オラリオに神の子が来るのは間違っているだろうか? R   作:ケツアゴ

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賢者の試練

「だ、大丈夫。ボフマン、頑張れる。フレイヤ様がこの町に来る時点で何となーく予想していたから……」

 

 奴隷数百人をまとめ買いするという相変わらず自由なご決断、これで全員が体を休められる程に大きな屋敷をボフマンが持ってなかったら買ってたな、絶対に。

 

 オラリオを出たとしてもゼウスやヘラの所と並ぶ程のフレイ・ファミリアだ、その末端でも恩恵は大きいって事だと屋敷内部に暗殺者が潜んでいないか見回った後で考える。

 

 数百人分の食事を買い求め提供するには結構な手間と費用が掛かっているだろうが、多少疲れた様子は見せても慣れた感じだし、フレイヤ様とフレイ様は似た者兄妹、同じ様に振り回されているって事か。

 

「さて、流石に全員を商会で雇う訳にもいかないでありますし、何割かは懇意にしている所にお願いして……」

 

 主神であるフレイが面白いと思った物や気に入った物を守り、気に入らない物を排除する、それがフレイ・ファミリアの方針と聞いてるが、目の前の男はどちらかというと裏方、戦闘員が大暴れする舞台を整え事後処理に奔走する、そんな所か。

 

 既に奴隷連中の今後を任されるであろう事を察してかブツブツと呟いているし、まあフレイヤ様の都市外の協力者は今回も広い範囲に生まれそうだと考えた俺は奴隷連中がフレイヤ様の所に集まって感謝を述べられる中、今回目を付けられた餓鬼……其奴と会話をしている男に視線を向けた。

 

 

 

 

「おや、今から出立するのは無謀では? 少女がたった一人、路銀も持たずに旅が出来る程に砂漠は甘くないのは民である貴女がご存知でしょう?」

 

「ぐっ! だが、私は今すぐにでも……」

 

「先ずは体と心を休めなさい。疲労困憊で目的地までたどり着いたとして、そんな状態で何が出来ますか? 今夜一晩体を休め、明日から今後について考えなさい」

 

 あのアリィと名乗った奴が何か目的地があって、どんな想いなのか……正直興味は無い。

 重要なのはフレイヤ様が興味を示しているって事で、俺の興味は隣に立って話をしている男、ケイローンに向けられていた。

 

 オッタルの野郎の師匠にして格上のLv.8、俺が殺気を向けているのに気が付いているだろうに涼しげな顔を一切崩しやしねぇ。

 だが、分かる。

 

「オッタルの野郎が最強だの呼ばれて微妙そうな顔をする訳だな」

 

 昔出会った時とは違って強くなったからこそ理解する強さ、まるで弱かった頃に階層主と初遭遇した時、それ以上の感覚に肌がピリピリする。

 俺は今、無性に彼奴に挑みたかった。

 

「……だが、今はフレイヤ様が優先だ」

 

 そう、俺の役目はこの世で最も美しい女神の護衛、勝手な感情に流されている場合じゃない。

 手合わせを頼むなんて私事は二の次だ。

 だから諦めようとした頃、ちょうど食事の提供も一段落した時だった。

 

 

「それでは教え子達と再会した事ですし組み手と行きましょうか。中庭に出なさい。全員纏めて相手をしてあげましょう」

 

 ニッコリと笑った途端に柔らかい笑顔のまま溢れ出す闘気に俺の全身の血が騒ぎ出す。

 願ってもない絶好の機会、フレイヤ様の方を見れば静かに頷く、見抜かれてたって事だ。

 その瞬間、俺はケイローンの前に飛び出していた。

 

 

 

「おい、俺も混ぜろ」

 

 オッタルの野郎の更に先の高い壁がどれだけのモンなのか存分に味わってやるぜ。

 

 

 

 

「それでは私をこの円から出したら貴方達の勝ち、全滅させたら私の勝ちです。私は蹴りと跳躍も禁止にしましょうか」

 

 ケイローンを囲むのは精々五歩分程度の狭い円、舐められている……とは言わない。

 目の前の男がどれだけの強さなのか正面から向き直っても把握出来ない中始まった戦い、始まったばかりだってのに冷や汗が流れるのを感じた。

 

 

「ドゥリンダナッ!」

 

「……ふむ」

 

 開始早々、只でさえ暑い周囲の気温が一気に上昇する強烈な熱気と共に放たれる槍。

 炎を吹き出しながら迫るそれに対し、ケイローンは静かに構え、槍は至近距離まで迫った所で真上へと軌道を急速に変えた。

 

「制御が甘いですね。横からの力に耐えられるようにしなさい」

 

 あの野郎、直前で横から手を添えただけで受け流しやがったっ!

 

「流石は先生……ゾクゾクして来た」

 

 Lv.4程度のモンスターなら跡形も無くぶっ飛ばせそうな威力の投擲を受け流されたにも関わらずティオは怯まず逆に闘志をギラギラと燃え上がらせる……此奴、本当にエルフか?

 どうも俺が知るエルフ像とは違い過ぎるな。

 

 

「皆の者、突撃ですぞぉぉぉっ!」

 

 ボフマンの号令に続きときの声を上げながら真正面から突っ込む筋肉達、指先が届く距離にまで近付いた奴から宙を舞うが……。

 

「十分だ、雑魚共」

 

 鎧袖一触、とても戦いにはなってねぇが精々がLv.3、こうなるのは予想の範囲だ。

 腕一本? いや、指一本で十分な相手にケイローンは汗一つ流さないが、俺が近付く隙を作る時間としては足りている。

 最後の一人を宙に舞い上げ腕が上に向いた瞬間、俺の拳がケイローンの服に触れる。

 

 

「がっ!?」

 

 そして俺の腹に背中まで貫通する衝撃が走り気が付けば殴り飛ばされたのは俺だった。

 野郎、あの一瞬で腕を引き戻して俺を殴りやがったんだ。

 

 ……ダンジョンで挑み、何度も受けて来たオッタルの拳打、悔しいが差を感じ取らされたが、これはそれ以上。

 俺が5でケイローンが7だったとしても此処までの差は感じねぇ。

 現都市最強の更に上、その領域とLv.7の差はLv.6とLv.7以上の物だった。

 

 

「『白き聖杯よ、謳え』」

 

 たった一撃で意識を刈り取られそうになった瞬間、詠唱と共に俺の体からダメージが消えて意識をつなぎ止める。

 それでも頭がクラクラする中、ティオは俺の横で構えていた。

 

 

「アレンさん、先に謝っておくけれど……ごめん。この魔法、回復させるだけじゃなくて気絶するようなダメージを受けたら回復魔法が自動で発動するから……僕の精神力が補充以上の速度で消耗して枯渇する迄は終われない。……目の前の人は終わらせてくれない人だし」

 

「……成る程な」

 

 あのチビが組み手は数分で終わったって言ってたが、さっき受けた一撃の重さを考えれば納得で、気絶しても自動で覚醒して再開してたと、そりゃ百本を午前中に出来る訳だ。

 

 

 

 

「……お前の師匠連中って人の心とか無いんじゃねぇか?」

 

「ケイローン先生には有る。……他は、うん。有る……かも」

 

「そうか……」

 

 これ以上は何も言うまいと心に決め、俺と同様に立ち上がったボフマン達と共に真正面から突っ込み、そしてぶっ飛ばされた。

 

 

 

 

「そろそろ限界ですね。随分と持ちましたよ、ティオ。この人数を癒し続けたのですから」

 

「未だ…終わって無い……」

 

 あれから何十何百回殴り飛ばされたかも分からなくなった頃、俺達を何度も立ち上がらせた魔法も遂に陰りが見え始めている。

 効果範囲も回復量もで、レベルが低い連中は蓄積したダメージで戦える状態にねぇし、もう復活は無理だな。

 

 

 

「アレンさん、こうなったら徹底的にやろう。魔力を全部つぎ込んだ一撃を放つから先生に全力の一撃をアレンさんも」

 

「……ああ」

 

 指図するなとは言わない。

 静かに頷き、その時を待つ。

 

 

 ティオの拳に魔力が集中し、燃え盛って巨大な炎の拳となったそれを振り抜くと同時に放たれる。

 

 

「エンコミウム・モリエェエエエエエエエエッ!」

 

「……ふむ。これは受け流せないでしょうし、受け止めますか」

 

 姿勢を低くし炎の拳に真正面から迎え撃とうとケイローンが構えた時、俺も突っ込んでいた。

 ケイローンの腕が炎の拳を受け止めた瞬間に俺も炎に全力で脚を突っ込む。

 凝縮された炎の魔力に脚が焼かれても気にせずに放った蹴り、岩山でも蹴りつけたような感覚と共に俺は倒れ込み、後ろの方ではティオも精神力の枯渇で仰向けに倒れ込んで……。

 

 

「おや、私の負けですね」

 

 僅か半歩、されど半歩、ケイローンの足は円から出ていた。

 ……あー、勝った気がしねぇ。

 絶対本気じゃなかっただろう、此奴。

 




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