オーバーロード 絶死絶命 ~199年前の墜とし仔~   作:空想病

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エルフ王VS漆黒聖典 -1

/King of elf VS Utterly dark scripture -1

 

 

 

 

 

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 その襲撃は唐突すぎた。

 軍勢も何も引き連れていない、たった一人の男。

 特徴的な長い耳。エルフの装束。朝焼けの日差しを受けた金髪が、黄金のように輝きを放っていた。

 魔導国との戦争が勃発(ぼっぱつ)しようかというこの時期、法国の国境を鎮護する各都市は、厳戒態勢下にあった。

 当然、東の都市──東都(とうと)の門を護る衛兵たちも、噂に聞く魔導国の侵攻の噂に戦々恐々としていたわけだが、そこへ現れた金髪のエルフが、たった一人。

 無論、この都市に国境外からの来客があるなど、首脳部からは聞きおよんでいない兵たちは首を傾げた。

 

「一体何者だ?」

「魔導国の、使者か?」

「さぁ──とにかく警戒態勢を維持しろ」

 

 聖騎士兼守衛長の男──この門を護る責任者が命じ、歩哨(ほしょう)上の守備兵たちも、早朝の珍客に矢と視線ををむける。

 

「そこでとまれ! ここより先はスレイン法国の都! 許可なき者は」

 

 門衛の班長の一人が叫んだのと同時に、その首は胴体と泣き別れた。

 直立した姿勢のまま、赤い鮮血を放つ噴水と化した、同輩の、死体。

 足元に転がる首は、驚愕の表情に硬直する死相に(いろど)られ、仲間たちの悲鳴と混乱を誘う。

 彼を正確に射殺した敵は、つまらなさそうに聖樹の長弓を下ろす。

 守衛長が自己の生存本能に従うまま、命じた。

 

「撃て!!」

 

 攻撃を加えたエルフに対して、衛兵たちは一斉に矢を放つが、すべてが遅きに失した。

 エルフ王は瞬時に動く。降りかかる矢を十数本“素手で掴み”、それらを“投げ返した”。

 たった一秒の凶行。

 それだけで、門を護る数人の額や喉が矢に貫かれた。

 尋常ならざる戦闘力である。個人レベルで披露してみせる芸当ではない。だが、衛兵たちは矢を射続け、剣を構え盾を掴んだ。

 守衛長が〈神の御旗の下に(アンダー・ディヴァイン・フラグ)〉という魔法で、部下たちの恐怖を打ち払い、折れかけた精神を奮い立たせる。他にも魔法兵や重装甲兵などの精鋭が投じられるが、たった一人のエルフの前に、すべてが蹂躙される。

 そうして、エルフの様子を──その容貌を激闘の最中で確認した守衛長が、完全に確認した。

 金髪の下にある美貌の中で異彩を放つ、『色違いの瞳』の持ち主は、法国を守る彼の知りうる限り、一人しかいない。

 

 

「あれは、エルフ王だ!」

 

 

 法国が長年にわたり戦い続けた国の主。

 戦争では圧倒的有利で事を進めた法国であったが、エルフ王都侵略も間近というところで、火滅聖典が全滅。各都市に駐在していた法国軍も、すべてが消息を絶った。

 どういった事態でエルフの国が滅びたのか露とも知らぬ守衛長は、エルフ王と一合を交わすべく突貫し、そして呆気なく王の握る剣で四肢と首を裂かれ()ねられ、戮殺(りくさつ)される。

 門は数刻とかからずに突破された。

 悠々と門の隔壁を飛び越えるエルフの王、彼の圧倒的な能力(ちから)で。

 スレイン法国の東都は、エルフ王の侵入──侵犯──侵略を許すことになった。

 

 

 

 

 

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「馬鹿な──そんな馬鹿なことが!」

 

 報せを受けた法国の神都にる首脳部は、混乱の上に混迷を極めかけていた。ありえざることだと、神官長たち法国の最高指導者たちは頭を振った。

 エルフ王の単独行動による、エイヴァーシャー大森林地帯の焼失と荒廃。

 最後のダメ押しに投じたはずの火滅聖典の働きで、戦争は法国の勝利で終わる、はずだった。

 しかし、そうはならなかった。

 エルフの国は、確かに滅んだ。

 しかし、それは法国軍でも聖典の手柄でもなく、まったく未知の何者かの蹂躙を受けてのこと。

 ──まさか、エルフの王が自ら、自分で自分の国を滅ぼしたなどとは思いもしない神官長たちは、突然のエルフ王の東都襲撃を受け入れ切れずにいた。

 

「もしや。魔導国は、エルフ王と結託していたのか?」

「馬鹿な、そんな情報があれば、風花聖典が掴んでいるはず!」

「もう、どうすればいいというの!」

 

 誰もが絶望し項垂(うなだ)れて当然の状況。

 だが、それでも、自分たちが何とかしなくては、法国の民が蹂躙され、国が滅ぶのみ。

 そう理解していても、状況はどうしようもなく切迫していた。緊迫の度合いを深めすぎていた。

 司法・立法・行政の三機関長が悲嘆にくれ、軍事の最高責任者たる大元帥すら、事の趨勢(すうせい)を信じられず呆然としている。強壮無比を誇る魔導国、伝説に語られるアンデッドばかりで構築された軍との戦争戦略など、まともに立てられるはずがない──そこへ東都襲撃の報だ。緊張の糸が切れたように脱力するものもいる始末──

 そんな中で、最高神官長の声が、荒野に浸みる清水のごとく、混乱する全員の心をとらえた。

 

「鎮まれ、皆の者」

 

 六柱の神官長と三機関長、研究機関長に大元帥が彼を見やる。 

 

「我々は神の信徒。我々には六大神の加護がついている──けっして、諦めてはならぬ」

 

 法国の最高執行機関を構成する十二人は、スレイン法国の御旗の下、1500万にも及ぶ国民の代表たる彼らは、部屋の奥に安置された六体の像に頭を下げた。

 自らの諦念や絶望を恥じるように、深々と。

 

「レイモン・ザーグ・ローランサン」

「はっ」

 

 最高神官長の呼び声に、土の神官長の鋭声(えいせい)が響いた。

 彼は即座に、作戦案とも呼べぬ打開策を口にする。

 

「急ぎ、漆黒聖典の現構成員を東都に送ります」

 

 魔導国の侵入に備えて、北方の都に送り込まれていた戦闘要員たち──絶対聖域の守護者たる番外席次を除く、ほぼ全員が、投じられることになる。

 

「それで、どうにかなりうるか?」

 

 法国の最高位に座す最高神官長の問いに、レイモンは顎を引く。

 

「──なしてもらわねばなりますまい」

 

 元漆黒聖典第三席次として、十五年も戦い抜いた護国の英雄──土の神官長は、腹を(くく)ったように笑みを浮かべた。

 

「レイモンよ。いざとなれば、我も戦場に(おもむ)こうぞ」

 

 元陽光聖典に属していた聖戦士──温厚そうな老人にしか見えぬ風の神官長ドミニクからの進言であった。信仰系魔法の使い手として一、二を争う実力を備えた光の神官長イヴォンも、陰険そうな見た目とは裏腹に、力を貸そうと頷いてみせる。火の神官長ベレニス──水の神官長ジネデーヌ老──闇の神官長マクシミリアンもまた、それぞれの思いでレイモンを見つめる。

 メンバーの中では若輩に位置する四十代のレイモンは、しかし、それらありがたい申し出を固辞する。

 

「神官長まで出兵する事態ともなれば、それこそ、この国が滅ぶときと相なりましょう」

 

 それに何より、あの魔導国との交渉状況も、未だに難航したままである。

 北方の国境地帯に要塞を構えた使節団は、四日後の回答期日まで居座ったままとなろう。

 

「とにかく今は、エルフ王の滅却滅殺をこそ急務とします。

 そのために、第一、第二、第三、第四、第五、第六──第十、第十一、第十二席次を、東都防衛の任に()かせます。この九人で、エルフ王を撃退してもらうしか、他に打つ手がない」

 

 誰もが納得のいく布陣であり、現状において有効戦力と言える九人であった。

 第七席次“占星千里”は自室に引きこもって久しく、吸血鬼騒動の際に死亡した第八の“巨盾万壁”、第九の“神領縛鎖”の穴は、まだ埋められていない。英雄の領域に到達しうる人類など、そうそうに埋め合わせが効く人材ではないのだ。この状況で魔導国が侵攻してきた時には、最悪、番外席次を動かして、アンデッドの魔軍を掃討してもらう策で行く。

 戦線を二つ築くことが確定する前に、東の守りを堅持する。

 そんな彼の意図とは別に、神官長らの多くは別の方策──もとい思案が頭にああった。

 

「私の、個人的な意見としてではあるが、“あの()”に直接、仇討(あだう)ちをさせたい──とも思わんではないが

「いえ」

 

 神官長の一人の提言に対し、レイモンはそれを固く否決する。

 

「番外の、彼女の規格外の力は、魔導国および魔導王へと集約せねばなりません──復讐などの私情をさしはさむ余地は、今回にかぎっていえば、どこにもありはしない」

 

 神官長のまとめ役を務める男は、どこまでも冷静かつ冷徹を極めた。

 最高神官長の報を見やれば、老人は黙って頷いてくれる。

 彼の裁可を受けて、レイモンは確信を込めて頷いた。

 

「彼ら九人であれば、かのエルフ王に対抗できる──そう信じましょう」

 

 東都侵略を王が“単騎”でなしているという事実が不安材料であるが、人類最強の英雄たちであれば拮抗可能であるはず。

 レイモンは心の底から神に祈った。

 人類の守護者たる彼らが、法国を襲う(やから)を一掃してくれることを。

 そして、願わくば。

 魔導国との戦争で、彼らがアンデッドの王を、打ち破る未来を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、彼の真摯かつ真剣な神への祈りは通じない。

 

 そもそもにおいて、彼と彼ら──法国の首脳部は、まだ知らない。

 

 番外席次が神官長らにも知らせぬうちに、魔導国および魔導王との戦争準備を進めていること。

 その一行程として、魔導国宰相たる女悪魔(アルベド)を、“(なか)ば”自身の支配下に組み込んでしまったこと。

 

 彼らが頼みの綱としている番外席次──“絶死絶命”──彼女の存在こそが、法国を最終的に滅亡させる根本的な理由となることを、彼らは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 まだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 時を一夜ほど(さかのぼ)る。

 

 ところ変わって、アーグランド評議国──天界山セレスティアにて。

 

「魔導国の、使者?」

 

 謁見(えっけん)を申し出てきた者たちの身分──冒険者という地位をまったく隠そうともしない態度に興味を惹かれ、竜王は彼ら男女四人からなる冒険者チームを宮殿最奥(さいおう)に招き入れた。

 評議国の最高支配者、その首座に位置しているといってよい、最強の竜王──“白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)”こと、ツアインドルクス=ヴァイシオンは、己の宮殿をたずねるべく、はるばる魔導国から冒険に来たアダマンタイト級冒険者チーム“フォーサイト”の任務内容を聞いた。

 

「我々は、魔導王陛下の意思を御伝えすべく、ここに参上いたしました」

 

 眼鏡をかけた戦士──“フォーサイト”の代表たる男は、魔導国冒険者に支給された無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)──その中でも特別な封書をおさめた文箱を取り出し、掲げみせた。差し出されたそれを、ツアーは器用に尻尾(しっぽ)の先で掴み受け取る。そして、中身を(あらた)めた。

 

「魔導王陛下は、アーグランド評議国の竜王の方々に、友好関係の樹立を望んでおります」

「ふむ。君らは魔導国の友好使節──その“先駆け”とでも考えるべきかな?」

「おそらくは」

 

 ヘッケラン・ターマイトと名乗る戦士は微笑んだ。

 アーグランド評議国は、魔導国と直接の繋がりがない。

 国土はリ・エスティーゼ王国を挟んだ状態にあり、戦争とも政争とも、いまは無縁。

 一冒険者に友好使節の真似事をさせるというのはどうかという意見もあろうが、そもそも魔導王が「新たな冒険者たち」に望むのが「未知を既知とすること」であり、未知なる国との「折衝や交渉」というのも、充分に任務の範囲に属するという話だ。それに何より、彼らフォーサイトが首からさげた冒険者の証はアダマンタイトのプレート──ただの銅級や銀級よりも強者に位置し、魔導王からの信任も篤いということの(あらわ)れ、これ以上ないほどの、特使としての証明(あかし)であった。

 さらに言うと、ツアー自身が冒険者チームとして旅をした時節も存在し、王国のアダマンタイト級冒険者“朱の雫”を自領内に招いている彼である。魔導国の唱える「新たな冒険者」自体への興味も当然あった。

 ツアーは竜の首を頷かせる。

 

「なるほど。確かに、魔導王陛下からの心遣い、受諾した──評議国内で審議し、近いうちに結論を出そう。僕以外の竜王も、おそらくは友好関係を築くに値すると、そう判じるはず」

「ありがとうございます、ツアインドルクス=ヴァイシオン竜王陛下」

 

 ヘッケランを含む四人の冒険者が跪拝(きはい)の姿勢からさらに頭を下げた。

 漆黒の軽装鎧や魔法武器を備える四人は、ツアーの鑑定眼から見ても、充分に勇者たりえる。

 

(この僕を前に、ここまで堂々と任務を忠実にこなす意思力と精神力──よほどの修羅場をくぐってきたか──魔導王陛下とやらは、よほど人材登用と育成が得意なのか、それとも──?)

 

 (うわさ)風聞(ふうぶん)にしか聞こえない魔導王の為人(ひととなり)を一人黙考していたツアーの知覚力に、何かを感じる。

 

「陛下?」

「いや、なんでもない……重要な任務ご苦労だったね、魔導国の冒険者くん」

 

 ヘッケランたちの微妙な困惑を無視しつつ、彼は自分の感じた違和感──世界を汚し(けが)す力の一端を感じ取るのに夢中になった。

 そう。

 これは、あの強大な吸血鬼──ツアーの鎧による斥候を送った折にも感じたもの、それと酷似している。

 ちなみにだが、魔導王アインズが『朽棺(エルダーコフィン)』を抑える際にもツアーの感知力は働いていたが、大陸の東部──評議国とは別の自領内のどこかということで、目下調査中という状況であり、彼の「鎧と四武装」も出払っていた。

 

(何者かが世界級(ワールド)アイテムを使った? それも、あの強大な吸血鬼に使おうとしたのと同じ? あの吸血鬼はモモンというものによって滅ぼされたらしいが──これは、今回も、完全に発動した、わけではない?)

 

 竜王の知覚力が、特定の場所にわだかまる違和感を脳内に刻み込む。

 場所は……法国と魔導国の境、か……。

 ツアーは、評議国の宿に戻るフォーサイトを見送り終えながら考えを巡らせ、ひとつの決断を下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※評議国をたずねた冒険者チームについては、『フォーサイト、魔導国の冒険者になる』を、ご参照ください。
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