オラリオに神の子が来るのは間違っているだろうか? R   作:ケツアゴ

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久々ですね


黒犬公

「随分と長い間ダンジョンに居る気がしたけれど、これもステンノ様への愛故か……」

 

 精神力の消費が激しいから時々補給を行いながら戦車で移動する事二時間程、その多くを休憩に使いながらも辿り着いた先で僕はステンノ様への愛を確かめていた。

 こう例えるなら八月の末から一月の末まで間が開いたとか、そんな意味不明な事が浮かんだけれど、今はクエストに集中しようか。

 

『グルルルルル……』

 

 僕の目前には涎を垂らしたブラッド・サウルスの群れ、それも数十体、下手すれば百にも届きそうな大群だ。

 幾ら此処から先が本格的に強さが必要になるって言っても限度が有るって物だよね。

 三十階層で起きたモンスターの異常発生とは聞いたけれど……。

 

 獲物を前に辛抱ならないという様子で一斉に殺到するブラッド・サウルス達、本来は基本的に魔石の味を覚えるか突発的な事故でも無い限りは他の種族ですらモンスターを襲わないのが此奴達の習性なのに、目の前の連中は我先にと、互いを押し合い、中には転んだ所を踏み台にさえされて圧死しそうな奴まで。

 

「随分と腹が減っているみたいだね。……成る程、食糧庫で何かあったな」

 

 僕に食らいつこうとした先頭の一匹の噛み付きを懐に潜り込んで回避し、槍で胸を一突きにして魔石を砕くけれど他の仲間は臆した様子も見せない。

 壁の出っ張りに足を掛け、僅かな足場から見下ろせば殺到したブラッド・サウルス達は何とか這い上がろうと互いを踏みつけ、歯をガチガチ鳴らして僕に向かって吠えていた。

 

「もう良いや。大体分かったし……いや、待てよ」

 

 周囲に波紋を出現させ、一気に武器を放出して殲滅しようとして思いとどまった。

 だってほら、此処まで大量にモンスターが出て来る機会なんて珍しい、怪物の宴が数回重なってやっとっていった感じじゃないか。

 

 遠目にも此方に向かって来るモンスターの大群、食糧庫に行けなかったのか機嫌が随分と悪そうだ。

 

「炎で焼き尽くすのも、”ゲート・オブ・バビロン”で殲滅するのも普段通りでしかないし……試してみるか。例のアレを」

 

 幾ら二束三文の品とはいえ、使い捨ての弾をあの大群に使うのは財布に響くし、どうせなら普段やれない事をやってみよう。

 お祖父ちゃんの考案で母さんが編み出したあの技、”黒犬公(バーゲスト)”の由来になったアレを会得するチャンスじゃないか。

 

「そうと決まれば早速……」

 

 両手の平から放出した黒い炎を圧縮、本当なら目の前の連中を纏めて灰にする程の魔力量に周囲に熱が放たれ、ブラッド・サウルス達がこの時に漸く怖じ気づいたけれど、もう遅い。

 只力任せに放出するだけの黒炎を球状に圧縮し、それにお祖父ちゃん作成の魔法……魔術を加える。

 

 恩恵を与えられる前から試行錯誤の末に独自の魔法を編み出していたエルフだからこそ可能な併せ技。

 黒炎はやがて四肢で大地を踏みしめる獣に、大型の犬の姿へと変化する。

 体毛は未だに燃え続ける黒い炎、その瞳は魔力の赤い光を放ち、自らの意思を持ってうなり声を上げていた。

 

 

「「グルルルルルルルルルルッ!!」」

 

「自分で作り出したから分かったけれど、自らの意思を持った魔力、擬似的な精霊って所かな? ……じゃあ、食い尽くせ」

 

 僕の両側に並んだ二匹は命令と共に姿勢を低くし、地面を爆ぜさせる勢いで跳んだ。

 目の前から二匹が消えた事でモンスター達が戸惑い動きを止めた瞬間、その真横を灼熱の疾風が吹き抜ける。

 余波で燃え上がり、そしてズタズタに切り裂かれたブラッド・サウルスが崩れ落ちる中、二匹は僕の方を一瞬だけ向くなり此方にやって来ようとしているモンスター達に向かって駆け出した。

 

 其処から始まったのは一方的な蹂躙、牙で、爪で、全身の熱でモンスター達を虐殺し、僕のスキルである”黒犬公(バーゲスト)”の効果範囲なのかモンスターの魔石から吸収した魔力によって更に巨大になり、その身を震わせたと思ったら元のサイズで数匹に分裂、逃げ出したモンスター達を囲い込んで追い詰める様は正しく狩りだ。

 

「これは楽で良いけれど……経験値は入るのかな?」

 

 どうせなら僕も肉弾戦を挑んで耐久とかを上げるようにすれば良かったかも知れないけれど、ぶっつけ本番で上手く行ったんだから良しとしよう。

 

 ……周囲が燃え盛っているのは要改善かな? 燃える物が多い場所とかで使ったら巻き添えを出しそうだし。

 

 実験の成果は上々、あまり贅沢を望んでも駄目だなと気を取り直し、見つめるのは階層の端、モンスター達の餌を生み出す食糧庫だ。

 飢えていたって事は此奴達が来た方向で何かあったって事だろうね。

 

 じゃあ、行くか。

 

 考えている間に粗方殲滅したのか僕の目の前には綺麗に整列し、魔力をコントロールしたのかドロップアイテムを燃やさずに咥えているのまで。

 その数、計三十匹、随分な大所帯だ。

 

 

「これだけの群れを使えば師匠連中にも一矢……は無理か。その程度の低い頂に立つ人達じゃないし」

 

 あの人達の強さは僕がよく分かっていると歩き出せば黒犬達は左右に分かれ、間を僕が通り過ぎれば後から着いてくる。

 まあ、随分と頼もしい事だが、母さんよりも知能とかの性能が上だろうな分、ちょっと取り扱いを考えないとな……。

 

 あの人が出したのは敵判定した相手を食らう凶暴なだけの獣で戦闘能力は此奴達よりは上だったけど、増えたり此処までは賢くなかった筈だ。

 スキルの影響か神である父さんの血の影響なのかは分からないけれど、使い捨ての道具にするにはちょっと気が引ける。

 ……どうしよう。

 

 

 

 

 

 

「……何だろう、これ? 植物かな?」

 

 黒犬達を用事が終われば消してしまえば良いのかと迷う中、辿り着いた先に待っていたのは緑の壁。

 こんなの僕の知識に無いと戸惑うけれど、どうやら此処で正解だったと壁に手を触れる。

 

 

 

 

 

 

『……テクレタ。……エニ来テクレタ』

 

「っ!?」

 

 その瞬間、僕の頭に知らない誰かの声が響く。

 嬉しそうな声、無邪気な女の人の声に聞き覚えが有るような無いような……。

 

 

「……うん? まさか、本当に……」

 

 後ろで控える黒犬達に視線を向け、感じる力に得たのは確信。

 次の瞬間、僕は目の前の壁を黒炎でぶち破った。

 

「通路……この先にいるのか」

 

 壁の先には似た物質で覆われた通路が広がっている。

 中に入り、黒犬達の半数が入った所で壁の穴が塞がる中、僕は迷わず進み出す。

 背後から壁を再び破る音が聞こえて来た。

 

 

 

 

「居るんだね。あの花から感じたのと同じ力を持つ精霊がこの先に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アア! ”フレイ様”ガ来テクレタ!』

 

 




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