オラリオに神の子が来るのは間違っているだろうか? R   作:ケツアゴ

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九死に一生 

「馬鹿ですね、ティオは。私は貴方に任された彼の世話で忙しいんですが」

 

 食事中、バターケーキを味わっている最中にされたダンジョン深層への誘いに私は溜め息で返す。

 全く、女神に目を付けられた友人を見捨てられないからと私に協力を求めておきながら何を言っているのやら。

 

 折角の機会ですし蔑んだ目を向けておきましょうか。

 

「ぐっ! ここぞとばかりに蔑んだ目を向けて……」

 

 おや、鋭いですね。

 

「兎に角私は多忙ですので無理ですね。次の機会になら付き合いますよ。私も少し強い相手と戦いたいですし。弱い相手ばかりだと技が鈍りそうで困るので」

 

 まあ、抗議なんて無視するんですけれど。

 

 それはそうとして短時間で奥まで向かえる戦車は本当に便利ですよね。

 消費魔力の問題だってダンジョンの先へ先へと進む程に解決するスキルが有りますし、利用してあげましょう。

 

「モンスターを呼び寄せる道具の使用期限もありますし、明日は丸一日食料庫に籠って戦い続けさせる予定ですので寝言は寝て言って下さい」

 

 やり過ぎ? 命懸けの仕事を選んだのは彼ですし、女神に気に入られた以上は生半可な鍛え方では間に合いませんからね。

 

「死なない程度にね」

 

 私の言葉に少し不安を滲ませているティオですが、私を侮り過ぎでは?

 

 

「先生じゃあるまいし、臨死体験迄はさせませんよ。死ぬ程に怖くてキツいだけです」

 

 私達の場合は何度も半死半生、心臓が止まった事も有りましたが、私が彼を鍛える日は気絶したのをちゃんと背負ってダンジョンから脱出しているというのに、その程度も理解していないと思うと少し呆れてしまう。

 

「なら別に良いや。サポーターの子も気に掛けてね。ウチのファミリアと組んでくれるフリーのサポーターなんて他に居ないんだから」

 

「ええ、何処かの誰かさんがイシュタルの顔を焼きましたからね。腕の良い人は訳有りしか組んでくれませんよ」

 

 それこそ言われるまでも無い、分かりきった事ですよ。

 

 まあ、ビジネスパートナーのリリさんの最低限の安全と彼の四肢の欠損程度は保証しますよ、心が折れるならその程度でしかなかったって事でしょうし。

 

 

「すいません。蜂蜜水とバターケーキの追加をお願いします。トッピングのクリームは多めで」

 

 さて、ただでさえ夜行性の私が昼にダンジョンに行く上に嫌いな人間に関わるのですから目一杯好きな物を食べておきませんとね。

 

 

 

 モンスターの餌場である食糧庫、其処で今、絶叫が轟いていた。

 

 

「ほわぁああああああっ!?」

 

「無駄に叫んで体力を消耗しない。自分の耳も邪魔しますし、それと無駄な跳躍と大振りで隙を作っています。周囲の敵と地形を把握しながら動く事ですね」

 

 ベルさんの背後に迫ったコボルトの首を伸ばした鎌で切り飛ばし、ついでにと数匹のモンスターを鎖で殴打して包囲網に穴を開ける。

 

 ただでさえモンスターが集まる場所に血肉を用意して集めに集めたモンスター。

 今の彼なら単体なら楽でも周囲に溢れ返る数は対処が厳しく、先程から増える生傷。

 

「リリさんはタイミングを見て援護をお願いします。私は最低限しか手を出しませんので。ほら、アレンさんに指摘された癖が出ていますよ。意識しなさい」

 

「は、はい!」

 

 今まで喧嘩すらして来なかったであろう素人の動き、スキルなのかステイタスこそ伸びは良いみたいですが、アレンさんや私が稽古を付けても未だ未熟。

 

 ああ、また目を閉じそうに……:。

 

 

「臆病は慎重さになりますが目は閉じない。何度言えば分かるのですか。痛みも危機も和らぎませんよ」

 

 はあ、本当に何時になったら解放されるのやら。

 

 解放、その言葉を思い浮かべるとリリさんの方を向く。

 イシュタル•ファミリアよ揉めているウチのファミリアと関係を持つ位にはお金に困っている方ですがサポーターとしての腕は良いのでしょうね。

 

 私はその能力を、向こうは身内からの搾取を防ぐ盾を欲しがって一時的に手を組んでいる関係ですが……まあ、少し世話を焼いてやるのも良いでしょう。

 

 

「おや、もうここまでの様ですね。一旦(••)休憩にしましょうか」

 

 ですがリリさんに今後の身の振り方についての助言を与える前にベルさんの限界が来たみたいですね。

 周囲を囲まれて傷が増える中で蓄積されていった心身の疲労、それは魔石を口に突っ込んで無理矢理に強化したゴブリンを三体ほど投入した所で大きく影響を見せた。

 

 振るわれた爪をナイフで受け止めるも踏ん張りが足らずに後ろに跳ね飛ばされ、食い付きを腕の防具で受け止めた所でバランスの崩れた状態じゃ転ばされるだけ。

 背中を強かに打って立ち上がろうとした所に横から飛び掛かられてみっともなく転がり、飛び起きた所で既に囲まれてしまっている。

 

 後は嬲られるだけ、傷だらけ泥だらけ、そろそろ限界ですね。

 勝手に折れるなら兎も角、私の指導中にというのは少々不味いでしょうし、一足飛びに一帯の背後に着地すると同時に肩から脇腹までを両断。

 血が吹き出す前にベルさんの襟首を掴んで飛び退けば残った二体の顔に飛び散った血が掛かり、怯んだ瞬間には既に投げた鎌が回転しながら迫り、立ち直るよりも先に魔石を破壊しました。

 

 

「特訓のご協力感謝します。お礼に楽に死なせて差し上げました」

 

 鎌に付着した血を振り払い、ベルさんを掴んだ手を離す。

 気絶していますが毎度の事ですし、今日は未だ何度も気絶するまで扱く予定ですので構いません。

 

 

「それではリリさん、一旦お昼ご飯を兼ねた休憩にしましょう」

 

 正直この空間は私にとって毒だ。

 血肉とモンスターの餌の香りは否が応でも私が普段は抑え込んでいるモンスターの本能を刺激してしまうから。

 

「では、彼は私が運びますので休憩に向いた小部屋まで向かいましょうか。ティオが貴女の分もお弁当を作っていますので」

 

 彼女は既に大荷物を背負っているから私が背負いますが随分と軽い。

 

「前回よりは継戦時間が伸びてはいるのは認めてあげましょう。……次は十一階にでも行きましょうか」

 

「あ、あの、流石に一気に飛ばし過ぎなのでは?」

 

「死なせませんよ、明日筋肉痛が全身で起こって死にそうな程にキツい訓練を行うだけです。ステイタスだって伸びますよ」

 

 リリさんは随分と優しいのですね、と一応笑みは向けておく。

 一時的にでも組むのならば呼び方や態度は形だけでも親しみを込めろとティオに言われていますので実行しましたが、本当に面倒ですね。

 

 

 

 

「それでリリさんは脱退した後はどうする気なのですか?」

 

 休憩スペースを確保して、ティオに作らせたお弁当を食べている最中にした質問に対し、リリさんは少し考えてから答えます。

 

「….そうですね。ご迷惑をお掛けしたご夫婦がいますので償いながら冒険者とは無関係な生活を送りたいと思います」

 

 まるで抜け出す事だけを考えていたという様子ですが、まあ、ソーマ•ファミリアの実情や境遇を考えれば冒険者には関わりたくないでしょうし当然ですね。

 私だって人間に囚われ売られて変態に飼われていた過去から人間は嫌いですから。

 例外はフレイ•ファミリアの一部の人達だけ、それ以外は等しく同じです。

 

 それでも立場から来る責任感や通すべき義理から忠告はしておきましょう。

 

「脱退の代金を払えるなら蓄えの残りも期待出来る、とでも思った人に狙われる可能性も有りますし、荷物運びのスキルやサポーターとしての経験を活かして大手の商業系ファミリアに雑用として入ってみては?」

 

 フレイ•ファミリアのボフマンさんの商会は……入団の際の掟で幹部の誰かの指導を受けてから正式にというのが決まっていますし……。

 

「厳しくて常識外れに厳しい人、優しいけれど一切の容赦無しの人、変人で面倒見が良いけれど常識外れの人、何度も九割殺しな目に遭うなら誰の弟子になりたいですか」

 

 誰も嫌だと……そうでしょうね。

 

 

 そんな会話を終えた頃、そろそろフレイヤ様の手作り弁当を食べさせるかとベルさんを起こそうとすれば先に目を覚ましました。

 

 

 

「ほわぁああああああああっ!?」

 

「五月蝿いですよ。モンスターを呼び寄せたいのですか?」

 

 たかが膝枕をされていた程度で騒ぐので叩いて叱っておきましょう。

 

 

 どうして膝枕をしていたか? ちょっと理由がありまして……。

 




9割死んでても一割生きていればよし

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