尚人が珍しく残業で帰るのが遅くなってる夜、タキオンは尚人の自宅に合鍵を使って入り、彼が倉庫と言っていた部屋の前まで来る。
「…普通の家にはまず無い程頑丈な扉だねぇ…」
そう呟きながら扉の鍵を薬品で溶かして開けるとそこには…
「…なんだい…これは…!?」
古今東西からかき集められたと思われる様々な銃器と銃弾が入ったガンロッカー…棚に飾られたあらゆる種類の近接武器…この世の物ではない謎の金属や宝石などの素材…まるでここだけが別の世界になったと思えるほど異質な物が大量にあった。
「…こんな物…この世にあるのかい…?」
あまりのショックに呆けているタキオンに、置かれた武器の一つが目に入る。悪趣味な飾りがされた剣に何故だか分からないが非常に惹かれていた。そしてその剣を手に取ろうとした瞬間…
「辞めておけ、その剣は曰く付きのもんだからな。まぁ死にてぇって言うなら話は変わってくるが。」
「!?ト、トレーナー君!?」
腕を掴まれ止められた。
「俺この部屋には入るなって言ってた筈だが…まぁもう遅いか、鍵壊されてるし。」
「これは…その…」
「…取り敢えずリビングに戻ろう、言い訳なら聞くから。」
「…分かったよ、トレーナー君。」
リビングに戻った後、尚人はタキオン用に紅茶を淹れてから質問を始めた。
「…で、なんで入った?理由は予想がつくが。」
「…正直に話そう。トレーナー君、君には謎が多すぎるのさ。過去も…考えてることも…何もかもがね。」
「だから調べる為に誰か雇って尾行させたり家の中調べようとさせたのか…」
「初めておかしく感じたのは君と出会った時さ、トレーナー君。」
俺がトレーナーになって三日目の時、タキオンは教室に黒煙を上げてバクシンオーから逃げていた。
「そこのトレーナーさん!タキオンさんを止めて下さい!」
「は?おっと!」
そう言われて俺は、タキオンを掴んで投げたんだったな。そうして気絶したタキオンを保健室に運んだ…のに空腹でぶっ倒れて俺は気付いたら寝てて縛られてたな。
「目が覚めたかい?まさかウマ娘を投げるなんて…武道の経験でもあったのかい?」
これが俺とタキオンの出会いだったかな。改めて思うが何で俺はこんなバカな理由で気絶してんだ?
「あの時はなんとなく納得していたが、今冷静になって考えると武道の経験があってもあんな瞬時に投げるのは普通の人間には無理さ。次におかしく感じたのは担当を申し込んできた時さ。あの時君は…」
タキオンに出会って数日が経った頃タキオンは担当を取らなかったり、問題行動を起こしたりで退学通知が来ていた。タキオンが学園を退学すると決めた日に、皇帝と模擬レースをする事になった。
「到達しうる限界速度は影すら見えぬ程遥か彼方なのだから…!!」
そう良いながら皇帝を追い抜こうとしたのは今でも忘れられない。その時の目を見て俺は面白そうだと思ったんだ。
「好きにしな、
そう言って俺はタキオンが持っていた薬を一気飲みして、担当契約を結んだんだよな。
「私の薬を飲んだ時の顔…動揺が殆ど感じられなかった。過去に似たような事を経験してるね?次は、君が私の薬の影響でウマ娘となっていた後の話さ。」
ある日たまたま出来た人間を一時的にウマ娘にする薬を使って、ライスシャワーに本物の悪役について、そして英雄のなり方を教えた時の話か…?あの時徹底的に下衆な走り方をしたな…この事タキオンには伝えてなかった気がするが…
「あの後別の被験者で試してみたところ全員が体調不良を訴えたのさ、人間の感覚とウマ娘の感覚は大きく違うからね。けどトレーナー君はそんな様子は一切無かった…そして最後に、そこの倉庫の中を見た時さ。あの中には、この世の何処にも無い素材で出来た武器等、様々な物があった。トレーナー君…君は、何者なんだい?」
「…もう隠し通せない、か。」
「話してくれるね?」
「信じて貰えるかは保証しねーぞ?証拠はいくつか出せるけど。」
「分かった。教えてくれたまえ。」
「俺は…俗に言う転生者ってやつさ。もっと簡単に言うと化物だ。」
俺は隠していた殆どのことを伝えた。この世界の生まれては無いこと。過去に殺しを行ったこと。魔法とかを使えることを。
「…君は頭でも打ったのかい?それとも夢の話を現実とでも思ってるのかい?」
「まぁそうなるよな…俺の過去、見れるけど見る?一応言うけど死体とか平気で出るけど。」
「…ここまできたら、見させて貰うよ。見せれるのなら。」
「そうか…なら見てきな。」
そうして尚人はタキオンに魔法をかける。
「あれ…急に…ねむ…けが…」
「…これから見るのは、俺の経験全てだ。それじゃお休み…」
夢の中へ行ったタキオンを持ち上げ、布団の中に入れる。
夢の中
「ここは…なるほど、今は夢を見ているのか。あの話と照らし合わせると…これはトレーナー君の過去かな?」
「まま…まま!」
二歳くらいと思われる子供が、木陰に居る女性に向けて走っていく。
「…あの話が本当なら、あれが恐らくトレーナー君の子供の頃かな。」
ドスッ!!
「嫌っ!!やめ…て…」
気付いたら女性の胸にナイフが刺さる。覆面を被った男がナイフを引き抜くと女性は倒れて動かなくなった。
「!!」
「あれ…まま?…まま!?」
「どうします?ボス?」
「ガキは放っておけ。問題は無いだろう。」
「…嘘だろう?トレーナー君は、こんな目にあっていたのかい?」
(…よくも、よくもままを…いつかおまえらからもすべてをうばってやる!!)
「被告人、濱田尚人氏を殺人罪の罪で死刑とする。」
「…トレーナー君、君が時々見せる悲しそうな顔は、これが原因かい?」
こうして尚人は死刑となり、殺された。そして…
「お前は生け贄だ。せいぜい大人しくしてろ。」
(…なんで…)
転生し生け贄として殺され、
「Rh842の調子はどうだ?」
「問題ありません。いつでも戦場に送り込めます。」
(…なんで…)
転生し兵器として扱われ、
「自爆装置を起動させろ。敵を纏めて吹き飛ばせ。」
「了解です。自爆コード入力。」
(なんで…なんで…)
戦場で殺され、
「お前は悪魔の子だ!燃え尽きて消えろ!悪魔め!!」
(…なんで…なんで…なんで…!!)
色んな世界で尚人は理不尽に苦しめられ、殺される。だが彼に手を差し伸べる者は一人も居なかった。
「…トレーナー君…」
「…力が欲しい。今まで俺は散々虐げられてきた…俺が弱いからだ…力を…もっと…力を…!!」
こうして尚人は修羅と成り、悪魔と契約をした。
「いや…やめて…助けて…」
「俺が助けを求めた時に笑いながら石を投げたのは…何処のどいつだ?」
そういって右手に持ったナイフを振り上げる。
「やめ…」
「死ね。」
ドスッ!!
「…君は、ここでもう完全に狂ってしまったんだね。トレーナー君。」
「逃げろ!!修羅が来たぞ!!」
「あれ?なんで逃げるの?もっと楽しもうよ?HAHAHAHA…AHAHAHAHAHAHA!!」
こうして500万年の間、尚人は罪を重ねた…何度も何度も。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
「…君は…どうりであんな寂しそうに…」
「…よう、創造神。俺のことは知ってるだろ?」
「そなたか…修羅と呼ばれし者は。」
「今日は楽しい殺し合いをしに来た訳じゃねぇ。今までの俺が間違ってたのか、それを聞きに来た。」
「…ほう。ようやくそれに気付いたか。」
「…つまり俺は間違ってたって事か。」
「修羅に堕ちた者よ。そなたは間違いを犯した。だが今間違いに気付こうとしている。今一度救いを求めるならその罪をそなたの力をもって償いなさい。さすればそなたに愛を知るチャンスを与えよう。」
「愛…?なんだそりゃ?教えやがれ!」
「それを知るにはまず償いをしなければならん。そして償った時初めてそなたは愛を知れる。その愛こそそなたを救うだろう。」
「…あーもうよく分かんねぇ!!てめぇの話が仮に本当だとして俺はどうすれば償いとやらが出来るんだよ!!」
「まず今まで殺してしまった者全てに謝りなさい。そしてこれからは誰も殺さず、その力を人を救う為に使いなさい。それがそなたの償いになるじゃろう。」
「…信用して良いんだな?」
「わしは嘘は言わん。」
「…裏切ったらまずお前を殺すからな。」
「裏切ったらの話しじゃろう?早く行くがよい。」
「…食えねぇジジイだなおい。」
そう言って尚人は去っていく。
「…これが君の目的なんだね?」
「そうじゃな。」
創造神はタキオンの方を向いて話しかける。
「え!?まさか私が見えてる…?」
「見えておるわい。そなたは…未来の彼を知るものか。…ほう。彼は償いきれたのか。」
「…あの、トレーナー君は…一体…」
「彼はの…かつてわしが作り出した運命によって狂わされてしまった存在じゃ。お主越しに彼の未来を見てみたがの…彼が悪夢を見るのは自身に無意識でかけた呪いじゃ。」
「え…?」
「彼は罪を償ったあとも、罪の意識を棄てられずにいるのじゃ…その罪の意識が呪いとして現れたのじゃろう。この呪いはわしにも解けん…じゃが、お主ならもしかしたら…彼を呪縛から解放してやってくれんかのう?」
「…私に、出来るのかい?」
「ワシが知る限りお主は彼に最も信頼されてる存在じゃ。自信を持てい。そろそろ目覚めの時じゃの…頼んだぞ。」
AM4:00 尚人の自宅
「うぅ…ん…?」
魔法の効果が切れたようで、タキオンは目を覚ます。
「目が覚めたか。どうだ?俺がどんな存在か知って。軽蔑しただろ?」
「…あれは、真実なのかい?」
「…ああ。どんな理由であれ、俺は罪の無い人間を殺し続けた。最低最悪の存在だ。」
「モルモット君…」
「…あの時の俺は間違ってたって事は分かってる。けどあの時感じた肉や骨を砕く感覚…浴びた返り血の匂い…それらを忘れられねぇのも否定できねぇ…実際傷付けないように寸止めで済ませたとはいえ天皇賞(春)の時での喧嘩…あれは滅茶苦茶楽しかった…俺は、結局修羅のまんまだ。居ちゃいけなかったんだ…元々居なかった存在、不法侵入者なんだよ…オマケにあの
尚人は下を向いて隠しているが、今にも潰れそうな表情をしていた。
「確かに俺は救いを欲した。でもそれでやっと出来た繋がりがあの
そこまで聞いて、タキオンは勝手に身体が動いていた。尚人の頭を近くに引き寄せ、子供をあやすように抱きながら頭を撫でた。
「…え…」
「…辛かったんだろう?今までのモルモット君の苦しみを全て理解してるとは言わない。でも誰にも頼れなくて、寂しくて、辛くて、苦しかったんだろう?君が自分を卑下するなら、私が代わりに君を尊大しよう。私を信頼してくれないかい?」
「…ひぐっ…タキ、オン…ワァァァン!!」
今まで堪えてた分、尚人は思い切り泣いた。大粒の涙を、恥も何もかも気にせず大量に流した。
「…今だけは、好きなだけ、泣くと良い。モルモット君。」
こうして尚人は泣いて、泣いて、泣き疲れて、誰にも見せたことの無い朗らかな顔で眠った…
「…こうしてると子供みたいだねぇ…今日だけの特別サービスだぞ?」
この日は600万年ぶりに、悪夢を見なかった…その代わりに…在りし日の記憶…両親と仲良く遊んでる忘れた筈の記憶を夢の中で見ていた…
AM6:00
「…あ…あれ…朝…悪夢を…見てない…?」
「おや、目が覚めたかい?」
目が覚めた時には、タキオンの膝枕だった。
「タキオン…?あれ、何で俺…!!」
目が完全に覚めて、様々な感情が溢れだし飛び起きる。そして即座に正座をして、
「大変見苦しいものをお見せしました…」
それはもう綺麗な土下座をしたという…
『創造神』
ありとあらゆる世界のありとあらゆる存在、現象、理を無から作り出した神。とある異空間から世界を眺めるのが趣味。尚人にとっては一番長い付き合いで、感覚としては近所の爺さんに近い。元々はそれぞれの関わりを管理する為に作り出した運命が離反し暴れまわっている事に罪悪感を感じている。