オーバーロード 絶死絶命 ~199年前の墜とし仔~   作:空想病

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親子、対決?



エルフ王VS番外席次

/King of elf VS Extra seating order

 

 

 

 

 

 

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 法国の東都、その残骸とも呼ぶべき地を、彼女は訪れた。

 

「なんてことだい」

 

 年季の入った勇壮な声の持ち主は、破壊された都市の光景に嘆息をあげつつ、彼女なりの祈りの型を目前で切る。彼女の師から教わった、死者への追悼であった。

 

「それにしても、よくぞここまで──」

 

 十三英雄が一人・エルフ女王の遺したバカ息子──現、エルフ王の仕業(しわざ)と聞いて呆れかえる老婆。腰に帯びた剣が重く鳴り響く。

 ツアーに頼まれ、ユグドラシル由来のアイテムを探索・収集するように依頼されていた彼女は、破壊された東都を見て呟いた。

 

「今回の件。世界の盟約に反するわけでもないが、さすがにこれは、止めたほうがよくはないか?」

 

 彼女は虚空へと声を飛ばす。

 しかし、その声を受け取ったものは、ここにはいない。

 

「ああ、そうじゃな。法国が(おこ)ってより600年──不滅の国家など存在せぬ、だが──」

 

 リグリット・ベルスー・カウラウは、法国が滅びることが現実味を帯びつつある事実を受け入れ切れずにいる。

 自分自身、国を棄てた──世界を護る大義のために──そのつもりではいたのに、いざ目の前にすると、胸の奥がくすぶってならない。

 

「わかっとる。ツアー。余計なことはせん。法国自体にエルフ王を止めることが出来なければ、それまでの話──そもそも、戦争を仕掛けていたのは法国の方が先なんじゃからな」

 

 それでも、彼女は内心で思う。

 なにしろここは、彼女の生国──生まれ故郷であり、暗黒邪道師から“死者使い”の号を受けた、思い出深い土地でもある。彼女自身が生まれ育った村は北の都の郊外にあった。ちょうど、カッツェ平野との境目に位置する、小さな開拓村であったが、今ではもう、魔導国とやらの開拓事業以前から、その面影さえ残っていない。十三英雄最後の戦いで多くの国が亡び、多くの土地が焼かれ、多くの命が散っていった。

 リグリットたちの奮戦と敢闘、そして、何よりも偉大なアイテムの恩恵──否──呪いにより、十三英雄最後の敵・神竜は封殺された。

 亡骸(なきがら)はツアー達の手で可能な限り解体され、大陸各地に隠された──もう二度と、この“龍”が復活しないことを願って。

 だが、結果として、十三英雄たちの多くはエルフ女王を含め多くが死に絶え、彼らを率いた最強のリーダーと、彼の子を身ごもっていた彼女は、死んだ。

 思い出しただけで祈る手に力がこもる──当時の自分に、もっと才が、能が、力が、技が、術が、れべる(・・・)とやらがあれば。

 彼と彼女の悲劇を防げたのではないか……。

 そんな(らち)のない思考に囚われて、200年を流離(さすら)ってきた。

 今ではリグリットは人類最高峰の力の持ち主となり果て、信仰系魔法や精神系魔法の影響で老化を最低限に抑え、寿命による死を先延ばしに出来ている。

 まさに生きた伝説──十三英雄の“死者使い”は、この地に(こご)る死の瘴気(しょうき)蒐集(しゅうしゅう)しつつ、まだ息のあるものを見つけた。

 瓦礫に肩を預ける、立派な鎧を着込んだ戦士は、意識不明瞭な眼差しで、リグリットの死に装束ならぬ不死(ふし)装束(しょうぞく)を仰ぎ見る。

 

「おお。おまえさん、まだ息があるね……待て、その“槍”は!」

 

 鎧の豪華さや強壮さなど目に入らなくなるリグリット。

 老婆が注目したのは、どこの誰が見てもみすぼらしく古ぼけた、一本の槍。

 だが、ツアーの審美眼──現生竜王の感知力にしてみれば、それは“世界一個”に等しい、法国の最秘宝である。

 その装備を託されえる国の戦士となれば、該当者は一人しかいない。

 

「──そうかい。アンタが当代における漆黒聖典の第一席次あたりかい?」

 

 第一席次と呼ばれた若者は、わずかに警戒しつつもたずねる。

 

「……それを知る、あなたは……いったい?」

「わしかい? そうだね。冒険者、は、もうやめて久しい。とりあえず、オマエさん達の古いセンパイということで、納得してもらおうかのう」

 

 リグリットは第一席次に、自分が持っていたポーション瓶を開けて飲ませた。神の霊薬には遠く及ばない劣化ポーションではあるが、第一席次は槍を杖に立ちあがれるまでに回復する。

 そして、彼は東都の瓦礫の山を手探りで掘り返しはじめる。

 

「いったい、どうしたね?」

「このあたりに、仲間たちの、死体が……持って帰って、やらないと」

 

 腐って土に還ってしまえば、蘇生することが難しくなるから。

 

「そんな状態でよくぞ死人にかまってやれるね────気に入ったよ」

 

 リグリットは魔法を唱える──〈死体回収(コープス・コレクト)〉と。それで東都の残骸の下敷きになっていた第二席次、第三席次、第六席次、そして第四席次の死体を見つけ、“宙に浮かせた”。

 そして、それらをどこぞより召喚した棺の中に収める。

 

「このままだと腐敗し劣化する一方だからね。わしの“(コフィン)”に入れて、少しでも劣化を防いでやるよ」

「コフィン──! 屍衣(シュラウド)の上位アイテム──すると、あなたさまは、あの“死者使い”のッ?!」

「そう呼ばれることも多いねえ」

 

 そういってリグリットの周りを盾のごとく浮遊する棺の群れ──合計して十一個。

 第一席次の仲間たちの遺体を収めた以上の棺を、指を鳴らして瞬時に消し去るリグリット。

 

「さて。残る問題はおまえさんなわけだが」

「私は、大丈夫、です」

「だいじょうぶなものかね。エルフ女王のバリスタを受け流したのだろう? あの〈致死毒〉〈即死〉属性付与の巨大弩砲(バリスタ)は、仲間内でも色々と物議を呼んだものさ。まぁ、神竜との戦いでは何の役にも立たず終わってしまった遺品だが……自分の身が第一席次だからと言って、無理をしちゃいかんね」

 

 リグリットは懐かしい思い出話を花開くでもなく、淡々と彼らを追いつめた十三英雄の遺品について語った。

 

「安心おし。“死者使い”であるわしだが、然るべき処置を施せば、おまえの仲間たちも蘇生できる。聞いたことないかい?」

「は、……はぁ……」

「それで、肝心のエルフ王の行方じゃが?」

 

 リグリットがたずねた時、日は落ち切っていた。

 かの王に襲われた神都方面の街々が、煌々と夜を照らす篝火(かがりび)となって、二人の行く先を示している。

 

 

 

 

 

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「ここらへんかな~?」

 

 やる気のない声と共に、黒白の髪に白黒の瞳の少女は街道の真ん中に戦鎌(ウォーサイズ)を突き立てる。

 

「エルフ王ね~、アンタら魔導国は、何か情報とか持ってんの?」

「いえ、とくには」

 

 そう答えたのは、濡れ羽色の黒髪が美しい、純白のドレスを着込む女悪魔、アルベド。

 

「我らが魔導王陛下も興味の対象とはみなしておりました。ゆくゆくは、アウラやマーレを連れて、観光がてら様子を見に行くというご計画もあったはず」

「へえ。意外とナメくさってるというか。それとも余裕綽々のあらわれ?」

「無論、我が国とナザリック地下大墳墓は神聖不可侵。守護者らも無敵の強さを誇っておりますので」

「はは。無敵だなんて、よくもまぁ大言壮語できるわよね? 現に、私の支配下に下ったアンタが? 頭の中を覗いてみたときの、「1500人侵攻の時」は、第八階層とやらまで蹂躙された──敗北した程度の連中なんでしょ? 守護者って連中?」

 

 ケラケラと挑発するように(わら)う番外席次だが、アルベドにとっても、もはやナザリック地下大墳墓のことなど“どうでもいいこと”。笑顔で無視することができた。今の彼女の意中にあるのは、目の前にいる協力者・番外席次(かのじょ)を使って、自分の欲望(のぞみ)を達成すること、ただその一事のみである。

 

「お?」

「ようやく、こられたようですね」

 

 二人の視線の先に、月光の中で淡く輝くような金髪をなびかせた青年が現れた。

 ここを抜けられたら神都という街道を張っていて正解だった。

 わざわざ蹂躙される街を助けに行くような「余分なこと」はしない番外席次とアルベドを見つけ、エルフ王は歩みを止める。

 

「ほう。次の守り手は随分と(おか)し甲斐のある(メス)のようだが……待て。貴様のその耳?」

「あ”?」

 

 番外席次が不快気に長耳を髪の下に隠した。

 エルフ王はそれにも構わず、番外が半森妖精──ハーフエルフである事実を、確認。

 

「なるほど。ようやく会えたわけだ。──我が娘に」 

「我が娘?」

 

 アルベドが首を傾げるのと同時に、聖樹の長弓による一矢が飛んだ。が、アルベドはそれを難なく白い手袋で振り払って防御する。

 

「ほほう? 漆黒聖典以外にも、戦えるコマがそろっていたのか、法国には」

「……この私を法国のコマだとでも?」

 

 不愉快気(ふゆかいげ)に低声を漏らすアルベドにも気づく様子などなく、とにかくエルフ王は、自己の目標達成を言祝(ことほ)いでやまない。

 彼は言い放った。

 

「法国にかどわかされた我が()よ。私にはわかるぞ。おまえのその色違いの瞳と長耳(ながみみ)──間違いなく我が落胤(らくいん)の特徴である」

「……なんだって?」

「我が娘よ。今こそ、父のもとへ帰れ。そして、我が強き(たね)を受けよ。我ら親子で、精強な子をつくろうではないか」

「強き、タネ? うっそ──アンタが? アンタごときが?」

 

 呵々(カカ)大笑(たいしょう)する番外席次。

 それにつられたように、アルベドもエルフ王の言動を聞いて口元を軽く覆い、笑声が漏れるのを抑えるのに必死だ。

 轟くような哄笑は、エルフ王の沈黙と不興を買っていた。

 

「あはははっはははっはははっははっははっはっはっはははっははは! はー、はー、ひー、はは……こんな死にそうなほど笑うのなんて、何年ぶりかしらね」

 

 そうだ。

 あいつをブチのめして厩舎(うまや)で顔を洗わせた時だったと思い出す番外席次。

 対して、大いに笑いものにされたエルフ王は、好意や友愛の対極に位置する感情の(とりこ)となっていた。優雅な顔立ちに、青筋と血管が幾本も浮かび上がる。

 

「貴様ッ────────我が娘には、エルフ王たる私に対する、礼義を、教えてやらねばならんようだな?」

 

 長弓を巨大弩砲(バリスタ)に換装したエルフ王は、番外席次の手足を削いででも、王を笑いものにした娘に理解させるつもりでいた。たとえ手足がなくなったところで、子を孕む部位さえ無事ならばそれでよい。

 エルフ王はわからせるつもりでいた。

 自分の強さを。人の領域を完全に超えた、超越者の実力を。

 

「泣いて喚いて後悔するがいい!」

 

 近接兵器──十字槍にも似た戦鎌では絶対に届かぬ、彼我(ひが)の間合い。

 弩砲の装填を済ませたエルフ王は、一瞬にして巨大すぎる攻城矢を解放。暴音の爆ぜる圧力が夜気を震わせ、森自体が(つんざ)き、月の光さえ、ざわめく。

 その矢先に狙われた番外席次は、身動き一つとっていない。

 その数メートル開けて隣にたたずむ黒髪の美女(アルベド)も含めて。

 

 だが、勝負は終わっていた(・・・・・・)

 

 バリスタが解放された、直後、戦鎌(ウォーサイズ)がエルフ王の手足を削ぎ落としていた。

 

「ぎいぃ、やあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ────ッ‼‼」

 

 エルフ王の悲鳴と絶叫。

 これまで感じたことのない激痛と。そこから立ちのぼる灼熱感。

 無様に街道の上に転げ、(わだち)の泥に顔を埋め、土を舐め、芋虫(いもむし)のように蠕動(ぜんどう)することも(まま)ならない森妖精の、王。

 

(馬鹿な、バカな、莫迦(ばか)な!)

 

 エルフ王にとっては、ありえないことであった。

 自分が手足を斬られ落とされ、敗者のごとく──敗者そのものという(ザマ)で地に伏すなど。そんなことはここ200年ありえない出来事であった。

 そう。彼に最後の敗北を味あわせたのは、十三英雄だった女王(はは)が連れてきた“リーダー”と呼ばれた男。若白髪(わかしらが)の少年で、肩には非実体の(ダヴ)──アイテムを有していた。さらには、姫のごとく見目麗しい銀髪の、珍しいエルフの恋人を連れた────?

 

「……きぃ、さ、まぁ」

 

 かつての思い出などどうでもいい。なぜ、このような時に彼と彼女を思い出したのか、まるで()せない。現実の痛みをこらえることすら、満足にできないでいるエルフ王。

 月光の影に、死の足が見える。

 倒れ伏す芋虫を睥睨(へいげい)する番外席次の、その白黒の瞳には、何の情もありはしない。

 

「き、さま、いったい、なにもの、だああああああッ!?」

 

 戦鎌(ウォーサイズ)を天高く構える半森妖精(ハーフエルフ)は、黒白の髪をなびかせ、白黒の瞳で嗤う少女は、死の神にして闇の神──スルシャーナの遺物を振るって、エルフ王の首を刈り切った。

 

「    ぁ    」

 

 てんてんてんと転がる敗亡の王の首を、番外席次“絶死絶命”は任務のため回収する。

 

「私が何者か──だって?」

 

 エルフ王だったものの首を思い切り踏みしめ、彼女は苛立ちのまま街道の森を無数に引き裂き伐採してしまう。

『そんなことなど関係ない』と言えなかった番外席次“絶死絶命”。

 彼女は吐瀉(としゃ)するように告げた。

 

 

「それは、私が一番、知りたいことだわ」

 

 

 番外は、エルフ王の半開きの眼に、思い切り(つば)を吐きかけた。

 刈られた際に短くなった金髪をひっつかんで、大量の血を街道の大地に降らせながら歩き始める。

 番外席次は自分に任務を下した最高神官長(ジジイ)のもとへ向かうべく〈転移門〉を開く。

 神都の転移対策も、数多くの異能(タレント)を持つ彼女には通用しない。

 

 

 アルベドは番外席次の後をついていくようにして、〈転移門〉のうちに消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔導国の法国侵攻まで、残り二日に迫る状況下の出来事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※注意※
 番外席次の父親が、エルフの王であるという記述は、現在のところ存在しておりません。あくまで、エルフ王と同じ「色違いの瞳」をしているだけですし、法国の神官長らの「母親の復讐」だのなんだのも、彼女本人の意志や意見とは、限りません。

 では、エルフ王が騙して産ませた子はどうなったのか?

 この世界線──法国崩壊ルートでの番外席次は、いったい何者であるのか……果たして?











(『天使の澱』で言ってるっちゃ、言ってますけどね)
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