オラリオに神の子が来るのは間違っているだろうか? R 作:ケツアゴ
この日、僕にとって有り得てはならない程に不幸な現実をステンノ様から告げられた。
それは帰宅の後にステンノ様にキスをして、お風呂でその肢体を隅々までお洗いさせて頂いた後の事、普段の様に姫抱きで寝室までお運びした後で女神を抱き締めて眠るという名誉を堪能する……筈だったのに。
「悪いわね、ティオ。今日はアナと一緒に寝る気分なの。だって普段は抱き締められて居るけれど、たまには抱き締めて眠りたいわ」
「……はっ!?」
意識を飛ばし思わず間抜けな声を出してしまった事にも気が付くのが遅れる程のショック。
確かに毎日ステンノ様を抱いて寝ている訳じゃなく、父さん達と一緒に居た時からアルトリアやアナと一緒に寝るのを選ぶ姿を見送った事はあるんだけれど、だからって普段よりキスをした回数が多い日にアナを選ぶだなんて!?
一体何故とは問い質さない、一応の理由は聞かされたし、何よりもステンノ様の選択が間違っている筈がないんだから。
「では、そういう事ですので」
「久し振りに髪をすいてあげるわ、アナ。じゃあね、ティオ。また明日会いましょう」
「お休みなさいませ」
アナの奴、普段は夜行性だからって夜中にダンジョンに行くから一緒に寝れないからってここぞとばかりに得意そうな顔をして!
保護したばかりの頃はビクビクして物陰に隠れながら警戒心を露にしていたのに、今じゃ本当に感情が豊かになって結構だよ!
「本当に豊かになって結構だよ。慣れていないと無表情で無愛想に感じるけどさ」
僕は少し前だけれど結構昔にも感じる頃のアナの姿を思い出していた。
「ラミア? ラミアってあの下半身が蛇のお姉さんのモンスターじゃ?」
当時の僕は恩恵を貰ってから漸くランクアップを目前にした頃、この頃は僕にベッタリな時期だったアルトリアが背中に張り付いて恐る恐る覗き込む相手を見て首を傾げていた。
だって服を着ているのは別に良いとして、下半身が蛇じゃなくて人間の足だったんだからさ。
服の隙間から時々覗く肌に微妙に鱗が見えているけれど、とてもモンスターなんかには見えなかったよ。
「かんら、から、から! 希だが人間の言葉を理解して高い知性と同族とは違った容姿を持つ者が居るんだ。まあ、仲良くしてやってくれ」
師範にそう言われたし、父さんが受け入れたなら僕は文句は無いんだけれど……。
「……」
何か向こうは怯えと警戒が混じった目を向けて来ているし、背中の妹は僕の服を強く掴んでいるし、ちょっと仲良くなるのは長引きそう。
「取り敢えず一緒にご飯でも食べたらどうだ? 二人なら大きさが同じくらいだし、僕達よりも警戒されないだろうからね」
「うん、それは別に良いんだけれど」
この少し妙なお姉さん……お姉さん? は父さんの眷属の一人なんだけれど別行動組のリーダーだから時々フラッと合流しては師範として僕に修行をつけてくれる。
名前は……実は知らない。 何故か知らないけれど鬼一法眼って名乗っているし、父さん達がそれを受け入れているから僕やアルトリアも聞こうとは思わないんだ。
「二人とも揃って養子になるなら教えてやるぞ」
「別に興味無いです」
「お母さんとお父さんの子供のままがいい!」
本名に関する話はこれで終了、今重要なのはアナの事で、先ずはご飯でも一緒に食べて仲良くなれってパンとおかずとナイフとフォークが用意されたトレイを差し出されたんだけれど……。
「っ!」
ナイフとフォークが光を反射したのを見てアナは体をビクッと跳ねさせる。
これは刃物が怖いのかな?
師範も失敗したって顔をしているし間違いないみたい。
モンスターだし、武器を持った人間に追いかけ回されたとか?
アナがどんな状況で過ごして居て、どんな理由で保護されたのかは教えて貰っていない。
その辺は父さんと母さんで協議中で、親が決めるべきだって師匠も先生も教えてくれなかったからね。
じゃあ、多分アルトリアには絶対教えない方が良い事なんだろう、そんな風に思っていると師範は困り顔で銀食器を眺めていた。
「……少し待って木製のにするべきだったか。僕の他にも合流組がいるせいで食器に余裕がなかったからな」
「確かにちょっとさわがしかった。怖そうな人もいたし……」
「大丈夫だよ、アル。赤ん坊の時に会ったっきりの人も居るけれど、父さんが選んだ人達だし、酔っぱらって悪ふざけをして来てもお兄ちゃんが守ってやるから」
正直言えば僕が今立ち向かっても小指の先で転がされるのがオチだろうけれど、お兄ちゃんだからそんな事は口にしない。
まあ、一瞬足止めすればどうとでもなる人達が居るから嘘じゃないさ。
「……うん」
少し無鉄砲な癖に人見知りな所のある奴だけれど、昔から頭を撫でてやれば落ち着くんだ。
背中にしがみついてるから撫でるのは大変だったけれど妹は落ち着いた。
因みに一番怖がってそうなアマゾネス姉妹の妹は僕も怖い。
何だよ、あの巨大なトゲ鉄球はさ。
「弱虫アルが落ち着いたし、もう大丈夫だね」
「弱虫じゃないもん」
じゃあ、新しい仲間の事を考える番だ。
「師範、ちょっと待ってて」
ご飯を乗せたトレイを手にして僕は一旦その場から離れるんだけれど、アルトリアは僕の背中にくっついたままだ。
ちょっと邪魔だなあ、だけど僕はお兄ちゃんだし……。
「ステンノ様、お出掛けから早く帰ってくれないかなあ」
「むぅ。お兄ちゃん、最近ステンノ様の事ばかり……」
「だって素敵で神秘的で色気があって可憐で優しくって美しい女神様だよ?」
ちょっと拗ねた僕が向かったのは料理当番だった母さんの所、ちょっとしたお願いをしに向かったんだ。
「ほら、これで平気だろう?」
「……」
ナイフやフォークが怖いなら使わないでもいい食べ方にすれば良いんだ。
どうしたって? 少し大きいパンにして貰っておかずを挟んだんだよ。
「じゃあ、僕とアルは少し離れてるけれど、アルが話し掛けたら返事をしてやってよ。泣き虫だから無視されたら泣いて五月蝿いしさ」
「だから泣き虫じゃないもん!」
これがアナと僕達の交流の始まりで、少し心を開いた切っ掛けなのかな?
この後で他の団員とも仲良くなって、ステンノ様にだって直ぐに気に入られて可愛がられる事になったんだ。
僕への言葉が酷くなったのも直ぐ後だったけどね!
主に僕達兄妹とステンノ様が面倒を見てやっていたのにも関わらず失礼な態度を取る奴にステンノ様との添い寝の権利を奪われた、その事実に膝から崩れ落ちなかったのは偉大なる女神が最初に恩恵を与えた存在であるという自負、母や祖父を筆頭に名高き英傑達に師事したという矜持、それとついでに父さんの息子って事が僕を奮い立たせたからだ。
だから寂しくなんてない、本当に平気なんだ……。
そんな僕の肩に手が置かれ、振り向けばニコニコ笑うジャンヌの姿。
「寂しいのならお姉ちゃんが添い寝してあげますよ」
「不要だからさっさと寝なよ。まあ、お客さんの相手をしてからだけどね」
依頼を受けてモンスターの大量発生を調査しに行ったのに、解決しても全然接触して来なかった依頼主。
それがホームを守る人払いの結界を越えて漸く接触しようとする気配があった。
アナの奴、さては接近する奴が居るって本能で察したな?
結界には関わっていないけど、そこは恩恵を得たモンスター。
蛇系に分類されるラミアだから匂いか熱かで探知したのかと、父さんから教わった蛇の生体を思い出しながら考える。
何でもロキ様と別れた後に巨大な蛇を差し向けられて詳しくなったとか。
「大丈夫でしょうか? 相手が結果を知ってどんなに風にしたいのかも分かりませんが」
「ジャンヌの件で向こうがどう出るかだけれど、今は身内だしどうにかするさ。別に英雄になるとかは興味が無い僕だけれど、身内を守る為なら悪党だろうが……邪神だろうがなってやるさ」
『……辿り着けん』
尚、入ろうとはしているけれど、入れるかどうかは別だよ。
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