(今誰か俺の前で自分は
そう思いながら声のした方を向くと、青薔薇の飾りがついた黒い帽子をかぶるウマ娘と栗毛で赤みがかった冷静沈着そうなウマ娘が居た。
「…どっちが言ったんだ?」
「ふぇっ!?あなたは…?」
「人物データベース検索…エラー、目の前の人物のデータは記録されていません。」
「なんだその喋り方…まぁいい、俺は濱田尚人、新人トレーナーだ。で?どっちが言ったんだ?」
「どっちとは?」
「
「ラ、ライスだけど…」
どうやら
(正直気弱そうだな…
「ライスさんがどうかしましたか?」
「俺は元
「資格…?」
「ああ、取り敢えずお前にとって
軽くしゃがみ視線を合わせて真剣な目で聞く。一言一句聞き漏らさないように集中して。
「え、えっと…誰からも勝つことを望まれない人…?」
そう聞くと尚人の口からはため息が出た。彼女には資格が無いと判断したのだろう。
(…一度本物の
そんなことを考えると尚人は電話をかけるふりをする。
「もしもし?ああ…うん…今何処?日本来てるの?ちょっと来てくれないか?ああ…ありがとう。それじゃ。」
「どなたに電話をかけたのですか?」
「俺の師匠だ、二日後の…17時、予定開けれるか?」
「わ、私は開いてるよ…?」
「よし。ならさっき言った時間にここに来てくれ。」
そう言うと有無を言わさず去っていってしまった。
「えっと…ライスどうすれば良いのかな…」
「彼の言うことを聞くなら明後日に来てみるべきかと。」
「さて問題は相手だが…皇帝で良いか?あんだけの相手なら充分だろうし…問題は向こうの都合だが…まあ滅茶苦茶速い奴が居るとでも言えば来るか。ウマ娘は速さの欲望はチーターより上だし。」
そんな感じで皇帝相手に模擬レースの約束を取り付け、2日間でウマ娘としての走り方に慣れる為に暫く変身して走ることにした。
2日後
「…そろそろ時間かな?」
「君は…ライスシャワーか、君も濱田トレーナーに呼ばれたのかい?」
「ふえっ!?シンボリルドルフさん!?なんでここに!?」
「私は彼から凄く速いウマ娘が来ると聞いて…」
そんな話をしてると右耳に切れ込みが入ったウマ娘が近付いてきた。
「君があの馬鹿弟子が言ってた娘かい?」
「えっと…貴女は…?」
「私はファーザーモア、濱田尚人の師匠ってとこだね。」
そう名乗るウマ娘は観察するように二人を見ていた。
「…こっちがこの学園で最強と名高い皇帝サマで、こっちがあの馬鹿弟子が言ってた
「あの…」
「ああ、すまんねあの馬鹿弟子が。とっとと始めよう。んで皇帝サマ、勝負服は着てこなくて良いのかい?後で本気出さなかっただけなんて言われても面倒だよ?」
そんな感じに煽るが欲しかった反応は帰ってこなかった。
「ふっ、私はいつどんな格好でも勝負時は本気だよ。芝2000mで良いかい?」
「その条件で構わないよ。後で吠え面かいても知らないよ?」
そう言って二人はゲートに向かう。
「そういえばあの馬鹿弟子から今回の走り方は聞いてるのかい?」
「どんなことされても自身の走りに集中しろとは言われているよ。」
「そうかい、さて…」
軽い準備運動をするとファーザーモアは大きく息を吸い込み、観客席にも聞こえる声で叫んだ。
「より高い速度への欲望を抑えきれない愚か者達よ!今宵私はこの学園で一番速いと言われる皇帝の顔に泥を塗ろう!無惨に敗北する姿を見逃さずにな!!」
「「!?」」
その後即座に押してから5秒後にゲートが開くボタンを押し、構える。
「準備は良いな皇帝サマ?」
「フフッ…あの発言、撤回させてみせよう。」
そうしてゲートが開きレースが始まった…が、皇帝が完璧なスタートダッシュを決めたのに対しファーザーモアは微動だにしない。
「なっ!?」
「500m、このくらいのハンデはないと成り立たない。」
どうやらファーザーモアは皇帝が500m地点を通過するまではゲートから出る気はないようだ。そんなあまりにもレースを馬鹿にしたような行為を行いながら、彼女はクラウチングスタートの構えをする。
「…ッ…」
皇帝は怒りを感じながら淡々と自身の走りを行い続ける。そして500m地点を通過した。
「それじゃ…行くか!!」
その瞬間、ゲートから目の前の者を刈り取る為に死神が飛び出した。
大逃げも真っ青な超加速。所謂掛かりと呼ばれる状態に見えるが化物のようなスタミナと筋力が掛かりすら作戦へと捩じ伏せる。その状態で生み出された速度はウマ娘の限界と思われており、皇帝が全力で走りなんとか出せる75km/hを大きく超え、3桁目に到達していた。
そうして1500m付近、この世のものとは思えないプレッシャーを感じた皇帝が思わず振り返ると…
「は…!?」
「ヘッ…お先!!」
いかにも悪人といったニヤつきをした顔でファーザーモアが迫っており、横から追い抜かれた瞬間死神の鎌で魂を刈り取られたような錯覚に襲われた。いくら歴戦の皇帝といえど人にもウマ娘にも本来決して出せない威圧感に掻き乱されてしまいその隙を突かれ一気に置いていかれる。
そうしてファーザーモアがゴール板の付近まで来ると急にブレーキをかけ後ろを向き
「
そう吐き捨ててからゴール板を踏んだ。
「…ルドルフさんが…負けた…?」
ライスシャワーは未だに目の前の状況を信じられずにいた。
現役最速と名高いシンボリルドルフが500mのハンデで4バ身ほどの差を付けられて負けた。それも若くても20代後半、下手したら30代にいってそうで本格化などとっくの昔に過ぎてるであろう今日初めてみたウマ娘にだ。圧倒的…いや、絶望的な差を見せつけられ、しかも最後に暴言を吐く余裕まで見せていた。こんなレースが今まであっただろうか?
「ハァッ…ハァッ…君は…いったい…?」
「…一流の
そういうと劇が終了した時のように西洋風のお辞儀をして出口の方へ向かっていった。
翌日
「どうだった?俺の師匠の走りは?」
「…えっと…なんか…胸の中から…嫌なものが溢れてきそうになっちゃった…かな…?」
「そうかそうか、それを常に不特定多数からぶつけられるのが
尚人は真剣な眼で会話を続ける。伝えたいことを伝えきる為に。
「お前が
「…じゃない。」
「あ?」
「ライスは
そう呟いたライスシャワーの眼には、天すら焼き焦がすほどの闘志が燃え上がっていた。
「へっ…やっとマシな顔になったな。その誓い、裏切るなよ?一人前の
「…はい…!!あの、タキオンさんのトレーナーさん!!」
「なんだ?」
「あの…本当に、ありがとうございました!!」
「俺がやりたくてやっただけだ、気にすんな。」
そういって、何処かスッキリした顔で尚人は模擬レース場から去っていった。
『ライスシャワー』
小柄だがガッツのある黒髪のウマ娘。運があまり無く、自分が居ると周りが不幸になると思い込んでるが実際はただ単に間が悪いだけである。