オラリオに神の子が来るのは間違っているだろうか? R   作:ケツアゴ

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精霊の呼ぶ声

 緑に覆われた通路、押し寄せる食人花、それらを前に僕は一歩も引かず、視線も前を向いたまま。

 

『コッチ! コッチ!』

 

 只ひたすら僕を……いや、僕に流れる父さんの血を待ちわびて呼び掛ける声に導かれるままに突き進むだけ。

 子供が親を呼ぶような感じの声で、僕が近寄って行くのが本当に嬉しそう。

 

 それとは正反対に僕の行く手を阻むみたいに広い通路を埋め尽くす食人花は途切れる事無く次々に奥から現れている。

 涎を垂らし、僕に食い付こうした食人花の数は数十にまで及び、それは僕に触れる前に灰になって崩れ落ちた。

 

 ”黒犬公(バーゲスト)”の力によってLv.3程度の個体は口の奥の魔石の魔力を吸い尽くされて、残った個体も僕が動くより前に黒犬達が自ら口の中に飛び込み、そのまま魔石を咥えた状態で突き抜ける。

 

「案内するんだったらモンスターは下げて欲しいんだけどな……」

 

 こんなのを呟いても無駄だとは分かっている、この声の主である精霊は狂っている、古代にダンジョンの奥でモンスターに敗れてしまった存在だ。

 そして此処まで父さんを求めるって事は……。

 

 

 精霊は神が地上に遣わした存在、その中でも今僕を呼んでいるのは多分父さんが送り込んだ存在なんだろうな。

 只呼ばれているからじゃなく、体に流れる血がこの精霊を知っていると教えてくれる。

 

 

 そして、教えてくれるのはそれだけじゃない。

 

 

「……仕方無いか」

 

 今回の依頼は調査だけ、さっさと終わらせてステンノ様の所に帰る予定だったけれど、まさか異変の理由が精霊だったなんてね。

 溜め息を小さく吐き出し、声が聞こえる先に進んで行けば、本来はモンスターの餌である液体が湧き出る水晶が存在する広い空間だった筈の場所まで辿り着く。

 

 ……経験値稼ぎに便利なんだよな、食糧庫って。

 ベルの訓練に本格的に利用しようか。

 

 天井を見上げてみれば数えるのが億劫になりそうな程の食人花、そして水晶に絡み付く巨大な食人花、多分ゴブリンとホブゴブリンみたいな上位種だろうね。

 下手に暴れれば水晶の柱を破壊してしまい部屋が崩壊するだろうし、どうすべきかと考えている間も頭に響き続ける声。

 

「アレか……」

 

 視線を向けた先、其処に存在したのは透明の膜、まるで魚や蛙の卵みたいな物に包まれた赤ん坊みたいな姿の異形。

 声も精霊の気配もその赤ん坊から感じるけれど、同時にモンスターに酷似した気配も放っている。

 

 

 

「さてと……」

 

 近付き、腰を屈めて覗き込めば目を見開いた赤ん坊と視線が交わった。

 精霊ってよりは分身……魂や体の一部を切り離した存在って所か。

 

 仮にも神が代行として地上に遣わした存在をこんなのにするだなんて、父さんさえ教えてくれなかったけれどダンジョンって本当にどうなっているんだ?

 

 赤ん坊が手を伸ばし膜を突き破って出て来ようとする所に指をかざす。

 先端を刃物で突き、軽く滲ませた血を垂らせば赤ん坊に変化が起きた。

 

 これは言ってみれば神が人に恩恵を与える奴……その真似事、擬き、劣化、半分人間の僕では本来どうにもならない事だけれど、この精霊の分身相手には少し事情が変わって来る。

 

 生まれながらの完全存在、全知全能である神、僕に流れるその血が教えてくれた。

 どうやれば良いのかを、どうすれば目の前の相手を救えるのかを。

 

 神の部分だけじゃ駄目だ、ダンジョンは神を滅ぼそうとする意思を持つ、特に黒い体を与えられた個体は神の力に強烈な耐性を持たされている程に。

 だからこそ人の部分が影響するんだ。

 

 人でも神でもなく、人であり神である僕の血だからこそダンジョンに取り込まれた精霊からダンジョンの力を取り除ける。

 血が触れた場所から光が放たれ、不気味な異形な部分は瘡蓋が剥がれ落ちるみたいに少しずつ崩れ落ちて行き、背後から巨大な影が掛かった。

 

 

 

 お前だけ救われてなるものか、共に堕ち続けよう、と目の前の精霊の分身の他の部分が嫉妬し、まるで溺れる者が他の人にしがみついてでも助かろうとして互いに溺れるかの様に、そんな負の感情を放ちながら巨大な食人花が動き出す。

 

「こっちは……未だ掛かるか」

 

 浄化終了まで残り大凡十秒、巨大食人花が僕達を叩き潰そうと巨体を振り下ろすまで二秒、下手に動かさない方が良いと思った僕は真上に視線を向け、両腕で巨体を受け止めた。

 

 

「ぐっ!」

 

 足元が沈み、腕が軋む。

 何とか一旦は受け止めたけれど押しつぶそうとする力は衰えず、僕は微動だに出来やしない。

 

 

 でも、僕だけが動く必要は無いよね?

 

 

 

「燃やせ」

 

 その一言で十分だ、それだけで黒犬達は動き出す。

 天井の食人花は既に焼き尽くし、柱に巻き付いていた厄介な邪魔者はこの通り僕の上。

 一旦逃れようとする巨体に指先を突き立てて押さえ込み、噴き出した炎が反対側まで貫いて黒炎の火柱を上げた。

 

 それでもこの巨体だ、魔石に当たらないとそう簡単には倒れない。

 だから、黒犬達は巨大な口の中に飛び込み、消化液がその身を削るよりも先に内部を炎で焼き尽くした。

 当然、魔石すらも灰になり、巨体もまた灰になった上で頭から被る間もなく灰すら残さず焼き尽くすだけ。

 

 少しだけ頭に被ってしまったけれど、別に良いか。

 

 

 

 

「さて、終わったのは良いけれど……これを着てくれるかい?」

 

 問題があるとすれば精霊に戻ったのは良いけれど、人間サイズで人型な上に全裸だって事だ。

 こんなのを地上まで連れて行ったらどうなるか分からないし、取り敢えず羽織る物を手渡した。

 

 この時、普段に比べて物が取り出し辛く、最後には手で引っ張る事で何とか出せたんだけれど、服を出す予定だったのに手に持っているのはフード付きのローブ。

 

 全身隠せるけれど、全裸にこれだけって変態臭い……。

 

 

 

「助かりました、フレイさ……誰ですか、貴方!?」

 

 それでも全裸よりは万倍マシだろうと手渡せば相手は普通に着て、僕の顔を見るなり飛び跳ねて驚いた。

 

「まあ、そんな風な反応にもなるか。じゃあ、さっさと帰るから……【開け天界の門】……あれ?」

 

 もう一秒も早く戦車に乗って地上に帰りたいと思い詠唱を始めた所で違和感を覚える。

 

「……精神力が練れない? これじゃあ魔法が……」

 

 手の平から炎は放出可能、戦うには問題無いんだけれど魔法レベルの運用は不可能、お説教の時に正座させられて足が痺れた時と同じく精神力を使うのに乱れが有るというか……。

 

 感覚からして使えるようになるまで少しだけ時間が掛かりそうで、つまりは戦車を出して速攻で地上まで帰るのは無理。

 

「え? じゃあ、ステンノ様の顔を見るのに少し時間が……」

 

 一応、食料や水は倉庫以外にも入れている、地上まで余裕があるだろうけれど、僕が帰らないという事は……。

 

 

 

「洗濯とかステンノ様の洗体とか、一体どうするんだ!?」

 

 アナに全部任せるのは無理だ、彼奴は洗濯下手だから丁寧な扱いが必要なステンノ様のお召し物が傷んでしまう!

 

 

 

 

「速攻で帰る! 走るからついて来て!」

 

「それは良いですが、それで貴方は一体……」

 

 

 

 

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