オラリオに神の子が来るのは間違っているだろうか? R 作:ケツアゴ
「私の
これはベル・クラネルがオラリオへとやって来る数年前、未だ育て親である祖父と暮らしていた頃、オラリオから遠く離れた地にて美神フレイヤは微笑みながら眷属である猫人の少年へと話し掛ける。
後に幹部となる彼だが、この時は未だLv.6にはなっておらず、外のモンスターには苦戦しない程度の力だ。
「俺からは何も言う事はありません。あえて言うのならば直ぐにオラリオに戻られるべきかと」
このフレイヤの悪い癖である多情から来る運命の相手探し、それに出掛けようとした際に偶々近くに居た事で険悪な他の団員を出し抜いて二人旅になったのだが、彼はフレイヤ・ファミリアの中でもフレイヤの自由を制限してでも主神としての自覚ある行動を望む常識人、狂信的な程の愛を捧げていても今回の旅には不満があった。
場所は黄金の麦畑が広がる長閑な田舎町、ただでさえ目立つ女神が注目を余計に浴びる場所、不逞の輩は須く肉塊に変える気ではあったが、まさか無理に連れ帰る訳にも行かずに困っていた。
(まあ、そう簡単に見つからないだろう)
フレイヤ・ファミリアの団員にとってファミリアの構成員は愛しの女神の寵愛を奪い合う敵、殺し合いすら厭わない相手、余計なライバルが増える懸念はあったものの、フレイヤの目に留まる程の存在がそう簡単に見付かる筈もない。
「取り敢えず宿を取っています。……とてもフレイヤ様が泊まるのに相応しい部屋ではありませんが」
「あら、別に良いわ。それよりも今日は一緒に寝ましょうか?」
微笑みながら告げられた誘惑の言葉、寝ずの番をして女神を守る決意に揺るぎは生じないが、それでも誘惑の力は強い。
その笑顔を直接向けられてもいないのに周囲の農夫が魅力され目を奪われるのを威嚇する中、遠くから釣り竿を手に足取り軽くやって来るエルフ幼子の姿があった。
「あら? 近くにエルフの集落は無いはずだけれど珍しいわね。何処かで見た顔な気もするんだけれど……」
「フレイヤ様、まさか……」
相手は男か女かも分からない程に幼い子供、そんなのに興味を持ったのかと思うアレンだが、同時に何時ものパターンであるとも思う。
幼子であろうとフレイヤの魅了の前には無力、話し掛けられて真っ赤になった姿を楽しんだ後は頭でも撫でて別れる事だろう、と。
流石に幼子に嫉妬はしない。
「僕? 僕は男の子だよ、女神様」
「なっ!?」
故に性別を聞かれて答える姿にアレンは驚く事になる。
幼い少年は……魅了を一切受けていなかった。
魅了をはねのける、顔を赤らめはするが魅了にまでは到らない、そんな相手が今まで居なかった訳ではないが、目の前の少年はフレイヤに一切見惚れる様子を見せていない。
モンスターすら魅了する美しさをはねのけたのではなく、最初から通じていないのだ。
神の恩恵を得て器を何度も昇華させた冒険者でさえも困難な事を目の前の幼子は平然とやってのけた事にアレンもフレイヤも驚き、当の本人はキョトンとしている。
「……そう、そうなのね」
不味いっ! アレンは静かに呟くフレイヤの姿を見て直感した。
もう一度言うが彼は狂信的な愛を捧げているが、それさえ除けば良識人、女神の命令ならば悪徳な行為でさえ行っても、今からフレイヤが行おうとしている事は止めるべきだとも思う。
「ねぇ、坊や。今晩私の所に来ない? 美味しい物をご馳走するわ」
「フレイヤ様っ!」
間違い無く目の前の子供をオラリオに連れて行く気だと察したアレンは一旦止めるべきだと動こうとして、目の前から少年の姿が消え去る。
次に現れたのはアレン真横、極東の服、忍び装束と呼ばれる格好をして赤毛で目の辺りを隠した少年に抱えられていた。
「小太郎? 小太郎じゃない! 久し振りね」
「……お久しぶりです、フレイヤ様」
フレイヤが目を付けた少年を抱えた彼の姿を見るなり嬉しそうにするフレイヤ、彼女が口にした小太郎という名にアレンは聞き覚えがある。
「此処では騒ぎになります。一旦僕達の……フレイ・ファミリアの拠点まで案内しますので」
不変の存在である神、当然ながら老いず、親兄弟という物は存在しないが、極希に互いを兄弟だと認識している神々も存在する。
フレイヤにとってのそれがフレイ、美神の兄であり、小太郎はその眷属の一人だ。
「そう、兄さんも居るのね。ふふふ、偶にヘルメス経由で手紙が来るけれど元気にやっているのかしら?」
「ええ、相変わらず」
「なら、結構。……それはそうとして、その子に名前を教えて貰いたいのだけれど。私の
「……矢っ張りか」
思わず呟くアレン、流石に彼処まで幼い子供に目を付けるなど帰ったら他の団員に何か言われるのは自分だと辟易し、フレイヤの意思なら連れて帰るが小太郎の様子からして邪魔しそうだと警戒を向ける。
「いえ、この子はフレイヤ様にとって別の存在となるでしょう。その辺も含めて説明しますので」
何処か言いよどみ含みを持たせた物言いに首を傾げながらもフレイヤは小太郎に続き、アレンも後を追い掛けた。
「ですから座学は座学、実技は実技で分けて教えるべきかと」
「いや、それでは生温いし時間の無駄だ。同時に叩き込めば良いだろう」
「話になりませんね」
「ああ、そうだな」
(……あれは”大賢者”に”影の女王”。”花の魔術師”は居ないのか……」
二人が通されたのは町外れの古い屋敷、フレイ・ファミリアエンブレムを掲げたその建物の前では穏やかそうな男と厳しそうなタイツの美女が何やら言い争い、白熱の末に戦いで決める事になって争っている。
「フレイ様は屋敷の執務室ですね。副団長も一緒ですよ」
「ガウェインと会うのも久し振りね。兄さんとは仲良く……いえ、別れたのね。その子、彼女の子供でしょう? 目が似ているもの」
そんな光景、未だ第一級冒険者になっていないアレンからすれば介入出来ない程の戦いを自然にスルーしながら小太郎とフレイヤは屋敷の中に入り、アレンは圧倒されながらも慌てて屋敷の中に入る。
そして、屋敷の奥の執務室に通された時、アレンが見たのは……。
「言いましたわよね? 私、言った筈ですわよね? あの子の目に付く所にエッチな本は置かないと」
「ごめんよ、ガウェイン。だから降ろしてっ!」
筋肉で腕も足も太い長身の女性、少年と同じ金髪でオッドアイのエルフによってフレイヤに似ている男神がアイアンクローで持ち上げられている姿だった。
「あっ! ちょっとガウェイン! フレイヤたん! フレイヤたんが来たから一旦降ろして!」
「え? ……お、お久しぶりですわね、フレイヤ様」
フレイヤの存在に気が付いた彼女、ガウェインの名前はアレンも知っている。
ハイエルフにも関わらず騎士に憧れ大剣を使う変わり者で有名で、
そして有名な話だが彼女とフレイは恋仲であり、神と人ながら結婚もしている。
だからフレイヤも少年がガウェインの子供だと見抜いた時は心底意外そうにしていた。
フレイヤの存在に気が付いて嬉しそうにするフレイと慌てて上品に振る舞おうとするガウェイン、そんな二人に対してフレイヤは小太郎に抱かれたままの少年の頭に手を置いて口を開いた。
「ねぇ、二人共。この子、私に預けて……」
「「駄目だっ!」」
「……んん?」
フレイヤの言葉を途中で遮る二人、その声に反応したのか先程まで何時の間にか寝てしまっていた彼が目を覚ました。
「あれ? お母さん、どうかしたの? お父さん、また悪さした?」
「あら? ねぇ、坊や……えっと、お名前を聞けていなかったわね」
「僕はティオだよ、女神様」
「そう。ねぇ、ティオ。今、兄さん……フレイをお父さんって呼ばなかった?」
「呼んだよ? だってお父さんでお父さんだもの」
何でそんな事を聞くのかとキョトンとしたティオ、そして両親だと言われた二人は観念した様子であり、神に嘘は通じない人間であるガウェインが口を開く。
「ええ、その通り。ティオはスキルの効果でフレイ様の子を宿せるようになった私が産んだ神とエルフのハーフですわ」
この時、フレイヤはアレンどころか現団長でさえも見た事のない驚きの表情を浮かべていた。
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