オラリオに神の子が来るのは間違っているだろうか? R 作:ケツアゴ
「あ、あの、アナ……さん? でしたよね? 宜しければお聞きしたい事がありまして」
私が着せ替え人形にされる少し前、服には特に拘りがないので適当に選ぼうとしていた時、不意にロキ・ファミリアのレフィーヤさんが話し掛けて来ました。
「マーリン団長達の事ですか?」
「ええっ!? どうして分かったんですか!?」
用件を見抜かれて驚く彼女ですが、私にわざわざ話しかけるのなら、用件はその程度でしょう。
私がフレイ・ファミリアに居たって情報は簡単に手に入るでしょうし。
何せアレンさん達がフレイヤ様を崇めるのと同じくらいにエルフはハイエルフを崇めている……らしい。
私が詳しく知っているエルフって王族を除けばスカサハ師匠だけですからね、絶対に崇めるとかしていないでしょう、あの人。
「えっと、どうかしましたか?」
「いえ、少しトラウマが蘇っただけです」
師匠の顔を思い浮かべただけでゾワッとした物が背中を走る、強くなるか死ぬかを迫られる修行を平気で行いますからね、あの人って。
「リヴェリア様も弟子だったと聞いているんですが、風変わりな御方だったとしかおっしゃらなくって……」
「風変わり……ええ、私も彼に対してはそんな印象ですね」
そもそも知り合いが少ない私には比較対象が限られていますが、マーリンが”善意だけで動かない”、”血縁者にさえ好かれていても信用はされていない”、”悪い意味で神にそっくり”、そんな正直クズ寄りの人だとは分かります。
まあ、エルフの彼女には言えませんが、面倒が待っているので。
「……私もちょっと気になっているのがいるわ。団長の師匠だったっていうスカサハ、どんな感じなの?」
「厳しくってスタイルの良い美人で厳しくって厳しくって厳しい、あと戦うのが大好き、そんな感じです。……私も弟子なのですが、頼りにはなっても、頼ったら未熟者として余計な試練を与える、そんな厳しい人と思って下されば……」
話に割って入って来たティオネさん、どうもスカサハ師匠が気になるのはフィンさんが関係しているみたいですね。
「ああ、それとハイエルフの直属部隊”影”の隊長だったそうですが、マーリン団長達への敬意は……まあ、護衛部隊でもお世話部隊でもなく、王家の敵を討ち滅ぼすのが役目の殲滅部隊なのもあるのでしょうが……」
「そう、美人なのね……」
「反応するのは其処ですか。……ああ、ガウェイン副団長は厳しい所も有りますが優しい人ですよ。教養も有りますし世話好きですから。……もう良いですか? 服を適当に選んでしまいたいので」
もうこの辺で解放されたいと思ったのですが、”修行についてもっと話が聞きたい”とかアイズさんが言い出し、結局着せ替え人形として服を選んで貰いながら話をする羽目に。
……それにしても彼女、アイズさんは危うい感じがします。
力を求める余りに前のめりになっているというか、理由はしっかりしていそうなのですが……。
「余計なお世話でしょうが、何かを求める場合は理由だけでなく、その理由を持つに至った動機も必要ですよ? ……例えば復讐の為に力が欲しいとして、何故復讐がしたいのか、”許せない”ではなく”何故許せないのか”をハッキリさせ、手段の為に失う物を……いえ、忘れて下さい」
だからお店を出て別れ際に余計なお節介を焼いてしまいそうになりましたが、会ったばかりの私に訳知り顔で何か言われた所で影響が出るならその程度の物だった、そういう事ですからね。
言葉を途中で切り上げた私は何か言い足りなさそうな彼女に一礼すると姉様と共に人混みに消えて行く。
出来るだけ関わりにならない方が良いと、私が持つ事情からして分かっているのに何をしているのでしょうか、全く……。
「良いのよ、それで。もう少し誰かと関わりなさい。何時かやって来る大きな物に心が潰されないように、心の中に大切な物を集めておくべきよ」
姉様はそう言いますが、私にはそうする理由がよく分かりませんでした……。
……どうも帰ってからアナの様子がおかしい、ステンノ様も何も教えてくれないしさ。
「ほら、ちゃんと抱き締めなさい。でも、力を入れ過ぎたら駄目よ?」
今夜もステンノ様を抱き締めて眠る、恩恵を受けて常人を越えた力で万が一にでも力を入れ過ぎないようにしながら女神の匂いに包まれて幸せな気分で睡魔に身を任せる。
「やあ! 今夜も授業を始めようか」
「……ふぅ」
直ぐに周囲から花の甘い香りが漂い、日差しが降り注ぐ楽園といった感じの場所で目の前にはお祖父ちゃんが満面の笑みで立っている。
……この落差よ。
「あれ、溜め息? おいおい、何か嫌な事でもあったのかい? 私が相談に乗ろうじゃないか」
「いや、兄さんはステンノ様とイチャイチャしてたのに急にお祖父ちゃんが現れたから余韻が台無しで不満なんですよ。そんな事より始めましょう。私も普通の夢が見たいので」
絶対分かって言っているお祖父ちゃんの背後から出て来たのは不満顔の妹、寝るのが早い奴だから美味しい物でも食べる夢を見ていた途中でこの場所に切り替えられたんだろうな。
まあ、よく寝る割には背がぜんぜん伸びないけれど、同じ年齢の時の僕より頭一つは小さいんじゃないか?
「余計なお世話ですよ、兄さん! そっちが伸び過ぎなんですー! お父さんもお母さんも身長が高いんだから私だって胸も背も伸びますー!」
「其処で背よりも胸の方が先に来る時点で」
「うんうん、ガウェインは隔世遺伝なのか妻の母、つまりは君達の曾お祖母さんの特徴を受け継いだけれど、妻の方は……アルトリアは隔世遺伝しないと良いね。まあ、妻の少女時代を思い出す限りじゃしているかもだけれど」
「むきー! 二人共お母さんに言いつけますからね!」
頭から湯気を出して怒り狂う感じの妹だけれど、僕達家族はこの子の前では絶対に本音を隠さない事にしているんだから仕方無い。
父さんの場合は嘘が分かっても、勘違いさせる言い方をすれば、それを見抜かれなかった場合は騙し通せる。
神に有効なのは沈黙だけじゃないって事さ、父さんは妙に鋭いから見抜かれたりするんだけれども。
「それで最近は大丈夫か? ちゃんとノクアレナさん以外に遊び相手は居るのか?」
「まあ、何とか……」
力の封印を施された神でも人の嘘は見抜けるままで、神の血を引いているけれど封印なんかされていない僕は恩恵を得る事で魂の色を見れる。
でも妹は、アルトリアは僕よりも濃く神の血を引いたらしく、恩恵無しでも相手の本音を見抜く眼を持ってしまったんだ。
相手を見れば本音が分かり、思い遣りから来る物でも嘘を吐く相手を前にすると濁った色が混じって見える。
だから僕達家族だけでもアルトリアの前では絶対に本音で話す、そう決めたんだ。
「ああ、それと授業の前に最近発見した面白い物を教えてあげよう。裏で紛争を煽っていた武器商人を捕縛した時に偶然発見した地下の大空洞の遺跡なんだが……」
そう言いながらお祖父ちゃんが幻術で出したのは砂漠の国で見られる三角の巨大な墓が城に逆さになって突き刺さり、その上に極東の国の城が乗っている、そんな奇妙な物だった。
「ははははは、意味不明とは思わないかい? じゃあ、座りなさい。授業を始めるよ」
え? あの奇妙な建造物の幻を出したままで?
凄く気が散るんだけれど……。
「「お祖父ちゃん、いい加減にしてくれる(ますか)?」」
あっ、ハモった。
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