オラリオに神の子が来るのは間違っているだろうか? R   作:ケツアゴ

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選択肢

 その戦いは……否、略奪と虐殺は簡単な筈だった。

 アラム王子が潜んで居るであろうと傭兵ファミリアの主神が予想をしたリオードの町への襲撃、王子を探すついでに略奪と陵辱を楽しむ、ワルサの兵士達はそう考えていた。

 

 実はと言うと少々癪に触る事……奴隷狩りの部隊が幾つか壊滅し、何者かの介入だと焦った上層部によって残党が居そうな砦の襲撃を急かされ、壊滅した部隊の活動場所から足取りを辿ってリオードの町までやって来た。

 憂さ晴らしに大いに破壊と陵辱を楽しもうと計画していた。

 

 だが、実際は違う。

 

 

 

「ぎゃぁああああああっ! 熱い、熱いぃいいいいいいいっ!」

 

「手が、足がぁああああああっ!」

 

 防壁を破壊して蹂躙を行うには十分だった筈の戦力、目の前に現れた三人をあざ笑い、その中の一人が幼いながらもかなりの美貌を持っている事に野卑な笑みを浮かべる者が居る中、隊の中央を黒い炎が走った。

 

「……は?」

 

 先程までどれだけの人数を殺せるか競おうと笑い合った仲間が全身に重度の火傷を負って倒れる中、それで呆けた瞬間に先程まで離れた場所にいた少女が低い姿勢で目の前まで来ており、数人纏めて鎧諸共両足を切り落とされた。

 

 

「略奪、陵辱、虐殺。戦争ではよくある事だけれど良い気はしないし……目の前に現れたなら報いを受けさせる程度には腹が立つね。ああ、でも僕は君達をなるべく殺さない。殺したいって人が大勢街に居るからね」

 

「……無駄口はその辺にして下さい。さっさと片付けないとケイローンさんの罰を受けますよ」

 

 膝から下を切断されて崩れ落ちる仲間の姿に呆然とした兵士達だが、我に返ったのかアナを囲んで槍を突き出し剣を振り下ろす。

 舞ったのは血飛沫ではなく砂塵、飛び上がり一瞬で姿を消したアナが兵士達の背後に着地した時、彼女を囲んでいた兵士達全員の腕が落ちる。

 熱砂に血が染み込んで行く中、恐怖に支配され絶叫しながらもティオに向かって槍を突き出す兵士、それに続いて武器を振り上げる仲間が殺到する中、先頭の手の中の槍が消え、ティオの手に収まっていた。

 

「武器はちゃんと持っていろよ。……ほら、返す」

 

 無造作に投げられたのは一般的な量産品の槍、軽装であろうと金属製の鎧に突き刺せば欠けるか折れるかする程度の物だが、今はマーリンから直伝された彼開発の魔法によって強化されている。

 先頭の兵士の腹を貫通し、後から続いた兵士達も串刺しにしていった。

 

 

「矢だっ! 魔法もだっ!」

 

 此処まで来れば接近戦では勝てないと分かるのだろう、一番立派な鎧を装備した男が指示を出し、途端に膝から崩れ落ちる。

 

「これ……は……」

 

 意識が遠のく感覚に彼、ラシャプ・ファミリア所属のマルザナは覚えがある。

 魔法の使用過多によって起きる精神疲労(マインドダウン)、つい先日、フレイヤ達が目指している砦で使ったが本日は全く魔法を使用していないにも関わらず起きた症状に混乱しつつ彼は意識を閉ざした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……少ないな。全然足りないや」

 

 任意の範囲から魔力を吸収するスキル【|黒犬公《バーゲスト】、母さんも持っていたこのスキルは手元の魔石や魔剣だけじゃなく、人やモンスターからも吸収可能だ。

 でも、目の前の連中から吸い取れるのは微々たる量、気絶するまで吸い取っても十分の一にも満たない。

 

「相変わらず悪役っぽい見た目になりますね、それ」

 

「五月蠅い、チビ。豆粒ドチビ」

 

 このスキルの副作用と言うべきなのか、放出する魔力が黒く染まるし、全身に纏う感じになる。

 アナが言った通りに物語の悪役っぽいんだ、それでも威力は上がるから良いし……。

 

 

「ステンノ様は格好良いって誉めてくれたんだ。この姿を悪く言うな」

 

 一斉に放たれた矢を空中で纏めて焼き尽くし、弓兵を焼くのと同時にアナに手足を切り落とされた連中の傷を焼き潰して止血する。

 死ぬほど苦しむし、長くは持たない応急処置だ。

 

 でも、それで良い。

 この連中は僕じゃなく、奴隷にされた人達の、シャルザードの民の怨敵だ。

 フレイヤ様が助けた相手だし、復讐を勝手に許して魂が汚れたとか文句を言われたら面倒だから戻って来るまで生き残ったらそれで良い。

 

「……アナ、君とは仲が悪いけれど、仲間だから家族同然には思っているよ」

 

「それ、遺言ですか? まあ、気持ちは分かりますが……」

 

 今、最後の一人が倒れる。

 やって来た兵士達の内、僕達が受け持てと指示された人数の内の一人、僕とアナ、厳しいお仕置き決定しちゃった……。

 

 

 

「惜しかったですね。約束ですからお仕置きはしますが、たった一人ですから少しは軽くしましょう」

 

 少しは軽く、か。

 この人達が”軽い修行”って言った時は全然軽く無いのが何時もの事だけれど、言い渡された課題をクリア出来なかった事へのお仕置きを軽くするって言われても、”少し”だからね。

 

「少し軽くって、髪の毛一本分程度ですよね?」

 

 あっ、馬鹿!

 アナは余計な事を平然と口にする、やぶ蛇にならなかったら良いけれど……。

 

「おや、アナはそっちの方が良いのですか? なら、そうしましょう」

 

 ほら、やぶ蛇だ、少しでも軽くなるならそれが良いのに!

 

 アナ、余計な事を言ってくれたな、恨むからな!

 

 

「では、お仕置きですが、その前に彼を尋問しましょう。どうやらターゲットのようですし」

 

 先生は気絶した男を担ぎ上げる。

 成る程、確かにワルサの兵とは違うみたいだ……。

 

 

 

 

 

 

 

「しかし今でも信じられないよな。まさか本当にケイローン先生からの罰がこの程度だなんて」

 

「いや、この程度……って」

 

 夕日が沈み始め気温がグッと下がる中、僕とアナはフレイヤ様が向かったらしいオアシスの町へと向かっていた。

 不意に風を切って迫る矢を弾き、その矢に隠れるように迫った二本目を避ける。

 

 あの男は矢っ張り傭兵ファミリアの団員だったらしく、ケイローン先生がちょっとお話したら簡単にゲロってくれた。

 男によるとアリィが味方が待っていると思っている砦は既に陥落しているらしく、それを伝えに行けという、後はその際に矢が届く範囲は狙撃を続ける、そんな軽い罰で正直言って拍子抜け。

 戦車は使用禁止だから魔力を放出して全速力で突き進む。

 

 夜の帳が落ちる頃、目当ての オアシスに辿り着いた僕達が目にしたのは……。

 

 

 

 

「……何も言うな」

 

 オアシスで存分に泳ぎたいと言い出したフレイヤ様への覗きを防ぐ為、水辺周辺を全速力で周回するアレンさんの姿だった。

 オッタルさんは合流出来たけれど、二人じゃフレイヤ様の沐浴姿を見ないようにしつつ見張るのは難しいからだそう。

 

 

 

「……あれ?」

 

 さっきまで僕は矢が始終飛んで来る程度が罰だと思っていたけれど、勘違いだと気が付いた。

 アリィとのデートを台無しにする情報を告げに行く、それが罰だった。

 

 

「ねぇ、アレンさん。フレイヤ様に無駄足踏ませるのと楽しみを邪魔するの、どっちかを選ぶしかない時はどうすれば良い?」

 

「いや、俺を巻き込むな。本当に頼むから……」




そろそろフレイヤクロニクル編終わらせたい

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