はるばるやってきた潮風が、燦々と降り注ぐ日差しを浴びた作物を撫ぜる。オリーブ畑の向こうの道沿いには柵が続いており、丸々とした鳥竜が各々で寛いでいた。雪解け水で牧草が豊かに生え、その間からは虫等も顔を覗かせる。
所々に石の転がる道を、蝶を追って五つほどの子どもが駆けていた。その視野では足元にまで意識が向かず、地面に半分埋まっていた石に躓く。後ろについていた兄が目を見開いた時には、派手に転んでいた。
兄が慌てて駆け寄ると、子どもは呆けたような顔で顔を上げる。泣く前兆かと兄は身構えたが、子どもはけろっとしていた。兄が胸を撫で下ろして抱き起こし、手のひらや服についた砂をはらってやる。
「おまえは強いね、リュカ」
リュカと呼ばれた子どもは、兄に褒められ、乳歯を見せて笑った。
「ぼく、えらい?」
「えらい、えらい。お手伝いもできるいい子だ」
リュカが甘えると、兄は笑って弟を抱き上げる。少年から青年に変わりつつある腕は、幼い弟を抱くのにも大分慣れてきていた。
遠くの島で、小さな黒い点が飛んでいるのが見える。だがそれが巨大な飛竜であることなど、この兄弟が知る由も無い。
タンジアの港に程近いこの村は、海産物がよく手に入る。だが潮風や季節ごとの変化に耐え得る動植物は、海の中だけに存在するわけではない。乾燥に強い植物などの栽培や、おとなしい草食モンスターの畜産業も、細々とではあるが継続していた。
リュカの家は、主に丸鳥の移牧をして生計を立てていた。さほど飼育数が多いわけでもないが、多少の気候の変化に耐えうるほどには丈夫で、昆虫も植物も食べる雑食性のため、餌に困ることも少ない。さらにスパンが安定している訳ではないが、貴重な収入源となる卵を生んでくれる、大切な存在だった。
リュカはよく兄・ギヨームの後ろにくっつき、丸鳥の世話をする様子を眺めていた。季節の変わり目の移動も、少し前までは母に抱かれていたが、自分の足で着いて行けるようになった。時折雛鳥と遊んでは、土埃だらけになって兄と共に風呂に放り込まれる。決して裕福では無かったが、人並みの生活はできていた。
ふいに兄が顔を上げるのを見て、リュカもそちらを見やる。亜麻色の髪が陽の光を弾き、麦の穂のように揺れているのが見えた。娘の雀斑が散らばった頬が持ち上がると、ギヨームも同じように表情を緩めた。
「やあ、ガビィ」
「こんにちは。やだ、リュカったら転んじゃったのね。大丈夫?」
こちらへ来たガブリエラはしゃがみ、真っ黒になったリュカのズボンを手で払ってくれた。
「ちょうちょとね、追いかけっこしてたの。泣かなかったよ」
「やるね、すごいじゃない」
頭を撫でられ、リュカは再び誇らしげにする。
ガブリエラは近所の農家の娘で、昔からよく一緒に遊んでいた。さっぱりとしているが、面倒見が良く温かいひとだった。ギヨームの二つ上で、リュカのことも可愛がってくれている。
二人は一緒にいる時も、リュカが分からない話はせずに構ってくれたから、どちらのことも大好きだった。子どもの前だからと見せないようにしていてくれたのかもしれないが、彼女が兄と交際していたことを知ったのは、大分後だった。
「ちょうどお腹が空く頃かと思って、お弁当を作ってきたの。一緒に食べましょう」
ガブリエラは手に持った籠をちょっと持ち上げて見せる。馴染みのクロスの中には、いつもガブリエラ手製の美味しいパンや焼き菓子が入っているため、リュカは楽しみにしていた。兄も嬉しそうな表情を浮かべる。
「いつもありがとう、ガビィ。さあリュカ、ご馳走になる前に、手を洗いに行こう」
兄に連れられ、井戸まで歩く。後ろを振り返ると、食事の用意をしていたガブリエラが微笑んでくれる。
これからも、家族で丸鳥の世話をしながら暮らしていくのだと思っていた。ガブリエラも交えて、一緒に食卓を囲って。そんな日々が、ごく当たり前に来るのだと。
それは、夏にしては珍しい雨の日だった。牧草を育ててくれるという恩恵もあるが、高台を濡らす雨は冷たい。
丸鳥を小屋の中へと移動させ、兄が飼料を取りに行っている間、リュカは小屋の裏の軒下で遊んでいた。雨で濡れた土を屋根の下に持ってきては、せっせとそれらを握り固めて泥団子を作る。乾いた砂をかけて磨いているうちに、ふと何かが動いたような気がして、リュカは顔を上げた。
ガーグァの雛と同じくらいの大きさをした何かが、農具の向こうで蹲っている。すらりとした赤橙の体躯に、クリクリとした大きな目、垂れた耳のような襟巻き。群れをなす肉食竜として名を馳せる、ジャギィと呼ばれる狗竜の仲間だった。薄紫のラインの面積が少ないことからも、その個体がかなり幼いことが分かる。
リュカも図鑑で見たことがあったし、また出店の商品に悪戯を仕掛けてきた、村の大人たちが追い払った、などの噂は耳にしていた。怖い竜だと聞いていたけれど、あれのどこが怖いのか。それに、こんなに怯えた状態で一匹でいるなど、どうしたのだろうとリュカは首を傾げる。
「まいご?」
リュカが近づいてしゃがみ込むと、ジャギィもしくはジャギィノスの幼体は小さな牙を剥き、威嚇した。未熟な襟巻きに威厳などなかったが、リュカはその勢いに尻餅をつく。
そのまま逃げ出すかと思いきや、幼体は尻尾を丸めるばかり。幼体の細い胴は骨が浮き出ており、栄養状態が芳しくないことが察せられる。
「おなか空いてるの?」
リュカは中身の詰まったポケットに砂だらけの手を突っ込み、中を探り始めた。まだ自分のボタンを留めるのも苦労する手では難儀したが、なんとか目的のものを引っ張り出す。
「これあげる」
手の中にはくしゃくしゃになった包み紙があり、カラカラと乾いた音がする。幼体はその匂いに興味を示した。
父親が酒のつまみにと食べている魚のジャーキーを日ごとにねだり、リュカは食べるふりをして大事に取っておいていた。小腹が空いた時のおやつにもなるし、こっそり丸鳥にあげて仲良くなることもあった。まさに秘密の、とっておきのアイテムだ。
リュカはジャーキーを千切る。一つは自分の口に入れ、もう一つは幼体の前に置いた。もぐもぐと咀嚼し、それが食べ物であることを示して見せる。幼体はそれを見るなり、おそるおそる地面に置かれた肉を口にした。だが、何度か挑戦しているものの、口の中に入っていかない。ジャーキーの表面は硬いが、噛んでいるうちに柔らかくなってくる。しかし狗竜の牙は食い千切ることには長けていても、咀嚼をするには向いていなかった。
リュカは少し考えると、ジャーキーを小さく割いて、椀のようにした手に乗せ、雨の下へと曝す。やがて多少ふやけて柔らかくなったそれを、幼体の前に置いた。
「おたべ、どうぞおたべ」
近くの港へ読み聞かせをしに来る司書が、いつか読んでいた絵本の一節を、リュカは歌うように口ずさむ。言葉は理解していないだろうが、幼体は差し出されたそれを食べ始めた。今度はうまく飲み込むことができている。リュカは喜び、気をつけながら幼体の背を撫でた。
「いいこ、いいこ」
幼体は抵抗してこない。リュカは目を輝かせた。鱗を持つ竜の多くはヒトとは馴れ合えないと言われてきたが、大人の言っていることは間違っているではないかと。一瞬でも生まれた絆のような何かに、舞い上がるような心地だった。
「おーい、リュカ! お家に戻るからおいで」
突然の大声に、幼体はびくりと肩を振るわせる。兄に呼ばれたリュカは幼体を撫で、立ち上がった。
「またね」
不思議そうに自分を見つめる幼体に手を振ると、兄の方へと駆けていく。
遠くから、自分達のほうを見つめる眼には、気づきもしなかった。
雨はすぐに止み、一晩明けると再び強い日差しが大地を照り付ける。過ごしやすく気持ちの良い日であるにもかかわらず、村は騒然としていた。
農薬の原料となる除虫菊を摘みに行ったガブリエラが、戻ってこないのだという。そして、異変はリュカの家でも起きていた。
「ガーグァが……」
小屋に残されていたのは、あちこちに散らばった羽と、夥しい血痕、そして肉のこびりついた丸鳥の骨だった。雛も含めて、全滅だった。父と母は項垂れ、呆然としている。
リュカはその張り詰めた雰囲気にたまらなく不安になり、母の手を握った。
「パパ、ママ。ガーグァは? どこいったの?」
リュカの問いかけに、両親は束の間黙り、苦々しげな顔をした。母はリュカを抱き上げ、父が言葉を失っているギヨームの肩を抱く。
父手製の小屋は、あくまでも雨を防ぐ為の簡易な作りであったため、壁は無かった。周りも、大きな翼を持たない丸鳥では飛び越えられない高さの柵で囲ってあるのみだ。
ヒトの仕業であったなら、こんな風に肉をこそぎ取って骨だけ残していくことはしないだろう。飢えたモンスターの仕業である可能性が高いけれど、寝込みで首をうまいこと襲われたのか、丸鳥が騒いでいる声すらも聞こえなかった。相手はかなり狡猾なようだ。
母は息子達を元気づけるように撫でる。だが、ギヨームはそれを振り払うように歩き出した。
「ギヨーム、どこ行くつもり?」
「ガビィ……ガビィを探してくる」
何かに憑かれたような目で呟いた息子の腕を、父が掴んだ。
「やめなさい。今は危険すぎる」
「だからこそだよ! もし無事だったならそれでいいだろ!」
「落ち着いて、ギヨーム!」
「落ち着いてなんていられるか!」
両親と兄の激しい言い争いに、リュカは怯えていた。その幼い眼を見て、兄はびくりと肩を震わせ、項垂れる。
母は険しい顔で父に提案した。
「まだ近くにモンスターがいるかも。すぐにハンターを呼ぼう」
「そうだな、集会所に行ってくる。みんな、絶対に家から出るんじゃないぞ」
ハンターの集まる港が近いとはいえ、小さな村であるため、専属のハンターがいる訳ではない。モンスターが近くまで来てしまった時、普段ならば村の大人達が追い払っていた。わざわざハンターを呼ぶということが、今どれだけのことが起きているのかを物語っていた。
父が去っていく背中に、ギヨームは剣呑な表情を浮かべた。
「なんでそんなに冷静で居られるんだよ。うちのガーグァ達、みんなやられちゃったんだよ。これから、どうやって生活していくの」
「……動転していても、冷静に振る舞っても。いま目の前で起きていることは、変わらない。だったら、自分にできる精一杯をやる」
母はリュカを抱き直すと、淡々と呟いた。家へと歩きだした母に、兄はまだ何か言いたそうにしていたが、唇を引き結んで後に続く。
母は台所に立ち、朝方ギヨームに呼ばれるまでの間に作りかけていた朝食を、再び調理し始めた。普段優しい兄は、ずっとこわい顔で俯いている。幼いリュカには、いま起きていることは理解できなかったが、恐ろしい事態であるということは分かった。母の足に抱きついたまま、母が時折台所の中を動くのに合わせて足を動かしていた。
テーブルの上に並べられた朝食は、湯気を立てている。冷めないうちに食べるよう促した母は、自身はスプーンを手に持ったまま、複雑な眼差しで子ども達を眺めていた。
あれからすぐにハンターが村を訪れ、周辺の調査が開始された。どうやら、中型もしくは大型モンスターのものらしき痕跡は認められないという。
肉食モンスターの中でも、水生獣はここまで上がって来られないとすると、可能性として挙がるのは狗竜の存在だった。ハンター曰く、孤島で最近群れのリーダーを失った勢力があるらしい。残された雌や小さな雄達が、飢えのあまり人里に奇襲をかけたのではないかとのことだった。
長を失った狗竜の群れは、次の長が育つまではその縄張りにおいて、圧倒的に不利な立ち位置となる。飢えて力のない子や卵を捨て置き、群れが新天地へと旅立つ、もしくは別の群れに併合する、などはよくあることだった。
常であれば、モンスター達も人間の縄張りをある程度理解しているようで、村や集落そのものが襲われるということは殆ど無い。だが、今回リュカの家の丸鳥が襲われたとなると、よほど切迫した状況にあるということだ。味を占めてまた狙われるだろうし、早いうちに討伐しておくべきだとハンターは言った。
村の集会所は、狭い建物に人々がひしめき合っている。どよめきが収まらない中、ハンターは顔を曇らせながら口を開いた。
「それに、村のお嬢さんが行方不明だとか。……捜索には全力を尽くしますが、覚悟はしておいてほしい」
まだ若い青年には、村人に残酷な事実を伝えることも荷が重いだろう。
ハンターの言葉を聞いた途端、ガブリエラの母親が泣き崩れ、父親が妻の肩を抱く。一人娘の危機に、悲嘆に暮れる夫婦の後ろ姿は痛ましかった。周囲はどう慰めて良いか分からず、狼狽えつつも見守っていた。村人の意識がそちらに集中する中、魂が抜け落ちたような表情で茫然と立ち尽くすギヨームを、両親だけが気に掛けていた。
そんな中、リュカはひとり身体の震えが止まらなくなっていた。狗竜の群れ。飢えた肉食モンスター。丸鳥の奇襲。ガブリエラの失踪。まさか、自分が狗竜を助けようとしたことで、村が襲われるきっかけを作ってしまったのではないかと。両親や兄、ガブリエラの父母を悲しませたのは、自分なのではないかと。
両親はリュカが集会所の雰囲気を怖がっていると思ったようで、頭を撫でてくれる。だが、少しも安心することなどできなかった。今このことを伝えるべきだろうか。悶々としたまま、その場は解散となってしまった。
***
遠くの山頂付近で、レイギエナの群れが羽ばたいている。甲高い鳴き声も、拠点付近までは届かない。
想像すらできないようなリュカの壮絶な過去に、ジェナは相槌を打つことも忘れて聴き入っていた。二人の肩には、うっすらと雪化粧が施されている。
「──ハンターの予想は正しかった。ドスジャギィのいなくなった群れは、傷だらけの年老いた雌が統率をしていたんだって。群れも衰弱していたから、掃討自体はすぐに終わっちゃったみたい。
もしかすると幼体は、初めから様子を窺うための囮として、村に連れて来られていたのかもしれない。ぼくは、頭領の罠にまんまと引っ掛かったってわけ」
リュカの目は赤く潤んでいたが、頬を雫が伝うことはなかった。茶化すような言葉には、激しい後悔と自責が滲み出ている。だが、飢えた狗竜を咎める意図は感じられなかった。
いつか二人で話していた時、リュカが「縄張り争いには勝たなくちゃ」とジェナに語った意味とその背景が、胸に迫ってくる。幼子には重過ぎる責任を抱えてなお、生き物と真摯に向き合うリュカが、憐れに思えた。
「でも、その時あんたはたったの五歳だったんでしょう? まさかそんなことになるなんて、予想できるわけないじゃない」
ジェナが言い募ると、リュカは心底寂しげに微笑んだ。
「そう、だね。慰めてくれてありがとう。だとしても、ヒトと自然の境界を破ったぼくの罪は消えないや」
「リュカ……」
リュカの表情にたまらなく哀しくなって、ジェナは相方に手を伸ばし、抱き締めた。外気に触れている髪や頬は冷たいが、彼が呼吸をするたびに、身体は微かに上下する。ジャックは棍棒へと移り、二人の様子をどこか心配そうに眺めていた。
「難しいでしょうけど、自分を責め過ぎないで。リュカが独りで傷ついているのを、放ってはおけない」
「……」
リュカは何度か口を開閉したが、そのままつぐむ。ジェナの背に手を回し返すことはせず、目を閉じた。ジェナはそれを少し寂しく思ったけれど、拒絶されないだけましだと息を吐く。
ジェナが身体を離し、再びリュカの隣に座ると、リュカは重い口を開いた。
「……ガブリエラが見つかったのは、やっぱりジャギィの巣の中だった。村の人達は家の中にいたり誰かといたりしたけど、彼女はたまたま一人でいたから、狙われてしまったんだと思う。
それ以来、兄さんはおかしくなってしまった」
「そう、だったの」
最後のリュカの言葉に、妙に安堵してしまっている自分がいることに気づき、ジェナはゾッとした。この期に及んでまで、あの日のギヨームは錯乱状態にあったから自分に手を出したのだ、と思い込もうとしているなんて。
(……それにしても)
ジェナの記憶の中でのギヨームと、リュカの話す兄としてのギヨームの姿は、大分乖離しているように感じた。
そもそも、ジェナの知るギヨームは農家の息子ではなく、ハンターだった筈だ。故郷の近隣に大型モンスターが棲みついてしまった際、彼が討伐して村の危機を救ってくれた。その姿に純粋に憧れを抱き、少女だったジェナはギヨームに近づいたのだ。結果としては、好意を酷く裏切られる形になってしまったけれど。
ジェナは疑問を口にする。
「ギヨームは──リュカのお兄さんは、ハンターだったんじゃないの?」
「暫くは部屋に閉じこもって口も聞いてくれなかったから、まさかそんなことを考えてるなんて、思いもしなかったんだけどね。
ある日、兄さんは突然家を出て行った。何ヶ月も経った後に手紙が届いて、ハンターをやってることを知ったんだ」
リュカは俯きながら、ぽつぽつと話した。
「それ以来は家を手伝いながら、仕送りと一緒に届く手紙で、兄さんの安否を確認してた。でも、何年かしたら急に手紙が届かなくなって……。
生物の理を学びたい気持ちもあったけど、何よりギヨームの行方を知るために、ぼくはハンターになったんだ」
ギヨームはガブリエラと同じ結末を辿ったのでは、という言葉は口にすることができなかった。何よりも、聡いリュカがそのことに思い当たらない筈がない。ジェナは深く息を吸い、長く細く吐き出した。
リュカは下唇を舐め、膝の上で拳を握る。
「これが、ぼくら兄弟の話。きっとジェナは、ぼくの知らないギヨームと会ってるんだよね」
「……そうね、そういうことになると思うわ」
何と答えて良いか分からず、ジェナは歯切れの悪い返事をしてしまう。胸の内で、鼓動が次第に冷たく速くなるのを感じていた。
「兄さんは──ギヨームは新大陸にもいなかったし、もう二度と会えないことは何となく解ってる。
だからジェナがもし嫌じゃなければ、なんだけどね。ジェナの目に映っていたギヨームのことを、教えてほしいんだ」
ぷつりと、胸を氷麗で刺されたような心地がした。リュカはきっと、ジェナがこれまで傷ついてきた原因が自身の兄であることには気づいていない。自分がどれほどに惨いことを言っているかを、そしてどれほど醜い話を聞くことになるかを。
もう二度と真っ直ぐに見ることができなくなるかもしれない、空色に榛の咲く瞳を見つめる。
リュカを愛おしく思う気持ちと、過去の柵がリュカをこれまで通りのリュカとして見ることができなくさせる苦痛が、口を開くのを阻む。
昼下がりでも冷たい空気を肺いっぱいに吸い込み、ジェナは頷いた。
「わかったわ」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
この先色々補足など。
「喰」の後日談でした。"彼"の母親と娘、その他の群れの仲間たちも、生きる為に必死だったのです。隣の群れとは仲が悪かったので、併合なんて受け入れてもらえなかった。彼が生きている時は、ライバルの群れも手出しはしなかったけれど、結局彼らのどちらも亡くなってしまったので、あっという間に群れは地位を失ってしまいました。
ギヨームの死について、ギルドから通達がなかった件について。クエスト中ならばともかく、そうでない移動経絡などに命が散ってしまった場合、すべてのハンターの生死を確かめられるほど、情報網が発達していない地域もあるのだと思います。ところで、名前については流石にクレームがあったら名前変えます。モデルはとても美しいカップルなので、興味がある方は検索してみてください。
リュカの実家の生業については、LOTGのティンベン村でのガーグァの飼育と、ストーリーズのアニメでのガーグァの飼育の様子、またガーグァの生息域が広いことから、養鶏と放牧どちらの特徴も併せ持つようなイメージで描きました。
品種改良されて無精卵を生むことのできる雌鶏は、思っていたよりも古くから存在していたようです。面白い。