上層部と結社の繋がりを示す情報が多々混じっていたからだ。

 

「僕の上司、ソニアさんって言うんですけどね。その人、めっちゃ若いのにめっちゃ優秀で、将来は幹部確実ーって言われてたんすよ」

「ソニア・カレッジか。確か、強力な炎の異能(ギフト)持ちで、凄腕の細剣(レイピア)使いだとか聞いておるが……」

「ええ、その人です。その人が情報を知ってですね、もうものすごい勢いで怒り狂って。本部で粛清の嵐が吹き荒れてですね……」

「成程。お家騒動に巻き込まれとった、と……。めっちゃウケる。草生えるのじゃ」

「笑い事じゃないですよもう〜」

 

 力なく項垂れる恭二を目に、刹那が楽し気な笑い声を上げ。そんな大人たちのやり取りを見て、緋乃もまた、その口元に笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

「ん〜、それにしても緋乃ちゃんは本当にいい匂いがするのう……」

「うふふ、わかる? わかっちゃう? これ、明乃や理奈のオススメの香水でね?」

 

 周囲を警戒しつつ──警戒しているのは恭二だけであったが──トンネルの中を歩む事数十分。

 いい加減に恭二を弄るのにも飽きたのか、それとも放置されていたことで緋乃がご機嫌斜めになったことを悟ったのか。

 歩きながらふと緋乃の背後に回った刹那は、元からの身長差プラス高下駄の高さを最大限に利用し、ひょいと緋乃を抱きかかえ。

 

「いやいや、そうじゃなくて緋乃ちゃん本来の匂いがのう。むしろ香水は無くても問題は無いというか。んん~っ、嫌味にならない程度に、うっすらと香るフローラルな匂いがたまらんのう……」

「あはは、刹那さんも明乃みたいなこと言うんだね。でも、さすがにそんなお世辞は通用しな──ってちょっとくすぐったいよははっ」

 

 そのまま緋乃の後頭部に顔を(うず)めて、深呼吸を繰り返す。

 緋乃はそのくすぐったさから、手足をパタパタと振り回して抗議をするのだが──刹那はその抗議のポーズに気付かないのか、それとも気付いた上で無視しているのか。なかなか開放する姿勢を見せてくれない。

 

「ところで恭二さん。結社の地下施設への入り口ってのは、後どんくらいなの?」

 

 やがて抗議をしても無駄だと諦めたのか、緋乃は刹那に身体を預け。ぼーっとトンネルの先を眺めながら、恭二へと話しかける。

 

「ああうん。もう少し先……のはずだよ。この調子なら、あと十分くらいで着くんじゃないかな?」

 

 緋乃のその問いかけを受けた恭二は、歩みを止めることなく、スーツのポケットから取り出したスマホの画面を確認し。緋乃に返事を返す。

 そう、三人がこうして地下鉄のトンネルを歩んでいる目的はひとつ。

 黒門会の事務所から奪い取ったデータと、スパイの持ち帰ったデータより判明した、この国における結社の活動の最大拠点。

 日本各所に点在する大小様々な研究所(ラボ)へと指示を出す、本部とも呼べる大規模な地下施設に対し、奇襲攻撃を仕掛けるためだ。

 

「そっかー。でもアレだね。よくもまあ、こんな地下鉄の近くに基地なんて作ったもんだよね……」

「ああ、それに関しては逆だよ、不知火さん」

 

 緋乃の上げた疑問の声に対し、恭二は足を止めて振り返りながら回答をする。

 

「逆?」

「そう。地下鉄の側に基地を作ったんじゃなく、まず基地があった。そのあと、基地を避けるように地下鉄を敷設したんだ」

「ふーん。って事はつまりさ──」

「──っ! 不知火さん、静かに」

 

 恭二の返事を聞いた緋乃が、何事かを口にしかけたその瞬間。緋乃の耳に、ブーンという非常に小さな羽音が飛び込んできた。

 前方に位置する曲がり角の向こうから聞こえるその音は、恭二や刹那にも聞こえていたらしく、恭二は軽く背後に跳んで緋乃たちのすぐ前に立つと、懐から一枚の呪符を取り出してそれを構え。

 

「この音……偵察用の小型ドローンといったところかの?」

 

 刹那は抱きかかえていた緋乃を解放して地面に立たせ。緋乃を庇うよう一歩前に出ながら、警戒態勢を取る。

 

「奴らの本拠地が近い、って事ですね……。とりあえず隠形の結界を張るので壁際に──」

 

 刹那と恭二が話し合うその間にも、機械的な羽音はどんどんと近寄ってくる。

 その音の主が姿を現す前に、トンネルの壁際に移動した三人を覆い隠すよう恭二の結界が張られ──。

 

「気付かないで行ってくれよぉ……頼むぞぉ……」

「バレたら面倒じゃしのう」

「でも、それはそれで面白そうじゃない? わたしの足が唸りを上げるよ」

 

 壁際に立つ三人に目をくれることなく、トンネルの中央上部を、小さなドローンが通り過ぎて行った。

 

「……行ったのう。ドローンはあの坂の向こう側じゃ」

「ふぅー……助かったぁ……」

 

 ドローンの羽音が遠く離れたのを確認して、三人の中で最も聴力に優れた刹那が声を上げ、それを聞いて恭二が安堵の息を吐く。

 

「やるじゃん、恭二さん」

 

 実は三人の存在には気付いていたが、罠に嵌めるため、あえて気付いていないような動きを取ったという可能性もない事はないが──そこまで気にしていては、身動きが取れなくなってしまう。

 ここは上手くかわせたと思って前に進むのがベストだろうと、緋乃もまた、恭二を讃える言葉を口にした。

 

「さあ、あのドローンが戻ってくる前に、さっさと進むとしようか。敵の基地はすぐそこだ」

「うむ。敵は強力な装備や兵器で守りを固めた難敵じゃ。気を引き締めて行こうかのう。……ああ、緋乃ちゃんだけは儂が命に換えても守るから安心していいぞい」

「ええ……どうせなら僕も守ってくださいよぉ……」

「だってお主、可愛くないしのう……」

 

 初めはキリッと決めていたくせに、刹那から守護対象外の宣言を受けると、すぐ情けのない声を上げる恭二を見て、緋乃はクスクスと小さく笑い。

 

「ふふっ、その必要はないよ刹那さん。何しろ今のわたしは、無敵の肉体に加えて強力な追加装甲と射撃武器を手に入れた最強形態! いわば……フルアーマー緋乃ちゃんなんだからね!」

 

 自信に満ち溢れた、堂々とした笑みを浮かべながら胸を張るのであった。

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