オラリオに神の子が来るのは間違っているだろうか? R 作:ケツアゴ
「……そうか。フレイヤ様は既に旅立たれたのか……」
「えっと、何というか……うん。素直に謝った方が良いよね」
アレンさんを連れて出たとはいえ、オラリオ最大派閥の主神だ、遠巻きに警護した方が良いから慌てて後を追いかける事になったらしい幹部一同、そこで問題が発生した。
普通に地べたを進んだのなら目立つから情報を集めて発見するのは容易だろうけれど、実際は超高速の空の旅。
仕方が無いので頭脳労働が得意な幹部が幾つかの候補を選定して彼がこの街にたどり着き、フレイヤ様は目立つから普通にこの屋敷にやって来た。
「さて、それでは構えなさい。貴方の名前は外にも響いていますし、お互い全力で行きましょうか」
「……はい」
本当は追いかけたいんだけれどフレイヤ様の悪戯心なのか追い付く事を考慮して目的地を伝えていない。
さて、困ったって顔をしているオッタルさんは中庭で弓を構えたケイローン先生と向かい合っている、今回は見学なので僕は安全だ。
オッタルさんはフレイヤ様に置き去りにされて困り顔の上に先生との組み手を強制されているから余計に困った表情でこっちをチラチラ見ている。
即座に目を逸らすギャラリー一同、尚、全員ケイローン塾塾生である。
いやー、最強は大変だなー。
「ああ、貴方達も前の組み手をクリアした事ですし、オッタルが終わったら貴方達も参加するのですよ」
優しい笑顔で告げられる残酷な宣言……対岸の火事だと思いきや此方にまで燃え広がったかぁ。
「でも、現最強の戦いを見られるのは得か」
うん、僕がステンノ様に勇士と認めて貰える強さに辿り着く為に参考にさせて貰おうか。
最初に動いたのはオッタルさんだった。
都市最速のアレンさんには劣るけれどLv.7の脚力から生み出される凄まじい突進によって大剣を振り上げた振り上げた状態で先生の目前まで接近、両断する勢いで振り下ろす。
「……参りました」
「もう少し速度を鍛えましょう。それと動きが真っ直ぐ過ぎです。パワーに頼るのも程々に」
勝敗は一瞬、オッタルさんの剣が先生に触れる瞬間、先生の姿がブレて、次の瞬間には矢を引き絞った状態で剣を踏みつけていた。
殆ど何をしたのか分からない程の早技に先生の強さを改めて感じさせられる。
昨日の組み手は相当手加減した結果だな、分かってはいたんだけれどさ。
オッタルさんは確かに力寄りの戦い方だけれど、それでも技量だって高い筈だ。
それをあっさりと見切ってしまうだなんて。
「では、仕事が無い人達は武器を持って此方に来なさい。全員纏めて相手をしましょう。安心しなさい、鏃の先は潰しておくので刺さりはしません。死ぬほど痛くて骨が折れる程度です」
「……師よ。それは”程度”なのでしょうか……」
どうやらオッタルさんは真面目な性格らしく、先生の言葉に思わず疑問を口にしたけれど、流石はケイローン先生の教えを受けた生徒、通常ケイローン塾塾生。
先生がやれと言ったらやる、それが強くなる為には必須なのさ。
「じゃあ、今回は剣で……」
昨日の組み手の際、手持ちの槍は全部壊されて矢も殆ど残っていない。
剣は……まあ、槍と弓の次に得意だし、時々使って勘を鈍らせないようにしないと実戦で困る。
いや、この組み手も実戦みたいな物だけれど。
僕に続いて武器を手にして中庭に足を踏み入れる塾生一同、殆どがLv.2だけれど臆した様子は見られない。
後から思い出して震える事はあっても、いざ始まるとなれば意気揚々と武器を携えて臨んでこそ戦士だ。
「……後輩達は育っているようですね」
此方を見るオッタルさんの表情は誇らしそう、塾生の多くは途中で逃げ出したらしいし、大勢の後輩が居るのが嬉しいんだろうな。
「ええ、嬉しい限りです。特にティオは私の外にスカサハの指導も受けるので密度を上げて恩恵を受ける前から教えていました」
「……は? いや、正気ですか?」
でも、先生の言葉を聞いた途端にポカンとした表情になるオッタルさんだった……。
「……成る程、お前の魔法は便利だな。便利過ぎて師達の加減がおかしくなっているのだろうが」
日が中央から西に傾く頃、オッタルさんが大の字に倒れる。
僕も二度目の精神力の枯渇に気を失いそうになる中、先生も流石に傷を負って息を乱してはいるけれど立っているし、本当にこの人は無茶苦茶だ。
「まあ、回復が出来るからって修行が更にキツくなったのは確かかな。……特にスカサハ先生がキツいけれど、ケイローン先生もあの笑顔で頭のおかしい課題を出すからさ……」
「其方の方が精神的には来るな……」
息も絶え絶えな中言葉を交わす。
あっ、もう意識が……。
「それでは私はフレイヤ様を追います。アレンもランクアップしたのならば万が一も無いでしょうが、それでもフレイヤ様の眷属としてお側でお守りするのが使命ですので」
組み手をある程度こなした後、オッタルさんはフレイヤ様を追って街から出て行った、今度は目立つから大体の方角は分かるだろうし、砂漠は大変だろうけれど彼なら大丈夫だろう。
……ちょっと僕の勝手に付き合って貰って防御と回避禁止での殴り合いをして貰ったのは今更ながら悪かったと思うし、オラリオに戻ったらお礼の品でも贈ろうか。
流石はLv.7、殴った感触も殴られた衝撃も重い。
「……師やお前の祖父のようなのが近くに居たのだ。私が最強と呼ばれるのは滑稽に映るだろう?」
っと自虐的な事を言っていたけれど、彼ならきっと追い付けるだろうと思うし、目標にする相手が増えたのは嬉しい。
そしてオッタルさんを見送った後は兎に角修行漬け、途中で”私は団長の弟子なので”と言って高みの見物をしていたアナも巻き込み、何度も殴り飛ばされながら技を磨いていたんだけれど、翌日になってケイローン先生は僕達を市場まで連れ出してくれた。
「頑張っていますし、ご褒美に何でも奢ってあげましょう」
「では、バターケーキを」
「あっ、僕も」
うん、矢っ張り修行は容赦が皆無だけれど優しい人なんだなと思った時だ、門の辺りが急に慌ただしくなり、見に行って見れば武装した集団が町に近付いて来ている。
しかも”アラム王子を匿ったので敵と見なす”だってさ。
「先生、どうする?」
「では、私が八割を相手しますので、私より先に残りの二割を倒しなさい。もし遅れた場合は罰として少し厳しい修行を課します」
……優しいけれど、厳しいんだよな、相変わらずさ。
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