オーバーロード 絶死絶命 ~199年前の墜とし仔~   作:空想病

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序章
数年越しの約束


/Appointment for several New Year's Eve

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは──大陸を完全統一した超大国。

 アインズ・ウール・ゴウン魔導国。

 第一魔法都市・カッツェ。

 かつてはアンデッドなどのモンスターが跋扈した荒野など過去のもの。

 わずか数年の都市計画によって王の城の一つが建造され、その周囲を守るかのようにガラスの建造物──尖塔群が連なっている。

 魔導王アインズが進めた施策のひとつ・魔法使い教育政策によって、この都市には魔法学園に類するものが多く建立されて久しい。

 そのうちのひとつ。

 魔法生徒に解放されている巨大な図書館──ナザリック第九階層に存在する大図書館・アッシュールバニパルを参考に建造された大講堂の中を、数名の護衛を付けた超越者(オーバーロード)……魔導王アインズ・ウール・ゴウンそのひとが、歩いている。魔法の光によって適度な読書光の柔らかな光と共に、彼は迷いない調子で図書館内部を闊歩(かっぽ)する。

 そして、彼は目当ての人物をすぐさま見つけた。

 長卓の中心に持ち寄った本の城に囲まれながら、その男装の少女──大地の色の茶髪に、空と海の色を思わせる碧眼で、分厚い歴史書を紐解いている。

 実に真剣な横顔で思わず魅入りそうになる自分をおさえつつ、アインズは彼女の名を、呼ぶ。

 

 

「セリーシア」

 

 

 しかし、応答はない。

 よほど集中しているのだろう。

 勉学に勤しむ姿は素直に賞賛されてしかるべきだが、これが一般人の反応であれば不敬罪でアインズの護衛たちに詰問を受けていたことだろう。

 護衛の一人を務める王妃の一人「最王妃」にして、魔導国“大宰相”の地位をいただく黒髪の女悪魔──アルベドも、微笑を浮かべつつ首を振った。

 彼女の悪癖にも困ったものであるといわんばかりで、慈母のごとく彼女の主人への不敬を赦す。

 アインズは数歩近づいてまた彼女を呼ぶ。

 

「セリーシア」

 

 やはり反応はない。

 ページをめくる視線の輝きは、魔導国以前の歴史の世界を羽ばたいている真っ最中である。それほどまでに彼女の魔法への探求心は奥深く、今はある殿方との婚姻によって、彼に並びたてるものであろうという向上心も働いていることは明らかであった。都度、無理はせぬよう注意はしているのだが、やはり彼女は研究に余念がないのである。

 アインズは彼女のニメートル近くで声をかける。

 

「セリー」

 

 彼女の“姉”からの愛称も試しに読んでみたが、やはり応答はない。

 ならばと思い、耳慣れた彼女の偽名の方を、アインズは口にする。

 

「──“ニニャ”」

 

 紙片をたぐる指が、ピタリと止まった。

 魔法詠唱者(マジックキャスター)の少女は即座に顔を上げた。

 魔王妃・ニニャ、もとい「セリーシア・ベイロン」は、“いつの間にか”そこに現れたアインズたちの姿に当惑する。

 

「ア、アア、アインズさま?! い、い、いつから、そちらに!?」

 

 今では転移魔法の気配さえも微細に感知しうるレベルのニニャであるから、本気でアインズたち一行が現れた事実が驚愕に値したようだ。

 アインズは呆れたように腰に手をやる。

 

「何度も呼びかけてやったのだがな。──なぁ、アルベド?」

「ええ。アインズ様の御声(おこえ)を無視して(ゆる)されるなんて、大陸広しと言えども貴女(あなた)くらいかしら?」

「ごご、ごめんなさい、アルベド様!」

 

 ニニャは頭をかいて反省する。

 そんな純な態度だけでも、彼女は実に好意的だ。

 

「でも、とても貴重な文献を見つけたんです!」

 

 いまや、大陸統一……世界征服を成し遂げた魔導王アインズに対して、ニニャは微笑みを深め語りだした。

 

「覚えてらっしゃいますか? 数年前、はじめて私たちが交わした、あの約束のこと」

「約束──ああ!」

 

 アインズは思い出して骨の顔を破顔させる。

 

 ──数年前のこと。

 いまだ、魔導国の建国の目途はおろか、アインズが外の異世界について探索するべく急遽(きゅうきょ)行った、冒険者モモンとしての偽装身分(アンダーカバー)

 ンフィーレア・バレアレの依頼として、“漆黒の剣”の四人を伴い、カルネ村をともに訪れる護衛任務──その最中(さなか)

 アインズはニニャの会話の一部を聞いた。

 

 

『エ・ランテル近郊に(ドラゴン)がいたとされたのは、かなり大昔に天変地異を自在に操る(ドラゴン)がいたという眉唾な伝承があるばかりで』

 

 

 竜という存在に関心を寄せられたアインズ(モモン)は、仲直りの糸口を探るような口調でたずねたものだ。

 

 

『あー、その天変地異を自在に操る龍の名前とかはご存じないですか?』

 

 

 街に帰ったら調べましょうかと興奮して訊ねかえす彼女に、アインズは応えた。

 

 

『時間が許したら、で結構ですから調べていたただけますか?』

 

 

 その時のニニャの嬉しそうな笑顔と返答。

 

 

 だが、その“約束”は果たされなかった。

 

 

 当時、クレマンティーヌ──ズーラーノーン幹部として蠢動しつつ、スレイン法国から逃亡するための目的に「ありとあらゆるマジックアイテムを使用可能」という希少な生まれもっての異能(タレント)持ちのンフィーレアを悪用しようと襲撃し、冒険者チーム“漆黒の剣”は全滅を余儀なくされた。ニニャは凄惨な死を強要され、アインズは明言こそしなかったが、その復讐を実現させた。

 

 

 その後、()()()()()()あってクレマンティーヌがアインズのシモベの一人となって再会を果たしたり、召喚=増産可能な上位(グレーター)動死体(ゾンビ)として魔導国内で大量にかつ精力的に働いていることは。まだニニャには知らせてない。

 エ・ランテルの墓場から運び出し、ナザリックの宝物殿で厳重に管理されている“漆黒の剣”の蘇生実験の試みもまだであった。

 

 とにかく今は、約束のことを思い出した──覚えていてくれたアインズに対し、ニニャは嬉しそうに歴史書の一節を指さす。

 

「今から200年近く前の、十三英雄時代の話なんですが、エ・ランテル近郊で驚異的な(ドラゴン)との死闘があったとの記録を見つけて……でも、本家の“十三英雄譚”では一言もそのことに触れられていなくて、なんでだろう、おかしいなあって──」

 

 ニニャが詳細を知らないのも無理はなかった。

 その歴史を語るのは、十三英雄の一人として旅をした仲間の一人である、アーグランドの竜王──ツアーのみが、ごく断片的に自国の歴史の中に語るにとどめた情報であったから。

 ──実際の十三英雄は、そのほとんどが全滅を余儀なくされ、悲劇的な最期を遂げた。戦いに参じた、エルフの女王も、ドワーフの工王も、ほとんど皆、死に絶えた。

 なかでも“リーダーと彼女”の末路を思えば、真実を語る者がいなくなるのも……隠すのもやむなしというべきだろう。

 

 アインズはアルベドたちを少し下がらせ、ニニャの隣の席に座って、あらためて()いた。

 ──きくことができた。

 

「それで、わかったのかな? 例の天変地異を操る“神竜”──いや(ドラゴン)の名前は?」

「ええ。約束通り調べ…………あれ? いま、“神竜”って」

「ん? ──あ!」

 

 アインズは咄嗟に気づいた。

 ニニャもまた違和感を確信へと変えた。

 

「……も、もしかして、アインズ様。とっくの昔に知ってたんじゃ?」

「い、……いやー。なにせ大陸統一して、数年は経ってしまったし?」

 

 頬骨を指の骨で掻くアインズの率直な意見に、ニニャは卓の上に突っ伏してしまいそうになる。

 

「もう、なんですかー、自分で調べてたんなら、最初から教えといてくださいよー、こっちは調べ損じゃないですかー!」

「はは。そんなことはないさ。アレの名前を自分で調べるなんて、さすがは、私の妃の一人だ」

「んぐ……あんまり実感ありませんよ。私たちが、いまはそういう関係だなんて」

「はははは。私は我儘なんだ──君だって、それを知ったうえで、告白にこたえてくれたんだろう?」

 

 頬を桜色から薔薇色に染めるニニャは、口元を片手で押さえつつ、ひとつ頷く。

 

「でも、やっぱり、ちゃんと約束を果たしたかったというのが本音と言えば本音です」

「はは。十分果たしてくれているさ。

 それに。私──いや、“俺”の場合は調べたというよりは“知らねばならなかった”──と言った方が正しいだろうからな」

「────知らねばならなかった?」

 

 ニニャは歴史書を卓において魔導王を見上げる。

 

「そう。

 あれは数年前────」

 

 アインズは存在しない脳裏にこびりついてはなれない記憶を想起する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今は亡き神の国────スレイン法国での顛末を。

 そして。

 魔導国大宰相アルベドが、“ナザリック地下大墳墓守護者統括“の地位を「追われる」に至った、経緯を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの国で出会った絶対的脅威…………《■■■■の墜とし仔》を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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