オーバーロード 絶死絶命 ~199年前の墜とし仔~   作:空想病

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※聖典メンバーの情報は明らかになっていない部分が多いので、Web版やアニメ資料集などを参考にして、それぞれの性格や戦闘スタイル、称号などを空想もとい考察しております。原作とは違う可能性大ですので、そこはあしからず。


エルフ王VS漆黒聖典 -3

/King of elf VS Utterly dark scripture -3

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 第五席次「一人師団」──クアイエッセ・ハゼイア・クインティアは、心の底から罪を(しゃ)した。

 

「隊長、申し訳ありません──此度のエルフ王抹殺の任において、……第十と第十二席次は」

「わかっています」

 

 隊長は項垂れる部下の肩を叩いた。

 東都の戦況は、彼ら上位メンバーも把握済み。

 人間最強と天上天下が死亡、第十一席次は戦闘不能の重傷で、第五席次の背にかばわれている。

 

「第五席次は、三人を連れて脱出を──二人の死体は神都にて、復活の儀を試みます」

「──承知しました」

 

 蘇生不可の呪い──あの強大な吸血鬼がときはなったような強力な呪詛のかけられていない死体ならば、何も問題なく蘇生できる──生命力がさがる関係で、強さは蘇生以前よりも低下するだろうが、おそらく問題はない。クインティアの召喚したジャイアントイーグルが、二人の死体を回収して東都を離れる。

 

「四人での東都防衛の前哨戦、ご苦労さまでした」

「んま。がんばった方だと褒めてやっとくよ、クインティアのお坊ちゃん」

「あとは我ら五人が引き継ぐ。安心めされよ」

「こちらは大丈夫ですから、ね?」

「…………うす」

 

 隊長をはじめ、第二、第三、第四、第六席次、それぞれから励ましの言葉を受け取って、クアイエッセも第十一席次と共に、鷲の翼に運ばれていく。

 その姿を確かに見送った隊長・第一席次は、あらためて、中空を舞うエルフ王と相対する。

 

「エルフ王が〈飛行〉の魔法まで体得されている、あるいはマジックアイテムを有している、という情報はなかったのですがね──」

 

 確認するように独語する隊長。

 それを長耳(ながみみ)の聴覚で拾ったエルフ王は、悠揚(ゆうよう)と語って聞かせる。

 

「真の強者たるもの、空を制するくらい、アタリマエのことではないか?」

 

 第一席次をはじめ、漆黒聖典上位メンバーは配置についた。

 前衛に第二席次と第三席次、後衛の位置に第四席次と第六席次。そして、彼らの最前衛を護る位置に、隊長たる第一席次が槍を構えて立ちはだかる。

 エルフ王は疑念に眉をひそめた。

 

「前衛に魔術師風の男をおいて、後衛に聖騎士風の男をおくのか?」

 

 第三席次と第六席次のことだろうと承知する隊長。

 だが、これが彼らのベストポジションであると皆が自負している。

 

 第二席次は小さな帽子飾りに緑の衣服、螺旋を描く細剣(レイピア)のごとき武装を二振り構えた、いかにも軽薄そうな茶髪の男。

 第三席次は黒いローブ姿に樹木の杖を握り、宝玉にも似た武器を周囲に浮かべ、両手に魔法陣を彫り込んだ、老齢の男。

 第四席次は長い金髪の女性で、翼を思わせる飾り付きの緑のべールで頭を覆い、神聖な羽衣と鏡のように磨かれた円盤状の装備が目を引く。

 第六席次は金髪を後ろに撫でつけた男で、青と銀の鎧を観に帯び、特徴的で豪奢かつ巨大なグレートソードを構えている。

 

 第四席次と第六席次が魔法詠唱を始めた。

 

「〈全体飛行(マス・フライ)〉〈全体自由(マス・フリーダム)〉〈全体魔法盾(マス・マジックシールド)〉〈全体全能力強化(マス・フルポテンシャル)〉〈第三位階死者召喚(サモン・アンデッド・3rd)〉」

「〈神の御旗の下に(アンダー・ディバイン・フラグ)〉〈全体・聖騎士の祝福(マス・ブレス・オブ・ホーリーナイト)〉〈第三位階天使召喚(サモン・エンジェル・3rd)〉」

 

 第四席次の魔法で死霊(レイス)が三体、第六席次の魔法によって炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)が三体同時召喚される。

 死者と天使、あわせて六体のモンスターにそれぞれ襲われるエルフ王はそれらを剣で捌こうとするが、三体は実体を持たない死霊であり、もう三体はそれぞれが炎の剣を握って迎撃体制を整えている。

 また、第四と第六の各々が唱えた魔法による強化が、漆黒聖典の五人全員に供給され、すべての準備が整った。

 

「いくぞ!」

 

 隊長の号令一下、チームはひとつの生命体のように、虚空を漂うエルフ王を急襲。モンスター六体を着実に仕留めていたエルフ王の手腕は見事なものだが、第一席次のふるう“みすぼらしい槍”を奇特な視線で流し見ながら剣ではじくエルフに、第二席次と第三席次が襲いかかった。

 

「くらっときな、“遅滞一閃”!」

 

 ゆるい螺旋状にねじれたような細剣(レイピア)の鋭く(はや)い一振り。

 それをエルフ王は剣で防御しようとするが、何らかの効果があるものと看破し、一瞬で回避に転じた。

 

「ちぃ、んじゃあ次、〈早足(クイックマーチ)〉発動!」」

 

 もう一振りの細剣に込めた魔法を起動し、自己の速度を上げる。さらにこの魔法発動は自動的かつ効果時間ごとに威力が増していく仕組みで、〈駆足(ハリ-アップ)〉〈疾走(ランナウェイ)〉と、続々と魔法武器保有者の速度を加速させる。

 エルフ王は静かに悟る。

 

「時間魔法系統のマジックアイテムのようだな?」

 

 それだけじゃあないぜと言わんばかりに、王の矢の先に狙われ、そして矢を放たれた第二席次は、一瞬で姿を消した。

 長久の時の中で、的を初めて外したエルフ王。彼は正確に事態の詳細を把握する。

 

「ふむ。いま、時が“跳んだ”な?」

「ご明察、DA☆ZE!」

 

 レイピアの二連撃を浴びせかける第二席次。

時間跳躍(タイム・ジャンプ)〉の魔法は、回避手段としてはうってつけすぎる魔法だ。相手が的を定めたとしても、時間を文字通りに“跳んで”しまう。

 王を揶揄(やゆ)するように笑う、レイピア使いの青年。──時間跳躍の使い過ぎで少年のごとく若く見える見た目だが、実際は三十代に届く、歴戦の騎士であった。

 第二席次「時間乱流」は、遅滞魔法・加速魔法、各種時間魔法の使い手であった。聖典のナンバー2──番外を込みで考えるとナンバー3に位置して当然の希少なマジックアイテムの担い手として、長く漆黒聖典の隊長クラスの働きをなしてきたが、神の血を覚醒させた「第一席次」の登場で、そのお株は奪われて久しい。それでも彼は軽薄な笑みを浮かべつつ、人類の守護者としての任務に精励してやまず、第一席次たる隊長へも尊敬の念を惜しまない……そういう努力は認められる。

 

「第三の旦那ァ!」

 

 彼が尊称のつもりで使う呼びかけに、魔術師でありながら前衛をなす第三席次が応えた。

 老齢の姿からもわかる通り、現状の漆黒聖典にあって最年長として、長く任務に励んできた魔術師が詠唱を始める。

 

「〈魔法二重最強化(ツインマキシマイズマジック)魔法拳(マジックフィスト)〉──」

 

 現れたのは透明に輝く巨大な握り拳が左右に二つ。それが彼の杖の命令を受けたように打ち出されるが、それで終わりではない。

 唱えた魔法は一発だが、彼の周囲を旋回浮遊する宝玉のような飾りからも、同種の魔法が吐き出される。

 その数は、六つ。つまり、魔法一発が、彼のと合算して七つ分──合計十四本の魔法の腕が魔術師の周辺に現れ、エルフ王をその防御態勢ごと(したた)かに殴りつけたことを意味する。

 

「同じ魔力消費(コスト)で、同種の魔法を複数回分発動できるアイテムか!」

 

 エルフ王の審美眼は正確かつ迅速を極めた。「いかにも」と頷く第三席次は、魔法の巨大な拳で打ち据えられ掴みかけられるエルフ王を後退させる。魔法の拳による豪拳の乱舞には、オリハルコンの鏃も用をなさない。南方の地で信仰される神の一種──アシュラを彷彿とさせる烈腕の連撃であった。

 長い金髪の額に、はじめて汗の雫が、ひとつ。

 

「畳みかけるぜ、隊長!」

 

 第二席次の軽い口調に呼応する第一席次。

 聖典の隊長が振るうにはあまりにもみすぼらしくボロくさい槍の一振りであったが、その威力は回避に徹するエルフ王の長髪を幾本か削ぎ落とし、ついで東都の壊れた門の隔壁にまで破壊力を及ぼした。地響きが都市に轟く。「ひえー」と軽く驚きの声をあげる第四席次。「さすが第一先輩(パイセン)っス」と尊敬の眼差しを向ける第六席次。

 あれこそが神人──アンデッドの魔軍をも掃滅せしめるだろうと目される、まさに神の血の覚醒者の一撃であった。

 そんな圧倒的力を振るってみせる第一席次であったが、

 

「……やはり、私の本気の戦闘力では、都市を破壊しかねない……」

 

 そう言って、東都の防衛という意識に傾注する青年。エルフ王が空で戦えるというのは好都合。空を舞った瞬間に、彼の神人による槍撃がエルフ王を貫くことになる。

 無論、相手もそのことに気づき、都市に降りていく。

 

「逃がさねぇからな!」

 

 第二席次は〈時間跳躍〉を繰り返し、エルフ王の弓撃をものともせず追撃。同様に追ってきた魔術師も、両手に刻印された魔法陣から〈炎弾〉や〈雷槍〉を釣瓶撃(つるべう)ちにする。そうして足を止めた王の背後から、第二席次の遅滞スキルが襲い掛かり、エルフ王の速度を奪い取る。

 単純な作戦だ。

 第二、第三が前衛としてエルフ王を都市上空に追い立て、そこを最前衛の第一席次に潰させるという構図だ。第四、第六の支援補助魔法も完璧。大勢は完全に聖典上位陣が握ったも同然であった。

 

「ふむ。いかんな」

 

 エルフ王は第一席次の五度目の槍撃をしのいで、思案する。

 

「これでは我が子を奪いにいけぬではないか」

「我が子?」

 

 第一席次が興味を惹かれた。

 前々から、神官長らの話は聞き及んでいた。

 番外席次の安寧を乱す存在──母の復讐を──やはり、エルフ王こそが、彼女の父親であるとみて間違いないのか?

 しかし、番外席次は父親に関してはさほどの興味を(いだ)いていなかった──そう、強者との“子”を望む彼女であれば、自分を生み出した強者たる父に、その身をゆだねに行こうとする壊れた思考も、十分あり得る。それほどまでに、彼女は自分と伍する絶対的強者の存在を希求していた。しかし、第一席次──神の血を覚醒させた若者でも、彼女には到底、勝ちえないという歴然たる事実。

 エルフ王は強い。

 だが、神人である第一席次の攻撃──その破壊力の規格外ぶりは、彼の想定を上回っているように見受けられる。防御ではなく、完全なる回避一択であった。

 

「しようがないが、こちらも奥の手を使おう」

 

 聖樹の長弓をどこぞに消したエルフ王は、次の瞬間、ありえざるものを取り出してみせた。

 聖典メンバーの誰もが絶句して、その威容もとい異様な兵器に目を瞠る。

 

「え、弓?」

「なんてデカさじゃねえよ!」

 

 (ほう)ける第四席次に、第二席次が怒鳴り声をあげる。

 隊長は即座に理解した。

 

「! “バリスタ”だ!」

 

 通常は城の護りとして据え置き式に設置される大型弩砲──投擲される矢の太さも長さも尋常でない、攻城兵器が、エルフ王の抱える奥の手であった。攻城兵器の反動を鑑みれば、どう考えて携行兵器として不適格だが、エルフ王の膂力なら可能か。なんらかのマジックアイテムである線も捨てがたいが、分析に要している時間などない。

 

「ふふふ、光栄に思うがいい。“聖樹のバリスタ”だ。

 我が母である十三英雄が一人、エルフ女王の聖遺物ぞ?」

 

 大の男数人で引くはずのテコを軽々と引いて装填を終えると、極太の弦に引き絞られた巨大な矢は、一同の中で最もか弱そうな支援役に向けられる。

 

「まず、そこの邪魔くさい女からだ」

 

 恐怖に立ちすくむ「神聖呪歌」は、これまで弓の攻撃をすべて神聖魔法の防壁や、アンデッドの召喚魔法で防いできた。

 が、あの超弩の矢が相手では防御など役に立たない。エルフ王が引鉄もとい「落とし金」を操作した瞬間、第四席次の五体が貫かれる──寸前であった。

 

「先輩!」

 

 獰悪(どうあく)な射撃音が、戦場を引き裂いた。

 彼女を突き飛ばした青と白の鎧を着込んだ第六席次が、魔法杖として使用していた幅広のグレートソードを盾のごとく構えるが、無意味だった。

 彼の身体は極太の矢にグレートソードや鎧ごと貫通され、大量の鮮血と肉片を後方へ吹き出し、あっという間に絶命してしまう。

 

「──あ、……」

「第六くん!?」

 

 第四席次の悲嘆と悲鳴が日の落ちかけた東都の空に木霊(こだま)する。

 

「クソ、あんな武装ありかよ!」

 

 時間跳躍を行い、攻撃をよけるのではなく攻撃を仕掛けに行った第二席次であったが、

 

「来ることはわかっていたぞ」

「な……?」

 

 跳躍した時間の先で、バリスタを小脇に抱えたエルフ王は剣を振りぬいていた。

 盛大に彼の下腹部が抉れ、臓物がまろびでる。

 

「な、んで?」

「跳躍をあれだけ繰り返せば、こちらも出現時間ぐらい、見切れるとは思わんか?」

 

 逃げに徹しておれば無敵だったなと評するエルフ王。

 その場で膝を崩し倒れ伏す第二席次の少年っぽい顔立ちを、エルフ王は果実でも踏むがごとく破砕してしまった。

 

「おのれ!」

 

 魔法の拳でアシュラもかくやな変貌を遂げていた第三席次が、両手の魔法陣を合わせ強大な魔法を練成しようととした瞬間、彼もまたエルフ王の持つバリスタの餌食(えじき)となった。 

 

「ご、おおおお、おのれ…………」

 

 魔法の拳たちで引き抜こうとしたが、手遅れであった。

 彼の心臓と頸動脈と脊髄は巨大な鉄の(やじり)で貫通され、死を(まぬが)れることは不可能であった。力を失った宝玉が、彼の骸の周りに転がり落ちる。

 

「さて、残りは」

 

 金髪を軽やかになびかせる美貌の王。

 エルフ王の美しい微笑みの先にいた「神聖呪歌」は涙目になりながら、第六席次の死に報いようと魔法を唱え、抵抗する意思を見せた。が、すぐさま第一席次に止められる。

 

「た、隊長くん?」

「ここは私が──私でなら、あのエルフ王と拮抗しうる──あなただけでも脱出を」

「でも、でも私の支援や回復がないと、いくら隊長くんでも、ッ!!」

 

 相談する二人を待つ義理もなく、エルフ王はバリスタを射出。

 超級の威力と暴音で第四席次の頭部を狙った一撃を、第一席次の槍が見事に払いのける。だが、あまりにも急激な対応速度で、神人の身体が悲鳴をあげかけた。

 

「隊長くん!!」

「ッ、逃げろ、第四席次「神聖呪歌」! エルフ王の脅威を、神官長たちにお伝えしろ!」

 

 彼は彼女に任務を与えることで脱出の道を与えた。

 そして願わくば、番外席次──彼女の無事を思う第一席次の意思を受けた第四席次は、涙をぬぐって撤退の道を進もうとするが、

 

 

 

 

「えーん、えーん」

 

 

 

 

 場違いにも戦場に響く、赤ん坊の声が一同の耳を(つんざ)く。

 見れば、第一が払いのけたバリスタが突き刺さった住居──そこで怯え震える母子の姿が。

 

(しまった!)

 

 避難できずに残っていた東都の民だ。法国軍の誘導が間に合わず取り残され、エルフ王と漆黒聖典の戦闘が始まり、一般人で乳飲み子を抱えた身の上、動くに動けなくなったに相違ない。

 神聖呪歌も驚き、第一席次と共に彼女らを護るべく〈飛行〉していくが、第一席次とバリスタの威力で、建物は見るも無残に彼女たち全員を崩落の中に巻き込んでいく。

 

「く、……「神聖呪歌」──第四席次!」

 

 瓦礫の山から這い出し、一瞬は絶望しかける第一席次。

 だが、第四席次は、護国の英雄たる務めを、果たした。

 咄嗟に召喚したアンデッドの骸骨兵たち三体で母子を崩落から守り、自らは大量の瓦礫の下敷きとなり果てた。彼女の下半身は円盤状の防具ごと完全に潰れ、もはや痛みすら感じていない。

 

「えーん、えーん」

「ああ、なかないで……いいこだから……」

「ご……、ごめんなさい、ごめんなさいぃ!」

「いいえ。いいのです。おかあさん。さ、はやく……にげて、……わたしには、かまわず……しんと、へ……」

 

 そう言い残す神聖呪歌に促され、赤子を抱いた女性は東都から神都への道を行く。口々に謝罪の言葉を紡ぎながら、泣きわめく我が子を、しかと抱いて。召喚主の死で骸骨兵が消え去り、第四席次の骸を瓦礫が飲み込む音が都市を満たす。

 それらを見守り見送った第一席次は、エルフ王の見る前で膝を屈した。

 バリスタをはじいた時の威力と、瓦礫のダメージ、長時間の戦闘での疲労が合わさり、もはや立つこともままならなかった。疲労を無視する装備はしていたが、建物の崩落時か、バリスタをはじいた時の余波で、壊れたらしい。さらに最悪なことに、彼ほどの存在を癒せる水薬(ポーション)は、スレイン法国には存在しなかった。

 

興醒(きょうざ)めだな」

 

 漆黒聖典をほぼ壊滅状態に追い込んだエルフ王は、真実落胆したように、英雄の無様(ぶざま)な姿を嘲弄(ちょうろう)する。

 

「弱者を守ろうとするからそうなるのだ。必要な犠牲と割り切り、見捨てておけばいいものを」

「────はっ。なるほど。どうやら、あなたと、ぼくの、価値観は、違い過ぎる、よう、だ」

 

 第一席次は額から流れる血をぬぐうこともせず、バリスタを装填し終えたエルフ王を見やる。

 

「私の国の、……神の教えによれば、『強き者は、弱き者を、助けること』……それが義務(つとめ)とされている。弱者を切り捨てるなど、あってはならない……許されざる大罪だ」

「はっ。ぬかすな若造。その教えとやらを守って、結果はどうだ? その神とやらは、いまの貴様を守ってくれているとでも?」

 

 エルフ王は真実呆れかえったように金髪を揺らして(かぶり)を振った。

 

「隊長ともあろうものが、知らぬはずもなかろうに。貴様ら法国の暗部──聖典などと自称する有象無象が、どれほどの国で暗躍した? どれほどの長きに渡って暗闘を繰り広げてきた? どれほどの人血を祭壇に捧げ、無辜(むこ)の民を葬ってきたか。──知らんとは言わさんぞ?」

 

 痛いところを突かれた。

 それぐらいのことは、漆黒聖典の首領たる第一席次も知悉している。

 一年前に全滅した陽光聖典、彼らが行っていた特殊任務の内容──近日では、火滅聖典がエルフの国で焼き払った森妖精の都市──各神殿に祀られる、巫女姫という名の少女=人柱たち──それらを、法国首脳部は、必要な犠牲と断じて、文字通りに切って捨ててきた。

 そんな国に属しながら、このような綺麗ごとを垂れ流す英雄の存在など、エルフの王にしてみれば、理解の範囲外だろう。

 それでも、第一席次は血まみれの死相に笑みをたたえる。

 

「言った、はず、だ。これは、義務だ。私が私である限り、人が人である限り、『そうあれかし』と定められた事柄に、すぎない。見返りなど求めることではない。私が私であるために、弱き者を、守る。護り続ける──そう決めている──そう、決め、た──ただ、それだけの、こ、と」

 

 理解不能と言いたげに眉根をあげて嘆息するエルフの王。

 疲労からくる睡魔に襲われる男へ、王は裁定を下す。

 

「つまらん男だ。

 我が手にかける価値すらない、虫ケラめ。

 そこで勝手に野たれ死ね。それが、王たる私が貴様に送る手向(たむ)けとしよう」

「…………」

 

 東都の日は没した。

 第一席次の意識は、そこで途切れた。

 エルフ王が向かう先、神都の聖域にいるであろう半森妖精(ハーフエルフ)──彼女の無事を祈願しながら。

 

 

 

 

 

 魔導国の侵攻予定まで、あと三日──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まさかのエルフ王、勝利。
漆黒聖典、ほぼ壊滅。
番外ちゃんの動向や、いかに?
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