オラリオに神の子が来るのは間違っているだろうか? R 作:ケツアゴ
「……あの猪、何をやっているんだ」
精霊の力を感じる風を目にした途端に”アリア”の名を呼んで走り出したジャンヌに対して僕は頭痛を覚える。
アリア……確か古い物語にも登場する実在の人物、いや、精霊の名前だ、父さんから聞いている。
あの風は剣姫の魔法だろうし、クロッゾと同じく精霊の血を分け与えられたのが彼女の家系何だろうけれど、本人と間違うなんて余程強く力が発現したんだろう、知人であるジャンヌが勘違いをする程に。
「ええっ!? アリアじゃなくって、その娘!?」
……うん?
剣姫以外にも誰かが居る気配はするし、ロキ・ファミリアと揉め事を起こすのは本当に面倒だ。
神ロキが眷属を大切にするタイプだとは耳にしているし、天界でのヤバい行動だって父さんから聞いている。
剣姫が精霊の血を引いて居るだなんて話は初耳だし、敢えて秘密にしているなら見抜いた此方にどんな行動をしてくるか分かったもんじゃない。
「何とか穏便に済まさないと……」
親戚が居るからって楽観視はしない。
何か起きればフレイヤ様にも迷惑が掛かるし、僕はステンノ・ファミリアの団長だ、愛しい方の名誉の為にも避けるべき争いは避けるさ。
イシュタルの顔を焼いた件は……うん、あれは仕方ない。
アイズ達がダンジョンに来たのはティオナが膨大な借金をした事が発端であった。
先日の遠征で破損した武器を新調した代金、それが億近くにまで及び、一人で稼ぐのは難しいとアイズを誘い、それにティオネやリヴェリア、フィンとレフィーヤが同行する事になり、ダンジョン中層まで辿り着いた時だ。
「アリア!」
ヘルハウンドに似ていているが違う新種のモンスターかに思われた存在、リヴェリアとフィンは顔見知りが魔力によって生み出した存在と同一であり、止めようとするよりも先に風で吹き飛ばした時だ、見知らぬ女……ジャンヌが姿を見せたのは。
親しげな様子で寄って来る相手に……母の名で自分を呼んだ相手にアイズは言葉を失い、リヴェリアとフィンは警戒を顕にする。
アイズの母に関する事、それはロキ・ファミリアでも一部の幹部しか知らない極秘事項なのだから。
「彼女は一体……」
相手からは敵意も感じず、なぜ知っているのか不明な以上は下手に手を出せば薮蛇になりかねない。
どう動くべきなのかフィンとリヴェリアが動く事に躊躇する中も二人の会話は続き、平和的な内容だからか若手組は精々アイズの母親の知人程度の反応。
取り敢えず話を聞き出して正体の看破に迫ろうとした時、通路の角からティオが慌てた様子で現れた。
「ジャンヌ! 初対面の相手に迷惑掛けたら駄目だって!」
少し困った口調で現れた彼の姿に、この場で初対面のフィンが思ったのは彼かという物。
フレイ・ファミリアの元団員という事やLv.3でオラリオに来たハイエルフという事、そして先日イシュタルと揉めて顔に怪我をさせたという事もあるが、一番の理由は兄弟弟子という事。
それはティオも同じだったらしく……二人の目が同時に一瞬だけ死んだ。
『このスカサハに力を示すか死ぬか、それだけだ未熟者!』
地獄すら生温いと初日から思い、心身共に何度も死に掛けた修行の日々が蘇った後で二人の視線が重なって思考が読めた。
『『お互い本当に大変だった!』』
この時、フィンは足が、ティオは手が震えていたのだが、アイズがアリア娘だと聞かされてジャンヌが驚いた様子でいる所をティオが肩に担ぎ上げ、そのまま立ち去っていった。
「すいません。ご迷惑掛けました!」
暫し呆然と立ち尽くす一行だが、気を取り直して先に進む事になり、その先で……。
「”ジャンヌ“と”フレイ“を連れ戻せと命じられて来てみれば……そうか、今の風、お前がアリアか」
十八階層へと向かう階段の近くの通路にて赤髪の女と遭遇した。
「困った。どんな風に話せば良いんだ……?」
依頼を受けて三十階層まで向かった事で救い上げたジャンヌだけれど、ホームの前で僕は立ち尽くす。
ジャンヌは暢気にホームを見てワクワクした様子だけれど、僕は君の処遇について悩んんでいるからね?
「これは素敵なお宅ですね。此処で暫くお世話になれば良いんですね?」
「まあ、それは確定か」
どの道、ジャンヌが暫くホームで過ごすのは決定しているんだけれど、問題はステンノ様に相談せずに居候を決めた事、しかも女だ。
機嫌を損ねなかったら良いけれどと心配しながらドアを開けようとすれば先に中から開いて怪訝そうな目をジャンヌに向けるアナが立っていた。
何だ、出迎えたのは此奴か。ステンノ様に出迎えをさせられないけれど、アナなのは残念だ。
「遅いと思ったらお客様連れですか。それで一体誰……いえ、何ですか? 人間じゃないですよね」
「其方こそ妙な気配ですが……」
二人揃って相手が人間じゃないと分かったのか武器を構えて一触即発、今にも戦いが始まりそうだけれど、ダンジョンでアナについて話しておけば良かったな。
母さんと結婚した後の事とか妹についてとかステンノ様についてとかステンノ様の事とかステンノ関連の話とかステンノ様の素晴らしさについてとかは話したけれど、アナについては僕の役目を奪うチビとしか伝えてなかったからね。
「二人共ストップ、今から説明するから」
構えた武器の柄を掴み戦闘の開始を阻止しながら中に誘う。
僕はさっさとステンノ様に会いたいんだ、邪魔はしないで欲しい。
「成る程、フレイ様が納得なさっての事なら構いませんし、今は改宗していても眷属だったのは変わらないでしょう。つまりフレイ様が子供と呼ぶ存在なので私の妹ですね」
「ティオ、不審者を連れて帰ったら駄目じゃないですか。拾った場所に戻して来て下さい」
ホームのリビングにて二人の正体についての説明を終え、これで一旦は問題解決、新しい問題が発生しても気にしない。
「フレイが扱い辛いって言ってたけれどこういう事だったのね。言っておくけれどアナは私の妹よ。手出しはしないでちょうだい」
だってステンノ様が僕の膝にお座りになっていて、しかも抱き締めろと命じられているんだ。
正直ジャンヌがトンチキだろうと今の僕には気にならない。
「浮かれてちゃ駄目よ? ティオ、これは罰なのですもの」
笑みを浮かべていたのがバレたのか腕をつねられる。
全く痛くないし、ステンノ様の指の感触が素晴らしいのでご褒美だけれど、確かにこれは罰だった。
『あら? 嫉妬して貰えるとでも思ったのかしら? 馬鹿ね、貴方の身も心も私の物なのにお客様の一人程度で何を言っているのやら。不敬よ、罰を与えます。今日一日は私のクッションになりなさい』
こんな感じで今の状況に至るって訳さ。
そうだ、今は罰の最中なんだから気を引き締めていないと。
「所で依頼の方はどうするんですか? 正直にジャンヌさん遠連れて説明なんて出来ないでしょう?」
「それもそうか。まあ、部屋は帰りがけに潰しておいたし、その辺は何とかなるとして……僕は呼び捨てなのにジャンヌはさん付けなんだ」
プイっと顔を逸らされるら、答えたくないって事か。
「君にさん付けされても気持ち悪いだけだし別に良いけれどさ」
「じゃあ別に言わなくても良いじゃないですか。では、私は夜のダンジョン探索に向けて寝ますので。姉様、ジャンヌさん、お休みなさい。あっ、ついでにティオも」
「僕はついでか」
「そうですが、それが何か?」
アナはしれっと言い放って部屋に向かって行く。
仕方ない、ステンノ様のお昼寝の時間だし、僕もベッドに行かないとね。
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