オーバーロード 絶死絶命 ~199年前の墜とし仔~   作:空想病

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※これは二次創作ですので、エルフ王や聖典メンバーで判明していない情報などは、作者の空想でうめてありますので、あしからず。




エルフ王VS漆黒聖典 -2

/King of elf VS Utterly dark scripture -2

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

「死守せよ! 何としても!」

 

 魔導国との戦争を考慮し、東都防衛のため駐屯していた法国軍は、たった一人の戦力に滅ぼされようとしていた。

 号令と悲鳴が交錯し、魔法の炎弾や雷槍をものともせず、エルフ王はまるで無人の野を行くがごとく、その華麗な歩みを進め続けた。

 屈強な重装甲兵が振るう戦鎚を受け流すのと同時に、その戦鎚を使って、重装甲兵の頭を兜ごと破砕してみせるエルフ王の殺戮能力。

 遠距離からの狙撃や魔法も、まるで意味をなさない。とくに、弓などはエルフの伝統的な武装ゆえか、一本たりとも喰らうことなく、逆に弓兵たちを射殺す材料に変じさせてしまうため、一斉射による掃討も禁じられる。王は魔法への耐性もすさまじく、法国軍のふるうそれではエルフ王を倒すどころか、拘束し歩みを止めることもできない。たった一人の人間の歩みを(さまた)げることすらできなかった。個人が有していてよい武力ではないと誰もが思う。これが、自分たちが敵対し戦争を仕掛け、陥落させようとしていた国の王の力なのかと絶望する兵たちを、聖騎士や神官らが何とか鼓舞する。だが、彼らまでもエルフ王の鉄の(やじり)を前にして倒れ伏していく運命をたどった。

 

「ふふふ……」

 

 いくら法国軍が勇壮勇敢でも、エルフ王は止まらない。

 王は深い笑みをたたえ、色違いの瞳で戦場を睥睨(へいげい)する。

 法国軍は虐殺され続けるのみ。この状況で、命乞いに投降をしようとするものがいないことだけは、法国軍の規律がかろうじて乱れていないことの証拠であったが、それもどこまでもつものか。

 

「ふはははははははは! これが法国の力か? (よわ)い、(もろい)い、脆弱(ぜいじゃく)に過ぎる! ただの弱者の群れではないか! ふははははははははは!」

 

 典雅な声で哄笑するエルフ王の挑発に、法国軍は構っている暇などなかった。

 

「とにかく、民の避難を優先させろ!」

「しかし隊長、あまりにも数が──」

 

 多すぎた。

 東の都は魔導国からの距離からいって、そこまで重篤な被害を被ることはないと思われていた上、法国北部からの避難民──魔導国の侵攻の主戦場となると目された土地などから、国民はひそかに南へ西へ東へと逃れた。だが、そこへやってきたのが、このエルフ王の襲撃。一方的な蹂躙である。

 

「大部分は神都への道を行かせろ! 南部の都市はすでに避難民であふれ、配給をくばる余裕もない!」

 

 だが、首都にはまだ余裕があった。

 

「とにかく首都方面への脱出を急がせろ!」

 

 東都防衛軍の半数を投じてエルフ王への迎撃にあたらせる一方で、残り半分が民の避難を急ピッチで進めていた。

 しかし、さすがに襲撃が急すぎた上、魔導国の侵攻──実際はエルフ王による侵略の話を聞いて、諦めきった顔をする民──とくに老人の数も多い。

 そんなものたちをかついだり引きずってでも馬車に乗りこませ、法国の首都に当たる神の都──神都(しんと)へと送り出す軍人たち。

 生まれ育った生家──都市との別れを惜しむ気持ちはわかるが、命あっての物種である。

 すでに、都市の三分の一ほどまで侵攻してきたエルフ王。法国軍の放つ爆破の魔法によって崩れた建物は多いが、それも致し方ないこと。通りを行くエルフ王を物理的に足止め──もしく遅滞させるために築かれた瓦礫の山であったが、エルフ王は涼しい顔でそれら障害物を引き裂き道を切り開いてしまう。いったい彼の握る剣はどれほどの業物であるというのか、あるいはマジックアイテムの効能なのか、まったく知りようがないが、法国軍は必死にエルフ王の侵略を止めにかかる。

 と、その時。

 

「ん?」

 

 エルフ王がはじめて足を止めた(・・・・・)

 

「少しはマシなものが出てきたようではないか」

 

 彼が見つめる先で、ありえないものが都市に現れた。

 その獣は、ギガントバジリスクとよばれる魔獣──それが三体──難度の数値で言えば83にも及ぶモンスターが、狂暴すぎる威嚇音を発し、石化の視線を有する両目で、エルフ王を見つめていた。通常人類であれば、“石化”を喰らう前に逃げ出すしかない凶悪なモンスターだが、三体が敵とみなして攻撃しているのは、エルフの王以外に存在しない。

 ギガントバジリスクたちは都市瓦礫の隙間から這い出してきた──彼らは特殊能力で、その巨体ながら蛇のごとく狭所をくぐりぬけてしまうことが可能であった。

 そして、そんなギガントバジリスクたちを使役する人間の声が、東都に満ちる。

 

「皆さん、よく頑張りました」

 

 十本の指それぞれに指輪をした、優男としか表しえない英雄が、法国軍前線指揮官の肩を叩いた。

 

「あ、あなた、さま……は?」

「皆の献身と敢闘は、必ずや我らが神の喜びとなるでしょう」

 

 戦場に現れた男は、敵意とも殺意とも無縁そうな温厚な人物であったが、法国軍の誰もが、その人間との“格の違い”を意識せずにはいられない。

 それほどの強者の気配が、彼にはあった。

 彼は迎撃につとめていた法国軍を後退させ、改めて、今回の敵対人物──殲滅対象を瞳に映す。

 

「三体同時による“石化”には、さすがにエルフの王といえど、抵抗しきれないようですね?」

 

 クリムゾンオウルとよばれる真紅の(フクロウ)が舞い下りる右手。

 まったく別種の魔獣を多数従える、その力──金髪を短く切りそろえた男の威容を見て取って、エルフ王は確信する。

 

「そうか、貴様が噂に聞く漆黒聖典第五席次「一人師団」──名は確か、クアイエッセ・ハゼイア・なんとやら、だったか?」

「……クインティアです。以後、お見知りおきいただく……その必要もございませんが」

「ふははは。それもそうだな。これから死合う者同士。名を知っておく必要もあるまい」

 

 石化状態におかれていながらも、会話を楽しむエルフ王の様子に、クアイエッセは油断ならないものを感じる。

 石化の状態異常は、文字通りに対象を“石”と化す。三体同時ともなれば、確実に体の各所が石となって、行動不能に陥るはず。

 だが、エルフは歩みを止めた程度──完全に石化はできていないことを意味する。

 さらにギガントバジリスクを召喚して、石化を強めるべきか逡巡(しゅんじゅん)するクアイエッセだったが、彼の頭上に、巨大な影が差しこんだ。

 それは建物の残骸──東門尖塔の一部を持ち上げて跳躍した同胞──「人間最強」──白髪白髭に白い胸毛を露わにする半裸の巨漢・第十席次の“攻撃”であった。

 

「おおおらああああああああああああああッ!」

 

 轟音豪声と共に、硬直していたエルフ王の偉容が、「人間最強」の超重量攻撃の下敷きとなった。

 それを至近で受けたクアイエッセは、大量の塵埃の暴風にあてられ目も開けられない。

 

『やった? やったの、クアちゃん?』

 

伝言(メッセージ)〉で繋がるのは、戦場を俯瞰する位置で魔法の箒に跨る第十一席次の声であった。

 

「……さすがに。これでやれていれば、話は早いのですが」

 

「人間最強」が隣に立って斧を構えるのと同じように、「一人師団」も召喚した魔獣軍に命令を下す。

 砂塵の向こうより飛来するは、“オリハルコンの(やじり)”。

 弓撃を読み切った第十席次が背負っていた巨大斧で振り払い、真紅の梟(クリムゾンオウル)の爪がかろうじて攻撃を掴み潰す。

 クアイエッセは、足元に転がる鏃に目を落とした。

 

(法国軍の皆をやった鉄の鏃とは違う……今までとは違う武装……多少は本気を出したということでしょうか)

 

 そう読みつつもエルフ王の動向を慎重に探る一人師団。ギガントバジリスクの一体の感覚野が途絶えた。悲鳴をあげる間もなく死亡したことを意味する。切り殺すなどすれば猛毒の体液を盛大にあびてくれたことだろうが、果たしてあのエルフ王に通じるや否や。

 

「むこう!」

 

 魔獣から伝わる感覚野を頼りに、指をある方角へ伸ばすクアイエッセに、「人間最強」も渾身の力を込めて瓦礫弾を投擲・直通させた。砂塵の向こう側で着弾する音がしたが、固い金属音をともなっていた。剣によって弾かれたか切り裂かれたと直感する二人。さらに、もう一体のギガントバジリスクの命が奪われるのを悟ったビーストテイマーは、周辺に黒い穴を広げ、新たなギガントバジリスク二体を召喚。

 

「!」

 

 召喚された瞬間、その二体がオリハルコンの(やじり)二本同時に額を射抜かれ絶命した。さらに、召喚済みだった三体目のギガントバジリスクも消滅したのを確認。

 

(三体同時召喚での“石化”が通じなかった! どれほどの肉体強度・耐性保有者だというのだ!?)

 

 愕然としつつも、クリムゾンオウルをさらに二体召喚し、己を護る盾を厚くする。

 瞬間であった。

 

「クアイエッセ!」

 

 巨漢に似つかわしい蛮声が、仲間の窮状を報せる。

 彼の背後へと回り込んでいたエルフ王の剣が、一人師団の首を魔獣の梟ごと()ねとばそうかという、まさにその時。

 

「おおっと」

 

 血に濡れたような赤い手裏剣の束が、エルフ王を攻撃から防御の姿勢へと強制的に移行させる。

 エルフ王は足元に散らばる特殊な武器……“忍具”を投擲した敵を探すが、彼の視界内……東都の通りにはそれらしい敵は見当たらない。

 

「すまない、「天上天下」」

 

 危機を脱したクアイエッセは、暗殺者の仲間──第十二席次に感謝を述べた。「礼は不要」と告げて隠密性をあげた同輩が姿を消す。そこへ白髪白髭の巨漢が斧を振るって突撃し第五席次を援護。クアイエッセは呼吸を数瞬で整える。

 久しく感じていなかった、死の気配──それを、あのエルフ王は漆黒聖典第五席次に味あわせた。 

 

(第一席次が投入されるまでの前哨戦、必ずやこなしてみせる)

 

 今回の作戦において、クアイエッセたち下位の聖典メンバーが中心となって、エルフ王の能力や体力を消耗し、そこを上位の席次である第一・第二・第三・第四などで打倒する。補助要員として第六席次も温存組に組み込まれた。

 何しろ、魔導国との戦争が秒読み状態という段階だ。漆黒聖典の中でも、最強との呼び声高い彼らの力を温存することは、戦術的価値がありすぎる。

 クアイエッセは決意を新たに魔獣を召喚する。

 今度は、弓矢での攻撃でも殺しにくい硬度と難度を備えた魔獣──アイアンライノセラスを四体。鉄を鎧った犀(アイアンライノセラス)はギガントバジリスクのような特殊能力にこそ恵まれていないが、その突進力と攻撃力、なにより防御性能は折り紙付きだ。実際、鉄の硬さ以上の身体でオリハルコンの(やじり)をはじいてみせる姿から見ても、あのエルフ王と戦うのに十分な戦力だと数えられる。

 最強のビーストテイマーと呼ばれる第五席次「一人師団」が先陣を切り、第十席次「人間最強」、第十二席次「天上天下」が、エルフ王の侵略の足を止め続ける。

 それを戦場である東都の空で飛行しながら見守る第十一席次は、逐一戦況を報告し、強化魔法などを適時送って、クアイエッセたちを援護する。エルフ王は武装を消耗し、自分たち強者との戦闘で、確実に疲労を蓄積していくはず。

 

 彼ら漆黒聖典の作戦は見事にはまった──誰もがそう信じて疑わなかった。

 

 

 

 

 

 。

 

 

 

 

 

 漆黒聖典の戦闘開始から、すでに二時間が経過した。

 

(これ、いける? いけるのかな?)

 

 十一席次は、東都の空から仲間たちの戦いを援護支援しつつ、その推移を冷静に見聞していた。

 第五席次「一人師団」──最強のビーストテイマーの称号を持つ青年。

 第十席次「人間最強」──白髪白髭、半裸で巨大斧を武装とする蛮人。

 第十二席次「天上天下」──赤色全身タイツに鎧と金属板を纏う暗殺者。

 

 そして、普段は歩くことすらだるくめんどい……こうして空を魔法で飛んでいる方が好きな、下着姿も同然の装備に大きなトンガリ帽子をかぶった女──第十一席次は、引きつった笑みをこぼす。

 

(ここでエルフ王をやっちまえば)

 

 すべてがうまくいくはず。

 聖典隊長である第一をはじめ、第二・第三・第四・第六席次は力を温存できたまま、魔導国との戦争を迎える。

 正直、魔導国との戦争なんて死ぬほどだるい展開に参加するのはゴメンこうむりたいところ。東都防衛およびエルフ王抹殺の任務などという仕事も、実のところいやでいやでしようがない。だが、任務である以上は従わざるを得ない。

 何より、

 

(クアちゃんを死なせたくないし)

 

 自分のような、痴女も同然な姿──神の遺した遺産とやらでも露出度の高い恰好をした、気色の悪い怠惰(たいだ)な女を、クアイエッセという男は無二の仲間として受け入れてくれている。

 ほかにも同性の「神聖呪歌」さんや、同年代の「占星千里」ちゃんもいるが、一番仲が良いと呼べる──呼びたいのは、この若者だけであった。

 クインティア家の歴史において最高の英雄との呼び声も高かった────が────彼の妹は、そんな兄と事あるごとに比べられ、周囲からの“片割れ”扱いに耐えきれず、漆黒聖典第九席次の地位を捨て、ズーラーノーンに身を移したと聞く。が、巫女姫の最秘宝を盗んだ──100パー嫌がらせだろうと個人的に思っている──(とが)で追われ、今では行方知れずの生死不明である。

 

(クレマンちゃんも心配だけど……占星千里ちゃん、相変わらず部屋に引きこもって震えて仕事にならないらしいし──支援役の私が頑張らないと)

 

 普段は国の命令・任務すら面倒くさがる姿が(たた)って、皆から「責任を押し付けるのがうまい」とまで評される彼女だが、こと戦闘に関しては話が別だ。

 漆黒聖典内では下位に位置するとはいえ、第十一席次は高位の魔法詠唱者(マジックキャスター)だ。

 あの魔導王レベルには遠く御及ばないにしても、人類の守護者たる英雄として、恥ずかしくない姿を。

 

 

 

 

「さきほどから気になっていた魔力の発生源は貴様だな?」

 

 

 

 

 第十一席次は、完全に虚を突かれた。

 都市上空500メートルを超える高空に、あのエルフ王の姿があった。

 

「え、あ、な、んで?」

「高度な隠密性のほかに、斬撃や射撃に対する多層防御陣が見えるな。そうして下にいる聖典の隊員どもを逐一(ちくいち)支援していたわけだな? おまけに指揮監督までやりおおせるとは、なかなかの戦働(いくさばたら)き。だが」

 

 これで(しま)いだ、そういってエルフ王は第十一席次が構えた(ほうき)ごと蹴り落とした。

 彼女の〈遠視〉の魔法で観た地上では、エルフ王を見失った仲間たち──クアイエッセが、上空にいる彼女を眺め、その名を叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 クアイエッセは第十一席次の名を叫んだ。

 人間最強と呼ばれる白髪の蛮人・第十席次、および天上天下と呼ばれる暗殺者・第十二席次も、上空へと飛び上がったエルフ王の姿を確認。

 

「ジャイアントイーグル!」

 

 クアイエッセは呼び出した巨大すぎる鷲(ジャイアントイーグル)の背に乗って、墜落を余儀なくされる第十一席次のもとへ急いだ。

 いくら聖典隊員とはいえ、第十一席次は物理攻撃に弱い魔法詠唱者。いつも装備している魔法のトンガリ帽子で常時〈魔法盾(マジックシールド)〉などを張れているが、あのエルフ王を前にして、どれほどの効能を期待できるか。

 巨大な鷲はあやまたずして、砕けた魔法の箒から墜落した第十一席次を背中にいるクアイエッセに受け取らせた。

 

「しっかりしろ!」

 

 名を呼んだ青年の呼びかけに、第十一席次は呻き声をあげることでしか答えられないが、それでも同僚の命があったことに安堵するクアイエッセ。

 

「スキありだな」

 

 そんな彼の横っ腹を狙って、エルフ王が流麗な体捌きで剣を振るう。

 なんらかの異能か、マジックアイテムによる飛行能力──これまでずっと地上戦を展開していたエルフ王が〈飛行〉できる事実を確認した第五席次は、最悪の事態を想起した。

 

(空を制することができるのであれば、他の都市──神都への侵入侵略も容易ではないか!)

 

 そんな最悪を想起する彼を堅守すべく、ジャイアントイーグルの一体目が犠牲となった。

 唐突に足場を失い浮遊感の(とりこ)となる第五席次と、気絶する第十一席次。

 とっさに彼女の身体を引き寄せ、新たなジャイアントイーグルの背に乗るクアイエッセ。

 

「遅い遅い」

「おおおおおおらああああああああああああああああ!」

 

 連続して強襲するエルフ王を、第十席次──人間最強が奇襲強襲する。

 飛行でなく、単純な彼の脚力・強靭な跳躍力のなせる業であった。

 渾身の力で振り下ろした斧の一撃で叩き殺す──ことはできなかった。

 

「第十席次!」

 

 クアイエッセの見る前で、エルフ王が斧刃の一刀を間一髪で身を(ひるがえし)して(かわ)し、強襲者の分厚い胸板を×(バツ)印に切り刻んだ。

 肋骨を砕き、肺腑や臓器どころか、背骨にまで達する深さの傷だ。回復薬を飲む暇もない、即死。

 彼は肺から逆流した血を口から大量に零して、東都の建物を砕き割りながら墜落する。  

 

「これで、まず“一匹”」

 

 片付いたといわんばかりに、凶悪かつ黒い笑みを浮かべるエルフ王。

 クアイエッセは色違いの瞳に恐怖の片鱗を感じつつある(おのれ)を胸の内で叱咤した──恐怖を司るは、闇の神──ただのエルフごときに(おく)していては、神に申し開きが立たない。クアイエッセは第十一席次をかばいつつエルフ王を睨み据える。

 

「さて」

 

 さらなる魔獣を召喚しようと黒い穴をあける第五席次を斬る──よりも早く、彼は己の背後に近づいてきた暗殺者・第十二席次を振り返ることもなく、剣の先で心臓を串刺しにしていた。

 

「ごふ!」

 

 第十二席次「天上天下」の驚愕と絶望にまみれた吐息と吐血が、彼の赤いマスクをさらに赤黒く染める。

 

「この私を──エルフ王たる我が身を“暗殺”しようなどと……百年、早かったな」

「……に、げ、ろ。クイン、ティ、ア」

 

 エルフ王は返す刀で背後にいる暗殺者の首を優雅に()ねた。

 ついでとばかりにジャイアントイーグルの頭を蹴り砕き、クアイエッセたちを地上に墜落させる。

 

「これで、“二匹目”だな」

 

 エルフ王は建物の屋根に悠然と降りて、戦闘の痕で打ち壊された大通り──避難が完了し閑散とした市場に落ちた二人の聖典メンバーを見やる。

 次々と討たれていく仲間を前にして、無力すぎる己を実感するクアイエッセ。

 いくら蘇生魔法によって蘇ることができるとしても、人の死を──“仲間の死”を前にして、彼は冷淡なままではいられなかった。

 ──まだだ。

 ──まだやれる。

 第十一席次を背後に護るように、彼は奥の手を試みる。特大の黒穴が彼の前方に開きかけた。

 第五席次「一人師団」たる身でも制御不能な魔獣──あのエルフ王どころか自分をも殺戮するだろう地獄の亡獣と呼ばれるモノを召喚すべく、彼はすべての魔力を注ぎ込もうとするが、

 

「そこまででです、第五席次」

 

 彼の召喚を抑止する声と手に制される。

 驚きのあまり彼はそこにいる人物への礼節を欠いてしまう。

 

「だ、第、一、席次…………隊長!」

 

 周囲を見れば、第二席次、第三席次、第四席次、第六席次の姿も見える。

 漆黒聖典隊長・第一席次──荘厳な鎧姿には似つかわしくない、みすぼらしい槍を巧みに振るう若者が、太陽を背にするエルフ王と対峙していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




書籍14巻で出てきた四人による前哨戦、終了。

ちなみに、この二次創作での第十一席次ちゃんの称号は「魔法少女」だったり。

次回は第一席次たちの出番ですが──はたして。
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