オラリオに神の子が来るのは間違っているだろうか? R   作:ケツアゴ

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正体

 神々が地上に降り立った時、”遊びに来た”とか言ったとか言わなかったとか、父さんに聞いても笑って誤魔化されるだけだった。

 あの人、最初に降り立った神の内の一人で、バベル建設後は長い間エルフの森で過ごして居たらしいから、本当に言ったのだとしたら父さんじゃないのかなって思っている。

 

 

 

 幼い頃、父さんの膝に座って絵本を読んで貰っていた時、僕はとある疑問を口にした。

 

「ねぇ、お父さん。何で全員神様の力を封じているの? 不自由を楽しむ為って聞いたけれど、困っている人を助けたいって神様達まで同じなのはどうしてなの?」

 

 綺麗な物も汚い物も両方見せる、それが父さんの教育方針だったから、僕は幼い頃から旅先で多くの物を見た。

 

 裕福な国と貧しい国、貴族と奴隷、健康な人達と疫病、平和な国と戦争中の国、母さんが僕に見せたくなかった物を多く見て、どうしても分からなかった。

 

 戦争を司っていたり悪神や邪神って呼ばれる神様達はその通りに悪い事をしているのに、正義や医療の神や子供の守護神をやっている神様達はどうして地上で神の力を使わないんだろう。

 力を封じずに降り立てなくても、一回程度なら送還と引き換えに力が使える筈だし、それなら大勢を救えるのにってね。

 

 モンスター以外にも悲劇を引き起こす物は多く存在する。

 飢餓、戦争、疫病、貧困。

 ダンジョンについては息子の僕にさえ誤魔化すから人間が何とかする必要があるんだろうけれど、それらを神の力で解決しないのか訊ねたら、父さんは僕の頭に優しく手を置いて言ったんだ。

 

 

「お前は優しい子だな、ティオ。お父さんは嬉しいぞ。確かにお父さん達は凄いから本気を出せば何でも出来るし、何ならお父さんやフレイヤたん位の神が魅了すれば戦争も無くせるし富の分配だって自由自在だ。でも、それじゃあ人間じゃなくて人形だ。人間の営みの範囲なら人間の力で解決しなくちゃ意味が無い。お父さん達がして良いのは助ける価値が有ると感じた時に手を貸す、それだけさ。……よし、ガウェインには内緒で美味しい物でも食べに行こうか」

 

 幼い時の僕には難しくって分からなかったけれど、今なら少し理解出来る。

 目の前で飢えて困っている人にパンを与えたとして、それで助けてくれる相手が居るからと自分で糧を得る努力をしない相手なら意味が無い、そんな感じだ。

 

 

 

 

「……わーお。随分寝ていたな」

 

 黒犬公(バーゲスト)で精神力の枯渇を防いでいただけに未経験だったけれど、今回は流石に魔法を使い過過ぎだった。

 今までは自分一人だったから回復に魔力放出にと使い放題なのに今日は大勢を回復しつつ魔力放出をバンバン使って、今こうして気絶から起きたら日が傾いている。

 

「いや、ケイローンさんとの戦いがどれだけ続いたと思ってたんですか」

 

 ベッド横の椅子に座ったアナが本を読みつつ呆れたような視線を向けて来る。

 そうか、戦いに夢中だったから気が付かなかったけれど随分と続いたのか。

 

「他の人達は?」

 

「アレンさんは先に起きて既に治療済みです。ボフマンさん達は未だ気絶中ですが……フレイヤ様をどうにかして下さい、ティオ。妙に気に入られてしまったらしく構われていまして……」

 

「仕方無いなあ……」

 

 僕が何を言っても無駄なのが女神って存在なんだけれど、言うだけ言ってみるか。

 ステンノ様のお気に入りで、特訓が終わったらステンノ・ファミリアに入って僕が居ない間にステンノ様のお世話と護衛をする仲間だ。

 それに……。

 

「正体は見抜かれていないよね?」

 

「それは勿論……と言いたいのですが、そろそろ足を……いえ、尻尾(・・)を伸ばしたいので幻術をお願いします。それと一旦服を脱ぐので毛布を下さい」

 

 そう言うなり僕の了承を聞く前に毛布を奪い取られる、暑いから要らないけれどせめて話を聞いてからにしろと言いたい。

 それでも幻術でアナの姿を誤魔化し、僕が顔を逸らすと服を脱ぐ音、終わった頃に見るとシーツからニョロニョロ動く尻尾が見えている。

 

 ラミアと名付けられたモンスター、その中で人語を理解する特殊な生まれらしい。

 

 暗い地下室の中、逃げ出す力を削ぐ為に食事を制限され傷の手当ても死なない程度に放置されていたのは上半身が人間の女の子そのままのラミア。

 今まで言葉が通じる上に狂暴でもないモンスターをこっそりと飼っている連中を発見した事はあったし、人間同士同じ国内でさえ争い殺し合うのだから、と、言葉が通じて敵意がないのならばと森とかに連れ出して居たんだけれど、このラミアをステンノ様が妙に気に入った。

 髪の色や顔立ちが似ているとステンノ様が気に入り(僕はステンノ様の方が千倍綺麗だと主張)、お祖父ちゃんの幻術で人間に見せかけて一緒に行動していたある日、父さんの思い付きで恩恵が与えられる事になったんだ。

 

 因みにステンノ様じゃないのは最初の眷属は僕にするって決めていたからさ。

 いやいや、構って貰える時間を少し取られたけれど、それでもステンノ様が決めた事なら従うだけだし、僕が特別な存在なのは変わりないとも言って貰えたし?

 

 

「”自己改造(メタモルフォーゼ)”か、相変わらず便利なスキルだね。背は低いけれど。背は伸ばせないけれど」

 

「五月蠅いですよ、貴方が無駄に伸びただけですそれに尻尾を脚に変え続けるのは結構辛いのでマーリンかティオが居てくれないと困ってしまいます。……例えるなら常に顎をしゃくれさせている感じなので」

 

「分かり辛い例えだな。まあ、急に誰か入って来ても幻術で誤魔化すから安心してくつろぎなよ。仲間だし、その程度の世話は焼いてやるから」

 

 既にベッドから起きあがっても平気な状態なんだけれど、僕の幻術って有効範囲が狭いからアナが尻尾を出している間は離れられないんだよね。

 ……ったく、仲間じゃなかったら此処まで世話は焼かないよ。

 

 

「まあ、礼を言ってやっても良いですよ」

 

「相変わらず可愛げがない奴」

 

「五月蠅いですよ、ヘタレ。一緒に寝たりお風呂で体を洗ったりまでしているのにキスすらまだな癖に」

 

 本当に仲間じゃなかったらっ!

 

「め、女神の寵愛ってのは自ら進んで得る物じゃなくって、授けられるのを心の中で祈り、それに相応しいように鍛え続けるものなんだよ」

 

「声が上擦ってますよ。……好きだの愛しているだの口にして、街中でお姫様抱っこ、そしてお風呂で体を洗い同じベッドで眠る。何で肝心な所で奥手になっているんですか?」

 

 う、五月蠅いぞ、チビ!

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、あのアリィって子はどう思う?」

 

 このままじゃ喧嘩になりそうなので話題を変える。

 あの使命感に燃えて前のめりになった感じ、どうも怪しい。

 フレイヤ様の魅了をはねのけた所とか、少し気品のある感じとか、上流階級って感じなんだよね。

 

「彼女と出会ったのはシェルザードでしたが、何処かで合流しなくてはならない相手が居るとか。わざわざ戦争に敗れ、行方不明のアラム王子を探す敵国が……まさかアラム王子が王女だったって事は……」

 

「……だとしても、だ。軍部に恩恵持ちが居るのはどっちも同じで、一方的に攻めるのも今回傭兵系ファミリアが決め手となったみたいだけれど、外部戦力を雇うのも珍しくはない。国同士の争いに極力関わらないのが父さんの方針だ」

 

「ええ、戦争には関わる気は有りませんが……その傭兵系ファミリア、各地で随分と通常の場合に起きるだろう事以上に悪辣な真似をしている上に、どうも闇派閥と関わりが有るらしく」

 

「……へぇ」

 

 そうか、それなら、全く知らん振りは出来ないや。

 僕はフレイ・ファミリアの団員ではないけれど、息子として父親の気に入らない連中を始末するって親孝行位はしたいしさ。

 

 

「まあ、そもそも本当に王子かどうかなんて分からないよね」

 

 そうだとして、目的は生き残った兵士達との合流何だろうけれど、既に半壊した状態でどうやって勝てば良いのやら。

 戦力も物資も足りないし、ボロボロの国を立て直すのも大変だから勝てたとしても大変だ。

 賠償金をふんだくって、それから……。

 

 

「奴隷が随分と増えそうだね、今後もさ」

 

 敗戦国の民が奴隷になるのはよくある事、今は負けたシャルザードの民が売られているけれど、逆転した場合は次に売られるのは……。

 

「どっちが勝っても、ですね。でも、人間社会ではやったらやり返されるのでしょう? やり返せるか疑問ですが。……正直言って王子が捕まって残った軍が全面降伏、シャルザードは吸収される。それが一番被害が少ないのでは?」

 

「まあ、敗戦国の民への扱いにもよるだろうけど」

 

 アナは尻尾を存分に伸ばしたのか脚に戻して物影で着替えている。

 スカートだったら一々脱がなくても良いし、オラリオに連れて行ったら買ってやらないとな。

 

 そろそろ小腹が減ったから果物の二十個か三十個でも食べようと部屋を出た時、ちょうど向こう側から歩いて来たアリィと出会した。

 

 

 

 

 

「丁度良かった。君って実はアラム王子だったりする?」

 

「っ」

 

 あらら、分かり易い反応だ。

 そうか、ビンゴか。

 

 

 

「……それを知ってどうする気だ?」

 

「え? いや、気になったから訊ねただけだけれど? 僕、どっちの味方でもないし」

 

 幾らピンチの子が前にいても、戦争に首を突っ込むのは別の話なんだよね。

 

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