オラリオに神の子が来るのは間違っているだろうか? R 作:ケツアゴ
「……退屈ね。正直言って暇だわ」
「くっちゃべってないで注文するならしな! 此処はお喋りだけする店じゃないんだよ!」
ティオがフレイヤの頼みでオラリオの外に出て行った後、ステンノは町を出歩いていた。
彼女がフレイとその眷属と共にオラリオの外に出たのは十数年前の話、当時と比べ治安は良くなった影響か街並みも随分と変わっている。
だが、途中から面倒になったのか見て回るのを止めてやって来たのは豊穣の女主人、オラリオに居た頃には現役の冒険者だったミアが店主をやっているのだが、話すばかりで注文しようとしないステンノにメニュー表を押し付ける。
「じゃあ何か注文するから誰か話し相手になってくれないかしら? ティオが暫く居ないから暇で暇で」
「……ったく、アンタは相変わらずだね」
「あら、女神が簡単に変わると思った? うふふふ、其処のエルフ、ちょっと話を聞いてくれないかしら?」
「あっ、私は今仕事中で……」
「リュー、休憩やるからこの面倒な女神の相手をしておくれ。じゃないと厄介なんだよ、この女神は」
それは休憩と呼べるのだろうかと、そんな反論が出来る店員はこの店には存在しない。
まさに女神に捧げる生け贄となったエルフは女神が獲物を前にした蛇に見えたという……。
「ええ、そうです。あの子はハイエルフなのですが、昔から私の後をチョコチョコと付いて来て可愛らしかったわ。それで事あるごとに好きだの愛しているだの伝えて来ていて」
「は、はあ……」
「仕方が無いから膝枕をしてあげていたのですが、暫くしたら朝から晩まで特訓特訓で私に構う時間が無かったのだけれど、休日には私の身の回りの世話をしたり一緒に出掛けたりもしたわ」
「成る程……」
相手は女神、ミアの言いつけ、そしてハイエルフに関する話となれば真面目なエルフのリューが知らん振りも出来ず、ただただ聞き役に徹するしかないのだ。
どうにか助けを求めて同僚に視線を向けるものの彼方は彼女に知らん振り、女神が楽しそうに話す惚気話を受け止め続けるしかないのだが、何せ清純を良しとして多種族との肌の接触を禁じる部族も存在するエルフ、尚、リューもその教えを受けて育った。
色々と闇落ちする事も有ったが年齢イコール彼氏居ない歴であり、下手をすればお付き合いが結婚に直結する思考の持ち主、些か刺激が強いらしく……ステンノはそれを分かっていた。
「あの子はとっても良い子なのよ。私の言いつけをちゃんと守る賢い子。だからお風呂で背中と髪を洗ったり、私が抱きついて彼の腕枕で眠る時も不敬は働かないわ」
「腕まくっ!?」
此処で重めの一撃がクリーンヒット、純情真面目なエルフには男女がお風呂場で一緒になったり同じベッドで密着あいて寝ていると聞かされるだけでも効果は抜群、更にそれこそ主神への態度が親しみよりも崇拝が強いファミリア並みにエルフから崇められるのがハイエルフ、種族に誇りを持つが故に王族の存在は絶対で神聖、最早ノックダウン寸前の彼女は耳まで真っ赤、思考も覚束無い状態だ。
「それに偶に……ええ、偶にですが私からお願いする事がありまして、ベッドの上で気持ち良くさせて貰っています。あの子の指先が私の柔肌に触れ、女神らしく振る舞おうとして声を押し殺すも耐えられずに声が漏れ出して……」
「あ、あの、ステンノ様。お言葉ですが昼間の、しかも周りに人が居る時にそのような……」
此処に来てリューは反撃の一歩を踏み出さんとする。
ファミリアにはファミリアの事情があるのだろうし、男女の関係に口を出すのも憚られるが、普通に昼日中の店中でハイエルフのそういった事情を話されるのは、そんな風に意を決しての一撃。
「あら? そんなに変な事かしら? 私はマッサージの話をしているだけよ?」
「……へ?」
「貴女、どんな勘違いをしたのか言ってみなさい。分かっていると思うけれど神には嘘は通じないわよ」
だが残念、それは誘われた一撃だった。
クロスカウンター、リューは遂にノックダウン、試合終了だ。
ニヤニヤと意地悪で同時に女神らしい美しい笑みを向けられ問いかけられた言葉、リュー最大のピンチ、まさか”指先で大切な場所を弄られているのだと思いました”、そんな事をエルフの彼女が言える筈もない。
「そ、それは、そのですね……」
「そんなに顔を真っ赤にしちゃって言えないような恥ずかしい内容だったのね。うふふふ、可愛いわね、貴女。ほら、小声で良いから私に教えなさい。ティオが私に何をしているのを妄想しちゃったのかを正直に」
「ほら、その辺で止めときな、女神様。ウチの馬鹿が変な妄想するように仕向けたのはそっちだろう。ほら、休憩は終わりだよ、リュー。さっさと働きな」
ステンノからリューを守る絶好のタイミングで大盛のパンケーキがステンノの前に乱暴に置かれる。
注文した物よりもフルーツもクリームも増した豪華仕様、お値段千五百ヴァリス、元々の注文との差額はリューの給料からの天引きだ。
「……此処からが面白いのに野暮な真似をするわね、ミア。新人時代の面白エピソードとか喋っちゃおうかしら」
「はんっ! こっちには話されて困る過去なんて無いが、変な作り話を食っちゃべるなら商売の邪魔として追い出すよ。それに金輪際入店禁止だ」
玩具を取り上げられた事への不満を隠そうともしないステンノだが、若い頃を知られていてもミアは一切怯む事はなく、放った威圧にステンノは肩を竦めて降参の意を示した。
「それは困るわね。この店、ティオが気に入っているもの。私の悪戯で利用不可なのは可哀想ね」
「……何って言うかアンタも随分と変わったもんだ。眷属を持って変わったって神は多いが、昔のアンタはフレイ様の所に居候していたが何の為に下界に降りて来たんだって思う位に退屈そうだったのにさ。……んで、その愛しい小僧がフレイヤ様とお出掛けしちまって不安じゃないのかい? 友神だってんならあの女神が気に入った相手に無節操なのは知っているだろうにさ」
フレイヤの多情で気に入った相手を手に入れる為に手段を選ばない所をよく知っているミアには随分と気に入られた様子のティオも標的の一人だと思えていた。
だが、そのフレイヤとは天界の頃からの友神であるステンノにはその心配が見られない。
事実、フレイヤにはティオを甥っ子として可愛がっても手元に引き入れる気は……ちょっとは有るのだが、ステンノに恋している姿が可愛いからと横で見ている方が良いらしいが、ミアがそんな事を知る筈もない。
だからステンノが余裕な理由も理解が出来なかった。
「大丈夫よ。フレイヤなら男の為に私を裏切るか裏切らないかで言うとたぶん裏切るだろうけれど、ティオは私を裏切らないわ。私が与えた試練を何度も乗り越えた可愛い可愛い私の勇士。今回はお世話になったお礼に空飛ぶ乗り物に乗せているだけ。うふふふ、多分旅先でアレン共々フレイヤから試練を課されているでしょう。なら、ご褒美をあげないといけません。……ミア、何が良いと思うかしら?」
「知るか。キスでもしてやりな。あのベタ惚れっぷりなら喜ぶだろうさ」
「ええ、それは素晴らしいわ。そうね、そうしましょうか。ちゃんと試練を乗り越えたのなら彼から私にキスをする権利を授けます。手の甲でも額でも唇でも、好きな所に一度だけの権利を」
「矢っ張り変わったね、アンタ」
「あら、変な事を言うわね。恋と愛は女を変えるわ、それが女神であったとしても同じ事よ」
一方その頃、ティオとアレンだが……殴り飛ばされ気を失いながら宙を舞い、フレイヤはアナを膝に乗せてその様子を眺めていた。
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